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互いを見つめる二人
10.トカゲ
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「雨宮さんって友達どれくらいいるの?」
唐突に、沙愛蘭が問い掛ける。
「おお、随分急に来るね」
「あぁ、ごめん。嫌だったら答えなくていいんだけど、気になって。友達が沢山いるなら、私や小鳥遊さんにばかり構うのは他の人達に悪いから……」
「思考がいい子!」
純華が沙愛蘭に抱きつく。
思った以上に彼女の力が強かったのか、沙愛蘭の顔から血の気が引いた。
「ゔぅ……」
「おおっと!ごめんよ。力加減を間違えやすくてね」
純華は慌てて沙愛蘭を離す。
「本当にやめて……」
「ごめん。……あと友達がどれくらいいるかって話だけど……そうだね。まあ、程々にはいるよ。先輩とかも」
沙愛蘭はこれでもかという程目を見開く。
「え!?先輩と友達?」
「え…。そんなに驚くかい?……まあね。それに、今は入ってないけど、中学の時は部活入ってたってのもあるかな」
「雨宮さんは、部活入ってたんだね……」
沙愛蘭は寂しそうな表情を浮かべる。
自分の中学時代を思い出しているのだろうか。
「そうだよ。バド部!意外だろ?」
「……確かに意外だね」
「だろう?でもすぐ辞めて吹部入ったけど」
「…………え!?」
沙愛蘭は純華と関わってきた中で一番驚いた。
「え!?え!?吹奏楽部だったの?え!?」
「そこまで驚かれると傷つくなぁ……」
「ごめん。でも……えぇ…」
沙愛蘭はしばらく衝撃が抜けなかったという。
✾ ✾ ✾
とある少女は悩んでいた。
何故自分は孤独なのかと。
この少女は決してどこかのおまけ担当ではない。
彼女よりももっとまともな人間だ。
名前のせいで、幼い頃からからかわれていた少女。
今は名前も関係なく、疎外されている。
そんな彼女の名は『斎藤 十影』。
沙愛蘭らの通う学園・『南星学園』の、生徒会長である。
(はぁ……。いつになったら皆私の言う事に従ってくれるのでしょう)
彼女は真面目に任務を全うする、立派な生徒会長。だが……
それ故、同じ三学年の生徒達からは好ましく思われていない。
だが、彼女にも友人は存在する。
冒頭部分で少々匂わせたが、それは雨宮純華である。
(あ、純華さん!)
彼女の姿を認めると、十影はすぐさま駆け寄る。
「あ!トカゲさん!」
「?トカゲ?」
「この学園の生徒会長・斎藤十影だよ。知らないの?」
「……ごめん、分かんないや。私、そういうのに興味持ってる暇が無かったから」
「……まあ仕方無いよねぇ」
純華、沙愛蘭の会話を聞き、心底ショックを受ける十影。
(私他学年からはもはや認識されていないんですか……!?)
「御存知無かったのであれば手短に自己紹介を。私南星学園生徒会長の斎藤十影と申します。以後、お見知りおきを」
十影は深々と会釈する。
「あ、どうもご丁寧に……。私はその……特になんの肩書も無いんですけど、地川沙愛蘭と申します」
「沙愛蘭さんですか。純華さんのお友達で?」
「はい。結構最近ですけど」
(案外ちゃんと話せるな……)
沙愛蘭は自分が人見知りだと思っていたようだが、思いの外しっかり話せている事に驚いていた。
「でもなんか会うの久しぶりって感じですね!……そうだ!折角だし、二人友達になったらどうですか?」
「「えっ!」」
純華からの提案に、戸惑う両者。
(先輩と友達になるっていうのは、ハードル高いなぁ……。関わった事すら無いのに)
沙愛蘭の思考。
(友達が増えるなんて嬉しすぎます!そうですよ!同級生が駄目なら、下級生と仲良くなれば良かったんですよ!)
十影の思考。
「私は全然構いませんよっ。沙愛蘭さんっ」
(うわ……。会長すごい嬉しそう……)
沙愛蘭が友達になる事を拒む方向にある理由は三つある。
・友達が増える事で、人との関わりが増えていく。それによる裏切りなどを恐れているため。
・先輩と友達になる事に抵抗があるため。
・十影の顔面偏差値が高いため。
純華がカッコイイ系美人だとすれば、十影は清楚系美人。
それに紅麗亜も「可愛い」といわれる位置にいるのに、自分だけが……。という不安。
要は、「何であんなブスが隣に美人連れてる訳?」などと言われることを恐れているのである。
純華もさすがにそこまでは解らなかったようだ。
「やっぱり先輩っていうのは辛いかい?」
「ええと……。まあ……」
「そうですか……」
十影がしゅんとした。
「あの、でも、友達ではなく普通の先輩後輩としてなら……関われると思います」
「……本当ですかっ‼ありがとうございます‼そうですよねっ。順序というものがありますもんね!」
ほか二人は気付かぬフリをしたが、十影は号泣していた。
沙愛蘭は涙を流してまで喜ぶ理由を知らないが、純華は彼女からよく話を聞いていた事もあり、知っていた。
「では、これで失礼します。生徒会の仕事が残っていますので。さようならっ」
目を湿らせたまま、十影は駆けていった。
「あ、さようならっ」
軽く会釈し、沙愛蘭は挨拶を返した。
その隣で、純華も「さようなら~」と叫んでいた。
◆ ◆ ◆
帰宅した沙愛蘭は、家で十影とやり取りしていた。
【こんな私ですが、よろしくお願いします……】
自信無さげなメッセージが送られてくる。
【よろしくお願いします。私、まだスマホを持ち始めたばかりなので、返信遅いかもしれませんが……】
沙愛蘭も自信無さげに返信する。
結構似たもの同士かもしれないと思い始めた沙愛蘭。
【遅くても返してくれるだけで充分嬉しいです!】
先輩──それも生徒会長からくるメッセージを見て、思わず沙愛蘭は微笑んだのだった。
唐突に、沙愛蘭が問い掛ける。
「おお、随分急に来るね」
「あぁ、ごめん。嫌だったら答えなくていいんだけど、気になって。友達が沢山いるなら、私や小鳥遊さんにばかり構うのは他の人達に悪いから……」
「思考がいい子!」
純華が沙愛蘭に抱きつく。
思った以上に彼女の力が強かったのか、沙愛蘭の顔から血の気が引いた。
「ゔぅ……」
「おおっと!ごめんよ。力加減を間違えやすくてね」
純華は慌てて沙愛蘭を離す。
「本当にやめて……」
「ごめん。……あと友達がどれくらいいるかって話だけど……そうだね。まあ、程々にはいるよ。先輩とかも」
沙愛蘭はこれでもかという程目を見開く。
「え!?先輩と友達?」
「え…。そんなに驚くかい?……まあね。それに、今は入ってないけど、中学の時は部活入ってたってのもあるかな」
「雨宮さんは、部活入ってたんだね……」
沙愛蘭は寂しそうな表情を浮かべる。
自分の中学時代を思い出しているのだろうか。
「そうだよ。バド部!意外だろ?」
「……確かに意外だね」
「だろう?でもすぐ辞めて吹部入ったけど」
「…………え!?」
沙愛蘭は純華と関わってきた中で一番驚いた。
「え!?え!?吹奏楽部だったの?え!?」
「そこまで驚かれると傷つくなぁ……」
「ごめん。でも……えぇ…」
沙愛蘭はしばらく衝撃が抜けなかったという。
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とある少女は悩んでいた。
何故自分は孤独なのかと。
この少女は決してどこかのおまけ担当ではない。
彼女よりももっとまともな人間だ。
名前のせいで、幼い頃からからかわれていた少女。
今は名前も関係なく、疎外されている。
そんな彼女の名は『斎藤 十影』。
沙愛蘭らの通う学園・『南星学園』の、生徒会長である。
(はぁ……。いつになったら皆私の言う事に従ってくれるのでしょう)
彼女は真面目に任務を全うする、立派な生徒会長。だが……
それ故、同じ三学年の生徒達からは好ましく思われていない。
だが、彼女にも友人は存在する。
冒頭部分で少々匂わせたが、それは雨宮純華である。
(あ、純華さん!)
彼女の姿を認めると、十影はすぐさま駆け寄る。
「あ!トカゲさん!」
「?トカゲ?」
「この学園の生徒会長・斎藤十影だよ。知らないの?」
「……ごめん、分かんないや。私、そういうのに興味持ってる暇が無かったから」
「……まあ仕方無いよねぇ」
純華、沙愛蘭の会話を聞き、心底ショックを受ける十影。
(私他学年からはもはや認識されていないんですか……!?)
「御存知無かったのであれば手短に自己紹介を。私南星学園生徒会長の斎藤十影と申します。以後、お見知りおきを」
十影は深々と会釈する。
「あ、どうもご丁寧に……。私はその……特になんの肩書も無いんですけど、地川沙愛蘭と申します」
「沙愛蘭さんですか。純華さんのお友達で?」
「はい。結構最近ですけど」
(案外ちゃんと話せるな……)
沙愛蘭は自分が人見知りだと思っていたようだが、思いの外しっかり話せている事に驚いていた。
「でもなんか会うの久しぶりって感じですね!……そうだ!折角だし、二人友達になったらどうですか?」
「「えっ!」」
純華からの提案に、戸惑う両者。
(先輩と友達になるっていうのは、ハードル高いなぁ……。関わった事すら無いのに)
沙愛蘭の思考。
(友達が増えるなんて嬉しすぎます!そうですよ!同級生が駄目なら、下級生と仲良くなれば良かったんですよ!)
十影の思考。
「私は全然構いませんよっ。沙愛蘭さんっ」
(うわ……。会長すごい嬉しそう……)
沙愛蘭が友達になる事を拒む方向にある理由は三つある。
・友達が増える事で、人との関わりが増えていく。それによる裏切りなどを恐れているため。
・先輩と友達になる事に抵抗があるため。
・十影の顔面偏差値が高いため。
純華がカッコイイ系美人だとすれば、十影は清楚系美人。
それに紅麗亜も「可愛い」といわれる位置にいるのに、自分だけが……。という不安。
要は、「何であんなブスが隣に美人連れてる訳?」などと言われることを恐れているのである。
純華もさすがにそこまでは解らなかったようだ。
「やっぱり先輩っていうのは辛いかい?」
「ええと……。まあ……」
「そうですか……」
十影がしゅんとした。
「あの、でも、友達ではなく普通の先輩後輩としてなら……関われると思います」
「……本当ですかっ‼ありがとうございます‼そうですよねっ。順序というものがありますもんね!」
ほか二人は気付かぬフリをしたが、十影は号泣していた。
沙愛蘭は涙を流してまで喜ぶ理由を知らないが、純華は彼女からよく話を聞いていた事もあり、知っていた。
「では、これで失礼します。生徒会の仕事が残っていますので。さようならっ」
目を湿らせたまま、十影は駆けていった。
「あ、さようならっ」
軽く会釈し、沙愛蘭は挨拶を返した。
その隣で、純華も「さようなら~」と叫んでいた。
◆ ◆ ◆
帰宅した沙愛蘭は、家で十影とやり取りしていた。
【こんな私ですが、よろしくお願いします……】
自信無さげなメッセージが送られてくる。
【よろしくお願いします。私、まだスマホを持ち始めたばかりなので、返信遅いかもしれませんが……】
沙愛蘭も自信無さげに返信する。
結構似たもの同士かもしれないと思い始めた沙愛蘭。
【遅くても返してくれるだけで充分嬉しいです!】
先輩──それも生徒会長からくるメッセージを見て、思わず沙愛蘭は微笑んだのだった。
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