9 / 9
8
しおりを挟む目を開けると、そこには見慣れた天井。私はいつの間にか自分のベッドに寝かされていた。ここまで運んでくれたのは恐らくロイだろう。
「…っ」
体を起こすと酷い眩暈を感じた。でも私はロイの状況が気になり、体が悲鳴を上げるのも気にせず、重い体を引きずりながらリビングへ向かう。暗闇に支配された部屋に月の明かりだけが差し込んでいた。ロイと出会った日を思い出しつつ、ソファーにできた毛布の丸いふくらみに声を掛ける。
「ロイ…大丈夫?」
毛布がピクリと揺れた。私の質問への回答はすぐ返されることはなく、待ちきれずにまた口を開く。
「ごめんね…」
「…なぜ謝る…」
私の謝罪にロイの硬い声が返ってきた。重い足取りでソファーのすぐ横まで近づく。
「ロイの異変に気付いたのに止めれなかったから」
そういうと、ソファーから伸びてきた手に手首を掴まれ、力任せにソファーへ引きずり込まれた。気づくと、私はソファーでロイに押し倒されていた。なぜかロイに組み敷かれている。抗議しようと声を上げる前にロイが私に覆いかぶさってきた。
「…っ!」
突然のことに目を見開く。
ドキドキドキ
心臓の音がうるさい。人との接触が久しぶりだからって、これはまずい。何がまずいかというと、いろいろまずい。なんて頭で混乱していると、苦しそうな、ふり絞るような声が耳に届いた。
「…殺す…ところだった…」
ロイが私と視線を合わせようとしてして顔を上げた。その瞳からは雫が一筋零れ落ちた。
「でも死んでないよ…」
「俺は幼少の頃…人を殺しかけたことがある…魔力のなかった両親は俺を恐れ、魔女のところへ預けられた…力がコントロールできるようにって…実際は捨てられたってことなんだが…そこでの生活は酷いもので、奴隷のようにこき使われる毎日だった…力の抑え方なんて教える気なんてサラサラなかったんだ……」
そう言って言葉を切ると、ロイの瞳から堰を切ったように涙が零れた。
「ずっと自分が恐ろしかった。俺がまた誰かを傷つける日が来るんじゃないかって…次は気づかないうちに大切な誰かを殺してしまうんじゃないかと…」
ロイの頬に手を伸ばそうと、手を持ち上げる。明らかにびくついたロイに構わず頬に手を添えた。
私も前世、同じような体験をしたことがある。だからこそ自分を重ねてしまった。
弱弱しく涙するロイ。そんな顔をさせたかった訳ではない。前世では幸せに、穏やかに暮らしてほしい。本気でそう思っていた。私のせいで、私の失敗で彼をまた不幸にしてしまった。そんな気持ちでいっぱいになった私はつい口を開いていた。
「ロイ、あなたを私の弟子にしてあげる。私の持てる知識を授けてあげる。だから、悲しまないで、怯えないで、魔力はコントロールできるんだから」
「エマ…」
ロイの眉が弱弱しく下がる。
「私の弟子になるんだから、中途半端なことは許さないわよ?覚悟してね」
そう言って茶化せば、ロイの顔が近づいてきた。何事かと思って目を閉じれば、おでことおでこをくっつけられた。
「ありがとう、エマ」
温かい雫が私に再び降り注いだ。
10
お気に入りに追加
5
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる