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五章 帝国の洗礼

百九十八話 自身の守れる物

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『所有者の権能』。恐らくは無意識下で自らが所有物たと認識した物体に作用させることが出来る能力。
 能力範囲が所有物という限られた物品が故にその効力はかなり強く、影響範囲は恐らく海外……つまり、彼の本拠地があるであろう宗教国にまで届いてもおかしくない。

 更に言えば、常に魔道具を使用している為に魔力を供給しているであろう魔力の筋が隠れていて見つけることが殆ど不可能であった。

「テル君!それなら!」
「あぁ、わかってる!ガイス、とにかく攻め続けろ!」
「ウガァァ!!」
「無限の魔力を前にまだ戦うつもりかい?愚かだね」

 供給路を断ち切れ無いなら、供給口を壊してやればいい。それこそが俺の能力本来の力だ。

 とはいえ、俺が紋章を切れる事は研究者も情報として知っているだろう。対策をしているかは定かでは無いが、最低限の警戒はしてくるはず。

「ガイスの動きが少しずつ悪くなって行ってる。そろそろ限界が近い……!シエ、一発行けるか?」
「いけるよ~♪……『炎槍銃』!」
「その魔術はもう届かないよ」

 研究者は炎の槍に対して、魔力球を凝縮した小さいが頑丈な壁をぶつける。恐らく何度も喰らったことで魔術に関してもあらゆる対策を考えているのだろう。
 
 だか、そこで終わるシエではない。貫通力に特化した槍は壁の硬度に負け潰れかけるが、それが起因とするように光を放ち始める。

「芸がないと思った~?残念♪『ど~ん』!」
「……爆発したのか。だが、その程度の爆発では僕の魔道具は……」
「ガァァァ!」
「何っ!?」

 シエの魔術を警戒すれば必然的に防御はシエの方向が厚くなり、反対側は薄くなる。基本的に気配感知のできない研究者は反対側にガイスが来ていたことに気が付かず、腕力で魔力球の壁を吹き飛ばされ侵入を許す。

 そのままガイスは拳を振るおうとするが、流石に多重思考だと豪語するだけあって状況判断と対処は手早い。

 だが、思考ができたところで対応しきれなければ意味は無い。

「俺に障壁は無意味だ。『魔刻閃』」
「くっ、やはりお前は危険だ!」
「グァァ!!」
「調子に、乗るなァァ!」

 あえて最も防御の硬い所の魔力球を消し飛ばし、ガイスと真逆の方向から研究者に切りかかる。

 直後、研究者を包んでいた魔力球が消滅し、俺達へそれぞれ向けた両手に莫大な魔力が溜まっていく。
 ……まさか、新たに魔力球を生み出す事で押し飛ばすつもりか!?

「ネル、避けろ!……ぐぅ!?」
「やばいでやんす!?回避でやんすよボス!」
「テル君!?レインちゃん、テル君を~!」
「ブルルン!」

 生み出された大量の魔力球に飲み込まれ、追いかけてくるレインの気配を感じながら上空まで持ち上げられる。

 このままだと空気の薄い場所にまで送られ窒息してしまう。俺を掴む魔力球は今にも骨を折りそうなほど力強く掴んでいるが、今ならこれすらも無意味だ。

「……『絶紋領・縮』」

 展開する紋章の範囲を自分を包み込める大きさまで圧縮する。範囲は半径一メートルの球体。
 理想は動きに合わせて変化する防護服のようなものだが、それほどの魔力操作の技量は持っていなかった。
 
 俺を持ち上げていた魔力球が消えてそのまま落下するが、追いかけてくれていたレインがしっかりと背中に乗せて回収してくれる。

「レイン、助かった!そのまま全速力で頼む!」
「ブルルン!」

 刀を構えつつしっかりと捕まりながら、ポルルが作った夢の世界から脱出する時と同じようにレインと魔力を合わせる事で一体となる。

 猛スピードで戻ってくる俺達を妨害するためか触手のように伸ばした魔力球が襲いかかってくるが、今の俺達に魔力でできた物体なんて意味をなさない。

 落下の力とレインの脚力が合わさる事で生まれた速力は、夜空を駆ける星の如く止めることは不可能。魔力球を真正面から消し飛ばしながら、研究者に接近していく。

「ぼ、ボス!止まっちゃダメでやんす!る止まったら攻撃が避けられないでやんすよ……!」
「ウ、ガ……」
「どうやらもう体が限界のようだね。さぁ、最後に楽にしてやろう!」
「だ、ダメでやんす!ボス!うごいて、動いてくださいでやんすよォ!!」
「させるかぁぁ!!」

 レインの速力のおかげで、ついに動けなくなったガイスの前に俺はたどり着くことに成功する。

 同時に俺達に向かって放たれる魔力の大群。少し発動までに時間のかかる絶紋領はもう間に合わない。なら、死ぬ気で防ぎ続けるしかない!

「『飛刻閃・乱』!はぁぁぁぁ!!」
「無限の魔力の前に持久戦をするつもりか?愚かとしか言いようがないな」

 もはや研究者の罵倒なんて聞く余裕も無く、一心不乱に迫り来る魔力を消し続ける。

 しかし、無限と言うだけあってどれだけ耐えても止まらない魔力の波。そして比例せず減っていく俺の魔力。限界はすぐそこだった。

「ガイス!お前が賭けた命はこんなもんなのか!そんな簡単にくたばるほど、お前の仲間の命は軽いのか!?」
「あ……ガッ……!」
「ぼ、ボス……」
「ネル!お前は何時まで逃げる気だ!何時までガイスに頼る気だ!?」
「っ!じ、自分は……」
 
 このままだと俺は押し負ける。シエの魔術で何とかなる可能性もあるが、魔術がここにたどり着く前にやられる。

 なら、せめて残り二人にも最後まで抗ってもらうとしよう。

「足掻け!世の中理不尽ばかりだ!だが、信じれるものはいつだって自分だけ……大切な物を守れるのだって自分だけなんだぞ!?それでもまだ、お前は逃げるのか!」
「じ、自分は……自分は……!」
「意味のわからないこと語ってる余裕なんてあるのか?」
「……かはっ」
「テ、テルの兄貴ぃ!」

 前方ばかり集中していた隙を突かれ、真横からの一撃を対処しきれず俺は吹き飛ばされる。どの道物量負けしていたんだ、特に変わりは無い。

 壁にぶつかり停止した体の痛みを感じながら、朦朧とする意識をなんとか保ちながら二人が勝つことを願うのであった。


♦♦♦♦♦


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 二千文字程度なので良ければ見てみてください!

 
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