不思議な二人

鍵山 カキコ

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初々しい二人

1.寄り道①

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 多くの生徒から慕われる純華すみかと友人になった沙愛蘭さあらの生活は、大きく変わった。
 まず、常に純華が側にいるため、香彩かあ達が彼女に近寄る事ができないという事。
 他の一般生徒にも話しかけられるようになったという事。
 そして、沢山笑えるようになったという事。
 でも、どこか、沙愛蘭は遠慮してしまう。
 まだ、純華を完全に信用できないでいる。
 
     ♣ ♣ ♣

「おはよう沙愛蘭!」
「おはよう雨宮さん……」
 あれから、登下校は二人でするようになった。
 というか、純華がしつこく付いてくるようなものなのだが……。
(……もう大分この生活に馴染んできたけど、結局雨宮さんがなんで友達になろうとしたのか分かってないな……。まあ、追々話してくれるかな)
「どうしたんだい?ぼーっとして」
 純華は沙愛蘭の顔を覗き込む。
 ──手で顔を覆い隠しながら。
「いや、何でもn……って、近っ!」
 二人の顔の距離はわずか三センチメートルもあるかないかだ。
「というか、その顔を隠すのは何なの?儀式?」
「いつかは話せるように頑張るよ」
 つまり、今は話せない、または話したくないという事だ。
(まぁ、本人が嫌なら無理に問い詰めたりしないけど)
(話したら引かれちまうんだろうな)
 
「寄り道をしないかいっ?」
 校庭のベンチで昼食を食べている最中、いきなり純華が叫びだした。
 ──ポロッ。
「あ!箸が……」
 沙愛蘭は動揺のあまり箸を地面に落とした。
「そんなに嫌かい?」
 純華は捨て犬のような瞳で沙愛蘭を見つめる。
(ゔっ……)
 沙愛蘭はいじめられていた側。
 そんな目で見つめられたら──
「い、嫌じゃないよ」
 断れるわけがない。
(元々行きたくなかった訳じゃないけど……)
「どうして急に?」
 沙愛蘭は落ちた箸を拾いながら純華に問い掛ける。
「いや、やっぱり、友達らしいといったら、放課後に寄り道だろう?」 
「う~ん。まぁ、女子高生だもんね」
 沙愛蘭はあまり納得がいっていない様子だ。
(突然言い出されると怖いな……。今は良いけど……。やっぱりまだな……)
「な、じゃあ決まりだね!どこに行きたいとかあるかい?」
 純華の目はキラキラと輝いている。
 今どき、こんな純粋な瞳をする女子高生も珍しい。
(私は、もう、そんな目出来ないだろうな……)
「行きたい場所……大してないかなぁ」
「そうかい……じゃ、アタイのとっておきの店に連れてってやるよ!」
「とっておき……」
 沙愛蘭は正直、嫌な予感がしていた。
(雨宮さんのとっておきか……どんな所だろ…)
「楽しみにしてなっ」
 にぃーっと、純華は歯が見えるくらいに笑った。
「う、うん…」

 そして時は経ち、今は放課後。
「よし!行くぞっ。沙愛蘭!」
「え、あ、ちょっ!」
 純華に腕を引かれ、沙愛蘭は走る。
 二人が校門を出た頃、やっと純華の手が彼女の腕から離れた。
「ハァ、ハァ、ハァ……。疲れた…」
 ゼェゼェ言いながらバテる沙愛蘭に対し、純華は澄ました顔をしている。
「運動全然してないね?さては」
「ハァ、して……ない……よ」
「やれやれ、こんなんでバテてるなんて、先が思いやられる……」
(え……もしかして、まだ走る所あるの……!?)
 沙愛蘭はゾッとした。
「とりあえず、今は歩くよ」
「う……ん」
 沙愛蘭はズン…ズン…と、一歩一歩を踏みしめるように歩いている。
 その数メートル前を純華がスタスタ歩いていく。
「ちょ、遅くないかい?まだ辛い?」
「いや…大丈夫……」
 体はまだ辛いのだが、心配させるのは悪いと思い、沙愛蘭は走ってみせた。
「そうかい?ならいいけど……。あんまりはぐれ過ぎないんだよ」
「うん……」
(まるで母子だな……)
 日頃からもっと運動しておけば良かったと、こんな所で後悔するとは……沙愛蘭は自分が情けなくなる。
 そのままずっと歩き続け、やっと……
「駅だ……」
 沙愛蘭は嬉しくてたまらない。
 それもそのはずだ。彼女は純華のペースに合わせるため、速く歩いていたのだから。
「?駅が嬉しいのかい?」
「え?もちろん!どこまでいくの?」
 キャピキャピと沙愛蘭が問い掛けるが、純華は怪訝そうな顔をする。
「え?電車になんて乗らないよ?この街だし」
 沙愛蘭は目を見開き口を開け、
「エエエエぇぇぇ!!」
 と叫んだ。
 多少周りの人間に不審に思われただろうが、それでもショックが大きかった。
「ちょっと、声が大きいよ、というか、電車に乗る必要が無いんだよ、駅の隣だから」
「え?……あ、なんだぁ!」
 沙愛蘭はホッとした。
 もう歩かなくていい!
「ほら、見えるだろう?あの店だよ」
 人で賑わう駅の横で佇む、小さな雑貨屋。
 店名は『ガールズ・ショップ』。あんまりオシャレとは言えない名前である。
「可愛いお店だね……」
「…行くよー」
「あ、待って~」
 ──チリン。
 入り口のドアのベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
 若い女性店員の綺麗な声が店内に響いた。
「うわぁ……。見た目通りに可愛いんだね」
(嫌の予感は外れたみたい……良かったぁ)
「だろう?いい店だよ、アタイ常連だからね」
「フフフ…」
 沙愛蘭が微笑むと、純華は商品棚の一番右にあったストラップを手に取った。
「これなんか、どうだい?」
「ん?これ……」
 純華の持っているストラップは、イソギンチャクのようにヒラヒラした、黄色の花のストラップだった。
「え、これ……ゲッケイジュ…!」
 突然、沙愛蘭の意識が朦朧とする。
「ハァ、ハァ、ハァ、」
(うまく、呼吸ができない──!)
 沙愛蘭はその場で派手に倒れてしまったのだった。
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