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四章 罪の元凶
百五十七話 専属のメイド
しおりを挟む気絶して倒れそうになったエメルドを抱えた俺はゆっくりとエメルドを横にし、せめて頭を傷つけないようにとタオルを敷く。
それにしても、アレがエメルドの能力か……。
恐らくエメルドの能力はエメルドのイメージ次第で魔弾ありとあらゆる効果を付与できる能力なのだろう。
そして何より、その本質は魔銃の性能を変える所にある筈。
こういった使用者のイメージで効果が変わるタイプの能力は、当たり前だが使用者の経験や見た事のある物に大きく影響される。
エメルドにとって最も影響力があるのは、勿論彼の三人の姉だろう。だからこそ、エメルドの魔拳銃を魔機関銃や魔散弾銃に変化させられたのだ。
……まだまだエメルドは自身の能力に関しての知識が浅く、本当の殺し合いもさっきのが初めて。
もし今後も強さを求めるのなら……俺も頑張らないとな。
俺は一度エメルドから視線を外してこの場にいるもう一人の人物に目を向ける。そう、リシュアだ。
もう俺がリシュアに対して殺意だとか憎悪だとかをこれ以上感じることは無い。
リシュアへのその黒い感情はもう出し切ったし、何度も言うが俺は別にリシュアの事を殺したい訳でもないからだ。
今、俺の中にあるリシュアへの感情は驚きだ。
いくらまともに身体強化も能力の使用も出ないとはいえ、紋章の毒は素の肉体には何の害もないし弱体化もしていない。
なのにも関わらずリシュアの剣筋はブレブレで基礎もぐちゃぐちゃ。そして何より、情緒が不安定にも程があった。
俺に敗北し、治すことが不可能な謎の傷を付けられ、更にはまともに能力が使えなくなる。
それは思っていたよりリシュアの精神にかなりのダメージを与えた様だ。
俺は何となくリシュアに近づこうと足を踏み出す。
しかし、その瞬間に小さな、されど鋭く研ぎ澄まされた殺気を背後から感じ取る。
「シッ!」
「……ッ!」
「……」
「レイン!」
「ブルルン!」
「……ッ!?」
俺は即座に反応して振り返りながら抜刀し、謎の人物をそのままの勢いで吹き飛ばす。
リシュアに近づくのを諦め、吹き飛ばした謎の人物を無駄に後追いせずエメルドを守るように立つ。
しかし、どうやら謎の人物は一人では無いらしく更に背後から奇襲をしかけてくる。
それに関しても襲われる前に気がついたが、足元にエメルドが居るので変に動けない。
なので事前に異空間に戻らせていたレインに指示し、奇襲に対して奇襲を仕掛けた。
「身軽かつ黒一色の服を纏った人物……。明らかなまでの暗殺者だな」
「「……」」
「で、暗殺者が俺に何の用だ?俺を殺しに来たのか?」
「「……」」
「いいえ、違います」
暗殺者は暗殺者でも、下された命令をただ忠実に従うだけのタイプの暗殺者なのだろう。
俺の質問に何の答えも反応も示さない二人の暗殺者の代わりに、一人目の暗殺者が出てきたであろう方向の道から一人の少女が現れた。
「お前は……リシュアのメイドか」
「リシュア様の専属メイド兼秘書でございます。お久しぶりですね、テル様」
「ああ、久しぶりだな」
突然現れた少女こと、リシュアの専属メイドは優雅に挨拶をする。
あの屋敷で一番積極的に俺をいじめていたのはリシュアなので、必然的にこのメイドと顔を合わせる機会は多かったのだ。
まぁ、所詮その程度の関係だが。
「で、何の用だ?」
「深い理由はありません。ただ、リシュア様を回収する。それだけでございます」
「……そうか。なら襲ってきた理由は?」
「それはテル様がリシュア様に近づいたため、殺そうとしているのでは?と勘違いしてしまいまして……。申し訳ございません」
まぁ、確かに。暗殺者の方は知らないが、少なくともこのメイドは俺とリシュアの関係を知ってる。
なら俺が復讐でリシュアを殺そうとしていると考えて当然か。
俺がメイドの言葉に何となく納得していると、メイドはついに本性を表す。
「まぁ、邪魔者と他家の次期当主なら、殺しても良いかもですが」
「……ほう」
そんな殺気を乗せた言葉が俺に振り下ろされる。
武力を持ってして上位貴族に居座る七紋章の血族。その家に使えるメイドもそれなりの武力を持っている。
専属メイドとなれば更に強いことだろう。だが……自分との実力差を測ることが出来ないようだ。
「あまり調子に乗るなよ」
「「「っ!?」」」
俺に対して殺意を向ける三人に、俺も本気の殺意をぶつける。殺意を向けられたのだからこちらも返すのは当然だ。
俺の本気の殺意に当てられた三人は目を見開き、全身は硬直してゆっくりと後ずさりする。
メイドは今まで浮かべていた余裕の笑みは驚愕と焦りに変わり、いつまでも俺の命を狙えるとばかりに構えていた暗殺者は自分の命を守る姿勢に入った。
俺は別に自分が最強だなんて一ミリも思っていないし、兄弟達と戦えば確実に勝てるなんてことも思っていない。
だが、この場に置いて武力による決定権の所持者。それが自分であるという自負。
何度も死にそうになりながら諦めず努力して得た実力で裏付けられた自信。
それが今の俺を『強さ』を構築する要素であった。
「いつまでもあの時の俺だと思うな」
「……そのようですね。確かに私達では分が悪いようです。ここは大人しく撤収させてもらいます」
どう足掻いても三人では俺には勝てない。メイドはそう理解したのだろう。
メイドは歯を食いしばり、拳を強く握りしめることで意識を強く保つ。そうしてリシュアを暗殺者達に背負わせ、そのまま大人しく去っていく。
最後まで、憎悪の籠った視線を俺に向けながら。
「ふぅ……俺達も戻るか」
「ブルルン」
俺は殺気を収め、エメルドを背中に背負う。ちゃんとエメルドの器も回収しておく。場所がわかるとはいえ、取り返すのが難しくなるかもだからな。
リシュアの方は大丈夫だろう。あれだけやったのだ、少なくともエメルド達が帰るまでは手を出せないだろう。
そういえば、シエは大丈夫だろうか?
そんな事を考えながらレインの護衛を付けて美術館に戻ったのだった。
♦♦♦♦♦
視点の変更が多くて申し訳ない……。次はシエ視点です。
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『【短編】殺戮に嫌気が刺した死神様は、純白少女に契約を持ち掛けられる』という作品も投稿してみました。
二千文字程度なので良ければ見てみてください!
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