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第二章 『厄介な日常』

弱すぎて話にならない

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 電車に乗って少し遠くまで行けばもうそこは未知の世界。俺は普段電車を使わないから、やっぱり新鮮だ。
 聞き慣れない駅で電車から降り、日溜君を先頭にして歩いていく。ここは俺達の住む街よりも緑が多くて爽やかな香りがするな。
「よし、ついたぜ」
「……お、大きいゲーセンだねっ」
 凄いな。5階建てのゲームセンターなんて、初めて見た。
「だろ? ここは一日中楽しめるから、良い所なんだぞ」
「へぇー。じゃあ早速中に入ろう!」
「おう!」
 俺と日溜君が一目散に駆けていくと、後ろからは呆れたような笑い声が聞こえた。
「ハハハ。お子様だな、アイツ等は」
「まあいい事だよ。ゲームに夢中になってるんだから」
「そういえば、何故日溜は急に遊ぼうなんて頼んできたんだ?」
「……本人から聞かされていないなら、それで良いんじゃないかな」
「ふ~ん?」

「うわ~!!」
 その中はまさに、夢のような世界。
 この独特な金属じみたにおい,耳をつんざくような機械音,あらゆる色のまばゆい光。
「どうだ。興奮するだろ」
「うん、最高だね。どのゲームも近所にはまだない新しい機種だし」
 我が街は特別田舎という訳でもないけれど、だからって都会とも言えない。目立った特産品もない。
 正直、ぱっとしない街だ。国民的な金持ちが身を置いている理由が分からない。
「男心に刺さるよね~。こういうのは」
「小さい頃多田とよくやってたな。アイツクソ雑魚で勝負にならなかったが」
 今自然と聞き捨てならない台詞を吐いた香山は、朝日君と一緒に格闘ゲームのコーナーに赴いていた。
「おいコラ誰が雑魚だ」
「れっきとした事実だろ。悔しいんなら一発勝負るか?」
 香山の拳にはもう百円が準備されていた。やる気満々みたいだ。
「上等だ……。今日こそは捻り潰してやる」
 お金をインして、戦闘開始だ。

     ★ ★ ★

【You Lose!】
「…………納得いかない」
 怒りに任せて、力強く机を叩きつける。
 すると後ろで見ていた日溜君が大爆笑し出した。
「アッハハハハハ! デカイ態度とってたくせに負けてやがる! アハハハッ」
「コラコラ太郎。多田くんだって一生懸命戦ったんだ、から……」
 彼をなだめようとした朝日君だが、その体は少し震えていて、口元も緩んでいた。そんな状態ならもう笑ってくれていいよ。
「やっぱりカスじゃないか。もういい。別のゲームをしよう」
 俺をあざ笑うかのような声でそう言い放つと香山は一人でどんどん歩いていってしまった。
「つ、次は負けないから! もう1回だけで良いからっ」
「金の無駄だからもう二度としない」
 いくら手足をバタつかせても、香山は振り返りもしない。なんだか香山にはいつも負けてばかりだ。
 運動も勉強も、香山の方が俺より上。さらに、ゲームでもこの様だ。神って意地悪な奴だな、本当。
「多田くんって見かけによらずこういうの苦手なんだね。カートゲームなんかはどうなの?」
 香山のことは日溜君が追いかけたので、俺と朝日君は二人でゆっくり歩いていた。ほぼ初対面なのに気さくに話し掛けてくれて、香山が名前呼びするのも頷ける。
「ゲーム全般下手だよ。でも、嫌いではないんだよね。香山が変に煽ってくるから腹は立つけど」
「そうなんだ。でも別に彼のことも嫌いではないんでしょ?」
「え? ま、まあ。昔からの付き合いだし、日常茶飯事みたいなものだからね」
「そっか。フフフ」
(?)
 朝日君がどうして笑っているのかは分からないけれど、優しい顔をしているなと素直に思った。
「お前らおそーい!」
「ごめんよ太郎。今行くよ」
 
 それから、俺達はただひたすらにゲームを続けた。
 日溜君がメダルゲームの天才だったものだからしばらくの間メダルコーナーに留まっていたけれど、他にも沢山プレイした。
 そしていよいよ、最後のゲームとなったのである。
「さて、エアーホッケーのチーム分けしようか」
「多田とだけは嫌だ」
 即座に香山が拒絶の意を示す。このクソ野郎。
「わがままは無しだよ。ここはしっかりと、クジで決めないと」
「僕、クジ運悪いんだよな」
「その時はその時さ。じゃあ一斉に引こう。──せーのっ」
 朝日君の合図で、俺達4人は彼の手に包まれた紙切れを勢いよく引き上げる。
「赤の人ー?」
「僕だな。よろしく頼む」
「勿論。数馬と俺が赤って事は、白チームは太郎達だね。いい戦いをしよう」
「ああ」
 朝日君と日溜君は凛々しい表情で言葉を交わすけれど、俺が参加している時点でいい勝負もクソもない。
 というか俺、今日「クソ」って言い過ぎていないか? 下品な野郎だと思われたら嫌だからな。言葉遣いには細心の注意を払わねば。
「じゃあ一回戦を始めよう。白チームそっちからは誰が出る?」
「え、普通に4人同時対戦じゃないのか? 持つやつだって4つあるだろ」
「いいじゃないか、折角だから」
「う~ん。そうだな、じゃあ一回戦目は俺が出るよ。多田もそれで良いか?」
 日溜君が急に神妙な面持ちで問い掛けてくるものだから多少動揺したが、俺は自信なく「うん」と返した。
「じゃあ一回戦は数馬対太郎だね。健闘を祈るよ」
 ただの遊びだというのに、朝日君の右側に立つ香山の顔はひどく下衆かった。
(今日の香山、表情豊かすぎて怖いな)
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