不思議な二人

鍵山 カキコ

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互いを見つめる二人

20.共通の友達のお話

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 夏休みのあくる日、沙愛蘭さあらと純華はしばらく会うことができなかった反動か、珍しく長電話をしていた。
『……うん。でも買い物が本当に長くてうんざりしちゃって。もう二度と行きたくないかな』
「え~。アタイ沙愛蘭とショッピングしてみたかったのになぁ。残念」
『もうあれは経験したくない……。それよりも、その後に貴重な体験をしたんだよっ』
 スマホ越しに聞こえる沙愛蘭の声が、先程よりも大きくなった。それほど彼女の中に残る体験だったのだろう。
 そう思い、純華は胸を弾ませた。
「なんだいなんだい?」
『トイレで泣いてた女の子とハグしたんだ』
「……。??」
 純華の脳内はハテナマークで埋め尽くされていた。
 そう、確かに沙愛蘭の言った事は事実であるが、その場にいなかった人間が聞けば全くもって訳の分からないエピソードなのだ。
 けれど少しだけ、純華はムッとした。どこの馬の骨とも知らない人間と友人である沙愛蘭が抱擁を交わしただと? この自分を差し置いて?
 黒い感情が少しずつ姿を現す。
 それをスマホ越しに察知した沙愛蘭は話題を変えた。
『そういえば、小鳥遊たかなしさんと最近会わないよね』
「ああ。確かに。どうしているか知ってるかい?」
『私アドレス登録させてもらえなかったから知らない。雨宮さんの方が何か聞いてると思ったんだけど』
 紅麗亜も、沙愛蘭に心を開きつつあるとは思うんだけどな。なんて考えながら純華は話を聞いていた。
 なんだかんだ言って二人で会話を交わす機会もあっただろうし、お互いにとっては初めての『純華以外の友達』なのだ。純華としては、仲良くなって頂きたいのである。
「う~ん。残念ながら、アタイも何も知らされてないかな。……そういえば、アタイの誕生日くらいから連絡来てないね。それどころか、アタイからのメッセージにも既読がついてないよ」
『え!? それって結構前の事だよね? 大丈夫かな? ──あ!』
 沙愛蘭が何かを思い出したかのような声を出す。すかさず純華は「どうしたんだい?」と返した。
『そういえば前に小鳥遊さんが、『お父様は友情をあまり好まない』って言ってて……』
「えっ。そういやその話、アタイも聞いた事があるよ!」
 それなのに誕生日会を開催した事がバレてしまい、紅麗亜の父の逆鱗に触れたのでは?
 そう二人が考えるには、自然過ぎる材料が揃っていた。
『……もし本当にそうだとしたら、小鳥遊さんは大丈夫なのかな?』
 不安げな沙愛蘭。
「う~ん。元からそういう家だとは思うけど、紅麗亜がその生活に満足してるかって言ったら……NOだよね」
 まだ紅麗亜の陥った境遇は分からない。けれど予想できるものは全て、悪い場合ケースだ。
 友情が嫌いな父を持っていながら友人の誕生日会を開いたのだから、良い想像をする方が難しい。
『だよね。どうにか、できないかな』
「難しい問題だね。今の状況を考えたら、家に行っても門前払いされるだけ。最悪の場合、出禁にされるかもしれないよ」
『下手に動いてはいけないって事?』
「まあね。小鳥遊家の状態をちゃんと理解していない、推測で得た物しか持っていない。それじゃあ、装備が弱すぎる」
 それ以前に、二人はまだ紅麗亜の家の位置をしっかりと把握していない。そのため、押し掛けるというのは現実的に不可能なのである。
『う~ん……。確かに、どうしようもないよね。でも小鳥遊さんと連絡取れないなら、電話の初めの方に話したお出かけの話、なしだよね』
「えっ」
 長い長い夏休み。
 その内の一日(誕生日)しか、沙愛蘭と会えない……?
 純華はショックを受けたが、それに沙愛蘭は「当然でしょ」と言うかのような反応を返した。
「まぁ……そうだね。今回ばかりは、仕方ないねぇ」
 不服そうではあるが、純華も一応は納得した様子である。
『分かってくれて良かった。じゃあそろそろご飯だし、バイバイ』
「うん、バイバイ」
 名残惜しさはあるが、純華は通話終了ボタンを押した。
(もっと沢山話したかった……)
「純華! もうご飯できてるよ、早くおいでー」
「分かった、今行くー」
 母に呼ばれ、純華は階段を駆け降りた。
 ──紅麗亜への心配を、少し心に残しながら。
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