31 / 69
たまにはチャラ男とネクラはいかがです?
31 ミッドナイト・クラクション・ベイビー、そしてキューブ
しおりを挟む
「イノさん。おはようございます。」
「おはよう。かなちゃん。」
3月。
桜乃森大学には学生服をきた高校生がたくさんいた。
かなちゃんの高校と同じ制服を着た子もいる。
彼らの期待と不安の入り混じった表情を見てると、俺は少し羨ましい。
今日は、桜乃森大学の合格発表の日だ。
「なんかいつもと変わらないね。かなちゃん…まさか落ち…」
「受かりましたよ!バッチリ合格です。これで来月から桜乃森大学の生徒です。」
かなちゃんはあんまり表情を変えない。
けど俺にはなんとなくわかった。
かなちゃん、凄く喜んでる。
「おめでとう。」
「…ありがとうございます。」
本当におめでとう。
かなちゃん。
「これでかなちゃんも桜乃森大学の生徒か…本格的に俺だけが部外者だな。」
「そうですよ。これから私は麻衣さんの研究室の助手。イノさんは立場上ただのお手伝いですから、私の方が権力は上です。」
「権力って…何かさせる気なの?」
「私のためにパンや飲み物を買ったり…肩もみとか…」
「…いままでと大して変わらないから安心したよ」
かなちゃんと他愛も無い会話をしながら研究室に向かう。
もうかなちゃんと出会ってから半年が過ぎた…
…
研究室で麻衣さんとかなちゃんの合格祝いをする。
合格祝いと言っても簡単なパーティで、麻衣さんが張り切って料理を色々作ってた。
カボチャパイ、チャーハン、カプレーゼ、そば…
ひとつひとつはとても美味しそうだ。
しかし組みわせがひどい。
「おめでとうかなちゃん!たくさん食べてね!」
「ありがとうございます麻衣さん。…どれから手をつけよう…」
「頂きます」
「イノ!あんたはかなちゃんが食べてからにしなさい!かなちゃんのお祝いなんだから!」
「…へーい」
いつもと変わらない日常。
ラブとピースから黒の使途の話を聞いてから…もうすぐ1カ月が経つ。
このまま何も起こらなければいい…
「麻衣さん、そうえばえっと…ラブさんとピースさんでしたっけ?もう帰っちゃったんですか?」
「どうなのかしらね。イノは何か聞いてる?」
「帰るっていっても…あの2人は帰る場所がないですからね。島崎さんのところに行ったのなら、数か月間は日本に滞在すると思いますよ。」
昔からあの二人はどの国にも根を張らない連中だった。
けど島崎のところに行くってことは、休暇中ってことでもある。
次の仕事の依頼がくるまでは日本にいるだろう…
「麻衣さんあの…聞きたかったんですけど、島崎さんって誰なんですか?」
「そっか。かなちゃんはまだ会ってないんだもんね。」
「はい…」
「日本で唯一の、ロストマン専門の孤児院を経営している方よ。もう70過ぎのお婆ちゃん。」
「ロストマン専門の孤児院…?」
「そう。異能力を持ってしまったことで普通の生活が送れなくなってしまったり…親と離れ離れになっちゃった幼いロストマンを預かっているの。」
「へぇ…」
「ロストマン研究にも積極的で、私たちの支援もしてくれてるのよ。」
もともと日本はロストマンがとても少ない国だ。
そのためロストマンの保育施設や、ウチみたいな研究施設も非常に少ない。
だからこそお互い助け合っている…というわけだ。
島崎さんの経営する孤児院は、ロストマンの情報交換の場所としても使われている。
中には他では入手できない貴重な情報も多く、ラブとピースが休暇中に島崎さんのところへ定期的に訪れる理由はそれだ。
俺と旅している時も何回かお世話になった…恩人の一人だ。
麻衣さんが用意した料理をあらかた食べ終えて一息つくと
麻衣さんが立ちあがって俺らに渇をいれる。
「…さて、そろそろお祝いパーティは終わりっ!2人とも仕事してもらうわよ!」
「…仕事って…依頼も来てないし、書類整理もないでしょ?」
「色々あるのよ!かなちゃんは遠藤さんのところで、記憶を保管してきてね。」
「わかりました。…そうか、もうそんな時期なんですね。」
ロストマン、遠藤さん。
彼の持つ能力『ブラウニー・ビー』は記憶を本に記録する事ができる。
俺たちは研究成果を3カ月おきに遠藤さんのところに保管しておくことにしている
かなちゃんが来てからは、かなちゃんの大切な仕事のひとつだ。
「イノ。あんたは買い出し。研究室の備品がもう無くなるわ。」
「こまめに買っといてくださいよ…」
「一気に買った方が楽じゃない!」
「…買いに行くの俺なんですけど?」
「文句があるの?」
「……いえ。」
楽しいお祝いはおわり。
俺は最後のカボチャパイを口に放りこんで、研究室を後にした。
…
そんなわけで、俺は駅前に買い物にやってきた。
ペンとかノートとかの雑貨、トイレットペーパーとか…日用品だ。
チビ太の餌も必要だな。
それにしても今年に入ってから雑用ばっかりしてる気がする…。
かなちゃんに仕事とられるし…本格的に立場が逆転するかもしれない…。
買い物を済ませて、休憩をしようと駅前にある公園に向かう。
公園には三輪車で遊んでいる親子や、サッカーをしている学生、サラリーマン数人がタバコを吸って一服していたり…結構にぎやかだ。
俺はベンチに腰掛けて一息つく。
「…ふう」
向かいには、ケーキ屋『ヴェール』が見える。
先月ホワイト・ワーカーと話をした店だ。
あの日から、俺は今後どうすればいいのか…
考えがまとまらないでいた。
麻衣さんやかなちゃんを危険な目にあわせることには絶対にしたくない。
かといって革新的な解決方法なんて見つからない…
「どうすりゃいいんだろ…」
三輪車で遊ぶ親子をぼーっと見ていると…
「どーもっ」
という少し高い男の声が聞こえた。
三輪車の親子から目をそらし、その声の方を向くと…
知らないうちにベンチの隣に若い男が立っている。
大学生くらいの年齢で、茶髪。
すこしちゃらちゃらした感じの男だ。
…誰だ?
「シツイイノさんっスよね?」
「…そうですけど」
「あぁ、よかった。間違えてたらどうしようかと…」
「すいません…どなたですか?桜乃森大学の学生さん?」
このあたりには、桜乃森大学しか学校はない。
こんな若い男性に声をかけられる心当たりは、それくらいしかなかった。
「いえいえ、違うんスよ。」
「…?」
「ホワイト・ワーカーさんの代理のもんでス…」
…ホワイト・ワーカーの代理?
…黒の使途か。
ついに来た。
しかし意外だった…
日本人で…しかもこんなに若い男が…?
「…」
「あらら、そんな怖い顔しないで欲しいっス」
「勧誘ならお断りしたはずです」
「あちゃー、やっぱり考えは変わらないっスか?」
「…変わりません」
「…そこをなんとかならないっスかねぇ…」
説得するつもりできたのか?
そんな風には見えない。
「説得には応じませんよ」
「…どうしても?」
「はい。」
「…まいったなぁ。…わかりました。じゃあ俺はこれで…。」
「…?」
そういって男は振りかえって歩き出そうとした。
もう帰るつもりか?
ホワイト・ワ―カ―の時のようにあっさりしすぎている。
それを不気味に思った俺は、今度はこっちから声をかけてみることにした。
「…説得するつもりはないんですか?」
「…え?」
「黒の使途…なんですよね?あなたも…」
「まぁそうっスけど…俺の風貌みてわかりません?言葉で説得できるようなタイプじゃないんスよ。…イノさんの意思を確認をしにきただけっス」
「…」
「まぁ、気が変わったら教えてくださいっス。…気が変わったら」
「…変わらないですよ。」
「そうっスか…」
そのとき、男が俺の肩にポンっと手を置いて…
耳元でこうつぶやいた。
「『ミッドナイト・クラクション・ベイビー、素敵な一日を。』」
「…は?」
「いえいえ、また会いましょう。イノさん。」
男はニコッと笑って、その場を去って行った。
一体なんだったんだ?
「…」
念のため、その男が公園から出ていくのを見る。
なんの警戒心もなく…どこにでもいる大学生と言った感じの男だ…
俺は男が見えなくなったのを確認して、荷物を持って立ちあがった。
とりあえず帰ろう…
コツン…
キコキコキコ…
その時、足元に何かぶつかった。
「…?」
足元を見ると、さっきまで遠くで遊んでいた三輪車の男の子が俺の足元にいた。
俺にぶつかってもなお、前に進もうと一生懸命三輪車を漕いでる。
…かわいい。
「すいません!」
すぐに親が走ってきて、その男の子を三輪車ごと持ち上げた。
「ごめんなさい…もう、この子ったら、遊んでると周りが見えなくって…。怪我とかはしてないですか?」
「いえいえ、気にしないでください。」
「本当にごめんなさい。」
「平気です…それじゃ」
バァンッ!!!!!
「いてッ!」
ドサッ!
親子に挨拶をしてその場を去ろうとしたとき。
後ろからまた何かに衝突されて、俺は倒れてしまった。
カラカラカラ…
倒れたまま後ろを振り向くと、お婆さんと自転車が横になっていた。
自転車の車輪が回ってる…
俺とぶつかって倒れてしまったのか…
俺はお婆さんが心配になって声をかける。
「お婆さん!大丈夫ですか?」
「…はい…こちらこそ…ぶつかってしまって、ごめんなさい…」
コツン…
キコキコキコ…
その時…背中にまた何かぶつかった。
振りかえると、倒れている俺に向かって、
さっきの男の子がまた一生懸命に三輪車を漕ぎはじめていた。
「…?ごめんね僕、ちょっとどいててもらえ…」
ここで俺は…
異常な事態に立たされていることに気づく。
男の子の顔を見ると…
顔にはあぶら汗がにじみでていて、目の瞳孔が開き、視点が定まっていなかったのだ。
なんだ…?
この顔…ただごとじゃ…
「僕…?大丈夫!?」
男の子をどかして、お婆さんが立ちあがるのを手伝おうをすると…
俺の視界に、さらにとんでもない光景が映る…
バキバキバキバキ…ッ!!!!!!!!!!
ガリガリ…ッ!!!
バァンッ!!!
2本の苗木と生垣を…大きな音を立てて破壊し…
大型の貨物トラックが、急アクセルで強引に公園の中に入ってきたのだ。
そしてそのトラックは、真っ直ぐに俺の方に向かってきた。
「おはよう。かなちゃん。」
3月。
桜乃森大学には学生服をきた高校生がたくさんいた。
かなちゃんの高校と同じ制服を着た子もいる。
彼らの期待と不安の入り混じった表情を見てると、俺は少し羨ましい。
今日は、桜乃森大学の合格発表の日だ。
「なんかいつもと変わらないね。かなちゃん…まさか落ち…」
「受かりましたよ!バッチリ合格です。これで来月から桜乃森大学の生徒です。」
かなちゃんはあんまり表情を変えない。
けど俺にはなんとなくわかった。
かなちゃん、凄く喜んでる。
「おめでとう。」
「…ありがとうございます。」
本当におめでとう。
かなちゃん。
「これでかなちゃんも桜乃森大学の生徒か…本格的に俺だけが部外者だな。」
「そうですよ。これから私は麻衣さんの研究室の助手。イノさんは立場上ただのお手伝いですから、私の方が権力は上です。」
「権力って…何かさせる気なの?」
「私のためにパンや飲み物を買ったり…肩もみとか…」
「…いままでと大して変わらないから安心したよ」
かなちゃんと他愛も無い会話をしながら研究室に向かう。
もうかなちゃんと出会ってから半年が過ぎた…
…
研究室で麻衣さんとかなちゃんの合格祝いをする。
合格祝いと言っても簡単なパーティで、麻衣さんが張り切って料理を色々作ってた。
カボチャパイ、チャーハン、カプレーゼ、そば…
ひとつひとつはとても美味しそうだ。
しかし組みわせがひどい。
「おめでとうかなちゃん!たくさん食べてね!」
「ありがとうございます麻衣さん。…どれから手をつけよう…」
「頂きます」
「イノ!あんたはかなちゃんが食べてからにしなさい!かなちゃんのお祝いなんだから!」
「…へーい」
いつもと変わらない日常。
ラブとピースから黒の使途の話を聞いてから…もうすぐ1カ月が経つ。
このまま何も起こらなければいい…
「麻衣さん、そうえばえっと…ラブさんとピースさんでしたっけ?もう帰っちゃったんですか?」
「どうなのかしらね。イノは何か聞いてる?」
「帰るっていっても…あの2人は帰る場所がないですからね。島崎さんのところに行ったのなら、数か月間は日本に滞在すると思いますよ。」
昔からあの二人はどの国にも根を張らない連中だった。
けど島崎のところに行くってことは、休暇中ってことでもある。
次の仕事の依頼がくるまでは日本にいるだろう…
「麻衣さんあの…聞きたかったんですけど、島崎さんって誰なんですか?」
「そっか。かなちゃんはまだ会ってないんだもんね。」
「はい…」
「日本で唯一の、ロストマン専門の孤児院を経営している方よ。もう70過ぎのお婆ちゃん。」
「ロストマン専門の孤児院…?」
「そう。異能力を持ってしまったことで普通の生活が送れなくなってしまったり…親と離れ離れになっちゃった幼いロストマンを預かっているの。」
「へぇ…」
「ロストマン研究にも積極的で、私たちの支援もしてくれてるのよ。」
もともと日本はロストマンがとても少ない国だ。
そのためロストマンの保育施設や、ウチみたいな研究施設も非常に少ない。
だからこそお互い助け合っている…というわけだ。
島崎さんの経営する孤児院は、ロストマンの情報交換の場所としても使われている。
中には他では入手できない貴重な情報も多く、ラブとピースが休暇中に島崎さんのところへ定期的に訪れる理由はそれだ。
俺と旅している時も何回かお世話になった…恩人の一人だ。
麻衣さんが用意した料理をあらかた食べ終えて一息つくと
麻衣さんが立ちあがって俺らに渇をいれる。
「…さて、そろそろお祝いパーティは終わりっ!2人とも仕事してもらうわよ!」
「…仕事って…依頼も来てないし、書類整理もないでしょ?」
「色々あるのよ!かなちゃんは遠藤さんのところで、記憶を保管してきてね。」
「わかりました。…そうか、もうそんな時期なんですね。」
ロストマン、遠藤さん。
彼の持つ能力『ブラウニー・ビー』は記憶を本に記録する事ができる。
俺たちは研究成果を3カ月おきに遠藤さんのところに保管しておくことにしている
かなちゃんが来てからは、かなちゃんの大切な仕事のひとつだ。
「イノ。あんたは買い出し。研究室の備品がもう無くなるわ。」
「こまめに買っといてくださいよ…」
「一気に買った方が楽じゃない!」
「…買いに行くの俺なんですけど?」
「文句があるの?」
「……いえ。」
楽しいお祝いはおわり。
俺は最後のカボチャパイを口に放りこんで、研究室を後にした。
…
そんなわけで、俺は駅前に買い物にやってきた。
ペンとかノートとかの雑貨、トイレットペーパーとか…日用品だ。
チビ太の餌も必要だな。
それにしても今年に入ってから雑用ばっかりしてる気がする…。
かなちゃんに仕事とられるし…本格的に立場が逆転するかもしれない…。
買い物を済ませて、休憩をしようと駅前にある公園に向かう。
公園には三輪車で遊んでいる親子や、サッカーをしている学生、サラリーマン数人がタバコを吸って一服していたり…結構にぎやかだ。
俺はベンチに腰掛けて一息つく。
「…ふう」
向かいには、ケーキ屋『ヴェール』が見える。
先月ホワイト・ワーカーと話をした店だ。
あの日から、俺は今後どうすればいいのか…
考えがまとまらないでいた。
麻衣さんやかなちゃんを危険な目にあわせることには絶対にしたくない。
かといって革新的な解決方法なんて見つからない…
「どうすりゃいいんだろ…」
三輪車で遊ぶ親子をぼーっと見ていると…
「どーもっ」
という少し高い男の声が聞こえた。
三輪車の親子から目をそらし、その声の方を向くと…
知らないうちにベンチの隣に若い男が立っている。
大学生くらいの年齢で、茶髪。
すこしちゃらちゃらした感じの男だ。
…誰だ?
「シツイイノさんっスよね?」
「…そうですけど」
「あぁ、よかった。間違えてたらどうしようかと…」
「すいません…どなたですか?桜乃森大学の学生さん?」
このあたりには、桜乃森大学しか学校はない。
こんな若い男性に声をかけられる心当たりは、それくらいしかなかった。
「いえいえ、違うんスよ。」
「…?」
「ホワイト・ワーカーさんの代理のもんでス…」
…ホワイト・ワーカーの代理?
…黒の使途か。
ついに来た。
しかし意外だった…
日本人で…しかもこんなに若い男が…?
「…」
「あらら、そんな怖い顔しないで欲しいっス」
「勧誘ならお断りしたはずです」
「あちゃー、やっぱり考えは変わらないっスか?」
「…変わりません」
「…そこをなんとかならないっスかねぇ…」
説得するつもりできたのか?
そんな風には見えない。
「説得には応じませんよ」
「…どうしても?」
「はい。」
「…まいったなぁ。…わかりました。じゃあ俺はこれで…。」
「…?」
そういって男は振りかえって歩き出そうとした。
もう帰るつもりか?
ホワイト・ワ―カ―の時のようにあっさりしすぎている。
それを不気味に思った俺は、今度はこっちから声をかけてみることにした。
「…説得するつもりはないんですか?」
「…え?」
「黒の使途…なんですよね?あなたも…」
「まぁそうっスけど…俺の風貌みてわかりません?言葉で説得できるようなタイプじゃないんスよ。…イノさんの意思を確認をしにきただけっス」
「…」
「まぁ、気が変わったら教えてくださいっス。…気が変わったら」
「…変わらないですよ。」
「そうっスか…」
そのとき、男が俺の肩にポンっと手を置いて…
耳元でこうつぶやいた。
「『ミッドナイト・クラクション・ベイビー、素敵な一日を。』」
「…は?」
「いえいえ、また会いましょう。イノさん。」
男はニコッと笑って、その場を去って行った。
一体なんだったんだ?
「…」
念のため、その男が公園から出ていくのを見る。
なんの警戒心もなく…どこにでもいる大学生と言った感じの男だ…
俺は男が見えなくなったのを確認して、荷物を持って立ちあがった。
とりあえず帰ろう…
コツン…
キコキコキコ…
その時、足元に何かぶつかった。
「…?」
足元を見ると、さっきまで遠くで遊んでいた三輪車の男の子が俺の足元にいた。
俺にぶつかってもなお、前に進もうと一生懸命三輪車を漕いでる。
…かわいい。
「すいません!」
すぐに親が走ってきて、その男の子を三輪車ごと持ち上げた。
「ごめんなさい…もう、この子ったら、遊んでると周りが見えなくって…。怪我とかはしてないですか?」
「いえいえ、気にしないでください。」
「本当にごめんなさい。」
「平気です…それじゃ」
バァンッ!!!!!
「いてッ!」
ドサッ!
親子に挨拶をしてその場を去ろうとしたとき。
後ろからまた何かに衝突されて、俺は倒れてしまった。
カラカラカラ…
倒れたまま後ろを振り向くと、お婆さんと自転車が横になっていた。
自転車の車輪が回ってる…
俺とぶつかって倒れてしまったのか…
俺はお婆さんが心配になって声をかける。
「お婆さん!大丈夫ですか?」
「…はい…こちらこそ…ぶつかってしまって、ごめんなさい…」
コツン…
キコキコキコ…
その時…背中にまた何かぶつかった。
振りかえると、倒れている俺に向かって、
さっきの男の子がまた一生懸命に三輪車を漕ぎはじめていた。
「…?ごめんね僕、ちょっとどいててもらえ…」
ここで俺は…
異常な事態に立たされていることに気づく。
男の子の顔を見ると…
顔にはあぶら汗がにじみでていて、目の瞳孔が開き、視点が定まっていなかったのだ。
なんだ…?
この顔…ただごとじゃ…
「僕…?大丈夫!?」
男の子をどかして、お婆さんが立ちあがるのを手伝おうをすると…
俺の視界に、さらにとんでもない光景が映る…
バキバキバキバキ…ッ!!!!!!!!!!
ガリガリ…ッ!!!
バァンッ!!!
2本の苗木と生垣を…大きな音を立てて破壊し…
大型の貨物トラックが、急アクセルで強引に公園の中に入ってきたのだ。
そしてそのトラックは、真っ直ぐに俺の方に向かってきた。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
魔王と囚われた王妃 ~断末魔の声が、わたしの心を狂わせる~
長月京子
恋愛
絶世の美貌を謳われた王妃レイアの記憶に残っているのは、愛しい王の最期の声だけ。
凄惨な過去の衝撃から、ほとんどの記憶を失ったまま、レイアは魔界の城に囚われている。
人界を滅ぼした魔王ディオン。
逃亡を試みたレイアの前で、ディオンは共にあった侍女のノルンをためらいもなく切り捨てる。
「――おまえが、私を恐れるのか? ルシア」
恐れるレイアを、魔王はなぜかルシアと呼んだ。
彼と共に過ごすうちに、彼女はわからなくなる。
自分はルシアなのか。一体誰を愛し夢を語っていたのか。
失われ、蝕まれていく想い。
やがてルシアは、魔王ディオンの真実に辿り着く。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる