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たまにはミルクでもいかがです?

10 プラグイン・ベイビー②

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アパートの住人は白石美香、24歳。
職業は看護師だそうだ。
警察からの情報はわかりやすくて助かる。

白石美香のアパートの下には、数代のパトカーが停まっていた。
赤いランプが点灯していたので近くを通った俺たちはすぐにここが現場だとわかった。
学校の名前が入ったダサい軽自動車から降りると、直ぐに数名の捜査官が近寄ってくる。

「警視庁の保坂です。桜乃森大学の方ですね?」

ビシッとした若い警官が警察手帳を見せて来た。
さわやかなイケメンだ。憎たらしい。

「化乃麻衣の代理の者です。俺は失慰イノ、こっちは沖田といいます。」

「ご足労ありがとうございます。現場へ案内します。」

俺たちの若さに驚いてはいたが、特に何も言われない。
見た目で判断しない、良き大人だ。

白石美香の部屋はアパートの3階。
部屋の前には複数の警察官がいる。
ドラマで見覚えのある黄色いテープとロープで一般人が立ち入れないようにしてる。

「原因もわからず困っています。中に入った警官の話は?」

「聞いてます。上半身が溶けてしまったと。」

「はい。しかし正確には溶けているわけではありません。」

「どういう事ですか?」

「これを見てください。」

保坂さんが一枚の紙を見せてくれる。
見方はよくわからなかったが「ここを見てください」と指を指してくれる。

「部屋の中に溢れているドロドロの白い物質の成分を調べたものです」

「タンパク質…脂肪…糖…カルシウム…カリウム…これは?」

「警官だけでなく…冷蔵庫や時計、すべてこの物質に変わっています」

なるほど…冷蔵庫や時計は無機物だ。
溶けたら鉄やプラスチック、樹脂なんかの成分になる。

つまり溶けているわけではなく、この物質に『変えられている』ということだ。
けど…一体何なんだこれ。

「えっと…赤ちゃんの両親は?」

「ここに住んでいる白石美香は半年前に離婚していて旦那さんはまだ見つかってません。白石美香の職場に問い合わせても3カ月前から突然連絡が取れなくなっていて、両親ともに行方不明という状態なんです。」

父親も母親も行方不明…
残された赤ちゃん。

「それにあの赤ちゃんについてなんですが…」

「なんです?」

「近辺の産婦人科で調べても出産記録が残されておらず、役所に出生届けも提出されていません。」

出生届けが出されてない?

「白石美香さんの子供じゃないってことですか?」

「いえ…彼女の職場の同僚がお腹が大きくなっている白石美香を見ています。記録がないので証拠はありませんが…おそらく本人の子供かと。」

出産の記録がない…?
周りに妊娠していることを言って無かったのか?

あまりにぶっとんだ状況。
これは警察も混乱するな。

「イノさん…」

ことの深刻さを理解したかなちゃんが俺に問いかける。

「この能力のロストマンは…誰なんでしょうか…?」

「今の状況だけだとあの赤ちゃんだけど…」

まだ母親や第三者の可能性も十分ある。

「かなちゃんはどう思う?」

「お母さんが赤ちゃんを守るために能力を使ってるんじゃないでしょうか。」

捨てきれない可能性だ。
遠くに離れていても発動する能力もある。
しかし赤ちゃんを守っているだけだとしたら…
家の中のものにまで能力の影響がでるのはおかしい。

「保坂さん、中を見ることはできませんか?」

「換気口から中を覗くことができます。こちらへ…」

ドアの横にある換気口は、フタが外されて中が見えるようにされていた。
おそらく警察が外したのだろう。
俺は下の段差に足を掛けて中を覗く。

「うっ…」

ひどい臭いだ。
中の様子が全て見渡せるわけではないが…
かろうじて赤ちゃんの眠るベッドが見える。
そして…

「!」

赤ちゃんのベッドの横に、裸の女性が立っていた。
女性の身体は半透明で光を帯びている。
俺には彼女が何なのかすぐにわかった。

「かなちゃん。こっち来て中をみてごらん。」

「え?…はい。」

かなちゃんと場所を入れ替わる。
中をのぞくとかなちゃんも女性を見て驚いている様子だ。

「誰ですか…あれ?」

保坂さんや警官が俺たちの動向をみているが、ポカンとした様子だ。

「あれはロストマンが能力で作りだした『ダスト能力体』と呼ばれるものだ。身体が光ってるのがわかるだろ?」

「はい…」

「ダストで作られてるからロストマンにしか見えない。あれが原因みたいだね。」

光を帯びた裸の女性。
あの赤ちゃんが作り出したのだろうか…

わからないことだらけだけど、今やるべきことは理解できた。

「状況はだいたいわかりました。」

「本当ですか!」

保坂さんと警官たちは少し安堵の表情を浮かべる。
状況が改善されるかはまだわからない。

「説明する前に調べてほしい事があります。」

「なんでしょうか?」

「白いドロドロの成分と似ているものがないか調べて欲しいんです。」

「似ているもの?…わかりました。」

保坂さんの横にいた警官は白いドロドロの成分表を持ってどこかへ向かった。

「かなちゃん、俺の車の中にお香が積んである。あるだけ持ってきてくれる?」

「はい!」

俺はカンが優れているとは言えない。
今回もどうか外れていて欲しい。

このカンがもし当たっているのなら…
今回は…誰も望まない、納得できない結果に終わってしまうから。

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