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五章 帝国の洗礼

百七十八話 収集家の好み

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 迷うことなく進むガイスの後を着いて行くと、俺達は見覚えのあるマークのある店にたどり着く。
 当然、そのマークは女将さんから受け取った食器のマークと同じだ。

 いくら探しても見つからなかった店に簡単にたどり着いたガイスになんとも言えない感覚に覚えながら、無遠慮に店に入るガイスの後に俺達は続いた。
 
「よぉ、じいさん。久しぶりだな。相変わらず物が多い店だな」
「うぬ?……お主、もしやガイスか?」

 店の中の様子は沢山の物品が置かれており、飾ってあるのか放置しているのか分からないほどにもので溢れていた。

 そんな店の中心にはおそらくこの店の店主であろう老人がおり、その人物は熱心に何かを見ていた。
 
 ガイスがその老人に懐かしげに話し掛けると一瞬だけ怪訝そうな表情をしたが、すぐに思い出したのか親しげな表情に変わりゆっくりと立ち上がった。

「正真正銘、俺はガイスだ。昔みたいに子供扱いするなよ?」
「ふぉっふぉっ!久しいのぉガイス。昔と比べ、随分と逞しくなったのぉ」
「そりゃ、俺はマフィアのボスだからな」
「マフィア?そういえば『めーちゃん』がそんなこと言ってたのぉ。あの話は本当だったか」

 めーちゃん?まさかそれってメシーアさんの……女将さんのことか?
 もしそうなら、ガイス達家族とかなり親密な人なのだろう。

 そんな風に会話に入るタイミングをみ図らないがら老人の事を観察していると、シエが小声で俺に語りかけてくる。

(ねぇねぇ、テル君。このお爺さん別に変な所とか無いよね~?)
(……そうだな。ガイスが何故あんなに渋い顔をしていたの俺も分からない)
(そうでやんすよね!自分もそう思ったでやんすが、なんとなくボスの様子が変な気がするでやんす!)
(そうなのか?)

 ここに来るまでの途中にガイスは何度も何度も店主が変人で癖が強いから気をつけろ、と俺達に念押しして来ていた。

 しかし、今の所は彼から特に変なところは見られてはいない。寧ろ近所の優しいおじいちゃん感があるほどで、気をつけるような要素は見当たらなかった。
 
 それとは別に、ネルは老人では無くガイスに違和感を感じとったらしい。
 言われてみると確かに……俺達に話題が行かないようにしている気がしないでもない。
 
 そんな小声の会話が聞こえたのか、ガイスと談笑していた老人が俺達に気づく。

「ふぬ?ガイス、そちらの方々は?」
「あぁ、俺の舎弟のネルと、友であるテルとその仲間のシエだ。それはそうと、今日ここに来た要件だが……って、もう話聞いてねぇな」

 ガイスがそう言った途端、さっきまでのゆっくりとした動きはなんだったのかと思うほど素早い動きで俺達の目の前に老人は移動する。

 さらに俺達が驚きの声を上げるよりも早く、無駄のない動きで老人は俺達の全身を舐め回す様に観察し始めた。

「ふぬ?ふぬぬ?!ふぬぬぬぬ?!?」
「なんなんだ……!?」
「緩急の凄いおじいちゃんだね~♪」
「す、すごい足さばきでやんす!?」

 どうするべきか分からないまま、その機敏な動きに気圧されていると老人はその動きを止める。
 
 老人が停止した位置はちょうど俺の目の前で、そのまま流れるように獲物を前にした野生の獣のような瞳で俺の方に両手を乗せる。

 両肩から感じるその握力は、その細い肉体からは想像できないほどに力強かった。

「お主、持っておるな!」
「持っている……?な、なんの話しだ?」
「レアモノの事じゃよ!レ・ア・モ・ノ!この世に二つとない貴重で珍しい物の事じゃ!」
「この世に二つと無い……?」
「そうじゃ!」

 老人はそう言って迫りよってくるが、俺には何の事かさっぱり分からず戸惑ってしまう。
 
 一応それなりに価値のある物は持ってはいるが、それが唯一無二かと言われればそれは否だ。
 どれも店で買うことができるもので、希少かつ高価な物なんて全く思いつかなかった。

「あ、もしかして器の事~?」
「それは違うのぉ。確かに紋章の器はこの世に二つとない物だが、儂の好みとはちと違うんじゃ!」
「器でも無いのか……それは値段的な価値は問わないのか?」
「うむ!儂は珍しくこの世に二つと無いレアモノを集めておるのだ!その匂いがお主からする!さぁ、レアモノを出せ!」

 出す物出さなけりゃ絶対に離さないぞ。そんな言葉が顔に書かれてそうなほど興奮した老人の肩を掴む手の力が強くなっていく。

 このままじゃ俺の方がそのまま潰される……!そう思った俺は少しの逡巡の後、一か八かで『この世に二つと無い物』に当てはまる物を紋章の収納から取り出す。

「こうなっちゃあこの爺さんは止まらねぇ。なんでもいいから見せるだけ見せてやれ」
「こ、これでどうだ?恐らくまだこの世には一つしか無い物だ……!」
「お~、確かにそれなら当てはまるかもね~♪」
「ふぬ?これはこれは……」

 取り出したのはルバルイト聖教街にて、博士からもらった強化された市販の剣。
 元のランクは『黄』ランクであったが、強化されたことで二つも上昇し、『青』ランクになった現状唯一の物体だ。

 青ランクと言っても特殊な効果もないし、精々青ランク相当の頑丈さしか取り柄の無い武器だ。
 そもそも、俺は刀を使うので武器として利用することもない。

 だが、これをずっと寝かせておくのもあれなので利用できる時に利用すべきだろう。
 
「なんだそりゃ。ただの剣じゃねぇか」
「しかもそれってどこにでもある市販の物じゃないでやんすか?」
「そう見えるだろ?だがこれは特殊な方法によってランクが偶然にも二つ上昇した剣なんだ。現状、おそらくこの世で一本だけの産物のはずだ」
「……」

 俺が軽く説明すると、剣を受け取った老人は無言でそれを眺め続ける。どうやら査定?しているようだ。
 
 そして無言の時間が一分ほど経とうとしたその時、小刻みに老人が震えだしたかと思うと剣を頭上に掲げた。

「すっばらしい……!特殊な技術の使用だけでなく、更に偶然による産物……!まさに儂の好みじゃ!」
「そ、そうか。喜んでもらえて何より」

 老人は歓喜に満ちた顔で剣に頬擦りをし始める。紗綾に入ったままとはいえ、そのうち鞘から抜いて頬擦りしそうな勢いだ。
 
 そんな老人の様子に軽くドン引きしながら、そろそろ話を進める為に老人に問いかける。

「それはあんたに譲る。その代わり、情報提供してくれないか?」
「勿論だとも!儂の知っていることならなんだって話そう!ふぬ、コイツをどこに飾ろうかのぉ……」
「相変わらずだなぁ、爺さん」

 もはや俺達の事は眼中になさそうな老人を見て苦笑いをするガイス。

 本当に確かな情報が手に入るのか少し心配になりながら、老人が落ち着くのを待つのであった。



 ♦♦♦♦♦



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 二千文字程度なので良ければ見てみてください!
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