2 / 69
たまには精神操作でもいかがです?
02 グレートデイズ ②
しおりを挟む鹿野灯矢の入院はあくまで両足が動かなくなったからだ。
彼の異能力と入院は関係がない。
しかしその病室は、まるで監獄のような重い空気を持ち、まるで彼を監視するような気配さえ感じた。
「ねぇ、けむりくさい…これ…なに?」
俺は彼の机の上に皿を出し、お香に火を付けた。
少し薬臭い煙が出る。特別なお香。
「まぁ…蚊取り線香みたいなもんかな?」
「ふぅん。」
…
「目の中のゴミ…あるでしょ?」
彼はゆっくり語り出す。
自分に起きた奇妙な物語のプロローグ。
「事故の後、僕、お母さんに仕事に行って欲しくなくて「行かないで」ってお願いしたんだ。」
年齢に見合わない、妙に落ち着いた口調。
「そしたら…目の中のゴミが、光りだしたんだ。お母さんの顔がだんだん眠たそうになって、その場で…僕が眠るまで一緒にいてくれた。」
「そこで自分の能力に気づいたのかい?」
「お婆ちゃんとか…友達のみっちゃんとか。だんだん…これは僕がやってるんだなって。」
父親から聞いた不気味さはそこには無く、
鹿野灯矢は俺が思っていた以上にただの7歳の少年だった。
「あの光は…一体何なんだろう。」
「それは目の中のゴミじゃないよ。」
「…そうなの?」
「能力者の力の源とされるエネルギーだ。俺達は『ダスト』って呼んでる。能力者にしか見えない。」
「ダスト…」
「目の中のゴミって、視線に合わせて動くだろ?けどダストはそれとは関係ない動きをする。」
鹿野灯矢は、目をきょろきょろさせる。
ちょっと面白い。
「本当だ…」
「ダストって言うのは空気中に含まれていて、能力を使う時に光る以外はただのホコリみたいなもんさ。」
「…へぇ。」
彼はまだ目をきょろきょろさせている。
「そして俺たちは君みたいな能力者のことを失った者…ロストマンと呼んでる。」
「…失った者?」
「そう。ロストマンになった者は、イコール何かを失った者なんだ。」
何か…と俺は言葉を濁した。
今の彼の姿を見れば失ったモノは明らかだったからだ。
もう歩くことの出来ない両足。
外で走ることのできない身体。
7歳の少年にとって、それがどれほど大きなモノなのだろう。
「俺は…君の能力を奪う事ができる。」
「…え…」
彼の表情が少しこわばった。
やはり能力には未練があるようだ。
俺に対する警戒のレベルが上がったのがわかる。
「俺もロストマン。そういう能力なんだ。君から能力を奪うことが出来る。君の両親はそれを望んでる。」
「…やだ。」
「そっか…」
ここまでは、想定範囲内と言うやつだった。
ロストマンの能力はほとんどの場合、自分の望みを叶えるためのモノが多い。
彼は1つ失ったけれど、その代わり能力によって何か望みを1つ叶えた。
それを奪おうとすれば、誰でもこんな表情になる。
「ならどうしようか。俺の意識を操ってみるかい?」
これは小さな挑発だった。
理由は彼の能力を見ておいた方が良いと思ったからだ。
ダストの活動を抑えるお香も部屋に充満してきてる。
さぁ、鹿野灯矢、君の能力を見せてみろ。
「出来ないよ、そんなこと…」
…
…
…
…え?
やべぇ。
やり方間違えたか?
「出来ないって…君の両親にやったみたいに、俺を操ってみればいい。」
「誰にでも出来るわけじゃないんだ。お医者さんとか、初対面の人には効かなかった。」
「そうなの?」
…つまり。
能力の対象者には条件がある…という事なのだろうか。
例えば血縁じゃないといけないとか…?
「そちなみに…能力を掛けることが出来た人を教えてくれるかな?覚えてる限りでいい。」
「えっと…お父さん…お母さん…友達のみっちゃん…あと婆ちゃん。」
血縁ではない…な
「でも…」
「ん?」
「お父さんには最近かからなくなってきたんだ…」
「それは…能力自体が使えないっていう事?」
「そういう時もあるし…かかってもすぐ解けちゃったり…」
能力が弱まってる…ということなのか。
そんな話聞いたこと無いが…
「お母さんには今でもかかるのかい?」
「うん。」
力が弱くなってるわけじゃないみたいだ。
父親にだけ能力が効かなくなってきた…?
つまり父親にだけ耐性がついた…?
そんなことあるのか?
「そのことをご両親は知ってるのかい?」
「いや、知らないと思う。」
「そうか…」
「…」
…もしかして。
「最後に質問してもいいかな?」
「…うん。」
「君はその両足以外に、何を失ったんだい?」
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません
詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m
ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦
*主人公視点完結致しました。
*他者視点準備中です。
*思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。
*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*
顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。
周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。
見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。
脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。
「マリーローズ?」
そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。
目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。
だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。
日本で私は社畜だった。
暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。
あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。
「ふざけんな___!!!」
と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。
「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー
びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。
理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。
今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。
ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』
計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る!
この物語はフィクションです。
※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる