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第三章 『嫌な展開』
神様なんていないのだろうか
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羽衣さんが転校してきて一週間。もうくっついてくるのが当たり前になってしまって、愛ちゃん達すら何もコメントしなくなった。怒ってはいるみたいだけど。
そんなある日の、休日のお話。
(やっぱりたまには贅沢しないと心が休まらないよな~)
コンビニ袋を赤子のように抱え、地面にステップを刻んでいく俺。
お小遣いをはたいて、様々なお菓子を購入してきた。あぁ、早くこれらを口に含みたい。
「♪~」
「……ねぇ」
背後から女の声。
学校の人のものではない。だからといって、家族でもない。
そう、それは俺のとっても大切な、彼女の声。とても愛おしいたった一人の存在。
「何、愛花‼」
「ちょ~っと、話があるんだけど?」
「は、話……?」
「暑いし、カフェで涼みながらでいい?」
「も、勿論!」
愛花から声を掛けてもらえるなんて、感動だ!
物心ついた頃から中学校三年生までとことん想いを伝えてきたけれど、ことごとく躱された過去が懐かしい。
とうとう俺の努力が報われるんだな、期待して良いんだな⁉
「晃狩、ボーッとしてないでドリンクでも注文してくれない?」
「ハッ。ごめんごめん、えっと~。オレンジジュースでお願いします」
「かしこまりました。ご注文繰り返します。アイスコーヒーが一点、オレンジジュースが一点でよろしいでしょうか」
「「はい」」
ふぅ、焦った。
気が付いたら店員さんが注文を聞きに来ているだなんてビックリだ。少し舞い上がり過ぎたみたいだな。
「さ、じゃあ本題に入るよ」
「は、はい」
「単刀直入に言うと……もう私に近付かないでほしい」
「……へ?」
いやいやいや、何?
わざわざ小洒落たカフェに足踏み入れて、そんなことってある?
こっちは付き合うつもりで来たよ! そうすればもうあの三人に付きまとわれないだろうし、良い事尽くめだったのに。
「ど、どうして急に、そんな」
「……最近変な手紙が何通も届くの。「多田晃狩様に近付くな。魅了するな。離れろ」って。それだけじゃない、電話だって何回も来る! それも深夜に。お陰でここの所全然寝れてないんだよ。私は別に晃狩のこと恋愛感情的に好きな訳じゃないから、どうか、お願い」
「……っ」
ひどい嫌がらせだ。犯人として考えられる人物は一人だけしかいない。
(羽衣さんだ。俺が、俺が羽衣さんに愛花の名前を教えたりしたから……)
加納院さんがあんなに警告してくれたのに、どうして軽く流してしまったんだろう。俺はなんて馬鹿なんだ。
「アイスコーヒーとオレンジジュースお持しました」
「あ、どうも」
大きなグラスに注がれた二種類のドリンクが、机の上にやってきた。
こんな重い空気の中でも、氷は照明の光を受けて星のような輝きを放っている。
「で、そういう事だから。会うのも今日で最後。数馬が一緒だったとしても、ね」
「……分かったよ。ごめん、ごめんなさい」
「晃狩が謝ることじゃないでしょ。変に責任を感じる必要ない」
俺がしたことなんて知る由もない愛花は、やわらかい笑顔を向けてくれる。
嬉しい。また俺に笑いかけてくれるなんて。しつこく告白していたから嫌われていると思い込んでいたけれど、ウザがられていただけなのだろうか。
「いや、俺のせいなんだ。多分だけど。ある女の子に、俺は愛花が好きなんだって言っちゃったんだよ。愛花への嫌がらせをしたのは、十中八九その子なんだ」
「そ、それだけで住所とか電話番号なんて分からないでしょ」
顔の前で右手を振って、「ないない」のポーズ。
「あの子特殊な家系の人間だから、言えば調べてくれる人が居るかもしれない。俺があの時口を開かなければ、愛花は傷付かなくて済んだかもしれないのに」
「特殊な家系って。アンタの高校どんな大物が居る訳?」
「お金持ち」
「ふ~ん」
「え。何その反応。信じてないの?」
なんだか、和むなこの会話。
昔を思い出す。毎日沢山愛花や香山とお喋りして、たまにどこかへ出掛けたりもして。
そんな日々が当たり前だと思っていた。行く高校が違えども、また三人楽しく話していられるのだと。
「いや、そんなことないけど。でも電話とか手紙の内容からして、そのお金持ちちゃんは晃狩が好きってことでしょ? 中々やるね、アンタも」
「そりゃ、どーも」
愛花は知らない。
俺を好きなお金持ちが、一人だけではないことを。
「さて、と。そろそろ帰らない?」
「あ、そうだな」
素敵な時間もこれで終わり。
もうあの笑顔すら拝めない生活が始まる。辛い、そんなの。
「なあ、愛花」
「何?」
「好きだ」
「……知ってる」
そんな返答をして、愛花はレジへと歩を進めた。
「じゃあね」
「じゃあな、愛花」
愛しい人よ、さようならっ。
今日は枕が大洪水だな。
そんなある日の、休日のお話。
(やっぱりたまには贅沢しないと心が休まらないよな~)
コンビニ袋を赤子のように抱え、地面にステップを刻んでいく俺。
お小遣いをはたいて、様々なお菓子を購入してきた。あぁ、早くこれらを口に含みたい。
「♪~」
「……ねぇ」
背後から女の声。
学校の人のものではない。だからといって、家族でもない。
そう、それは俺のとっても大切な、彼女の声。とても愛おしいたった一人の存在。
「何、愛花‼」
「ちょ~っと、話があるんだけど?」
「は、話……?」
「暑いし、カフェで涼みながらでいい?」
「も、勿論!」
愛花から声を掛けてもらえるなんて、感動だ!
物心ついた頃から中学校三年生までとことん想いを伝えてきたけれど、ことごとく躱された過去が懐かしい。
とうとう俺の努力が報われるんだな、期待して良いんだな⁉
「晃狩、ボーッとしてないでドリンクでも注文してくれない?」
「ハッ。ごめんごめん、えっと~。オレンジジュースでお願いします」
「かしこまりました。ご注文繰り返します。アイスコーヒーが一点、オレンジジュースが一点でよろしいでしょうか」
「「はい」」
ふぅ、焦った。
気が付いたら店員さんが注文を聞きに来ているだなんてビックリだ。少し舞い上がり過ぎたみたいだな。
「さ、じゃあ本題に入るよ」
「は、はい」
「単刀直入に言うと……もう私に近付かないでほしい」
「……へ?」
いやいやいや、何?
わざわざ小洒落たカフェに足踏み入れて、そんなことってある?
こっちは付き合うつもりで来たよ! そうすればもうあの三人に付きまとわれないだろうし、良い事尽くめだったのに。
「ど、どうして急に、そんな」
「……最近変な手紙が何通も届くの。「多田晃狩様に近付くな。魅了するな。離れろ」って。それだけじゃない、電話だって何回も来る! それも深夜に。お陰でここの所全然寝れてないんだよ。私は別に晃狩のこと恋愛感情的に好きな訳じゃないから、どうか、お願い」
「……っ」
ひどい嫌がらせだ。犯人として考えられる人物は一人だけしかいない。
(羽衣さんだ。俺が、俺が羽衣さんに愛花の名前を教えたりしたから……)
加納院さんがあんなに警告してくれたのに、どうして軽く流してしまったんだろう。俺はなんて馬鹿なんだ。
「アイスコーヒーとオレンジジュースお持しました」
「あ、どうも」
大きなグラスに注がれた二種類のドリンクが、机の上にやってきた。
こんな重い空気の中でも、氷は照明の光を受けて星のような輝きを放っている。
「で、そういう事だから。会うのも今日で最後。数馬が一緒だったとしても、ね」
「……分かったよ。ごめん、ごめんなさい」
「晃狩が謝ることじゃないでしょ。変に責任を感じる必要ない」
俺がしたことなんて知る由もない愛花は、やわらかい笑顔を向けてくれる。
嬉しい。また俺に笑いかけてくれるなんて。しつこく告白していたから嫌われていると思い込んでいたけれど、ウザがられていただけなのだろうか。
「いや、俺のせいなんだ。多分だけど。ある女の子に、俺は愛花が好きなんだって言っちゃったんだよ。愛花への嫌がらせをしたのは、十中八九その子なんだ」
「そ、それだけで住所とか電話番号なんて分からないでしょ」
顔の前で右手を振って、「ないない」のポーズ。
「あの子特殊な家系の人間だから、言えば調べてくれる人が居るかもしれない。俺があの時口を開かなければ、愛花は傷付かなくて済んだかもしれないのに」
「特殊な家系って。アンタの高校どんな大物が居る訳?」
「お金持ち」
「ふ~ん」
「え。何その反応。信じてないの?」
なんだか、和むなこの会話。
昔を思い出す。毎日沢山愛花や香山とお喋りして、たまにどこかへ出掛けたりもして。
そんな日々が当たり前だと思っていた。行く高校が違えども、また三人楽しく話していられるのだと。
「いや、そんなことないけど。でも電話とか手紙の内容からして、そのお金持ちちゃんは晃狩が好きってことでしょ? 中々やるね、アンタも」
「そりゃ、どーも」
愛花は知らない。
俺を好きなお金持ちが、一人だけではないことを。
「さて、と。そろそろ帰らない?」
「あ、そうだな」
素敵な時間もこれで終わり。
もうあの笑顔すら拝めない生活が始まる。辛い、そんなの。
「なあ、愛花」
「何?」
「好きだ」
「……知ってる」
そんな返答をして、愛花はレジへと歩を進めた。
「じゃあね」
「じゃあな、愛花」
愛しい人よ、さようならっ。
今日は枕が大洪水だな。
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