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黄金の美酒は夢の中で香る
Ⅰ
しおりを挟む二日ぶりにヴェル・トゥーエ家に戻ってきたジェイスとディページ。
ティナリス伯爵にブルービルドでの一件の報告を終え、今日はついに死人の最後の願い事…
リヴィーアン養蜂場のハチミツ酒を手に入れるため、ジェイス達はまた旅立つ。
「今日はリヴィーアン養蜂場のハチミツ酒にとりかかろうと思っている」
「そうか…これで最後というわけだな」
「あぁ…」
「パーティは1週間後だ…奴と交流のあった人達にはすでに招待状を送ってある…リヴィーアンの件が片付いたら邸宅でもパーティの準備をはじめないとな…」
ティナリス伯爵は葉巻をふぅっとふかし…
暗い顔で窓から庭を見る。
「リヴィーアン養蜂場の件だが…たしか主人が今、病で床にふせていると言っていたな?」
「あぁ…しかも原因不明だ…何人かの医者に見せたらしいが…」
「原因不明かどうかは俺が決めることだな…医者の調べた結果が『原因不明』ならば、俺の仕事の領域かもしれない…」
…
リヴィーアン養蜂所はヨルデシンド領の南東に位置する養蜂場だ。
実はこの養蜂場、ジェイスも名前だけは聞いたことがあった。
なぜならこの養蜂場のハチミツ酒が、ホークビッツ国内であまりにも有名だったからだ。
『リヴィア・ハニ―』と名付けられたそのハチミツ酒は、ハチミツのほどよい甘みと高級ワインのようなコク。
そして何より『黄金の美酒』とも讃えられる鮮やかな色合いが、多くのファンに愛されている名酒だ。
庶民の酒というイメージがあるハチミツ酒だが、貴族からも親しまれる『リヴィア・ハニー』はホークビッツ王族の食卓にも上る。
ワインと同じく生産年ごとに価格が異なり、プレミアのついた年の価格は高級ワインに引けをとらない。
「ブルル(おー!)」
「また立派な場所だな…」
ジェイスの言うとおり、そこは立派な養蜂場だった。
キャローズ農園ほど広くはないものの、芝が敷き詰められた大きな敷地に一定間隔で丸太が置かれ、その上にハチの巣を飼育するための巣礎(すそ)と呼ばれる箱がたくさん置いてある。
従業員と思われる人達が、厚い布で出来た防護服を着ながらなにやら作業をしていた。
「変な格好ー」
養蜂はミツバチを飼育し、蜜や花粉を取るだけではない。
ミツバチを使って農作物の授粉をより確実に行うという目的もある。
養蜂場の中には野菜の畑と思われる敷地も多かった。
養蜂と農業は相性もいいし、農産も積極的に行っているようだ。
ディページは人間の姿に戻ると、キャローズ農園の時とは真逆のことを言いだした。
「俺、ハチミツ大好き!」
「そーいや甘いもん好きだったな」
「ジェイスは甘いの嫌いなんだよね?人生の9.7割くらいは損してるよそれ」
「肉が嫌いなお前に言われたくはないな…」
「肉は臭いから嫌い」
養蜂所の入り口と思われる場所に小さな小屋があった。
中は売店のようになっていて、気のよさそうなおばちゃんがビン詰めのハチミツやお菓子を売っていた。
しかし、なぜか人気商品であるはずのハチミツ酒『リヴィア・ハニ―』は置いていなかった。
「いらっしゃい…何か買ってくかい?」
「美味しそう!!」
クッキーや焼き菓子がたくさん入ったかごが、棚にたくさん並んでいた。
小屋全体にハチミツの甘い香りがたちこめており、ジェイスは小さい声で…
「う…」
と漏らした。
ジェイスはおばちゃんに言う。
「突然すまない…ヴェル・トゥーエ家からの公務で来たんだ」
「あら…そうだったんですか?今奥さま呼んできますね…ここで少々お待ちください」
小屋の中で待つように言われたが、ジェイスは甘い匂いに耐えられず外で待つ。
誰もいなくなった小屋の中でディページがクッキーをつまみ食いしているところを見た気がしたが…
ジェイスは面倒なので見ないふりをした。
しばらくすると、先程のおばちゃんと同じくらいの年齢の女性がやってくる。
ジェイスは出来るだけ息を吸わないように中に入って、彼女にヴェル・トゥーエ家の家紋の入った書類を見せた。
「確かにヴェル・トゥーエ家の家紋ですね…はじめまして…私はこの養蜂場の管理をしているゴトー・ディテーレィの妻マリーです…どう言ったご用件でしょうか…」
「近くヴェル・トゥーエ家で行われるパーティのために、ここのハチミツ酒を30樽ほど売ってほしいんだ」
「パーティ…30樽もですか…?」
予想通り…
というかティナリス伯爵から聞いた通り「はい…わかりました」とは行かなそうな雰囲気だ。
30樽と聞いたとたん、ディテ―レィ夫人の表情が明らかに曇った。
「ティナリス伯爵から話は聞いてる…ご主人が原因不明の病で床に伏していると…」
「えぇ…そうなんです…ハチミツ酒の在庫はあるにはあるんですが…在庫が保管してある醸造蔵の鍵は主人が管理していて、どこにあるのかもわからないのです…誰も開けられず、今は生産のみで販売ができないんですよ…生産に時間のかかる商売ですので…大変申し訳ありません」
「なるほど…」
ジェイスは出来るだけ素早く仕事を終わらせようと、簡潔に自分が力になれることを示した。
「俺の本業はモンスタースレイヤーなんだ」
「…?」
「ご主人の病気…医者に見せても原因がわからなかったんだろう?…もしかしたら呪術や魔法の類かもしれない…職業柄それらの対策は知ってるつもりだ」
「…」
「ご主人に会わせてもらえないか?」
…
養蜂場から少し離れたティテーレィ邸宅にジェイスとディページは招かれた。
マリー夫人が2人のために茶を入れると言ったが、2人は「俺たちは客じゃないので…」と言って断る。
そしてマリー夫人の夫であり、リヴィーアン養蜂場の主。
ゴトー・ティテ―レィが眠る寝室に入った。
ゴトーは50過ぎの体格のいい男だった。
生きているのか死んでいるのか、ぱっと見ではわからない。
ただ少しだけ苦しそうな表情で目をつむっていた。
「3週間ほど前からでしょうか…ずっとこのままで…」
「食事や排せつは?」
「私がやっています…食事は飲み物でないとだめですが…」
「…」
ジェイスはゴトーの眠る布団をとり、彼の首筋に手を置いた。
「(脈拍は安定している…少し体温は低いが…)」
次にジェイスは、ゴトー氏の瞼を開く。
「(眼球が動いてる…もしかして…夢を見てるのか?しかし体温の低さからして、あきらかに普通の睡眠ではない…これは…)」
そしてジェイスは一応の結論を導き出した。
その結論を夫人に話す前に、彼女に聞いておくことがあった。
「この状態になる前…夢に関して何か話をしていなかったか…?」
「夢のことについて…ですか?」
「あぁ…なんでもいい…例えばそうだな…夢にヘビを身体に巻いた裸の女がでてくるとか…角の生えた濡れた髪の男がでてくるとか…」
「そう言えば…夢の中でいつも見知らぬ少女に会うと言っていました…」
「見知らぬ少女か…具体的な外見を話していなかったか?」
「外見はわかりませんが…とても良い夢だったそうです…しかし起きた後ひどく疲れて、彼はそれに悩んでいました」
この話を聞いて、ジェイスは自分の導きだした結論が正しいことを確信した。
「夢魔だな…おそらくはリリスだ…」
「リリス…?」
「人間の夢の中で生気を食う悪魔だ…人間の想像にとり憑いて、強制的に眠らせ夢を見せる…古くからいる夢魔の一種だ」
「なんてこと…」
「しかし妙だ…3週間も目覚めないとは…」
「…?」
「リリスは宿主である人間を生かすため定期的に夢から解放する…実際に食事を取らなければ宿主が死んでしまうからな…3週間も目覚めないなんてのは妙だ」
リリスは、人間の欲望を利用する悪魔だ。
その性質は淫魔に近いが、宿主の性格や性別に応じて柔軟に姿を変えると言われている。
他の悪魔のように実体を持たず、人の想像の中に巣をつくり繁殖を行う。
一度とり憑かれると、宿主が死ぬまで生気を吸い取りその中で子育てをする。
しかし、一方でリリスは夢に干渉する力は持っているが、夢の内容を創造したり改変する力はない。
つまり、宿主が作った夢の中で生活をするため、宿主が悪夢を見ないように配慮する珍しい悪魔なのだ。
「(バクリやアルプと言った夢魔だとすると、宿主は苦痛に顔をゆがめていてもおかしくない…安定した状態で眠り続けているところを見るとリリスに間違いはないが…)」
難しい表情で現状を整理しようとしているジェイスを見て…
マリー夫人が問いかける。
「その…主人をリリスから解決する方法はあるんでしょうか…?」
「そんなに難しいことじゃない…リリスを夢の中から追い出せばいいだけだ…方法は二つある」
「一体どんな?」
「一つはご主人を少し苦しめて…ひどい悪夢を見せるという方法だ…リリスは宿主の夢の中で暮らす…夢の中が酷い状態になれば、リリスは逃げ出すように別の人間や動物に宿主を変える」
「…く、苦しめるとはどれほどなんでしょうか…?」
「夢魔にもよって違うが…爪をはいだり…ヤケドを負わせたり…」
「で、できれば違う方法でお願いできますでしょうか…?もうひとつあるんですよね…?」
「もうひとつは、別の誰かが主人の夢の中に入り、リリスを直接殺すか、追い出す」
「主人の夢の中に入ることができるんですか…?」
「あぁ…聖感を使った術の中には、他人の夢に同調することができるものがいくつかある…俺が使えるのは一つだけだが…」
「お願いします!報酬はいたしますので…」
「わかった…さっそく準備をしよう」
ジェイスは剣をスッと抜き、ゴトー氏の指先に小さな傷をつけた。
底から垂れた血を指ですくい、ペロリと舐める。
そして三本の剣のうち、二本の剣をディページに預け…
最後の一本を胸に抱き、ゴトーの隣で横になった。
「じゃあ行ってくる…」
「よろしくお願いいたします」
「あぁ…それとディページ」
「ん?」
「俺が1日経っても目覚めなかったら、どんなことをしてもかまわん…無理やりにでも俺を起こせ」
ディページは悪魔的な笑みを浮かべ、聞き返した。
「そんなこと俺に言っていいの?…俺にそんなことやらせたら、爪はぐとかヤケドさせるとか…そんな甘っちょろいことしないよ?」
「あぁ…かまわん」
「♪」
そう言うとジェイスは目をつむり…
呪文を唱える。
「『夢にかかる橋を渡る…アルバランディ』」
…
…
…
ジェイスが目を開けると…
そこはリヴィーアン養蜂所の入り口だった。
「…」
辺りは暗くなりかけており…
ジェイスがさっきまでいた場所とは明らかに時間が違う。
「…夢に…入れたか?」
ジェイスは手に持っていた剣を背負い、夢であるかどうかを確認するため自分の頬をつねる。
痛みも違和感もない。
まぁ、痛くないのに何の違和感もないということがおかしいのだが。
この現実ではあり得ないことこそが、この場所が夢であるなによりの証明だった。
「(長居はできない…しばらくすると夢と現実の区別がつかなくなってしまう…)」
ジェイスは現実と同じ道を辿り、ディテーレィ邸を目指す。
そこまでの道のりは現実よりもずいぶん簡略化されている…ような気がした。
というのも、この短い期間でも現実の記憶が曖昧になってきているのだ。
夢の中というのは…そういうものだ。
「ついた…」
ガチャ…
鍵のかかっていない邸宅の中に入ると、現実世界でゴトー・ディテーレィが眠る寝室へ向かった。
現実世界よりも色味が豊かなその部屋のベッドに、現実世界と同じように彼はいた。
つまり…
「おいおい嘘だろ…」
彼は眠っていたのだ…
夢の中のゴトー・ディテーレィも、現実の彼と同様に。
「やっちまったねぇあんた…」
「…?」
彼に近づこうとすると…
どこからともなく、少女のような声が聞こえて来た。
その声の主を探していると…
ゴトー氏の眠るベッドの奥から黒髪の美少女がひょこんと顔を出した。
人間で言えば、10歳くらいの少女だろうか。
その年齢にしては、ずいぶんの芯の通った目をしている。
ジェイスは彼女の正体がすぐにわかった。
「…」
「ゴトーにとり憑いているリリスだな?」
「うん…」
簡素な返事をすると、リリスはゴトー氏の上をぴょんっと飛び越えて…
ジェイスの前に手を組んで二ッと笑った。
「言いたいことは山ほどあるが…なんだ?『やっちまった』ってのは?」
「あれ…見てみて」
「…?」
そう言ってリリスは、ベッド近くの窓を開けて空を指差した。
ジェイスは警戒しつつリリスの隣にいき、窓から空を見る。
そこには…
巨大な魔法陣が空を埋め尽くしていた。
「シエル言語の魔法陣…なんだあれは?ここに来るまであんなもの無かったぞ…」
「そりゃ夢の中だしねぇ…この部屋の窓からしか見えないのさ…」
ジェイスはリリスへの警戒を解かないまま、魔法陣をよく観察する。
「幻術の法門に六芒星…あれは…夢をロックする魔法陣か…?」
このジェイスの問いに、リリスは問いで返す。
「あんたシエル言語読めるの?」
「答えろ…」
「いや僕だってわからないよ…シエル言語読めないし、あの魔法陣を使っているのはこのゴトーさんだもん…」
「なんだと…?」
ジェイスはもう一度空に浮かぶ魔法陣を見る。
「一体なんのために…この男が魔術を使えるなんて聞いてなかったぞ…」
「僕がちょくちょく夢の中に入っていたからねぇ…ゴトーさんはそれに悩んでたみたい…だから私が夢の中に入れないように、魔術師書で見た魔法陣を見よう見真似で使ったみたい…」
そんな話を聞いていると…
ジェイスは空の魔法陣について、あることに気づく。
「ん?…なんかあの魔法陣、妙だぞ…効果の構文が間違っている…それに外円部分が歪んでいる」
「そうなの?」
「いやいやちょっとまて…シエル印の位置もおかしいぞ?外円と重なってるじゃないか…おいおい…」
「…?」
「そういうことか…」
ジェイスは、ゴトー氏の夢の中で何が起こっていることをここで理解した。
魔法陣が読めないリリスでも、すでに気づいていた。
「もしかして…私がさっき言った『やっちゃった』の意味…わかってもらえた?」
「あぁ…あの魔法陣…効果対象を指し示す印の箇所が反対になっている…」
「もっとわかりやすく言ってよ…」
「…俺もお前も、この夢から出られない」
「そゆこと!」
リリスはきゃはっと笑い…
そのあと疲れたようにゴトー氏の眠るベッドに座った。
「つまり…ゴトー氏は、お前が夢に侵入するのを防ぐために夢の入り口にロックをかけたつもりが…誤って出口にロックをかけてしまった…と」
「…」
「そして夢を見せて食べる悪魔であるお前が、その夢から出られないせいで…この主は夢から覚めないと…」
「うん」
ジェイスはため息をつく。
そして夢の中で眠るゴトー氏を見て、リリスに聞いた。
「しかし、なぜ夢の中のゴトー氏も寝ている?お前が眠らせたのか?」
「うん、そうだよ!」
「なぜそんなことを…」
「夢の中ってね…時間の進み方が遅いの…ゴトーさん、目が覚めないままだと死んじゃうかも知れないでしょ?…そうなったら私も一緒に死んじゃうから、夢の中のゴトーさんにも夢を見せてその中で暮らせば、時間にもっと余裕ができて、それだけ長く生きられるでしょ?」
「へたくそな説明だが…まぁなんとなく理解はできた」
「えーひどぉい」
リリスはゴトー氏が死んでしまうことを恐れた。
そこで彼女は『夢の中』では時間の進みが遅いというのを利用することにしたのだ。
夢の中でさらに夢を見せてその中にいれば、時間の進みはさらに遅い。
そうすれば、いつ死んでしまうかわからないゴトー氏の夢の中にいても時間の余裕が生まれる。
本来、宿主が死んでしまうとリリスは別の宿主を探す。
しかし夢から出られなくなってしまい、仕方なく強硬手段に出たということわけだ。
「それで…どのくらいなんだ…?」
「ん?なにが?」
「夢の中の時間の進み方だ…お前はこっち(夢)の時間で、どれくらいここにいるんだ?」
「だいたい3年くらいかなぁ…」
「3年!?」
「うん!」
「(現実世界のゴトー氏が3週間目覚めていないと言っていた…つまり現実の7日間が夢の中では1年…7日間が約170時間…1年が約8800時間となると、夢の中の時間は実際の時間の約50倍近く遅いということになる…)」
夢の中の夢の中はさらにその50倍。
その中で暮らせば、少なくともその期間はゴトー氏の夢の中で生きていける。
このリリスが夢のさらに奥に逃げようとした気持ちもわからなくもない
「おいリリス」
「なぁにぃ?」
「俺は3年も他人の夢の中で過ごすつもりはない…すぐに夢の中のゴトー氏…いや…夢の中の夢の中にいるゴトーに会わなくちゃならん」
「はは!なんだか変な言い方ー!」
リリスは無邪気に笑う。
大いに邪気を孕んだその身体で。
「お前の方が夢の世界に詳しいはずだ…夢の中の夢にいるゴトーのところまで案内しろ…」
「夢の中の夢に入るってこと?まぁいいけど…ゴトーに会ったところで、私たちここから出れるの?」
「わからんが…思いつくやり方はある…夢の中で魔法陣は描けない…つまり、夢の出口をロックしてある魔法陣は、現実世界のゴトー氏の身体のどこかに描かれているはずだ」
「ふ~ん…そうなんだぁ」
「確かリリスは、宿主の身体に寝言を言わせることができたよな?…古い書物によれば『リリスにとり憑かれて夢を見る者は、悪魔の言葉で寝言を言う』という記述がある…」
「できるよー!夢の中の夢にいるゴトーに会えばね…」
「外に仲間がいる…ゴトー氏に寝言で『ゴトー氏の身体のどこかにある魔法陣を消せ』と言わせれば、現実にいる仲間が魔法陣を消してくれるはずだ…そうすれば夢のロックは解かれ、俺たちはここから出れる」
「なるほ!…でもゴトー氏に言わせれる寝言は僕たち悪魔の言葉だよ?…現実でそれを理解できる人間がいるの?」
「あぁ…外にいる仲間ってのは、俺が使役している悪魔だからな…」
「…そっかぁ…」
リリスは…
納得しているのか納得していないのか…
どこか興味がなさそうだった。
ジェイスはそんな彼女に言う。
「これから俺とお前でゴトー氏の『夢の中の夢』に入るわけだが…最初に言っておく…」
「…なに?」
「俺と行動を共にする間…少しでもおかしな真似をしてみろ…いくら夢の中だろうが俺はお前を殺す」
「…」
「夢から出られないのは魔法陣のせいだが…眠り続けている原因はお前が夢の中に滞在しているからだ…お前を殺せば夢自体が消滅する…お前が今生きているのは、俺からの慈悲であることを忘れるな」
「はいはい…」
リリスは少し小馬鹿にしたような笑顔で…
ジェイスの言葉に相槌を打った。
「では行くぞ…」
「…」
「ゴトー氏の…夢の中の夢の中へ」
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