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四章 罪の元凶
百三十七話 依頼の契約書
しおりを挟む「よぉ、お前ら。遅かったな。もう用事は終わったか?」
「いや、もう少し待ってくれ。シエもここで待っててくれ」
「了解~♪」
冒険者ギルドに入ると、椅子に座って何かを飲んでいるグランが予定通り俺達を待っていた。
俺はもう少しだけグランに待ってもらい、受付の列に並ぶ。お昼時だからかそれなりに並んでいる人が多かった。
しかし意外と人の周りは早く、数分もすればすぐに俺の順番が来た。
「お待たせしました。今回のご要件はなんでしょうか?」
「依頼の達成確認をしてもらいに来たんだが」
「了解しました。では冒険者カードをお出しください」
俺は言われた通り冒険者カードを取りだしカウンターに置く。
冒険者カードを受け取った受付嬢はカウンター下の魔道具で何かしらの動作をした後、どこからか取りだした硬貨が入っているだろう袋とともに冒険者カードを取り出した。
「はい、確認しました。こちら報酬になります」
「ありがとう」
「次の依頼をお受けしますか?」
「いや、今日は予定があるから明日受けに来る」
「了解です。依頼お疲れ様でした」
受付嬢と最低限の会話をし、列からさっさと離れる。長話するの後ろの列の人達にもグラン達も待たせるだけの愚かな行為だからな。
「またせたな。じゃあ行こうか?」
「お、もう終わったのか。依頼受けてたのか?」
「ああ、少し手間だが報酬が良いやつがあってな」
ここに来る前に受けた採取依頼に一つだけ依頼の達成に時間がかかるというものを受けていた。
依頼の内容は森の少し深いところで珍しい薬草を集めて欲しいというもので、かなり人気がなく依頼されて1ヶ月ほど経っていたので俺が引き受けたんだ。
シエに戦闘は任せ、図書館で調べた情報をもとに目的の本数をなんとか集めてギルドに提出した。
ちょうど今日まで確認の時間がかかると言われていたんだが、報酬はちゃんと払われているようだ。
ちゃんと採取できていて良かった。
「まさか一週間もかかるとはね~。依頼者さんも忘れてたんじゃないかな~?」
「達成確認までにそこまで時間がかかる依頼、ね。まぁ、どうでもいいか。じゃあ俺が案内するから着いてきな」
「よろしく頼む」
「さてさて、どんな胡散臭い店かな~?」
「ククッ。確かにあいつは胡散臭いが、店は意外としっかりしてるぜ?」
十分ほど歩くとウェルから貰ったメモ通りのものが見えてくる。あまり店がある場所……と言うよりも住宅街といった場所だが、本当にあるのだろうか?
いや、むしろ住宅街の方が繁盛するのかもしれない。表向きは何でも屋とか言ってたしな。
そんな事を思っているとグランは一件普通の家に見える建物の前に立つ。よく見ると店のような看板や広告?のようなものもちらほら見えた。
「邪魔するぜー!」
「邪魔するぜ~♪」
「……案外仲良いよな」
謎に同じ動作をするグランとシエに苦笑いしながら後ろをついて行く。
すると店の奥の方からひょっこりとウェルがでてきた。
衣服は俺達が初めて会った時の外出様の服とは違い、どちらかと言うと作業着に近い服を着ていた。
「おお!グランの旦那!お久しぶりですでさぁ!それにお二人はテルさんにシエさん!これは期待しても良さそうですねぇ……!」
「おう、久しぶり。商売の方はどうだ?」
「ええ、お陰様でかなり儲けさせて貰ってますぜ。今回もそこのお二人と大きめの仕事、貰ってるでさぁ」
「らしいな。じゃ、まずそっちの話からやってくれ。雑談は後からでも、できるからな」
「お気遣い感謝でさぁ。ささ、お二人ともこちらへ……」
そう言ってウェルは店の奥に入っていく。多分、部外者には聞こえないようにする為の防音の部屋でもあるのだろう。
一応、グランと視線を合わせて確認すると、俺の考えを肯定するように頷く。まぁ、そこまで警戒する必要もないか。
さっきまでウェルが居たであろう受付を通り抜け、扉が開いたままの部屋に入る。そこでは既にウェルが紅茶らしきものを用意していた。
「お二人共おすわりくださせぇ。改めて確認しますが、ここに来たということは商談を受けるということでよろしいでさぁ?」
「ああ、間違いない。一応情報を集めた結果、それなりに信頼できると思ったからな」
「胡散臭いのは変わらないけどね~♪」
「ありがとうございやす。胡散臭さはどうしても抜けねぇんでさぁ。それにしても、あのグランの旦那とお知り合いとは……あまり探りは入れては行けませんね。ではでは、こちらの契約書にサインをお願いしやす」
「わかった」
「なんの契約書~?」
「依頼を受けるにあたって守って欲しい契約でさぁ」
俺はウェルから差し出された契約書の内容を全て読み込む。……うん。特に変なところは無さそうだ。
契約書に書かれた内容は、大まかに言えば『お互いに裏切らないこと』、『この契約・依頼内容は内密であること』、『依頼を達成すれば対価として必ず報酬を出すこと』、そして『依頼対象を傷つけないこと』。
この四点を絶対的に守るという契約であった。
「依頼主がかなり高位とあって、こういったもので縛らないと流石に危険なんでさぁ。わかってると思いやすが、破れば死ぬのと同義だと思ってくだせぇ」
「ああ、最高位の契約書だからな。とはいえ、それにしては少し契約内容に甘いところがあると思うが大丈夫か?」
「それは依頼主の願いらしいでさぁ。何やら『依頼主の命令は絶対に従え』、みたいなのが嫌いらしいですぜ」
「へ~。依頼主ってお貴族様なんだよね?なんか意外~」
確かに貴族は傲慢というイメージがあるが、絶対的にそうなるとは限らない。擁護みたいになるが、良い奴も一定数居るのを俺は知っている。
だが、そういう奴が少ないのは事実。命の重さは平等では無く、一人の貴族の命の為に数百人が亡くなったりするのは世の常。
平民の数十倍かかる金で生活し、平民には必要のない物を得て上位の者と称えられ、相手はどんな命令も素直に実行する。
ならば傲慢な性格になってもおかしくないのだ。
「多分、依頼主は子供なんじゃないか?教会で儀式を行うらしいしな」
「あ~!確かに~!ならそういうのがないかもね~♪」
「そこまで知っておられやしたか。正しく言いますと、依頼主は貴族様の専属執事になりやす。そして護衛の対象として貴族様が指定されたんでさぁ」
「……ん?ちょっと待てよ?今更なんだが、なんで貴族を護衛する必要があるんだ?」
俺はふと思った事を口にする。良く考えれば当然の疑問だ。
ここに来るのは高位だろうが低位だろうが、大人だろうが子供だろうが関係なく貴族なのだ。
ならば俺達が護衛する必要もなく護衛が着いているはずだ。寧ろ着いてない方がおかしい。
「それに関してなんですが、オレッチも聞いたんですが詳しくは教えて貰えなかったでさぁ……。ですが、少しだけ聞いた噂があるんでさぁ」
「噂?」
「えぇ、実はどうやらその家は今まで娘しか生まれなかった様で、やっと生まれた長男らしいのですが……」
その噂は、俺を動揺させるには十分な噂であった。
「……どうやら、とても家を継がせられるとは思えない役立たずらしいんです」
♦♦♦♦♦
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