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たまには精神操作でもいかがです?
03 グレートデイズ ③
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病室を出ると座っていた数人が一斉に立ち上がる。
最初に俺に声をかけたのは母親だった。
「あの子は…灯矢は大丈夫なんですか?」
続いて父親が
「能力は奪えたんですか?」
これはとても言いづらい空気だ。
「結論から申しますと…ダメでした。」
「ダメでしたって…どういうことですか。」
父親は落ち着いた口調で、表情にはけして出さなかった。
しかしその言葉には怒りとも取れる感情が見てとれる。
否、聞いて取れる。
「彼の能力を奪うには、彼自身の許可が必要なんですよ。」
これは正直嘘だった。
俺が今考えた適当な能力の設定だった。
俺の能力を使わず解決できるならそのほうがいい。
「彼は能力を失うのを嫌がっていました。許可を得ることは出来ませんでした。」
それを聞いた母親はストンと椅子に崩れ落ちた。
「そんな…」
確かに彼から能力を取り去ることは出来なかったのは事実。
両親が『奪う』事を前提に話をしていたのも事実。
ただし俺が今やるべきことは彼から能力を奪う事では無い。
そういう意味で鹿野灯矢君は運が良かったと思う。
「今回は、俺の能力を使わなくても問題は解決するかもしれません。」
…
俺と鹿野灯矢の両親は待合室に場所を移していた。
彼をどうするか。その話をするためだ
「ロストマンから能力を消す方法は2つあります。」
「ひとつは俺みたいなロストマンによって能力を奪ったり、消したりする方法。」
「貴方のようなロストマンは多いのですか?」
たまらず父親が聞いて来た。
また俺とは違うロストマンでも探す気なのだろうか。
「割合的に言えば少ないですが日本にも一定数いますよ。俺も数人だけなら知ってます。」
二人とも目の前のコーヒーには一切手をつけない。
「そして2つ目の方法。それは失ったモノをもう一度手に入れるという方法です。」
ここで母親は、初めて俺の顔を見た。
「…失ったモノを…もう一度?」
「はい。ロストマンの能力は何かを失った代償です。失ったモノをもう一度手にした時、ロストマンは力を失います。」
これは本当。
「しかし…あの子の両足はもう戻りません。義足を作ってはいますが…」
母親のこの言葉は当然の流れだ。
両足を失ってから能力を身につけた鹿野灯矢に対する、当たり前の考察。
俺はコーヒーを一口すすった。
くそう。ブラックだ。
「彼が失ったモノは、両足ではありません。」
確かに彼は両足を失ってる。
しかしここで言う『失ったモノ』とは、能力を得るために対価となったモノの話だ。
「両足を失ったから、ロストマンになったわけでは無いということでしょうか?」
父親はすぐに理解してくれた。
「そうです。」
両親も…または俺も。
結論に至るには少し早かったのだ。
「もう少し彼の能力をひも解くべきでした。ロストマンの能力というのは失ったモノに影響される場合が多いのです。」
「…というと。」
「順を追って説明します。まず灯矢君が操作出来る人は限られます。」
「…そうなんですか?」
「はい。僕も意外でした。これが彼から聞きだしたそのリストです。」
『操作出来た人物』
父親。
母親。
祖母。
見舞いに来てくれた仲良しのみっちゃん。
『操作しようとしたがダメだった人物』
医者。
看護婦。
見舞いに来てくれた友達A、B。
見舞いに来てくれた灯矢君の好きな香理ちゃん。
「最初は血縁関係のある人物のみに対応した能力者だと思いましたが、それだと『仲良しのみっちゃん』は該当しません。」
両親は目を通す。
「では灯矢くんが好きな人物なのではと思いましたが…それだと『灯矢君の好きな香理ちゃん』は操作可能なはずです。」
「…では…」
「このリストを見て、彼から話を聞いて、仮説ですが答えを出しました。」
「…教えてください。」
「灯矢君が操れるのは、彼が『自分に好意を持ってる』と感じている人物。」
「…灯矢の事を…」
灯矢くん『が』好きな人物。
ではなく
灯矢くん『を』好きな人物。
「つまり彼の能力は『自分を好きな人』が対象になる能力という事です。」
そう。
この能力は彼のわがままなのだ。
自分の事を好きでいてくれる人物に、自分の言う事を聞いてほしい。
そんな子供らしい、ただのわがまま。
ただしそうなると…
これは言わなければならないことだ。
「ここからの話は、部外者の俺があまり踏み込んではいけない話ですが…」
「…はい。」
「彼は言ってました。「最近、お父さんに能力がかかりづらい」と。」
両親二人の顔が同時に濁ったのを感じる。
そう、ここまでの推論が当たっているのであれば…
「それは、灯矢君が『お父さんに愛されてないのでは』と感じているからではないでしょうか。」
「…そんな…私は…灯矢を愛しています。」
「貴方の気持ちは正直関係無いんです。灯矢君がどう感じているか…今回の場合はそれが重要なんです。」
「…」
「灯矢君が失ったモノ…両足では無く、それなんではないでしょうか。」
「そんな…」
「ここへ来る車の中で、あなたは『息子が恐ろしい』と言っていましたね。そう言う気持ちが、少なからず彼に伝わっていたんでしょう。」
「しかしそれはあの子がロストマンになった後の話です。それ以前は普通に接していたつもりだ。」
失ったからロストマンになるのか。
ロストマンになったから失うのか。
それは専門家の間でも意見が分かれる。
しかし今回の場合。
灯矢くんはおそらく、ロストマンになる以前から…
きっとそう感じていたんだろう。
「俺には、それはわかりません。」
能力の代償として、父親からの愛を失った。
あくまで仮説だけど、それが原因であるなら不幸中の幸いなんだ。
だってロストマンが失うモノはほとんどの場合。
もう二度と戻らない事がほとんどなのだから。
「けれど…もしそれが原因なら…」
「そうです。」
「…」
「彼が失ったモノを、もう一度与えてあげましょう。」
病室を出ると座っていた数人が一斉に立ち上がる。
最初に俺に声をかけたのは母親だった。
「あの子は…灯矢は大丈夫なんですか?」
続いて父親が
「能力は奪えたんですか?」
これはとても言いづらい空気だ。
「結論から申しますと…ダメでした。」
「ダメでしたって…どういうことですか。」
父親は落ち着いた口調で、表情にはけして出さなかった。
しかしその言葉には怒りとも取れる感情が見てとれる。
否、聞いて取れる。
「彼の能力を奪うには、彼自身の許可が必要なんですよ。」
これは正直嘘だった。
俺が今考えた適当な能力の設定だった。
俺の能力を使わず解決できるならそのほうがいい。
「彼は能力を失うのを嫌がっていました。許可を得ることは出来ませんでした。」
それを聞いた母親はストンと椅子に崩れ落ちた。
「そんな…」
確かに彼から能力を取り去ることは出来なかったのは事実。
両親が『奪う』事を前提に話をしていたのも事実。
ただし俺が今やるべきことは彼から能力を奪う事では無い。
そういう意味で鹿野灯矢君は運が良かったと思う。
「今回は、俺の能力を使わなくても問題は解決するかもしれません。」
…
俺と鹿野灯矢の両親は待合室に場所を移していた。
彼をどうするか。その話をするためだ
「ロストマンから能力を消す方法は2つあります。」
「ひとつは俺みたいなロストマンによって能力を奪ったり、消したりする方法。」
「貴方のようなロストマンは多いのですか?」
たまらず父親が聞いて来た。
また俺とは違うロストマンでも探す気なのだろうか。
「割合的に言えば少ないですが日本にも一定数いますよ。俺も数人だけなら知ってます。」
二人とも目の前のコーヒーには一切手をつけない。
「そして2つ目の方法。それは失ったモノをもう一度手に入れるという方法です。」
ここで母親は、初めて俺の顔を見た。
「…失ったモノを…もう一度?」
「はい。ロストマンの能力は何かを失った代償です。失ったモノをもう一度手にした時、ロストマンは力を失います。」
これは本当。
「しかし…あの子の両足はもう戻りません。義足を作ってはいますが…」
母親のこの言葉は当然の流れだ。
両足を失ってから能力を身につけた鹿野灯矢に対する、当たり前の考察。
俺はコーヒーを一口すすった。
くそう。ブラックだ。
「彼が失ったモノは、両足ではありません。」
確かに彼は両足を失ってる。
しかしここで言う『失ったモノ』とは、能力を得るために対価となったモノの話だ。
「両足を失ったから、ロストマンになったわけでは無いということでしょうか?」
父親はすぐに理解してくれた。
「そうです。」
両親も…または俺も。
結論に至るには少し早かったのだ。
「もう少し彼の能力をひも解くべきでした。ロストマンの能力というのは失ったモノに影響される場合が多いのです。」
「…というと。」
「順を追って説明します。まず灯矢君が操作出来る人は限られます。」
「…そうなんですか?」
「はい。僕も意外でした。これが彼から聞きだしたそのリストです。」
『操作出来た人物』
父親。
母親。
祖母。
見舞いに来てくれた仲良しのみっちゃん。
『操作しようとしたがダメだった人物』
医者。
看護婦。
見舞いに来てくれた友達A、B。
見舞いに来てくれた灯矢君の好きな香理ちゃん。
「最初は血縁関係のある人物のみに対応した能力者だと思いましたが、それだと『仲良しのみっちゃん』は該当しません。」
両親は目を通す。
「では灯矢くんが好きな人物なのではと思いましたが…それだと『灯矢君の好きな香理ちゃん』は操作可能なはずです。」
「…では…」
「このリストを見て、彼から話を聞いて、仮説ですが答えを出しました。」
「…教えてください。」
「灯矢君が操れるのは、彼が『自分に好意を持ってる』と感じている人物。」
「…灯矢の事を…」
灯矢くん『が』好きな人物。
ではなく
灯矢くん『を』好きな人物。
「つまり彼の能力は『自分を好きな人』が対象になる能力という事です。」
そう。
この能力は彼のわがままなのだ。
自分の事を好きでいてくれる人物に、自分の言う事を聞いてほしい。
そんな子供らしい、ただのわがまま。
ただしそうなると…
これは言わなければならないことだ。
「ここからの話は、部外者の俺があまり踏み込んではいけない話ですが…」
「…はい。」
「彼は言ってました。「最近、お父さんに能力がかかりづらい」と。」
両親二人の顔が同時に濁ったのを感じる。
そう、ここまでの推論が当たっているのであれば…
「それは、灯矢君が『お父さんに愛されてないのでは』と感じているからではないでしょうか。」
「…そんな…私は…灯矢を愛しています。」
「貴方の気持ちは正直関係無いんです。灯矢君がどう感じているか…今回の場合はそれが重要なんです。」
「…」
「灯矢君が失ったモノ…両足では無く、それなんではないでしょうか。」
「そんな…」
「ここへ来る車の中で、あなたは『息子が恐ろしい』と言っていましたね。そう言う気持ちが、少なからず彼に伝わっていたんでしょう。」
「しかしそれはあの子がロストマンになった後の話です。それ以前は普通に接していたつもりだ。」
失ったからロストマンになるのか。
ロストマンになったから失うのか。
それは専門家の間でも意見が分かれる。
しかし今回の場合。
灯矢くんはおそらく、ロストマンになる以前から…
きっとそう感じていたんだろう。
「俺には、それはわかりません。」
能力の代償として、父親からの愛を失った。
あくまで仮説だけど、それが原因であるなら不幸中の幸いなんだ。
だってロストマンが失うモノはほとんどの場合。
もう二度と戻らない事がほとんどなのだから。
「けれど…もしそれが原因なら…」
「そうです。」
「…」
「彼が失ったモノを、もう一度与えてあげましょう。」
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