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六章 伝説の湖

二百四話 ご老人の孫

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「それで、バウフ爺やはここに住んでる人なの~?」
「ん?あぁそうじゃ。あの湖の景色は何十年住んでも見劣りしないからのぉ。まぁ、何十年住んでも伝説を見ることは無かったがの。ほっほ」
「やはり伝説なんてものはそう簡単に見れる分けないよな」
「ワシの趣味?庭に生えた雑草を料理することじゃ」
「いや、そんなこと聞いてな……かなり独特な趣味だな?」

 ……本当に大丈夫かこのじいさん、ちゃんと家に帰れるのか心配になってきたな。
 まぁ、長年この街に住んでいるようなので探せば知り合いの一人や二人が居ることだろう。

 大通りとはいえ流石にこれ以上立ち止まるのは迷惑だろうし、そろそろ他の場所に移動しようか。
 そう思った直後、ただの通行人ではなく明らかに俺達の方向に向かって来る気配を感じ取る。この爺さんの知り合いか?

「おじいちゃん、やっと見つけた!調味料買うのにここまで来る必要ないでしょ!」
「ほっほ、すまんのぉ。ついつい散歩したくなったのじゃ。それに、どこに行こうとお主が迎えに来てくれるじゃろ?え~……」
「もう、また忘れちゃったの?私の名前は『ピース』!おじいちゃんの孫よ!」
「おぉ、そうじゃったそうじゃった。ピース、ワシの愛する孫よ!」
 
 どうやら此方に向かって来たのはバウフ爺やの孫のようで、なかなか帰ってこない彼を探しに来たようだ。この様子だと頻繁に起こることらしい。

 ピースと名乗った少女はバウフ爺やを叱るが、当の本人はお気楽な様子で笑う。そんな様子見てピースは頭が痛そうに溜息を吐いた。
 年齢的には俺達と同じかそれより下だろうに、彼女からどこか哀愁を感じる原因が誰なのかは火を見るより明らかだった。

「全くもう、都合がいいんだから……あっ、ごめんなさい。貴方達がおじいちゃんの足を止めてくれたのね?ありがとう」
「いや、俺達は少し話をしていただけだ。それはそうと、色々と大変そうだな……」
「えぇ……お母さんによると、おじいちゃんの放浪癖は若い頃かららしくて苦労してるのよ。しかも放浪に一貫性もないから、今日はすぐ見つけられたけど酷い時は……って、こんな所で長話もダメね」

 疲れた様子から一転、顔をペシペシと叩いて気分を入れ替えたピースは元気な一人の少女へと変わった……いや、戻ったようだ。

 彼女は俺達の事を歓迎するように手を広げ、自己紹介と一つの提案を俺達に投げ掛ける。きっとこの感じがいつも通りなのだろう。

「改めて、私の名前はピース。ここであったのも何かの縁。おじいちゃんを引き止めてくれたお礼も兼ねてウチの店に来てくれないかしら?絶対損はさせないわよ!」
「俺の名前はテル、よろしくな。そこまで言うなら行ってもいいが、なんの店なんだ?」
「私はシエだよ~♪よろしく!」
「テルとシエね、よろしく。私の家ではとある事業を経営してるの。この街周辺や湖を住処にする魔物の食材についてのね」

 どうやらただの飲食店とは少し違って、料理ではなく商材関連の研究をしている所なのだろう。先程この街の目玉食材を口にしたばかりの俺達は簡単に釣られてしまう。

 もしかしたら、何処かの物知りなおっさんのせいで美食の探求者になってしまったのかもしれないな。
 
「へぇ……それは興味あるな」
「美味しい物が食べられるならどこだって行くよ~♪」
「ワシの名は……ええっと、なんじゃったかの?」
「おじいちゃん、それはもういいから……。二人とも、ちゃんと着いてきてね!」

 ピースはバウフ爺やを背中に背負い、スイスイと人混みの中を進み消えていく。彼を連れて人混みを移動するのはもう慣れっこなのだろう。

 シエの腕を掴んではぐれないようにしつつ、気配を頼りにピース達を追いかける。するとピース達はだんだん街の中心から離れて行き、遂に街の外にまでたどり着いた。

 この街では魔物が人を襲うことは無いため、魔物避けの柵こそあるが街の外が見えないほどの防壁はない。その為、街の中から森や草原の様子が簡単に見えた。
 だが、俺達が見ている先に拡がっているのはただの草原ではなく牧場のように柵で囲まれている場所であった。

「凄いな……。羊型や牛型の比較的温厚な魔物が飼育されることもあると聞くが、明らかに戦闘向きな爪や見た目の魔物まで大人しく飼育されている」
「だね~♪それに全く別の種類の魔物も放し飼いされてるよ?なんだか不思議~」
「二人とも、こっちが入口よ!」

 魔物と言えば人の命を奪う危険な存在だと認識している俺達からすれば、何処か違和感すら感じる不思議な景色。
 食しても体に害が無いとは言え、少なくとも美味しそうには見えない魔物ばかりであった。

 ピースはこれをとある事業って言ってたよな?人気の少ない場所とはいえ、これ程大きな敷地があるということはかなり大きな事をしているのか?
 それこそ、この街の食生活を改変するぐらいに……。

「どう?驚いたでしょ。この街の人々ならあんまり驚かないけど、観光客ならものすごく驚くの!あ、二人は観光客よね?」
「あぁ、観光客だ。確かにこの光景には驚いたな。あの爪の長い魔物だったりは、他の魔物を襲ったりしないのか?」
「そんなこと今まで起きた事ないわね。むしろ人懐っこくて、撫でたら猫みたいに喉を鳴らすのよ?」
「えー!?私も撫でてみたいな~♪」
「ほっほ、彼等を飼育する環境作りはちと苦労したんじゃぞ」

 よく観察してみると、遠くの方で爪の凶悪な魔物がやけに頑丈そうな魔物に首を擦りつけている様子や少し地面が凹んだ場所で丸くなっているのが見える。本当に猫みたいだな。

 他にもスライムのような魔物や、小型の魔物。人型そこ居なかったが、石や木に擬態した魔物も沢山居る。
 まさか、ああいった魔物も食べられるということなのか……?!

 俺達は今まで挑戦することのなかった未知に興味津々になりながら、ピースの後を追うのであった。


♦♦♦♦


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