一人二人

鍵山 カキコ

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第一章

日常

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 私の名は、巡谷めぐりだにカレンだ。
 二重人格である。

「おはよう……」
「あら、カレンおはよう。今日も晴れてるわね」
 自分の部屋から階段を降りてキッチンに向かうと、母が朝食を作っていた。
 味噌汁の、いい匂いがする。
「まだ出来てないから、テレビでも観て待ってなさい」
「は~い」
 ふわぁぁ……。と欠伸をしてから、リビングのソファに座った。
 隣に居た弟・大樹たいきが話し掛けてくる。
「姉ちゃん、いつもおせーなっ。ヒヒッ」
「仕方ないじゃん。いいでしょ、別に」
「まあね」
「……テレビつけて~。リモコンとるの面倒くさ~い」
 大樹に命じると、思いの外素直にテレビをつけてくれた。
「今日は優しいねぇ~?」
 いたずらっ子のように笑うと、大樹は
「うっせ」
 と言って目を逸らした。
 私は大樹から受け取ったリモコンで、テレビをつけた。
 ちょうど、ニュース番組をやっているようだ。
[……事件の犯人は依然として見つかっておらず、警察は捜索を続けています]
「ふぅん……大変だね、警察も」
 他人事のように、ポツリと呟いた。
 まあ実際、他人事であるのだが。
「あ、そうだな」
 大樹は震えている。
 そんなにこの事件が怖いのだろうか?
 だが、あまり内容は聞こえなかった。
(大樹は聞こえてたのかな)
「ふわぁあぁぁ、はーー。眠っ」
「あ、トウ、今日は姉ちゃんよりもおせーぞ!アハハッ」
 今大樹に馬鹿にされているのは、隣人だったが共に生活するようになった、私達の兄のような存在の『富山 トウ』である。
「え?負けちゃった~。明日は勝つからね!カレンちゃん!覚悟しておいて!」
 頭をポリポリ掻きながら、トウは話す。
 何を覚悟すればいいのやら。
「誰か~。ご飯できたからトウ君起こして~って、あら。おはよう。ご飯できたわよー」
「うっしゃあ!もう腹ペコだぜ!」
「ちょ、待って!」
 母の言葉を聞いてすぐさま駆けていく大樹と、それを追いかける私。
「おはようございます、おばさん」
「おはよう。トウ君。今日は遅いのね」
「ハハッ。すいません。そわそわして眠れなくて……」
「いいのよ、謝らなくて。でも、やっぱり心配でね。……さ、私達も行きましょ」
「はい」

「「「「いただきます!」」」」
 四人で一斉に叫ぶ。
「……!これ、父さんが作ったやつだろ?一つだけ味が違う」
 卵焼きを頬張りながら話す大樹に、母は微笑みながら
「そうよ。フフッ。今日の当たりは大樹ね」
 と答える。
「イエーイ!俺ツいてるな、今日」
 我が家の朝食には、毎日卵焼きが出てくる。
 そしてその中に一つだけ、父が出勤前に作った『当たり』の卵焼きがあるのだ。
 まぁ、朝の運試しみたいな感じだ。
「いいなー大樹君。僕最近全然当たんないや……悔しい…」
 トウが俯いた。
「ハハハッ、やっぱり俺には誰も敵わねぇんだな!」
「大樹、調子に乗り過ぎ。うるさい」
 だんだん態度に腹が立ってきたので言ったら、
「ハハンッ。負け惜しみぃ~」
 と返された。
「うっっっざっ!」
「ウザくて結構でぇ~す」
 こんなのが弟なんて、情けなくなってしまう。
 卵焼き如きで、ここまで調子に乗れるとは。
 ある意味幸せ者だ。

 朝食を食べ終え、私と大樹は学校へ向かう。
「今日はどんな良い事があるかな~♪もしかして、告白されたり!」
「アンタまだ言ってんの……?」
「だって、今日のは一際味が濃かったんだ!これは、とてつもない幸運を意味してるかも……」
 大樹は純粋な瞳をキラキラ輝かせている。
 やれやれ……。
「はいはい、ソウデスネ」
「うわっ。塩対お~う
「アンタが調子乗ってるからでしょ。ほら、はよ行くよ」
「うぉっ」
 私は大樹の手を引き、走って学校に向かっていった。

     ♦ ♦ ♦
 
 私の日常は、まあ、こんな感じだ。
 大したことないだろう?
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