13 / 69
たまには歌でもいかがです?
13 リリー・シュシュ
しおりを挟む
10月。
やっと気温が落ち着いてきたと思ったのにもう肌寒くなってきた。
服装も厚手になり、パーカーを着て丁度いい気温だ。
もう今年も2カ月で終わりか…。
何となくそんなことを考えながら研究室に入る。
「おはよう、イノ」
「おはようございます麻衣さん。あとかなちゃん」
研究室は麻衣さん用のデスクとテーブル。
ソファが1つ。
麻衣さんはデスクで書類整理をしているようだ。
かなちゃんは真剣なまなざしでテーブルの上に置かれたものを見ている。
テーブルの上には体重計が置かれており、その上には動物用のゲージが乗っている。
中には他の研究室から借りた実験用のモルモット・チビ子が入っている。
必死にニンジンをかじる姿がかわいい。
本当はニンジン良くないぞ。…お前モルモットだし。
かなちゃんはチビ子を見つめながらつぶやく。
「『ここにいて』」
かなちゃんがそうつぶやくと、チビ子の身体がうっすらと光る。
[4.7g]
体重計の数字が徐々に大きくなる。
「いい感じねかなちゃん。たいぶ能力を使う事に慣れてきたみたい。」
「ありがとうございます。」
『プラグイン・ベイビー』の一件から2週間。
かなちゃんは毎日、能力の練習をしてる。
平日も学校帰りに研究室に来てはチビ子を相手に練習してた。
「『ごめんね』」
チビ太がまたうっすらと光る。
体重計の数字が小さくなる。
「かなちゃん調子いいみたいですね。」
「いい感じよ。感情移入していない相手でも3倍から4.5倍くらいの体重にすることができるみたい。」
ロストマンの能力は意識や感情に大きく左右される。
無意識に扱っていた能力も「自分がロストマンである」と自覚してから使えば、その分力も増す。
しかし3倍か…
俺が受けた時はせいぜい体重を2倍くらいにする程度だった。
それだけでも移動に苦労したのに…
「すいません。いつも私の練習に付き合ってもらって」
「いいのよ。これも研究の一環だしね。かなちゃんかわいいし」
いつの間にこの二人は仲良くなったのだろうか。
女同士ってすぐに仲良くなれる生き物らしい。
「でもどうして急に練習なんてする気になったの?」
「…それは…」
かなちゃんは少し黙る。
「私も…イノさんの役に立ちたいなって…」
きっと『プラグインベイビー』の一件に思うことがあったんだろう。
俺は深く聞かないことにした。
「そっか」
「……はい」
トゥルルル
その時、外部からの着信が鳴った。
麻衣さんがすぐに応対する。
「はい。桜乃森大学異能力研究室の化乃です。…はい…えぇ」
おそらく依頼だ。
プラグイン・ベイビーの一件の時と同じ。
かなちゃんも何となく気づいてる。
「そうえば今月…願書出すんでしょ?どこの大学にいくか決まったの?」
気を紛らわそうと俺はかなちゃんに話しかけた。
かなちゃんは受験生だ。
ずっと進学先を悩んでる。
「いえ…やりたいことを取るか…就職率の高い大学にするか…迷ってるんです。」
「そっか。かなちゃん頭いいんだもんね。」
「そんなことないんですけど…」
麻衣さんの電話を気にしてる。
やっぱり今後…かなちゃんを依頼には連れていかない方がいい。
特に『プラグイン・ベイビー』の件で俺はそれを強く感じてた。
17歳の少女にこの仕事は荷が重すぎる。
そんなことを考えていると、麻衣さんの電話が終わったようだ。
「わかりました。ウチの研究員をすぐに向かわせます。」
ガチャ
「依頼ですか?」
「えぇ。都内の大学病院からよ。すぐに行ってもらえる?」
大学病院…
「わかりました。」
かなちゃんが行きたがる前に、準備をしなくては…
俺はすぐに立ち上がりそそくさと準備に取り掛かる。
しかし…
「私も…連れて行ってください。」
「状況がわからないから…今回は俺一人で行くよ」
危険な目に会わせるわけにはいかない。それも理由。
けどかなちゃんの悲しい顔をもう見たくないっていうのが本音だった。
「イノさん。お願いします!」
「ダメだ。」
「…どうしてですか!」
「どうしてもだよ!また良くない事件かもしれない。」
「…大丈夫です!私子供じゃありません!」
少し強めに拒否するとかなちゃんがぷくっと膨れる。
…ちょっとかわいい。
「いいじゃないイノ。連れて行ってあげれば。過保護すぎるのよあんた」
「麻衣さん…」
麻衣さんの言葉を聞いてかなちゃんが俺を睨む。
しかし…
「ダメだ」
「なんでですか!バカ!バカ!」
俺はリュックを背負い立ち上がった。
部屋を出ようとする俺にかなちゃんが食ってかかってくる。
「イノさんのバカ!バカバカバカバカ!」
部屋を出ようとする俺に向かって愛くるしい声で罵声を浴びせるかなちゃん。
かわいいけど…ダメです。
「それじゃあ麻衣さん、行ってきます。」
「イノさん!」
「だから、今回はダ…」
「『ここにいて』ください」
ドンッ!
その瞬間目の前が光る。
身体中が鉛のように重くなる。
俺は自分の体重を支えきれずにその場に倒れ込んだ。
「いてぇッ!」
「イノさん…」
「かなちゃん…」
「連れて行ってくれますよね?」
かなちゃんの表情は、まるで小動物のような…可愛い笑顔だった。
やっと気温が落ち着いてきたと思ったのにもう肌寒くなってきた。
服装も厚手になり、パーカーを着て丁度いい気温だ。
もう今年も2カ月で終わりか…。
何となくそんなことを考えながら研究室に入る。
「おはよう、イノ」
「おはようございます麻衣さん。あとかなちゃん」
研究室は麻衣さん用のデスクとテーブル。
ソファが1つ。
麻衣さんはデスクで書類整理をしているようだ。
かなちゃんは真剣なまなざしでテーブルの上に置かれたものを見ている。
テーブルの上には体重計が置かれており、その上には動物用のゲージが乗っている。
中には他の研究室から借りた実験用のモルモット・チビ子が入っている。
必死にニンジンをかじる姿がかわいい。
本当はニンジン良くないぞ。…お前モルモットだし。
かなちゃんはチビ子を見つめながらつぶやく。
「『ここにいて』」
かなちゃんがそうつぶやくと、チビ子の身体がうっすらと光る。
[4.7g]
体重計の数字が徐々に大きくなる。
「いい感じねかなちゃん。たいぶ能力を使う事に慣れてきたみたい。」
「ありがとうございます。」
『プラグイン・ベイビー』の一件から2週間。
かなちゃんは毎日、能力の練習をしてる。
平日も学校帰りに研究室に来てはチビ子を相手に練習してた。
「『ごめんね』」
チビ太がまたうっすらと光る。
体重計の数字が小さくなる。
「かなちゃん調子いいみたいですね。」
「いい感じよ。感情移入していない相手でも3倍から4.5倍くらいの体重にすることができるみたい。」
ロストマンの能力は意識や感情に大きく左右される。
無意識に扱っていた能力も「自分がロストマンである」と自覚してから使えば、その分力も増す。
しかし3倍か…
俺が受けた時はせいぜい体重を2倍くらいにする程度だった。
それだけでも移動に苦労したのに…
「すいません。いつも私の練習に付き合ってもらって」
「いいのよ。これも研究の一環だしね。かなちゃんかわいいし」
いつの間にこの二人は仲良くなったのだろうか。
女同士ってすぐに仲良くなれる生き物らしい。
「でもどうして急に練習なんてする気になったの?」
「…それは…」
かなちゃんは少し黙る。
「私も…イノさんの役に立ちたいなって…」
きっと『プラグインベイビー』の一件に思うことがあったんだろう。
俺は深く聞かないことにした。
「そっか」
「……はい」
トゥルルル
その時、外部からの着信が鳴った。
麻衣さんがすぐに応対する。
「はい。桜乃森大学異能力研究室の化乃です。…はい…えぇ」
おそらく依頼だ。
プラグイン・ベイビーの一件の時と同じ。
かなちゃんも何となく気づいてる。
「そうえば今月…願書出すんでしょ?どこの大学にいくか決まったの?」
気を紛らわそうと俺はかなちゃんに話しかけた。
かなちゃんは受験生だ。
ずっと進学先を悩んでる。
「いえ…やりたいことを取るか…就職率の高い大学にするか…迷ってるんです。」
「そっか。かなちゃん頭いいんだもんね。」
「そんなことないんですけど…」
麻衣さんの電話を気にしてる。
やっぱり今後…かなちゃんを依頼には連れていかない方がいい。
特に『プラグイン・ベイビー』の件で俺はそれを強く感じてた。
17歳の少女にこの仕事は荷が重すぎる。
そんなことを考えていると、麻衣さんの電話が終わったようだ。
「わかりました。ウチの研究員をすぐに向かわせます。」
ガチャ
「依頼ですか?」
「えぇ。都内の大学病院からよ。すぐに行ってもらえる?」
大学病院…
「わかりました。」
かなちゃんが行きたがる前に、準備をしなくては…
俺はすぐに立ち上がりそそくさと準備に取り掛かる。
しかし…
「私も…連れて行ってください。」
「状況がわからないから…今回は俺一人で行くよ」
危険な目に会わせるわけにはいかない。それも理由。
けどかなちゃんの悲しい顔をもう見たくないっていうのが本音だった。
「イノさん。お願いします!」
「ダメだ。」
「…どうしてですか!」
「どうしてもだよ!また良くない事件かもしれない。」
「…大丈夫です!私子供じゃありません!」
少し強めに拒否するとかなちゃんがぷくっと膨れる。
…ちょっとかわいい。
「いいじゃないイノ。連れて行ってあげれば。過保護すぎるのよあんた」
「麻衣さん…」
麻衣さんの言葉を聞いてかなちゃんが俺を睨む。
しかし…
「ダメだ」
「なんでですか!バカ!バカ!」
俺はリュックを背負い立ち上がった。
部屋を出ようとする俺にかなちゃんが食ってかかってくる。
「イノさんのバカ!バカバカバカバカ!」
部屋を出ようとする俺に向かって愛くるしい声で罵声を浴びせるかなちゃん。
かわいいけど…ダメです。
「それじゃあ麻衣さん、行ってきます。」
「イノさん!」
「だから、今回はダ…」
「『ここにいて』ください」
ドンッ!
その瞬間目の前が光る。
身体中が鉛のように重くなる。
俺は自分の体重を支えきれずにその場に倒れ込んだ。
「いてぇッ!」
「イノさん…」
「かなちゃん…」
「連れて行ってくれますよね?」
かなちゃんの表情は、まるで小動物のような…可愛い笑顔だった。
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
いや、俺は無理ですって
水ノ瀬 あおい
ファンタジー
いつも小説を読んで空想するだけの俺。
ある時気づいたら……そこは異世界!?で、しかも、俺が勇者だなんて言われた。
剣士のガイの方がイケメンで頭もよくて、人望も厚くて強くて…こいつの方が勇者じゃね?
俺は絶対モブだから!!
無理なんだって!!
クラスの隅でとりあえず存在していただけの俺が勇者!?
無理に決まってる!!
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる