一人二人

鍵山 カキコ

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第一章

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『巡谷 カレン』として、三日間家の中で過ごした。
 時間をふんだんに使って、じっくりと家の中を調べたのだが、特におかしな点は無かった。
 だが、私は確信していた。この家はおかしいと。
 一日に何度も何度も警察が訪れる。
 そんな家が、普通の家だと思うか?
 だが、家の人間達は口を揃えて「大勢の人を殺した殺人犯がまだ捕まっていないから、警察が調査している。どこの家も同じ」だと言う。
 ニュースを見たのでその事件も知っている。
 それに、外に出てない私は他の家の事が分からない。
 分からない、分からないのだが……この家は怪しいと、私の中の何かが訴える。
 単なる勘違いだとは、思いたくもなかった。
 ここで信じられるのは、自分だけなのだから。
 だが、私も私で、自分の事が分からない。
 自らの過去、夢、希望。
 それらを、一切思い出せない。
『私』は、何なのだろうか。
 自分すら分からなくなっては、信じられるものがなくなってしまうというのに。

     ♦ ♦ ♦

「カレン~。お昼ご飯よ~」
「今行く」
 母親に呼ばれ、急いでダイニングへ。
「──!?」
 トウと母親を視界に入れた瞬間、謎の感覚に襲われた。
(殺したい殺したい殺したい殺したい!)
 自分のものではないような、恐ろしい思考。
 それしか考えられなくなり、私は気付かうちにトウの首を絞めていた。
「!?ぐぎ……。ガッ!」
「──!!」
 彼の声で我に返り、急いで手を離した。
 違う。
 そんなつもりじゃない。
 声に出せなくとも、せめて心の中だけでも謝罪したかった。
 いきなり殺人まがいの事をしたのだ。
 だが、全てをかき乱すように、『殺したい』という思考が邪魔をする。
 ここに居てはいけない。
 ギリギリの状態でそれだけ判断し、私は部屋を出た。
「……カレン、家の外に出てみない?」
 私を拒絶するでもなく、恐れるでもなく。
 母親が言い出したのは、こんな事だった。
「え……?」
 母親の姿を見ず、そう答えた。
 何を言っているんだ?この女は。
 外に出てしまったら、ではないか。
「カレンちゃん。行こう?僕と一緒に」
 トウまでこんなことを言う。
 何だコイツら?
 何が目的なんだ?
「……」
 どうするべきか。
 なんて、考える余裕など無かった。
(殺したい殺したい殺したい殺したい!)
 ちらりと振り返った瞬間、二人の姿を捉えてしまった。
 そのせいで、思考が支配された。
「わかった……」
「じゃあ、顔が見えないような服装をして、行こっか」
「あぁ……」
 私もトウも急いで着替え、家を出た。
「行ってきます」
 トウはそう言うとともに、玄関の扉を開けた。

 私達は住宅街を走って抜け、人通りの少ない路地裏へとやってきた。
 隣にいるトウを何度も襲いそうになったが、必死の抵抗で舌を噛んで耐えた。
「ここで何をする……?」
 帽子で顔を隠し、マスクも着用。
 首から下の肌は一切露出していない。
 そして、手袋も付けている。
「ここはね、全然人が来ないんだよ」
「だろうな」
 周りを見渡せば、一目瞭然である。
「だけど、この時間帯なら、もう少し経てば来るかな」
「そいつを襲え……と」
「うん」
 そんなことをしなくても、今、ここで、貴様を殺してしまえば手っ取り早いのだが……。
 と、言おうとした瞬間だった。
「フンフンフ~ン♪ルルル~♪」
 鼻唄を歌っている少女がやってきた。
 幸せそうだ。
 こんな場所を歩いているのがとても不自然に感じる。
 トウからナイフを手渡された。
 この子を、殺れ。というメッセージだ。
「ヒヒヒヒヒ……アハハッ!」
 ナイフを手に入れとうとう気が狂った私は、壊れたように笑った。
「!?だ、誰ぇ?」
 怯える少女の声。
 あぁ、可哀想に。
 お前はこれから、死ぬのだよ。
「ヒヒヒヒィィィ!ハハハッ!」
 殺人衝動で身体能力が向上したのか、人間とは思えないような速さで少女に駆け寄る。
「何!?やめ……て!?……ブェッ!?」
 ナイフが少女の体を貫く。
 大きくバク転して、返り血をかわす。
 空中で意識が途切れ、上手く着地は出来なかったが。
 それから私はトウに担がれ、家へと帰っていった。

     ◇ ◇ ◇

 ──チュンチュン。
 小鳥のさえずり。
 あぁ、いい気持ち!
 だけど……。
「ここは、どこ──?」
 静かな部屋の中、私はポツリと呟いた。
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