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たまには海でもいかがです?
36 グランブルー②
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次の日。
俺は龍二さんのフリーダイビングを見せてもらうことになった。
近々大会があって、その練習を行うらしい。
場所はホテルから車で40分ほどで着く真栄田岬。
どうやら有名なダイビングスポットらしい。
岬に到着すると、すでに数人の人がいた。
小ぶりの船に荷物を積んでいる。
「おはよう、イノくん。沖田さんはこなかったんだね。」
「えぇ、かなちゃんは朱里さんのお店に行っています。」
龍二さんは相変わらずとても穏やかな話口調だ。
「船に乗って少しダイビングスポットまで移動するんだ。イノくんもやってみるかい?」
「いや、俺スポーツ全般だめで…」
「はは、残念だ。」
数人いるダイバーさん達に挨拶をして、俺も船へ乗り込む。
10分ほどでダイビングスポットに到着し、ダイバーさん達が準備をはじめる。
ウェットスーツに着替えて、時計のようなものを首や両腕につけている。
ベルトに透明なロープをカチャカチャと装着し、どうやら準備を終えたようだ。
たくさん物が付いている割には、酸素ボンベが無い分、やけに軽装に見える。
「たくさん付けるんですね。」
「うん。深度計と…アラームと時計とかね…」
なにからなにまで知らないことだらけでちょっとワクワクする。
龍二さんは最後に革手袋を外す。
例の半透明の手の平が、太陽の光を反射してキラキラと光る。
ダストの光と混じって、妙に幻想的だ。
すると同乗していたダイバーのおじさんが、龍二さんに声をかける。
「龍二…お前、本当に大丈夫なのか?その手で潜って…」
「…平気ですよ。今日は専門家の人も来てくれてますから…」
「…あんまり無理はするなよ?」
「…はい。」
やはり周りのダイバーたちも…
龍二さんの手の平のことが心配なようだ。
パシャン…
パシャン…
静かな水音をたてて、ダイバーたちが海に入る。
透明な手の平は、海に入ると水に溶けるように輪郭を無くした。
骨と血管だけがハッキリ見える…奇妙な手。
ゴーグルと…鼻をつまむ器具のようなモノを取りつけて、龍二さんは周りのダイバーさんと最終チェックをする。
「機器はオーケーだ。龍二いけるか?」
龍二さんは指でオーケーサインを出す。
するとダイバーさんの一人がタイムでも計るのか、カウントダウンを始めた。
「…5、4、3、2…1…オフィシャル・トップ」
龍二さんは「はー」という音がするほど大きく…そして深く息を吸い込む。
その後スッスッスッと細かく空気を含む。
さっき聞いたんだけど、パッキング呼吸というものらしい。
そうやって肺の中に詰め込めるだけ空気を詰め込んで海に潜るんだそうだ。
その時…
「…!」
龍二さんの身体が光った。
ダストの…能力発動光…
龍二さんの能力が発動した。
ちゃぽん…と音を立てて、龍二さんは穏やかに海に潜る。
やはり、あの手の平にダイビングが関係しているのは間違いないようだ。
「…」
龍二さんが海に潜ると、他のダイバーたちは時計のようなもので何かを計り始める。
他のダイバーさんは潜らないらしい。
…
「ぷァッ!」
だいたい3分くらいだろうか。
龍二さんは深海の旅を終えて戻ってくる。
思い切り酸素を吸い込む。
龍二さんは他のダイバーたちにオーケーサインを出すと
すぐに船に上がり、機器を外しはじめた。
「あれ?…もう、終わりですか?」
「うん。身体への負荷が大きいからね。50m以上深く潜る時は、一日一回が限度なんだよ。」
一日一回だけしか練習できないのか…
すごい競技だな。
「海の中、綺麗でした?」
「あぁ。もう…最高だったよ。」
結局他のダイバーさんは誰も潜らず、龍二さんの機器のチェックを始めた。
一日一回しか見れない海の世界。
どれほど美しいのか…少し興味がわく…
その後、船は沖に戻る。
他のダイバーさんが片づけをしている間、海岸で龍二さんと2人だけで話す事になった。
「ごめんね…見てるだけだと…あまり面白い競技じゃないだろ?」
「いえ…知らないことだらけでワクワクしました」
「はは。嬉しいな。興味があったらぜひオススメだよ。」
龍二さんは海から上がってからずっと嬉しそうだ…
この人は本当に海が好きなんだな。
「100mを超えた海の中は…ものすごく深い青色をしてるんだ。
ダイバーたちはそれをグランブルーって呼んでる。
全てが青より青く染まる紺碧(こんてき)の世界さ。」
「綺麗なんでしょうね。」
「絶景だよ。美しすぎるほどさ。けど…それを見るのはとても難しいことでもある。そして…僕の夢はその先の…水深120mを超えることなんだ。」
120mって…
どんな深度なんだろう。
俺には想像もつかない。
「世界一の山、エベレストに登った人間は世界に4000人以上もいるんだ。月に行った人間だって…世界に12人。
だけど素潜りで水深120mに辿りついた人間は世界にわずか6人しかいない。僕は必ず…辿りついてみせるよ。」
龍二さんは輝いて見える…羨ましいな。
人生において、こんなに一生懸命になれることに出会える人は何人いるんだろう。
「龍二さんはダイバーになってから長いんですか?」
「大学の頃だから…もう8年前くらいからかな。旅行で来た沖縄ですっかりハマっちゃってね。引っ越してくる前から毎年来ていたんだ。」
やはり…龍二さんはもともと沖縄の人じゃないのか。
朱里さんのようになまりも無いし…そうだとは思ってた。
「…一度、東京で就職して、結婚もしていたんだけど…奥さんが死んじゃってね。それから仕事が手につかなくなって…会社もクビになった。」
「そうだったんですね…」
「会社を首になったとき…気づいたんだ。奥さんもいなくなって、俺を必要としてくれる人間が、この世に一人もいなくなってしまったことに。」
「…」
「頭がおかしくなりそうだった…逃げるように沖縄にきて…朱里と知り合って…しばらくは好きな事だけをやろうと決めたんだ。」
「…」
奥さんの死。
失ったモノはそれか…?
こんな穏やかそうな人がでもいろんな事があるんだな。
そんなことを考えていると、片づけをしていたダイバーさんの一人がこっちへやってきた。
「龍二…ちょっといいか?」
「はい。どうしたんですか?」
「すまないが明日急きょ予定が入っちまってな…明日は一緒に潜ってやれない…」
「…そんな。他のみんなは?」
「他のみんなは、もともと予定があって参加できないんだ。ごめんな…」
「…」
龍二さんの顔が曇る。
他の人がいないってことは…
船を出す人がいないとか…タイムを計る人がいないとか…そういう話かな?
タイムくらいだったら俺が手伝ったりできないのかな…
そう言おうをしたが、妙に暗い雰囲気だったため言い出せなかった。
「…わかりました。」
「…ごめんな。」
そういってダイバーさんは片づけに戻る。
なんだろう…龍二さんの顔つきは、さっきと明らかに違う。
「…龍二さん…?平気ですか?」
「…あぁ。」
「そう…ですか…」
「明日は…一人で潜るさ。」
一人でも潜るのか…
本当に海が好きなんだな。
そうえば、かなちゃんの方はどうなっただろう。
…
「ごめんね!手伝ってもらって!」
「いえ…私が接客できずごめんなさい。」
イノさんが龍二さんのダイビングに付き合っている間。
私は朱里さんのお店の手伝いをすることになりました。
最初は接客をしようと店先に出ていたんですが…
「うりてぃーちさーに、うぬ値段、でぃちあびとぉるば?」
「…!。…??????」
地元の人の方言がまるで理解できず…
接客を諦め、品だしをすることに。
朱里さん…ごめんなさい。
「いや、じいちゃんばあちゃんとかの方言だと、私でもわからないこと多いもん。」
「そうなんですね。でも朱里さんのは聞きやすいです。なまりはありますけど…かわいい感じだし。」
「旅行者も相手にする仕事だしね…本気出したら私もすごいよ」
朱里さんは明るい方です。
根が暗い私でも、気軽に話す事ができます。
魅力的な女性ですね。
「龍二さんとは、どこで出会ったんですか?」
「もともとお店のお客さんだったの。…龍二が沖縄に越してきたばかりのころ…引っ越しを手伝ったりしてあげたんだ。」
「そうえば龍二さんは東京の人だって言ってましたね。もともとフリーダイビングをやってたって…」
「うん。大学時代からだから結構長いみたいよ。前の奥さんもダイバーで、ちょくちょくこっちに来ていたみたい。」
死んじゃったって言う…前の奥さんか…
何か事情があるんでしょうけど、私は何も聞けません。
「明日はちょうど…龍二の前の奥さんの3回忌なんだ。」
「そうだったんですね…何かするんですか?」
「ううん。龍二は毎年、海に潜ってるけど…それは日課みたいなものだし。特別なことは何もしないよ。」
奥さんが亡くなった日にも潜ってるんですね。
奥さんもダイバーだったみたいですし…特別な思いがあるんでしょう。
「龍二さん、本当にダイビングが好きなんですね。」
「うん。とっても上手なの!本人は満足いっていないみたいだけど…水深100m以上潜れる人って、日本にはほとんどいないんだよ?」
「すごい方なんですね。」
「うん!」
朱里さんは、龍二さんのことを話すとき。
本当に嬉しそうです。
付き合ってないって言っていたけど…
すきなんだろうなぁ…龍二さんのこと。
だからこそ前の奥さんのこととか考えると…
少し切ない気持ちになります。
「でも…龍二って少し無理するところがあってね…私には何も相談してくれないし…色々心配でさ。」
「…」
そこは…
なんかイノさんに似てる。
「龍二が目標にしてる水深120mってね…地上の13倍の気圧が身体にかかるの…」
「13倍…」
「水深20mで…サッカーボールだってぺちゃんこになっちゃうんだ。…深く潜れば減圧症になる危険もある…最近潜る回数が増えてるのも心配で…」
「朱里さん…」
「でもね…」
「…?」
「どんなに悩んでいても…どんなにかなしいことがあっても…海から帰ってきたあとの龍二は、本当に嬉しそうな顔をしてるんだ。」
「…」
「今日は記録が伸びた…とか。今日の海は特別綺麗だったとか…。まるで冒険から帰ってきた子供みたいにはしゃいでて…。あの顔を見ちゃうと…私…なにも言えなくて…」
なんだろう…
変に共感しちゃう。
朱里さんの気持ち。
いつも…漠然と私を襲う不安がある。
イノさんが…どこかに行ってしまうような…そんな不安。
私は、自分に言い聞かせるように…朱里さんにいった。
「私達は…きっと待ってることしかできないんだと思います。」
「…かなちゃん」
「けど…帰ってきたときに、笑顔で『お帰り』って言ってあげることが、きっと大切なんだと思うんです。」
「…そうかもね」
イノさんが私に話してくれない過去の話。
私からは聞けない。
待つしかないんだ。
あの人にとって大切なことを…
あの人を形成した物語を…
「かなちゃん…それって…イノさんのこと?…やっぱり好きなんだ?」
「ち、ちがいますよ!!!朱里さんだって龍二さんのこと大好きなくせに!」
あの人から、話してくれるまで。
俺は龍二さんのフリーダイビングを見せてもらうことになった。
近々大会があって、その練習を行うらしい。
場所はホテルから車で40分ほどで着く真栄田岬。
どうやら有名なダイビングスポットらしい。
岬に到着すると、すでに数人の人がいた。
小ぶりの船に荷物を積んでいる。
「おはよう、イノくん。沖田さんはこなかったんだね。」
「えぇ、かなちゃんは朱里さんのお店に行っています。」
龍二さんは相変わらずとても穏やかな話口調だ。
「船に乗って少しダイビングスポットまで移動するんだ。イノくんもやってみるかい?」
「いや、俺スポーツ全般だめで…」
「はは、残念だ。」
数人いるダイバーさん達に挨拶をして、俺も船へ乗り込む。
10分ほどでダイビングスポットに到着し、ダイバーさん達が準備をはじめる。
ウェットスーツに着替えて、時計のようなものを首や両腕につけている。
ベルトに透明なロープをカチャカチャと装着し、どうやら準備を終えたようだ。
たくさん物が付いている割には、酸素ボンベが無い分、やけに軽装に見える。
「たくさん付けるんですね。」
「うん。深度計と…アラームと時計とかね…」
なにからなにまで知らないことだらけでちょっとワクワクする。
龍二さんは最後に革手袋を外す。
例の半透明の手の平が、太陽の光を反射してキラキラと光る。
ダストの光と混じって、妙に幻想的だ。
すると同乗していたダイバーのおじさんが、龍二さんに声をかける。
「龍二…お前、本当に大丈夫なのか?その手で潜って…」
「…平気ですよ。今日は専門家の人も来てくれてますから…」
「…あんまり無理はするなよ?」
「…はい。」
やはり周りのダイバーたちも…
龍二さんの手の平のことが心配なようだ。
パシャン…
パシャン…
静かな水音をたてて、ダイバーたちが海に入る。
透明な手の平は、海に入ると水に溶けるように輪郭を無くした。
骨と血管だけがハッキリ見える…奇妙な手。
ゴーグルと…鼻をつまむ器具のようなモノを取りつけて、龍二さんは周りのダイバーさんと最終チェックをする。
「機器はオーケーだ。龍二いけるか?」
龍二さんは指でオーケーサインを出す。
するとダイバーさんの一人がタイムでも計るのか、カウントダウンを始めた。
「…5、4、3、2…1…オフィシャル・トップ」
龍二さんは「はー」という音がするほど大きく…そして深く息を吸い込む。
その後スッスッスッと細かく空気を含む。
さっき聞いたんだけど、パッキング呼吸というものらしい。
そうやって肺の中に詰め込めるだけ空気を詰め込んで海に潜るんだそうだ。
その時…
「…!」
龍二さんの身体が光った。
ダストの…能力発動光…
龍二さんの能力が発動した。
ちゃぽん…と音を立てて、龍二さんは穏やかに海に潜る。
やはり、あの手の平にダイビングが関係しているのは間違いないようだ。
「…」
龍二さんが海に潜ると、他のダイバーたちは時計のようなもので何かを計り始める。
他のダイバーさんは潜らないらしい。
…
「ぷァッ!」
だいたい3分くらいだろうか。
龍二さんは深海の旅を終えて戻ってくる。
思い切り酸素を吸い込む。
龍二さんは他のダイバーたちにオーケーサインを出すと
すぐに船に上がり、機器を外しはじめた。
「あれ?…もう、終わりですか?」
「うん。身体への負荷が大きいからね。50m以上深く潜る時は、一日一回が限度なんだよ。」
一日一回だけしか練習できないのか…
すごい競技だな。
「海の中、綺麗でした?」
「あぁ。もう…最高だったよ。」
結局他のダイバーさんは誰も潜らず、龍二さんの機器のチェックを始めた。
一日一回しか見れない海の世界。
どれほど美しいのか…少し興味がわく…
その後、船は沖に戻る。
他のダイバーさんが片づけをしている間、海岸で龍二さんと2人だけで話す事になった。
「ごめんね…見てるだけだと…あまり面白い競技じゃないだろ?」
「いえ…知らないことだらけでワクワクしました」
「はは。嬉しいな。興味があったらぜひオススメだよ。」
龍二さんは海から上がってからずっと嬉しそうだ…
この人は本当に海が好きなんだな。
「100mを超えた海の中は…ものすごく深い青色をしてるんだ。
ダイバーたちはそれをグランブルーって呼んでる。
全てが青より青く染まる紺碧(こんてき)の世界さ。」
「綺麗なんでしょうね。」
「絶景だよ。美しすぎるほどさ。けど…それを見るのはとても難しいことでもある。そして…僕の夢はその先の…水深120mを超えることなんだ。」
120mって…
どんな深度なんだろう。
俺には想像もつかない。
「世界一の山、エベレストに登った人間は世界に4000人以上もいるんだ。月に行った人間だって…世界に12人。
だけど素潜りで水深120mに辿りついた人間は世界にわずか6人しかいない。僕は必ず…辿りついてみせるよ。」
龍二さんは輝いて見える…羨ましいな。
人生において、こんなに一生懸命になれることに出会える人は何人いるんだろう。
「龍二さんはダイバーになってから長いんですか?」
「大学の頃だから…もう8年前くらいからかな。旅行で来た沖縄ですっかりハマっちゃってね。引っ越してくる前から毎年来ていたんだ。」
やはり…龍二さんはもともと沖縄の人じゃないのか。
朱里さんのようになまりも無いし…そうだとは思ってた。
「…一度、東京で就職して、結婚もしていたんだけど…奥さんが死んじゃってね。それから仕事が手につかなくなって…会社もクビになった。」
「そうだったんですね…」
「会社を首になったとき…気づいたんだ。奥さんもいなくなって、俺を必要としてくれる人間が、この世に一人もいなくなってしまったことに。」
「…」
「頭がおかしくなりそうだった…逃げるように沖縄にきて…朱里と知り合って…しばらくは好きな事だけをやろうと決めたんだ。」
「…」
奥さんの死。
失ったモノはそれか…?
こんな穏やかそうな人がでもいろんな事があるんだな。
そんなことを考えていると、片づけをしていたダイバーさんの一人がこっちへやってきた。
「龍二…ちょっといいか?」
「はい。どうしたんですか?」
「すまないが明日急きょ予定が入っちまってな…明日は一緒に潜ってやれない…」
「…そんな。他のみんなは?」
「他のみんなは、もともと予定があって参加できないんだ。ごめんな…」
「…」
龍二さんの顔が曇る。
他の人がいないってことは…
船を出す人がいないとか…タイムを計る人がいないとか…そういう話かな?
タイムくらいだったら俺が手伝ったりできないのかな…
そう言おうをしたが、妙に暗い雰囲気だったため言い出せなかった。
「…わかりました。」
「…ごめんな。」
そういってダイバーさんは片づけに戻る。
なんだろう…龍二さんの顔つきは、さっきと明らかに違う。
「…龍二さん…?平気ですか?」
「…あぁ。」
「そう…ですか…」
「明日は…一人で潜るさ。」
一人でも潜るのか…
本当に海が好きなんだな。
そうえば、かなちゃんの方はどうなっただろう。
…
「ごめんね!手伝ってもらって!」
「いえ…私が接客できずごめんなさい。」
イノさんが龍二さんのダイビングに付き合っている間。
私は朱里さんのお店の手伝いをすることになりました。
最初は接客をしようと店先に出ていたんですが…
「うりてぃーちさーに、うぬ値段、でぃちあびとぉるば?」
「…!。…??????」
地元の人の方言がまるで理解できず…
接客を諦め、品だしをすることに。
朱里さん…ごめんなさい。
「いや、じいちゃんばあちゃんとかの方言だと、私でもわからないこと多いもん。」
「そうなんですね。でも朱里さんのは聞きやすいです。なまりはありますけど…かわいい感じだし。」
「旅行者も相手にする仕事だしね…本気出したら私もすごいよ」
朱里さんは明るい方です。
根が暗い私でも、気軽に話す事ができます。
魅力的な女性ですね。
「龍二さんとは、どこで出会ったんですか?」
「もともとお店のお客さんだったの。…龍二が沖縄に越してきたばかりのころ…引っ越しを手伝ったりしてあげたんだ。」
「そうえば龍二さんは東京の人だって言ってましたね。もともとフリーダイビングをやってたって…」
「うん。大学時代からだから結構長いみたいよ。前の奥さんもダイバーで、ちょくちょくこっちに来ていたみたい。」
死んじゃったって言う…前の奥さんか…
何か事情があるんでしょうけど、私は何も聞けません。
「明日はちょうど…龍二の前の奥さんの3回忌なんだ。」
「そうだったんですね…何かするんですか?」
「ううん。龍二は毎年、海に潜ってるけど…それは日課みたいなものだし。特別なことは何もしないよ。」
奥さんが亡くなった日にも潜ってるんですね。
奥さんもダイバーだったみたいですし…特別な思いがあるんでしょう。
「龍二さん、本当にダイビングが好きなんですね。」
「うん。とっても上手なの!本人は満足いっていないみたいだけど…水深100m以上潜れる人って、日本にはほとんどいないんだよ?」
「すごい方なんですね。」
「うん!」
朱里さんは、龍二さんのことを話すとき。
本当に嬉しそうです。
付き合ってないって言っていたけど…
すきなんだろうなぁ…龍二さんのこと。
だからこそ前の奥さんのこととか考えると…
少し切ない気持ちになります。
「でも…龍二って少し無理するところがあってね…私には何も相談してくれないし…色々心配でさ。」
「…」
そこは…
なんかイノさんに似てる。
「龍二が目標にしてる水深120mってね…地上の13倍の気圧が身体にかかるの…」
「13倍…」
「水深20mで…サッカーボールだってぺちゃんこになっちゃうんだ。…深く潜れば減圧症になる危険もある…最近潜る回数が増えてるのも心配で…」
「朱里さん…」
「でもね…」
「…?」
「どんなに悩んでいても…どんなにかなしいことがあっても…海から帰ってきたあとの龍二は、本当に嬉しそうな顔をしてるんだ。」
「…」
「今日は記録が伸びた…とか。今日の海は特別綺麗だったとか…。まるで冒険から帰ってきた子供みたいにはしゃいでて…。あの顔を見ちゃうと…私…なにも言えなくて…」
なんだろう…
変に共感しちゃう。
朱里さんの気持ち。
いつも…漠然と私を襲う不安がある。
イノさんが…どこかに行ってしまうような…そんな不安。
私は、自分に言い聞かせるように…朱里さんにいった。
「私達は…きっと待ってることしかできないんだと思います。」
「…かなちゃん」
「けど…帰ってきたときに、笑顔で『お帰り』って言ってあげることが、きっと大切なんだと思うんです。」
「…そうかもね」
イノさんが私に話してくれない過去の話。
私からは聞けない。
待つしかないんだ。
あの人にとって大切なことを…
あの人を形成した物語を…
「かなちゃん…それって…イノさんのこと?…やっぱり好きなんだ?」
「ち、ちがいますよ!!!朱里さんだって龍二さんのこと大好きなくせに!」
あの人から、話してくれるまで。
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