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たまには重い女でもいかがです?
07 イエロー・スナッグル③
しおりを挟む沖田かなの家に行った日から2日後。
俺は朝一で沖田かなに連絡をとり、家に行く約束をとりつけた。
一日空いたのは能力の効果を確かめるため。
そして今日が沖田かなの学校が休みだからだ。
2日経っても身体の重さは変わらず、とにかく移動が大変だった。
駅の階段は足が重くて疲れるし、エレベーターではブザーが鳴る。
夏も終わりかけだと言うのに汗はだらだらだ。
太っている人には優しくしようと思った。
ピンポーン
沖田家のチャイムを鳴らす。
電話で俺の状況を伝えてあった沖田かなは、すぐに家へ入れてくれた。
「イノさん。一体どういうことなんですか?」
俺は出された麦茶を一気に飲みほし、呼吸を整えた。
うまい。
「俺の今の体重は…120キロ近い。」
沖田かなが心配そうに見てる。
「もし君のお母さんに起きている事が俺にも起きているなら…2つわかった事がある。」
「わかったこと?」
「順を追って説明するね。まずはこれを見て欲しい。」
俺は彼女にとある紙を見せる。
これは昨日からの自分の体重の記録だ。
「一時間おきに自分の体重を量ってみた。これは今日の朝の分」
AM5:00 [119kg]
AM6:00 [118kg]
AM7:00 [117kg]
AM8:00 [119kg]
AM9:00 [118kg]
「118キロから上下してるけど大きな増加は無い。昨日も計ってみたけど同じような結果になった。」
「これって…」
「このデータから、体重の増加に時間の経過は関係が無いということがわかる。」
そう。
俺の体重は昨日の朝から30時間以上経過した現在でも大きく変わる事はなかった。
つまり、沖田母の体重がどんどん増えていくのには時間経過とは違う理由がある。
「そしてもう一つ。俺と君のお母さんには決定的に違う点がある。」
「決定的に…違う…点?」
「俺は君のお母さんのように意識を失っていない。」
沖田かなの母は意識を失っている。
いわゆる昏睡状態というやつだ。
しかし俺は違う。
身体が重いせいでむしろ目が冴えたくらいだ。
「…たしかに。」
「結論から言うね。」
「…はい。」
「この能力を使っているのは、君のお母さんじゃない」
沖田かなの表情が変わる。
「君だ。」
少しの沈黙。
沖田かなの表情は驚いてはいるものの、穏やかだった。
すぐに受け入れたのか…
それとも思い当たる節があるのか…
現状はあくまで仮説だったが、俺は確信を得た。
まずは証明する必要がある。
「昨日食事しているとき、目がチカチカすると言っていたね?」
「…はい」
「それはきっとダストによる発動光だ。俺も…君が光を放っているところを見た。」
あの時はあまりの可愛さに光っているように見えただけかと思ったが…
女慣れしてないことが仇になった。
俺、カッコ悪い。
「ダスト…?」
「ロストマンの能力の源となるエネルギーだ。普段は空気中をホコリのように漂っているだけだけど、能力を発動する時に光を放つ。普通の人には見ることは出来ない。」
「…」
「おそらくその時、君は俺に能力をかけたんだ。無意識に。」
「…そんな。」
「君は昨日、俺が帰ろうとした時に引きとめたね?どうして…?」
「それは…早くお母さんをよくして欲しいから…」
「きっとそれは違う。本当は寂しかったんじゃないのかい?」
父が死んで母親は昏睡状態。
彼女はこの緊迫した日々をもう2カ月以上も続けてる。
彼女は学校に友達がいないと言っていた。
久しぶりに他愛もない会話をしたとも言っていた。
きっと誰でもよかったんだ。
当たり前の日常を思い出せるくだらない話をする相手が欲しかった。
くだらない話をする相手もいないなんて…
寂しいに決まってる。
「…」
「仮説だけど…この能力は君が誰かと一緒にいたいと願う事が発動条件なんだ。」
父を失い、みるみるやつれていく母。
お母さんもどこかへ行ってしまうんじゃないかという不安。
「どこへも行かないで」という彼女の願いがこの能力を生み出した。
想いが強くなるほど能力は強くなる。
出会ったばかりの俺ですら2倍近くの体重にする能力だ。
それが母親ともなれば…身体が重くなるだけじゃない。
意識を奪うほどに重い想い。
「かなちゃん。ここからの話が重要だ。」
「…」
「もし今の仮説が正しいのであれば、この能力は君の感情に依存してる。」
「私の…感情…」
沖田かなの声は震えている。
「そう。強く願えば願うほどこの能力は強くなる。ならば君がお母さんを解放したいと思えば、この能力は解除できるかもしれない。」
「…解除…」
「あぁ。君は運がいいよ…実験台もここにいる。」
「イノさん…。」
「まずは俺にかけた能力を解除するんだ。君ならきっと出来る。」
正直…半信半疑ではあった。
なぜなら一度効果を発動すれば、目的を達成するまで解除できない能力も存在するからだ。
しかし彼女が永遠に母親をあんな状況にしたいと願うはずは無い。
きっと大丈夫なはずだという…この子はそんな子じゃないという…
俺のそんな想いもあった。
俺は沖田かなの手を握った。
「かなちゃん。ゆっくり落ち着いて。」
「…」
「俺でよければ、いつだって話相手になる。」
「イノ…さん…」
「お母さんのために…なにより君自身のために…」
「…」
初めて話したときの刺々しい態度はここにはなく。
俺を見つめる彼女の目は恋をしそうになるくらい…
「君はひとりじゃない。」
沖田かなの身体がふわっと光る。
美しさと錯覚するくらい綺麗な光。
ダストの光。
俺の身体の重さも嘘のように軽くなる。
沖田かなは泣いていた。
色々と思うところがあったのだろう。
「かなちゃん、お母さんを元に戻そう。」
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