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夜の女王の真実
Ⅱ
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…
ジェイスは宿で一夜を過ごし、朝早くべスティナ邸に向かっていた。
「いらっしゃいませ…べスティナ様は朝の準備をしておられます…どうぞリビングでお待ちになっていてください」
昨日のうちに話をつけていたジェイスは、すんなりと彼女の邸宅に案内された。
執事によって広いリビングに通され、少しの間彼女を待つことになった。
彼女の家の中は異国の置物や壁紙によって、まるで別世界のような雰囲気だった。
美しい裸身像や黄金の鏡など、目を引く物がたくさん並んでいる。
「(一代で財を築いた者の金の使い方はよくわからん…)」
そんなことを思いながら待っている間、二階の部屋から慌ただしく物音が聞こえる。
「今日はその服を着たくないわ!」とか聞こえる。なにやら揉めているらしい。
ジェイスはまだ時間がかかりそうだと思い、椅子に深く寄りかかった。
そしてふと視線を天井にむける。
すると…
「…?」
天井には美しい絵が書かれていた。
シンプルな図形や文字を組み合わせた幾何学絵画…とでも言おうか。
いわゆる風景や人物絵ではない、独特の味わいのある絵だった。
しかしジェイスは、その絵に違和感を覚える。
「(アートのように見せているが…あれはシエル言語の魔法陣だ…)」
そう…
ただのアート作品にも見える天井のそれは、魔法陣だった。
本来魔法陣の中に描かれることのない動物や天瓶の図形を混ぜて複雑に細工しており、魔術の心得が無い者では魔法陣だとは気付かないだろう。
ぱっと見、どこにでもあるアート作品だ。
魔法陣の内容は、いわゆる防衛・緩和を目的にしたものだった。
悪い呪術や魔法から身を守り、もし呪術にかかった場合はその効果を和らげる意味を持つ。
「…」
ジェイスがそれを見ていると、大きい音を立ててべスティナと数人のメイドがリビングに入ってきた。
「あなたね…ティナリス伯爵の使者というのは」
「あぁ…モンスタースレイヤーのジェイス・ヘンディだ」
べスティナは、先程まで聞こえていた物音からは想像もできない高貴な身なりをしていた。
年齢はジェイスよりずいぶん上だが、整った顔立ちをしており確かに美人だ。
長い髪を衣装に合わせてロールアップしており、高級そうな髪飾りがそれを彩る。
しかし、目の下には深いクマがあった。
まるで…数日間眠っていないのではないかと思うほどの。
上手く化粧で隠そうとはしているが、隠し切れていない。
「申し訳ないんだけど、落ちついてお話できる時間はないの…夜までに全ての仕事を終えなければいけないから」
「あんたの事情は色々聞いてる…移動しながらでいい…話をさせてもらいたい」
「いいわ…それでは馬車に乗って?中でお話しましょう」
ジェイスはべスティナ邸の馬車に乗り、彼女と話す時間を得た。
その馬車はいわゆる『クーペ』と言われる馬2頭立ての気品ある箱馬車で…
執事が馬車の運転席に座り、箱型座席の中にはジェイスとべスティナだけ。
移動時間のみとは言え、誰にも会話が聞かれない貴重な時間だ。
「それで、どんなご用件でバーネジィからいらっしゃったのかしら?」
「ティナリス伯爵の父であるゼオン・ヴェル・トゥーエを知っているか?」
「もちろんよ…生前は色々とお世話になった」
「そうか…近く、そのゼオン・ヴェル・トゥーエ主催のパーティが開かれるんだ…そこでたくさんの娼婦をパーティに呼びたい」
「…?…えっと…」
「…」
「どんなご冗談かしら?…ゼオン様はだいぶ前にシエルの地に旅だたれたはずだけど?」
「いや、まだ現世に留まっている…幽霊としてな」
「…」
べスティナは奇妙なものを見る目でジェイスを見る。
そして返答をした。
「よくわからないけれど…そのパーティにはどれくらいの娼婦が必要なの?」
「ゼオンが満足するくらいだ…5~60人くらいか?」
「無理ね…」
「…」
「ブルービルドの娼館は一つの店につき8~12人の娼婦で回してる…領主のパーティだからと言って、複数の店を休館する数の娼婦は用意できないわ」
まったくもってべスティナの意見は正しかった。
ブルービルドの収益は結果としてヨルデシンド領全体の市場に回り、経済を潤す。
例え一夜であろうが、領主の願いだろうが、重要な収益を損なうことはできない。
ジェイスは「まぁそりゃそうだな」と思いつつ、仕事だと割り切って食い下がる。
「どうにかならないか?…金はヴェル・トゥーエ家が支払う」
しかしべスティナはため息をついて、ジェイスに言う。
「あなた、娼業という仕事に理解がないようね…?」
「…?」
「娼業というのは客と直接交渉することで、いくらでも価格を上げることができる商売なの…金を上乗せしてくれれば『あれをしてあげる』『これをしてあげる』『こんな恰好してあげる』『こんな恰好させてあげる』…娼婦と客と一対一で、欲望を売り買いするビジネスよ」
「…」
「最低料金しか払わず、そういった交渉の余地がない公的なパーティは我々にとっては損しかない…それとも移動費や、休館になった娼館の売り上げ分を補てんしてくれるとでも言うのかしら」
「無理…だろうな」
「そういうこと…」
ジェイスは「仕方ない…」と心の中でため息をつき…
こんな交渉をはじめた。
「アンタの家の天井に描かれている絵を見た…」
「…」
「複雑に細工してバレないようにしているが…あれは悪質な呪術から身を守る魔法陣だな?」
ここで、今まで冷静だったべスティナの顔に緊張が走った。
「魔法の心得があるようね…ホークビッツという国にいれば珍しくもないけれど…」
「…」
冷静を装ってはいるが、べスティナは明らかに動揺していた。
目はふらふらと泳ぎ、ジェイスの目を見なくなった。
「街の娼婦から話を聞いた…アンタ、1年前に魔術師からストーカー被害にあっていたらしいな?最終的に死刑になったらしいが…」
「…」
「ここからは俺の仮説だが…その魔術師が死ぬ前に、なんらかの呪術をかけられたんじゃないか?夜引きこもるようになったのも、それが原因では?…あの魔法陣はそれを緩和するために描いたものなんじゃないのか?」
「…何が…言いたいのかしら?」
この返答で、ジェイスは自分の仮説がある程度当たっているという確信を得た。
「俺は仕事がら普通の人より呪術に詳しいと自負してる…呪いを解いた経験だって何度もある…アンタの力になれるかもしれない」
「…」
「アンタほどの人が夜も仕事できるようになれば、ブルービルドにとっては1日分の補てん金以上の報酬と言えなくもないか?…まぁ、俺にはアンタがそんなに深いクマが出来るほど、夜に何をしているのか想像もできないがな」
べスティナはジェイスの目を見ないでこう言った。
「無理よ…」
「…?」
「私に掛けられた呪いはとても強い…きっと無理…申し訳ないけど、この話はなかったことにさせて」
「…」
呪いということを…
べスティナはすんなりと言った。
ジェイスは内心、意外だな…と驚いた。
ガラガラ…
馬車が止まり、運転手が扉を開いて「到着しました」とべスティナに声をかける。
べスティナはジェイスの目を見ないまま馬車から下りて、仕事にむかった。
「もうしわけないけど…では…」
「…」
残されたジェイスは…
「頑固だな…」
と呟いて馬車から下りる。
しかし、ジェイスもここで諦めるわけにはいかない。
「仕方ない…」
少々手荒だが、ジェイスは無理やりにでもべスティナの問題を『解決させる』ことにした。
そしてその後、強引に交渉してやると。
本来であれば、依頼者が納得しなければジェイスは仕事に移らないし、それこそが正しい行いなのだろう。
しかしジェイスの座右の銘には、どんなことも正当化できる都合のいい言葉があった。
「俺は英雄でも勇者でもない…」
…
夜。
べスティナ邸の前に立つジェイスは、彼女がいるであろう2階の部屋を見ていた。
邸宅の門の前には門番がおり、ジェイスのことを見ている。
「どうやって入るか…」
そう、ジェイスは強引に彼女の部屋に入り呪術の正体を確かめようとしている。
彼女がそれを望んでいないとしても、ジェイスに残された方法はなかった。
しかし、部屋に入る方法も限られていた。
…というか一つしかなかった。
ジェイスは門の前にいる番人に近づく。
「やぁ」
「どーも…またいらしたんですね?待っててください…執事を呼んできます」
「いや、どーせべスティナには会わせてもらえないんだろう?」
「えぇ…申し訳ありませ… …!!!!!」
門番が一瞬ジェイスから視線を外した瞬間…
ジェイスは門番の目を塞ぎ…
「『アクシリオス』」
と唱えた。
アクシリオスは人の心を落ち着かせる魔法であるが…
強くかければその人の気を失わせることができる。
ドサ…
ジェイスは門番を門の裏手に隠し…
壁をよじ登って窓から静かに二階へと入った。
「…」
そこは二階の廊下だった。
妙に静かだ。
二階にもたくさんの部屋があり、一階のリビング同様、異国の様々な置物で装飾されていた。
ジェイスが侵入した窓のすぐ横には、1階に繋がる階段があるのだが…
その階段の前には大きな荷物のようなものが置かれている。
おそらくべスティナが誰も二階に上ってこれないように置いているのだろう。
となると、二階に今いるのはべスティナだけ。
ジェイスにとってこれは都合がよかった。
ジェイスは姿勢を低くして二階の廊下を進む。
すると、どこからか女性がシクシクと泣くような声が聞こえた。
「…」
ジェイスはゆっくりとその声の方向に進むと、一番奥の部屋の前に辿りついた。
扉に耳をつけて中の音を聞くと、低い声で誰かが泣いている。
おそらく…べスティナだ。
廊下の天井を見ると、一階リビングに描かれていた魔法陣と似たものが描かれていた。
この先で一体何が起きているのか…ジェイスは心の準備をしてドアノブに手をかけた。
ガチャ…
「…」
ゆっくりと扉を開けると…
その部屋は暗い物置だった。
大きな部屋だが置かれているたくさんの物も大きく、天井高くまで積み上げられている。
ちょっとした迷路だ。
泣き声の方にゆっくり進んでいくと、部屋の一番隅…
物陰に、何やら巨大なものが見える。
「…ぶ…ぶひ…しくしく」
「…!」
窓から差し込む月明かりに照らされたそれは…
べスティナとは似ても似つかない…
「ぶひッ!!!!だッ!!誰!!!??ぶッ!!ぶひっ!」
「…」
巨大で醜い…
豚の怪物だった。
ジェイスは宿で一夜を過ごし、朝早くべスティナ邸に向かっていた。
「いらっしゃいませ…べスティナ様は朝の準備をしておられます…どうぞリビングでお待ちになっていてください」
昨日のうちに話をつけていたジェイスは、すんなりと彼女の邸宅に案内された。
執事によって広いリビングに通され、少しの間彼女を待つことになった。
彼女の家の中は異国の置物や壁紙によって、まるで別世界のような雰囲気だった。
美しい裸身像や黄金の鏡など、目を引く物がたくさん並んでいる。
「(一代で財を築いた者の金の使い方はよくわからん…)」
そんなことを思いながら待っている間、二階の部屋から慌ただしく物音が聞こえる。
「今日はその服を着たくないわ!」とか聞こえる。なにやら揉めているらしい。
ジェイスはまだ時間がかかりそうだと思い、椅子に深く寄りかかった。
そしてふと視線を天井にむける。
すると…
「…?」
天井には美しい絵が書かれていた。
シンプルな図形や文字を組み合わせた幾何学絵画…とでも言おうか。
いわゆる風景や人物絵ではない、独特の味わいのある絵だった。
しかしジェイスは、その絵に違和感を覚える。
「(アートのように見せているが…あれはシエル言語の魔法陣だ…)」
そう…
ただのアート作品にも見える天井のそれは、魔法陣だった。
本来魔法陣の中に描かれることのない動物や天瓶の図形を混ぜて複雑に細工しており、魔術の心得が無い者では魔法陣だとは気付かないだろう。
ぱっと見、どこにでもあるアート作品だ。
魔法陣の内容は、いわゆる防衛・緩和を目的にしたものだった。
悪い呪術や魔法から身を守り、もし呪術にかかった場合はその効果を和らげる意味を持つ。
「…」
ジェイスがそれを見ていると、大きい音を立ててべスティナと数人のメイドがリビングに入ってきた。
「あなたね…ティナリス伯爵の使者というのは」
「あぁ…モンスタースレイヤーのジェイス・ヘンディだ」
べスティナは、先程まで聞こえていた物音からは想像もできない高貴な身なりをしていた。
年齢はジェイスよりずいぶん上だが、整った顔立ちをしており確かに美人だ。
長い髪を衣装に合わせてロールアップしており、高級そうな髪飾りがそれを彩る。
しかし、目の下には深いクマがあった。
まるで…数日間眠っていないのではないかと思うほどの。
上手く化粧で隠そうとはしているが、隠し切れていない。
「申し訳ないんだけど、落ちついてお話できる時間はないの…夜までに全ての仕事を終えなければいけないから」
「あんたの事情は色々聞いてる…移動しながらでいい…話をさせてもらいたい」
「いいわ…それでは馬車に乗って?中でお話しましょう」
ジェイスはべスティナ邸の馬車に乗り、彼女と話す時間を得た。
その馬車はいわゆる『クーペ』と言われる馬2頭立ての気品ある箱馬車で…
執事が馬車の運転席に座り、箱型座席の中にはジェイスとべスティナだけ。
移動時間のみとは言え、誰にも会話が聞かれない貴重な時間だ。
「それで、どんなご用件でバーネジィからいらっしゃったのかしら?」
「ティナリス伯爵の父であるゼオン・ヴェル・トゥーエを知っているか?」
「もちろんよ…生前は色々とお世話になった」
「そうか…近く、そのゼオン・ヴェル・トゥーエ主催のパーティが開かれるんだ…そこでたくさんの娼婦をパーティに呼びたい」
「…?…えっと…」
「…」
「どんなご冗談かしら?…ゼオン様はだいぶ前にシエルの地に旅だたれたはずだけど?」
「いや、まだ現世に留まっている…幽霊としてな」
「…」
べスティナは奇妙なものを見る目でジェイスを見る。
そして返答をした。
「よくわからないけれど…そのパーティにはどれくらいの娼婦が必要なの?」
「ゼオンが満足するくらいだ…5~60人くらいか?」
「無理ね…」
「…」
「ブルービルドの娼館は一つの店につき8~12人の娼婦で回してる…領主のパーティだからと言って、複数の店を休館する数の娼婦は用意できないわ」
まったくもってべスティナの意見は正しかった。
ブルービルドの収益は結果としてヨルデシンド領全体の市場に回り、経済を潤す。
例え一夜であろうが、領主の願いだろうが、重要な収益を損なうことはできない。
ジェイスは「まぁそりゃそうだな」と思いつつ、仕事だと割り切って食い下がる。
「どうにかならないか?…金はヴェル・トゥーエ家が支払う」
しかしべスティナはため息をついて、ジェイスに言う。
「あなた、娼業という仕事に理解がないようね…?」
「…?」
「娼業というのは客と直接交渉することで、いくらでも価格を上げることができる商売なの…金を上乗せしてくれれば『あれをしてあげる』『これをしてあげる』『こんな恰好してあげる』『こんな恰好させてあげる』…娼婦と客と一対一で、欲望を売り買いするビジネスよ」
「…」
「最低料金しか払わず、そういった交渉の余地がない公的なパーティは我々にとっては損しかない…それとも移動費や、休館になった娼館の売り上げ分を補てんしてくれるとでも言うのかしら」
「無理…だろうな」
「そういうこと…」
ジェイスは「仕方ない…」と心の中でため息をつき…
こんな交渉をはじめた。
「アンタの家の天井に描かれている絵を見た…」
「…」
「複雑に細工してバレないようにしているが…あれは悪質な呪術から身を守る魔法陣だな?」
ここで、今まで冷静だったべスティナの顔に緊張が走った。
「魔法の心得があるようね…ホークビッツという国にいれば珍しくもないけれど…」
「…」
冷静を装ってはいるが、べスティナは明らかに動揺していた。
目はふらふらと泳ぎ、ジェイスの目を見なくなった。
「街の娼婦から話を聞いた…アンタ、1年前に魔術師からストーカー被害にあっていたらしいな?最終的に死刑になったらしいが…」
「…」
「ここからは俺の仮説だが…その魔術師が死ぬ前に、なんらかの呪術をかけられたんじゃないか?夜引きこもるようになったのも、それが原因では?…あの魔法陣はそれを緩和するために描いたものなんじゃないのか?」
「…何が…言いたいのかしら?」
この返答で、ジェイスは自分の仮説がある程度当たっているという確信を得た。
「俺は仕事がら普通の人より呪術に詳しいと自負してる…呪いを解いた経験だって何度もある…アンタの力になれるかもしれない」
「…」
「アンタほどの人が夜も仕事できるようになれば、ブルービルドにとっては1日分の補てん金以上の報酬と言えなくもないか?…まぁ、俺にはアンタがそんなに深いクマが出来るほど、夜に何をしているのか想像もできないがな」
べスティナはジェイスの目を見ないでこう言った。
「無理よ…」
「…?」
「私に掛けられた呪いはとても強い…きっと無理…申し訳ないけど、この話はなかったことにさせて」
「…」
呪いということを…
べスティナはすんなりと言った。
ジェイスは内心、意外だな…と驚いた。
ガラガラ…
馬車が止まり、運転手が扉を開いて「到着しました」とべスティナに声をかける。
べスティナはジェイスの目を見ないまま馬車から下りて、仕事にむかった。
「もうしわけないけど…では…」
「…」
残されたジェイスは…
「頑固だな…」
と呟いて馬車から下りる。
しかし、ジェイスもここで諦めるわけにはいかない。
「仕方ない…」
少々手荒だが、ジェイスは無理やりにでもべスティナの問題を『解決させる』ことにした。
そしてその後、強引に交渉してやると。
本来であれば、依頼者が納得しなければジェイスは仕事に移らないし、それこそが正しい行いなのだろう。
しかしジェイスの座右の銘には、どんなことも正当化できる都合のいい言葉があった。
「俺は英雄でも勇者でもない…」
…
夜。
べスティナ邸の前に立つジェイスは、彼女がいるであろう2階の部屋を見ていた。
邸宅の門の前には門番がおり、ジェイスのことを見ている。
「どうやって入るか…」
そう、ジェイスは強引に彼女の部屋に入り呪術の正体を確かめようとしている。
彼女がそれを望んでいないとしても、ジェイスに残された方法はなかった。
しかし、部屋に入る方法も限られていた。
…というか一つしかなかった。
ジェイスは門の前にいる番人に近づく。
「やぁ」
「どーも…またいらしたんですね?待っててください…執事を呼んできます」
「いや、どーせべスティナには会わせてもらえないんだろう?」
「えぇ…申し訳ありませ… …!!!!!」
門番が一瞬ジェイスから視線を外した瞬間…
ジェイスは門番の目を塞ぎ…
「『アクシリオス』」
と唱えた。
アクシリオスは人の心を落ち着かせる魔法であるが…
強くかければその人の気を失わせることができる。
ドサ…
ジェイスは門番を門の裏手に隠し…
壁をよじ登って窓から静かに二階へと入った。
「…」
そこは二階の廊下だった。
妙に静かだ。
二階にもたくさんの部屋があり、一階のリビング同様、異国の様々な置物で装飾されていた。
ジェイスが侵入した窓のすぐ横には、1階に繋がる階段があるのだが…
その階段の前には大きな荷物のようなものが置かれている。
おそらくべスティナが誰も二階に上ってこれないように置いているのだろう。
となると、二階に今いるのはべスティナだけ。
ジェイスにとってこれは都合がよかった。
ジェイスは姿勢を低くして二階の廊下を進む。
すると、どこからか女性がシクシクと泣くような声が聞こえた。
「…」
ジェイスはゆっくりとその声の方向に進むと、一番奥の部屋の前に辿りついた。
扉に耳をつけて中の音を聞くと、低い声で誰かが泣いている。
おそらく…べスティナだ。
廊下の天井を見ると、一階リビングに描かれていた魔法陣と似たものが描かれていた。
この先で一体何が起きているのか…ジェイスは心の準備をしてドアノブに手をかけた。
ガチャ…
「…」
ゆっくりと扉を開けると…
その部屋は暗い物置だった。
大きな部屋だが置かれているたくさんの物も大きく、天井高くまで積み上げられている。
ちょっとした迷路だ。
泣き声の方にゆっくり進んでいくと、部屋の一番隅…
物陰に、何やら巨大なものが見える。
「…ぶ…ぶひ…しくしく」
「…!」
窓から差し込む月明かりに照らされたそれは…
べスティナとは似ても似つかない…
「ぶひッ!!!!だッ!!誰!!!??ぶッ!!ぶひっ!」
「…」
巨大で醜い…
豚の怪物だった。
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