14 / 32
第二章 『厄介な日常』
弱すぎて話にならない
しおりを挟む
電車に乗って少し遠くまで行けばもうそこは未知の世界。俺は普段電車を使わないから、やっぱり新鮮だ。
聞き慣れない駅で電車から降り、日溜君を先頭にして歩いていく。ここは俺達の住む街よりも緑が多くて爽やかな香りがするな。
「よし、ついたぜ」
「……お、大きいゲーセンだねっ」
凄いな。5階建てのゲームセンターなんて、初めて見た。
「だろ? ここは一日中楽しめるから、良い所なんだぞ」
「へぇー。じゃあ早速中に入ろう!」
「おう!」
俺と日溜君が一目散に駆けていくと、後ろからは呆れたような笑い声が聞こえた。
「ハハハ。お子様だな、アイツ等は」
「まあいい事だよ。ゲームに夢中になってるんだから」
「そういえば、何故日溜は急に遊ぼうなんて頼んできたんだ?」
「……本人から聞かされていないなら、それで良いんじゃないかな」
「ふ~ん?」
「うわ~!!」
その中はまさに、夢のような世界。
この独特な金属じみたにおい,耳をつんざくような機械音,あらゆる色のまばゆい光。
「どうだ。興奮するだろ」
「うん、最高だね。どのゲームも近所にはまだない新しい機種だし」
我が街は特別田舎という訳でもないけれど、だからって都会とも言えない。目立った特産品もない。
正直、ぱっとしない街だ。国民的な金持ちが身を置いている理由が分からない。
「男心に刺さるよね~。こういうのは」
「小さい頃多田とよくやってたな。アイツクソ雑魚で勝負にならなかったが」
今自然と聞き捨てならない台詞を吐いた香山は、朝日君と一緒に格闘ゲームのコーナーに赴いていた。
「おいコラ誰が雑魚だ」
「れっきとした事実だろ。悔しいんなら一発勝負るか?」
香山の拳にはもう百円が準備されていた。やる気満々みたいだ。
「上等だ……。今日こそは捻り潰してやる」
お金をインして、戦闘開始だ。
★ ★ ★
【You Lose!】
「…………納得いかない」
怒りに任せて、力強く机を叩きつける。
すると後ろで見ていた日溜君が大爆笑し出した。
「アッハハハハハ! デカイ態度とってたくせに負けてやがる! アハハハッ」
「コラコラ太郎。多田くんだって一生懸命戦ったんだ、から……」
彼をなだめようとした朝日君だが、その体は少し震えていて、口元も緩んでいた。そんな状態ならもう笑ってくれていいよ。
「やっぱりカスじゃないか。もういい。別のゲームをしよう」
俺をあざ笑うかのような声でそう言い放つと香山は一人でどんどん歩いていってしまった。
「つ、次は負けないから! もう1回だけで良いからっ」
「金の無駄だからもう二度としない」
いくら手足をバタつかせても、香山は振り返りもしない。なんだか香山にはいつも負けてばかりだ。
運動も勉強も、香山の方が俺より上。さらに、ゲームでもこの様だ。神って意地悪な奴だな、本当。
「多田くんって見かけによらずこういうの苦手なんだね。カートゲームなんかはどうなの?」
香山のことは日溜君が追いかけたので、俺と朝日君は二人でゆっくり歩いていた。ほぼ初対面なのに気さくに話し掛けてくれて、香山が名前呼びするのも頷ける。
「ゲーム全般下手だよ。でも、嫌いではないんだよね。香山が変に煽ってくるから腹は立つけど」
「そうなんだ。でも別に彼のことも嫌いではないんでしょ?」
「え? ま、まあ。昔からの付き合いだし、日常茶飯事みたいなものだからね」
「そっか。フフフ」
(?)
朝日君がどうして笑っているのかは分からないけれど、優しい顔をしているなと素直に思った。
「お前らおそーい!」
「ごめんよ太郎。今行くよ」
それから、俺達はただひたすらにゲームを続けた。
日溜君がメダルゲームの天才だったものだからしばらくの間メダルコーナーに留まっていたけれど、他にも沢山プレイした。
そしていよいよ、最後のゲームとなったのである。
「さて、エアーホッケーのチーム分けしようか」
「多田とだけは嫌だ」
即座に香山が拒絶の意を示す。このクソ野郎。
「わがままは無しだよ。ここはしっかりと、クジで決めないと」
「僕、クジ運悪いんだよな」
「その時はその時さ。じゃあ一斉に引こう。──せーのっ」
朝日君の合図で、俺達4人は彼の手に包まれた紙切れを勢いよく引き上げる。
「赤の人ー?」
「僕だな。よろしく頼む」
「勿論。数馬と俺が赤って事は、白チームは太郎達だね。いい戦いをしよう」
「ああ」
朝日君と日溜君は凛々しい表情で言葉を交わすけれど、俺が参加している時点でいい勝負もクソもない。
というか俺、今日「クソ」って言い過ぎていないか? 下品な野郎だと思われたら嫌だからな。言葉遣いには細心の注意を払わねば。
「じゃあ一回戦を始めよう。白チームからは誰が出る?」
「え、普通に4人同時対戦じゃないのか? 持つやつだって4つあるだろ」
「いいじゃないか、折角だから」
「う~ん。そうだな、じゃあ一回戦目は俺が出るよ。多田もそれで良いか?」
日溜君が急に神妙な面持ちで問い掛けてくるものだから多少動揺したが、俺は自信なく「うん」と返した。
「じゃあ一回戦は数馬対太郎だね。健闘を祈るよ」
ただの遊びだというのに、朝日君の右側に立つ香山の顔はひどく下衆かった。
(今日の香山、表情豊かすぎて怖いな)
聞き慣れない駅で電車から降り、日溜君を先頭にして歩いていく。ここは俺達の住む街よりも緑が多くて爽やかな香りがするな。
「よし、ついたぜ」
「……お、大きいゲーセンだねっ」
凄いな。5階建てのゲームセンターなんて、初めて見た。
「だろ? ここは一日中楽しめるから、良い所なんだぞ」
「へぇー。じゃあ早速中に入ろう!」
「おう!」
俺と日溜君が一目散に駆けていくと、後ろからは呆れたような笑い声が聞こえた。
「ハハハ。お子様だな、アイツ等は」
「まあいい事だよ。ゲームに夢中になってるんだから」
「そういえば、何故日溜は急に遊ぼうなんて頼んできたんだ?」
「……本人から聞かされていないなら、それで良いんじゃないかな」
「ふ~ん?」
「うわ~!!」
その中はまさに、夢のような世界。
この独特な金属じみたにおい,耳をつんざくような機械音,あらゆる色のまばゆい光。
「どうだ。興奮するだろ」
「うん、最高だね。どのゲームも近所にはまだない新しい機種だし」
我が街は特別田舎という訳でもないけれど、だからって都会とも言えない。目立った特産品もない。
正直、ぱっとしない街だ。国民的な金持ちが身を置いている理由が分からない。
「男心に刺さるよね~。こういうのは」
「小さい頃多田とよくやってたな。アイツクソ雑魚で勝負にならなかったが」
今自然と聞き捨てならない台詞を吐いた香山は、朝日君と一緒に格闘ゲームのコーナーに赴いていた。
「おいコラ誰が雑魚だ」
「れっきとした事実だろ。悔しいんなら一発勝負るか?」
香山の拳にはもう百円が準備されていた。やる気満々みたいだ。
「上等だ……。今日こそは捻り潰してやる」
お金をインして、戦闘開始だ。
★ ★ ★
【You Lose!】
「…………納得いかない」
怒りに任せて、力強く机を叩きつける。
すると後ろで見ていた日溜君が大爆笑し出した。
「アッハハハハハ! デカイ態度とってたくせに負けてやがる! アハハハッ」
「コラコラ太郎。多田くんだって一生懸命戦ったんだ、から……」
彼をなだめようとした朝日君だが、その体は少し震えていて、口元も緩んでいた。そんな状態ならもう笑ってくれていいよ。
「やっぱりカスじゃないか。もういい。別のゲームをしよう」
俺をあざ笑うかのような声でそう言い放つと香山は一人でどんどん歩いていってしまった。
「つ、次は負けないから! もう1回だけで良いからっ」
「金の無駄だからもう二度としない」
いくら手足をバタつかせても、香山は振り返りもしない。なんだか香山にはいつも負けてばかりだ。
運動も勉強も、香山の方が俺より上。さらに、ゲームでもこの様だ。神って意地悪な奴だな、本当。
「多田くんって見かけによらずこういうの苦手なんだね。カートゲームなんかはどうなの?」
香山のことは日溜君が追いかけたので、俺と朝日君は二人でゆっくり歩いていた。ほぼ初対面なのに気さくに話し掛けてくれて、香山が名前呼びするのも頷ける。
「ゲーム全般下手だよ。でも、嫌いではないんだよね。香山が変に煽ってくるから腹は立つけど」
「そうなんだ。でも別に彼のことも嫌いではないんでしょ?」
「え? ま、まあ。昔からの付き合いだし、日常茶飯事みたいなものだからね」
「そっか。フフフ」
(?)
朝日君がどうして笑っているのかは分からないけれど、優しい顔をしているなと素直に思った。
「お前らおそーい!」
「ごめんよ太郎。今行くよ」
それから、俺達はただひたすらにゲームを続けた。
日溜君がメダルゲームの天才だったものだからしばらくの間メダルコーナーに留まっていたけれど、他にも沢山プレイした。
そしていよいよ、最後のゲームとなったのである。
「さて、エアーホッケーのチーム分けしようか」
「多田とだけは嫌だ」
即座に香山が拒絶の意を示す。このクソ野郎。
「わがままは無しだよ。ここはしっかりと、クジで決めないと」
「僕、クジ運悪いんだよな」
「その時はその時さ。じゃあ一斉に引こう。──せーのっ」
朝日君の合図で、俺達4人は彼の手に包まれた紙切れを勢いよく引き上げる。
「赤の人ー?」
「僕だな。よろしく頼む」
「勿論。数馬と俺が赤って事は、白チームは太郎達だね。いい戦いをしよう」
「ああ」
朝日君と日溜君は凛々しい表情で言葉を交わすけれど、俺が参加している時点でいい勝負もクソもない。
というか俺、今日「クソ」って言い過ぎていないか? 下品な野郎だと思われたら嫌だからな。言葉遣いには細心の注意を払わねば。
「じゃあ一回戦を始めよう。白チームからは誰が出る?」
「え、普通に4人同時対戦じゃないのか? 持つやつだって4つあるだろ」
「いいじゃないか、折角だから」
「う~ん。そうだな、じゃあ一回戦目は俺が出るよ。多田もそれで良いか?」
日溜君が急に神妙な面持ちで問い掛けてくるものだから多少動揺したが、俺は自信なく「うん」と返した。
「じゃあ一回戦は数馬対太郎だね。健闘を祈るよ」
ただの遊びだというのに、朝日君の右側に立つ香山の顔はひどく下衆かった。
(今日の香山、表情豊かすぎて怖いな)
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く
とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。
まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。
しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。
なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう!
そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。
しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。
すると彼に
「こんな遺書じゃダメだね」
「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」
と思いっきりダメ出しをされてしまった。
それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。
「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」
これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。
そんなお話。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる