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四章 罪の元凶
百五十話 二人目の再開
しおりを挟む「『ポルル』……」
「久しぶりだねテルお兄ちゃん。……あ、もうお兄ちゃんじゃないんだっけ?まぁ、どっちでもいっかぁ」
『ポルル・サンガシ』。俺の元妹でありサンガシ家における次女だ。
とても可愛い物好きで今も着ている服はドレスと言うより人形に着せるような可愛らしい服であった。
……だが、案の定その本性はその可愛らしい服だけでは誤魔化せないほどに醜くどす黒い。
「さ、サンガシ家のご令嬢様がどう言ったご要件でしょうか?」
「ん?別に貴方達に用なんて無いよ?暇潰しに来ただけ」
「そうでしたか……。これは失礼しました」
執事がポルルにここにいる理由を質問するが、あくまで暇つぶしだと答えるポルル。
確かに少し考えれば当たり前だ。ここは美術館であり、来る理由は芸術の鑑賞であろう。
俺達がホッと安心して一息つこうとした瞬間、殺意とも悪意とも取れぬ底知れぬ闇が俺達を襲う。
「でもそうだね……どうせ会ったなら、暇潰し相手にしちゃっても良いかな?」
「「「!?」」」
それは、無邪気なんて可愛らしい表現では表しきれない深く深く根深い闇。悪意でも憎悪でもない、何処までも単純で純粋な害意。
それこそが、ポルルの中にある闇の本質であった。
「……ぷぷっ、アハハ!そんなに怖がらないで大丈夫。ほんの冗談に決まってるでしょ?」
「わ、笑えない冗談でさぁ……」
「そもそも、他の七紋章の血族に手を出しだりしたら幾ら私でも怒られちゃう」
俺とシエは護衛としてエメルド達を背にし、ポルルとの間に入って武器を構える。明らかな害意を向けられた以上武器を構えるべきだ。
そんな俺達を見てポルルは笑う。それが冗談に引っかかった俺達を笑ったのか、抵抗しようとする行為自体を笑ったのか。
「でも……七紋章の血族じゃないなら大丈夫だよね?」
「……」
「あ~、やっぱりそうなる~?」
俺達に向けるその目は、まるで玩具を見るような見下した目。
どこまで行っても自分が格上で目の前の物は格下だと思っているのがサンガシ家の基本なのだ。
俺はその視線に対して……本気の殺意を込めて睨み返す。
俺はもう、お前の玩具でもなんでもない。
「……何?その目。もしかして、外に出て調子に乗っちゃったのかな?」
「何時までも自分の方が上だと思うな」
「上?何を言ってるのテルお兄ちゃん?私達に上も下もないでしょ?」
ポルルはゆっくりと俺に近づいてくる。
俺は刀を構えて何時でも攻撃出来るというのに、そんな事は関係ないとばかりにゆっくりと進む。
そして、俺の顔をその小さな手でゆっくりと撫でる。
「私達は血の繋がった兄妹、でしょ?」
至近距離で見つめ合う俺と同じ瞳の色をしている血の繋がった少女。
その目に宿るどす黒い光は、まるで俺を飲み込もうとしているかのようで。
俺は……その手を弾き、そのままポルルを斬り裂いた。
「テル君!?貴族様を……って、アレ?」
「そ、それはやばいです!……へ?彼女は……?」
「消えましたな……」
「な、何が起こったでやすか?!」
俺がポルルを切り裂いた瞬間、その場からポルルは何事も無かったかのように消え去る。
どうやら俺の予想通りだったようだ。
これは最初から俺達をからかって遊ぶのが目的だったのだ。
「も、もしかして彼女の能力ですか!?」
「その通りだよ?あの程度の催眠程度ならバレずに使えるんだ。面白かったでしょ?」
そして先程と同じ位置からゆっくりと歩いてくるポルル。
明らかに楽しそうなその様子は、イタズラが成功した子供のようであった。
ポルルの能力は相手に幻覚を見せる能力。先程のは軽い幻覚であったが、本気で使った幻覚は簡単に人の精神を崩壊させることが出来る。
俺は本気の幻覚こそ見せられたことはないが、それによって精神が崩壊した人間は何人も見たことがあった。
「な、何も面白くなかったかな~……」
「そう?私は面白かったけど。まぁそれは置いておいて、暇潰しは終わったからもう私は行くね?またね、テルお兄ちゃん」
「……ああ、もう会わない事を願ってるよ」
「アハハッ。あっ、そうだテルお兄ちゃん」
シエの言葉を軽く流し、ポルルはそのまま背を向けて美術館から出ていく。本当に暇潰しに来ていたようだ。
無駄に追いかける必要は無いので警戒は解かずそのまま見送っていると、ポルルは思い出したように振り返り俺を見て口を開く。
「ここに来たのは、私一人じゃないよ?」
「……どういうことだ?」
「じゃあ、今度こそバイバイ♪」
そう言ってポルルは今度こそ美術館を出て行く。
それと同時に、この美術館に元からいた少ない客もしれっと出て行く。どうやら事前に護衛が居たようだ。
それにしても、一人じゃないとはどう言う事だ?
護衛が居るということ?いや、そんな事をわざわざ言う必要があるだろうか。
それとも、もう一人元兄妹が……?年齢的になら三女が来る可能性もあるが……いや、それこそ言う必要が無いように感じる。
「ねぇテル君。今のって……」
「ああ、シエの想像通りだ」
「サンガシ家の令嬢に兄と呼ばれる存在……。まさか、噂の追放された?」
「えっ、えっ?て、テルさんって貴族なんですか!?」
シエは勿論、どうやら執事にも覚えがあるようで、俺が元どういう立場に居たか察し始める。
無駄に疑われてしまうのも嫌なので、俺は仕方なく自分の事を軽く説明することになる。
俺はなんとか分かりやすく説明するのと同時に、明らかな嫌な予感を感じ続けるのであった。
♦♦♦♦♦
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