上 下
52 / 56
欲深き死人の願い

しおりを挟む

「で?…なんでお前は成仏していない?」

「知らん!!ガハハハハ!!」


ジェイスは朝早くヴェル・トゥーエの邸宅で起きると…
すぐにゼオンの墓に向かった。

彼がちゃんとシエルの地へ行ったかどうか確かめるためだ。

オバケミエールもとい『フィン・ドイル―の霊薬』を飲み墓に入ると…
その男はまだそこにいた。


「パーティは約束通り行った…お前の望みである業者達の問題も解決した…なんでシエルの地へ旅立たない?」

「まぁ、いいじゃねぇか…お前らの目的は邸宅に悪さをする幽霊を排除することだろ?もう悪さなんかしねぇから心配すんな!ガハハハハ!」

「おい…」

「俺はこれからも幽霊として暮らすぜ!ガハハハハ!」


ジェイスは…彼の言葉に違和感を感じていた。


「ゼオン…まだ何か心残りがあるんじゃないのか?」

「…?いや、本当にねぇって」

「…本当か?」

「本当本当!いや、マジで本当!」

「…」


幽霊には目的がある。
だからこそ現世に残るのだ。

その目的は、後悔からくる憎しみや悲しみからくるものがほとんどだ。
未練と言えば話がはやい。

未練のない…
つまり目的を果たした幽霊にとって、現世は辛い場所だ。

何にも干渉できず、何からも干渉されず…
ただ孤独で、ひたすらに傍観者でいるしかなくなるのだから。


「ゼオン…まだ何か隠しているだろう?」

「…」

「はじめてお前に会った時、俺は霊を供養する呪文を唱えた…しかしお前には効かなかった…」

「…」

「もしかして…シエルの地に行きたくても…行けないんじゃないのか…?」


ジェイスはヨルデシンド領にきてからすぐに気づいていた。
ゼオン・ヴェル・トゥーエという幽霊が異質であることに。

供養する呪文で旅立たず…
10年前からここに居座る幽霊。

現世にいるのには理由が間違いなくある。

しかしゼオンは…
それをジェイスに話そうとはしなかった。


「なぁ、話してくれ…辛いのはお前だろう?」

「…」

「自我の残る幽霊には目的がある…お前の目的は果たされたはずだ…目的も無く現世になんの影響も与えることができず、ただ息子やその家族が老いるのをずっと見続ける気か?」

「…」

「話してくれ…」


ジェイスはゼオン自体も何か問題を抱えていることを悟った。
そして、その問題が何なのか…彼に問いただす。

しかし…


「できねぇ…」

「…」

「話すことはできない…すまねぇな…」

「…」


ゼオンはかたくなに話さなかった。
しかしジェイスは、その答えを自分で導き出す。

いや、幽霊が目的もなく現世に留まっている理由など…
もう数えるほどもなかった。


「まさか…『死霊術』か…?」

「…」

「死者を対象にした呪い…お前、誰かに『死霊術』を掛けられて、現世に縛り付けられているのか?」

「…」


常に笑顔だったゼオンが…
少しだけ自分の表情を隠した。


「おい…そうなんだろ?誰に呪いをかけられた?『死霊術』を使える魔術師なんて限られている…なによりホークビッツでは禁止されている呪術だ」

「…」

「…話してくれ…」

「…」

「…」

「すまん…言えない」


なぜゼオンが隠すのか…
ジェイスにはわからなかった。

しかし、モンスタースレイヤーとして…
いや、1人の人間としてゼオンをこのままにしていてはいけないと思った。


「わかった…もう誰に呪いをかけられたのかは聞かない」

「…」

「しかし、乗りかかった船だ…お前は必ず成仏させる…」

「…いや…いいんだ」

「…?」

「確かに幽霊のままいるのは辛くて寂しいが…これは俺が選んだんだ…お前に、これ以上迷惑かけるわけにはいかねぇ…」

「…」


欲深い幽霊とは思えない。
そんな言葉を聞いて、ジェイスは…


「お前は…欲深き死人でいろ…」

「…」

「自分の最後は他人以上にもっと欲深くなれ…その方がお前らしい…」

「お前…」



「ゼオン…お前は俺が必ずシエルの地へ旅立たせる」







ジェイスはティナリス伯爵のもとへ戻ると…
完結にゼオンの状態を話した。


「『死霊術』…」

「あぁ…ゼオンは誰かにそれを掛けられて、現世に縛り付けられている…」

「一体誰に…?」

「わからない…本人が話そうとしない…『死霊術』の種類はいくつかあるが、どれもホークビッツで禁術とされている古い術だ…強力な魔術師か、呪術師の仕業と見てる」

「…」


伯爵は真剣にジェイスの目をみる。


「解けるのか?」

「…」

「どうなんだ?」

「残されたやり方は…一つだけだ」


そしてジェイスは、ヨルデシンドの最後の問題を解決に導く答えを伝える。


「本来『死霊術』は、術者でないと呪いを解除することはできない…」

「それじゃぁ…」

「しかし、死者を対象にした術だからこそ、裏技が存在する」

「…裏技?」

「あぁ…それは…ゼオンを生き返らせることだ」

「…なんだと?」

「正確に言えば本当に生き返らせるわけではない…ゼオンの魂に仮の肉体を与えることで、一時的に『生者』と同じ状態を作る…死者を対象にした呪術である『死霊術』は、ゼオンを『生者』として判断した段階で解除されるはずだ…」

「ちょっとまて…ゼオンの魂に肉体を与えるって…それって…」


伯爵はここで違う不安におそわれる。

死体に魂を与えることで生まれる存在を知っていたのだ。
いや、この世界にいれば誰でもその存在を知っている。

死体の姿で練り歩き、死体を食らう存在。
すなわち『死体漁り(グール)』だ。


ジェイスは伯爵がこの不安を抱くことを当然わかっていた。
しかし、一方でその不安はすぐに取り除けることも知っていた。


「安心しろ…グールにはならない」

「…」

「グールは死体に死者の魂が入った場合に生まれる怪物だ…ゼオンの魂を入れる肉体が生きていれば、魂が入ってもグールにはならない…」

「生きてる者…にゼオンの魂を入れるということか?」

「あぁ…単刀直入に言う…ティナリス伯爵…あんたの肉体を使ってゼオンを一時的に生者にする」

「…」

「魂は血と深い結びつきがある…術自体に生者と錯覚させるためには、アンタの肉体にゼオンの魂を入れるしかない…」

「…」

「しかし、無理強いはしない…」

「…どういう意味だ?」

「ゼオンは幽霊だ…アンタの肉体にゼオンの魂が入るとは、すなわち『とり憑かれている』のと同じ状態になる」

「…」

「アンタがゼオンを信頼して…肉体を差し出す覚悟が必要だ…」

「…」

「…」


伯爵はジェイスから目線を外す。
そして…ジェイスが初めてここに遣って来た時に見せた写真を手に取った。

ゼオン・ヴェル・トゥーエが、大きな口を開けて笑うあの写真だ。


「覚悟…か」

「…」

「そんなもの…とうに出来ている…ゼオンが死んで…ヨルデシンド領の領主になった時からな…」

「…」

「モンスタースレイヤー…」

「?」




「俺の身体を使って…ゼオンをシエルの地へ送ってやってくれ…」



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...