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第一章
夕梨目線
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──今日は曇りだった。
朝目覚めた瞬間から嫌な予感がしたのだ。
黒く濁った空が、どこまでも続いていたから。
そしてそれは、見事に的中。
理由はただ一つ。蘭さんが家に来たからだ。
母と父は仕事。姉もバイト。
ほとんど毎週そうなのだが、いつだって、家で一人とは良いものである。
何をしていたとしても邪魔が入らない、幸せな時間。決して、変な事をする訳ではないが、な。
今日もゆっくり一人を満喫(主に勉強だが)して、静かに過ごそうと思っていたのに。
ピンポーン。
朝食のパンをかじった瞬間、そんな音が響いた。
(? インターフォン?)
我が家のインターフォンが押されることなど滅多にない。
何故なら、必要ないからだ。
宅配便などは基本利用しない。押しに来るような友人すら、存在しない。ならば、押される理由はない。そういう事だ。
だから、妙に不審に思ってしまう。更に嫌な予感もする。
けれど、それに出る必要もない。
これは、母の定めたルールだ。『私が居ない時にインターフォンが鳴っても、別に出なくていいから』というルール。
僅かな時間だけぐるぐる考えていたが、食事を再開した。
(まあ、大した用じゃないでしょ)
そもそも、私に大事な用がある者など存在するはずがない。
すぐに食べ終え部屋に入った瞬間、再びインターフォンが鳴った。
(しつこいなぁ。誰だろう)
少し気になった。
真正面を見つめると視線の先にある窓。そこから覗けば、外が見える。
(ちょっと見てみよう)
カーテンを開けて、下を覗いてみた。
(……ゲッ)
蘭さんが堂々たる態度で立っていた。
こちらを睨みつけて。
(カーテンを開ける音が聞こえたの? この部屋二階なのに)
どうやら蘭さんは、聴覚がたいへん良いみたいだ。
「下りてきなさい! 絶対に呪いをとかせてやるんだから!」
蘭さんの元気な叫び声が我が家に響いた。
(どうしよう。でも、下りたら前みたいに殴られるかもしれないし……。それに、ここに居ればさすがの蘭さんも家に入ってはこないだろうし)
という訳で、外には出ない事にした。どちらにせよ、私はパジャマで、髪もボサボサ。人前に出られるような恰好ではない。
この姿で出たら、「失礼である」という理由で殴られる可能性もあるからな。
「早くこっちに来なさいよ!」
不機嫌な様子の蘭さんは先程よりも声を荒げた。
「……」
怖かった。
だが、じっとしていれば大丈夫。と自分に言い聞かせた。
蘭さんはしばらく私を睨みつけていたが、やがて痺れを切らして歩き出した。
「ふぅ……。良かった」
疲れが吹っ飛んで、思わずベッドに腰かけた。
(朝からすごい疲れた……)
数分間壁を眺めて、念の為再度窓の外を確認した。
「えっ!?」
小さかったが声が出てしまった。
蘭さんと戸山君が家の前で何か話しているようだ。
(戸山君はどこから!? しかも、人の家の前で何を話してるの!?)
二人の声は聞こえてこない。カーテンは開いているものの、窓が閉じているからだ。
(一応、聞かないでいた方がいいかもな)
盗み聞きは好まない。人として当然だ。
蘭さんが爪をかじっているのを見たのを最後に、私は勉強を始めた。
「おはよう」
今日も満面の笑みの戸山君。朝から元気いっぱいのようだ。
「あ、うん。おはよう」
私はもう動揺せず、挨拶を返せるようになった。かれこれもう一ヶ月程こんな生活だからである。
「昨日、蘭が家に行ってたけど、その時居た?」
「う、うん」
早速その話題とは。
「また嫌がらせしようとしてたみたいだけど、ちゃんと話したら改心したみたい。もう妙な事はしてこないと思うよ」
太陽の光に照らされ、彼はいつも以上に輝いていた。その眩しさに、眠気も吹き飛ぶ。
「そう、なんだ。良かった」
「だけどやっぱり、木嶋さんのことは好きになれないって言ってた。俺としては、二人が仲良くしてくれた方が嬉しいんだけどなぁ」
「日暮さんが嫌だって言うんなら、仕方無い……よ」
「だよね。まあ嫌がらせが無くなるだけでも良い方か」
「うん」
蘭さんは彼に何を言われたのだろう。気になる所ではあるが、他人に深入りするのは好きではない。
今良い結果になったのだから、それで良い。
今朝の晴れ空は、なんだかとっても印象深かった。
朝目覚めた瞬間から嫌な予感がしたのだ。
黒く濁った空が、どこまでも続いていたから。
そしてそれは、見事に的中。
理由はただ一つ。蘭さんが家に来たからだ。
母と父は仕事。姉もバイト。
ほとんど毎週そうなのだが、いつだって、家で一人とは良いものである。
何をしていたとしても邪魔が入らない、幸せな時間。決して、変な事をする訳ではないが、な。
今日もゆっくり一人を満喫(主に勉強だが)して、静かに過ごそうと思っていたのに。
ピンポーン。
朝食のパンをかじった瞬間、そんな音が響いた。
(? インターフォン?)
我が家のインターフォンが押されることなど滅多にない。
何故なら、必要ないからだ。
宅配便などは基本利用しない。押しに来るような友人すら、存在しない。ならば、押される理由はない。そういう事だ。
だから、妙に不審に思ってしまう。更に嫌な予感もする。
けれど、それに出る必要もない。
これは、母の定めたルールだ。『私が居ない時にインターフォンが鳴っても、別に出なくていいから』というルール。
僅かな時間だけぐるぐる考えていたが、食事を再開した。
(まあ、大した用じゃないでしょ)
そもそも、私に大事な用がある者など存在するはずがない。
すぐに食べ終え部屋に入った瞬間、再びインターフォンが鳴った。
(しつこいなぁ。誰だろう)
少し気になった。
真正面を見つめると視線の先にある窓。そこから覗けば、外が見える。
(ちょっと見てみよう)
カーテンを開けて、下を覗いてみた。
(……ゲッ)
蘭さんが堂々たる態度で立っていた。
こちらを睨みつけて。
(カーテンを開ける音が聞こえたの? この部屋二階なのに)
どうやら蘭さんは、聴覚がたいへん良いみたいだ。
「下りてきなさい! 絶対に呪いをとかせてやるんだから!」
蘭さんの元気な叫び声が我が家に響いた。
(どうしよう。でも、下りたら前みたいに殴られるかもしれないし……。それに、ここに居ればさすがの蘭さんも家に入ってはこないだろうし)
という訳で、外には出ない事にした。どちらにせよ、私はパジャマで、髪もボサボサ。人前に出られるような恰好ではない。
この姿で出たら、「失礼である」という理由で殴られる可能性もあるからな。
「早くこっちに来なさいよ!」
不機嫌な様子の蘭さんは先程よりも声を荒げた。
「……」
怖かった。
だが、じっとしていれば大丈夫。と自分に言い聞かせた。
蘭さんはしばらく私を睨みつけていたが、やがて痺れを切らして歩き出した。
「ふぅ……。良かった」
疲れが吹っ飛んで、思わずベッドに腰かけた。
(朝からすごい疲れた……)
数分間壁を眺めて、念の為再度窓の外を確認した。
「えっ!?」
小さかったが声が出てしまった。
蘭さんと戸山君が家の前で何か話しているようだ。
(戸山君はどこから!? しかも、人の家の前で何を話してるの!?)
二人の声は聞こえてこない。カーテンは開いているものの、窓が閉じているからだ。
(一応、聞かないでいた方がいいかもな)
盗み聞きは好まない。人として当然だ。
蘭さんが爪をかじっているのを見たのを最後に、私は勉強を始めた。
「おはよう」
今日も満面の笑みの戸山君。朝から元気いっぱいのようだ。
「あ、うん。おはよう」
私はもう動揺せず、挨拶を返せるようになった。かれこれもう一ヶ月程こんな生活だからである。
「昨日、蘭が家に行ってたけど、その時居た?」
「う、うん」
早速その話題とは。
「また嫌がらせしようとしてたみたいだけど、ちゃんと話したら改心したみたい。もう妙な事はしてこないと思うよ」
太陽の光に照らされ、彼はいつも以上に輝いていた。その眩しさに、眠気も吹き飛ぶ。
「そう、なんだ。良かった」
「だけどやっぱり、木嶋さんのことは好きになれないって言ってた。俺としては、二人が仲良くしてくれた方が嬉しいんだけどなぁ」
「日暮さんが嫌だって言うんなら、仕方無い……よ」
「だよね。まあ嫌がらせが無くなるだけでも良い方か」
「うん」
蘭さんは彼に何を言われたのだろう。気になる所ではあるが、他人に深入りするのは好きではない。
今良い結果になったのだから、それで良い。
今朝の晴れ空は、なんだかとっても印象深かった。
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