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たまには銃と刑務所はいかがです?
41 ショーシャンク・リデンプション、そしてブラック・ホーク・ダウン③
しおりを挟む俺は一階の校舎に入ってすぐ、身を隠せる場所をさがす。
大きなロビーを抜けて廊下に入り、クラス標識を見る。
どうやらここは1年生のクラスが集まっている廊下らしい。
さらに先に進むと、「職員室」と「職員用給湯室」の標識があった。
「職員用給湯室…ここか…」
俺は中を覗く。
なかには小さいキッチンがあり、ポットが3つほど並んでいた。
「…」
俺は中をひととおり見る。
入り口の横に大きなロッカーがある。
「…もう少しだ」
職員用給湯室を出る。
今度はすぐそこにあるトイレに入ろうとするが…
ゴッ!
「ッ!」
透明な壁に阻まれる。
走って入ろうとしたので、その反動で転びそうになった。
「…そうだった…」
『・獄内での飲食、トイレの利用、携帯電話の利用はノートン所長の許可が必要となります。』
俺はここでレオナルド・リッジオとは別のロストマン、ノートン・ハッピー・ルチアーノの能力の存在を思い出す。
『ショーシャンク・リデンプション』。
あの能力がある限り、身を隠してもノートンとかいうヤツには居場所がバレてしまう。
『・獄内での行動は常にノートン所長に監視されます。』
しかし、ノートンの場合。
ヤツを見つけることができれば形勢が逆転する可能性は大きい。
『・ノートン所長は獄内にいなければなりません。』
『・ノートン所長はこの入所申請書に、監獄ショーシャンク・リデンプションの概要・注意事項を明記し、入所者に伝える必要があります。』
『入所申請書』をみるかぎり、ノートンがこの学園内のどこかにいることは間違いない。
しかも能力名と名前を記入する必要があるようで、俺の能力がすぐに使える状況にある。
おそらくホワイト・ワーカーから俺の能力の話は聞いているだろう。
俺の能力に警戒しているからこそ、ノートンは身を隠しているんだ。
まずはノートンを見つけないといけない。
となると結局問題なのはレオナルド・リッジオの方か。
…武器が必要だ。
俺はトイレの前にあった消火器に手を伸ばす。
安全装置(セーフティ・ロック)を外して、いつでも噴出できるようにしておく。
高校の消火器ってたしか6、7キロくらいあるんだよな…重い。
その時…
プシッ!
バァッンッ!
職員室のガラスが派手に割れる。
「…ッ!」
俺はすぐにロビーの方に視線を向ける。
そこにはゆっくりとこちらに歩いてくるレオナルド・リッジオの姿があった。
服は濡れているがその姿は凛々しく。
堂々としていて何の迷いも無く。
3つの銃口がゆらゆらと俺に向いている。
「…」
俺は消火器のノズルを外してリッジオに向ける。
あんなデカい銃3つに対して、なんてか弱い武器だ。
リッジオは俺の姿を視界にとらえている。
消火器を持っているのにも気づいているだろう。
しかしその足はとまらない。
それはリッジオにとってこの消火器がなんの脅威でもないという事を示していた。
「!」
リッジオが俺に向かって走り出す。
…来るッ!
プシップシッ!
バァンッ!パリンッ!
2発の銃弾が放たれる。
一発は俺の足元。
もう一発は俺の頭の上の蛍光灯を派手に破壊する。
蛍光灯の破片が宙に舞う。
しかし、今度は目を伏せるわけにはいかない。
俺は消火器をリッジオの方へ向けて噴射する。
バシュ―――――――――ッ!
目の前に白い粉塵が広がる…
「…!?」
しかし、リッジオはお構いなしにその粉塵の中へ突っ込む。
ヤツは粉じんのその先の、俺しか見ていない。
やばい…
白い粉塵によってヤツの姿が見えない。
「悪手だったな。イノ・シツイ。」
粉塵の中から3つの銃口とリッジオが姿を現す。
早いッ!
「クソッ!」
俺は消火器をヤツに投げつける…
プシッ!
バァンッ!
「あぁッ!」
…痛いッ!
撃たれた…熱い…
肩に銃弾が当たった…あまりの反動で腕全部が無くなったかと思ったが…
どうやらかすっただけみたいだ。
しかし肩の肉が少し持って行かれた…めちゃくちゃいてぇ…血も出てる。
「…ッ!」
リッジオの足元をみると、例のデカい銃が2丁落ちている。
顔をあげてみると、さっき投げつけた消火器が宙に浮いていた…
能力で浮かして俺の消火器投げを防いだんだ。
こいつの能力…銃じゃなくても、いいのか。
「くっ!」
俺は激痛に顔をゆがめながら、職員用給湯室に逃げ込む。
リッジオは消火器を床に落として、また銃を宙へ浮かせた。
プシッ!
バァン!
職員用給湯室のドアが派手な音を立てて崩れる。
その反動で俺は部屋の中に倒れ込んだ。
すぐに立ち上がろうとするが…
ゴッ!
「うッ!」
勢いよく頭を押さえつけられる。
「たいしたやつだ」
リッジオの声に感情は無い。
視界に銃は入らなかったが、3つの銃口が俺に向けられているのはわかった。
「はぁッ!はぁッ!」
「最後に言い残したことがあれば言え。イノ・シツイ…」
「…はぁッ…レオナルド・リッジオ…」
「…なんだ?」
「あんたの…能力…その、銃を浮かせている能力…」
「…?」
「重量制限があるんだろ?」
「…」
リッジオは、黙って俺の言葉を聞く。
「さっき俺が消火器を投げつけたとき…あんたは、2丁の銃を床へ落として、消火器を浮かせた。」
「…」
「つまり、操作出来るものに個数は関係ない…浮かせるものの総重量が関係しているということだ。」
「…ほぅ」
「そのデカい銃の重さはしらねぇが…消火器は6、7キロくらいだ。
それを浮かせるために2丁の拳銃を床へ落としたってことは、重量は最高でも6キロ。
つまり、あんたが操作できるモノの総重量は18キロから20キロくらいが限界ってことだ。」
「…」
「しかも…操作出来る距離にも限りがある…あんたの周囲2m前後ってところか…それ以上の範囲が操作可能なら、銃ごと俺に向けて飛ばした方が効率がいい。」
「…素晴らしい洞察力だな。イノ・シツイ。それだけに惜しい。」
「…」
「しかし…それがわかったところで、この状況をどうにかできるわけではない…」
「…たしかにな」
「…言いたいことはそれだけか…?」
「…少ねぇなぁ。」
「…なに?」
「いや…18キロから20キロって…少ないって思ってさ。」
「…少ない…?…何を言っている?イノ・シツイ…気でも触れたか?」
「いや…」
「…?」
「うちのお姫様のお仕置きは…20キロなんて甘っちょろい重さじゃないぜ?」
その時…
「…!」
音がしたわけでもない。
部屋が暗くて、影もない。
レオナルド・リッジオは百戦錬磨のその感で、後ろを振り向いた。
そこには…ここにいるはずのない人が立っていた。
ショートカットで、少しはかなげな美少女。
ダストの光を身にまとい、俺には女神にすら見える。
「…な…」
リッジオの驚愕した表情が、俺にもわかった。
驚いている。混乱している。
彼女はそんなリッジオを安心させてあげるかのように…
まるで恋人に語りかけるように…
優しい声でこう言った。
「『ここにいて』」
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