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四章 罪の元凶
百三十二話 進化の正体
しおりを挟むテルの視点に戻ります。
♦♦♦♦♦
気がつけば意識がもどり、目をつぶったまま椅子に座っている感覚を取り戻す。
目を開い手立ち上がっても相変わらず真っ暗な空間に俺はいた。
ふと後ろを向くと、少し離れた場所に大きな扉が見える。最初には無かったのに……なんとも不思議な場所だ。
俺は転ばないように足をしっかりと踏みしめつつ頬を軽く抓る。
うん、痛い。ちゃんと戻ってこられたようだ。
俺はズッシリと重い扉に手をかけてゆっくりと開ける。
すると外には俺達を待っていたであろう二人がおり、扉から出てきた俺を見つめていた。
その光景で意外だったのは、当然だなと言わんばかりにニヤついているグランに対し、こういう事に慣れてるはずのアラルドがまるで驚愕したように目を見開いていることだった。
「ククッ。よぉ、テル。お前にとっちゃぁ久しぶりだな。それはそうと、殺気というか気迫が隠せてないぜ」
「確かに久しぶりだな。……気迫?ああ、確かにそうだな」
俺は一度目を瞑り、深呼吸をして未だに昂っていた精神を落ち着かせる。そうだ、少なくともここでは戦う必要は無い。
そうゆっくりと精神を落ち着かせるとことに成功し目を開くと、アラルドもため息を吐くように深呼吸していた。
「……ふぅ~。いやはや、グランが言うほどですから帰ってくるとは思っていましたが、ここまで豹変するとは思いませんでしたよ」
「ククッ、俺もここまで変わるとは予想外だったよ。むしろあれだな、ここは天才より努力家の方が効果があるのかもしれないな」
「確かに、天才は誰も彼も自分が一番だと……あ、お久しぶりです」
「久しぶり。それで、俺はどれくらい扉の先にいたんだ?」
どうやらアラルドは俺の変化ぶりに驚いていたようだ。自分の事なのであまり実感は無いが……雰囲気とか変わったのだろうか?
俺はシエがまだ扉から出てきてないことを確認しつつ、入っていた時間について尋ねる。
あっちでは何ヶ月もたった気がするがここではどうなのか。
「お前が入って丁度六時間ぐらいだな。この砂時計が全部落ちたら時間だ」
「なるほど……。なら、もうひとつのこれが落ちきったらシエが?」
「そう言うことですね。逆に言えば、これが落ちても出てこなかった場合は帰ってこられなかったということになります」
グランが指した砂時計とは俺達が囲む机の上に置かれている小さな砂時計であった。
砂の量的に明らかに六時間も持つとは思えないが、多分そういう魔道具なのだろう。
「俺達からすれば六時間だったが、お前からすれば何時間……いや、何ヶ月だったんだ?」
「何ヶ月……あ~、ダメだ。思い出せない。あの中じゃ時間感覚は無かったからな。ただ、少なくとも千回は死んだな」
「千回……!?数回だけでも精神が壊れる者がいると言うのに、それはすごい精神力ですね……」
「ククッ、やっぱりお前はちょうどよく狂ってるな」
「褒め言葉として受け取っておこう」
まぁ、自分でも狂ってると思う。正直心が折れそうになったのは一度や二度ではないが、それでも耐えたのは自分でも褒めたい所だ。
俺はグランの言葉に苦笑いで返しながら、隣に置いてある刀を撫でる。
一度精神を落ち着かせたが、それでも今の実力を測りたいと思う気持ちが今も心で渦巻いていた。
そんな俺を見て俺の気持ちを察したグランは少し呆れたように笑う。
「やっぱりお前は戦闘狂だな。普通は休みたいと思うもんだぜ?ま、気持ちが分からないでもないがな。お前も見える様になったんだろ?」
「っ、わかるのか?」
「見える……ですか。さっきも時々言ってましたが、どういう意味なんですか?彼も帰ってきましたし、説明してくれませんか?」
グランの言葉に心覚えしかない俺を見て確信の笑みを浮かべるグラン。そしてそれに対してよく分からないと言ったようにアラルドは質問をする。
俺も感覚的にわかるだけで言語化するには難しいので説明が欲しい所だ。
「そうだな、個人差はあるが見た感じ俺が知っているのと同じな筈だ。テルが見えるようになったもの、それを一言で表すなら『少し先の未来』だ」
「少し先の未来?それって……」
「あくまで比喩だぞ?あの扉の先で千回以上の死闘を繰り返した結果、お前はどうなった?どうなって行った?」
グランは俺を見つめながらそう俺に問いを投げかけた。自分でも考えて答えを見つけろということか。
俺は一度黙って思考に耽る。経験を積んだことでどうなったか?
強くなった?いや、安直すぎるな。経験を積んだ?いや、経験を積んだことで経験を積んだなんて答えはお粗末すぎる。
戦っている途中に何度も考え実行した事……。攻撃を早く?動きを早く?……そうか!
「……無駄を無くして行った?」
「その通りだ。あの扉の先では肉体は成長しない。ならより早くより長くするには何をすべきかは明白。そう、動きや力の無駄を無くすことだ」
「そして思考すらも無駄を省いて行った、と」
「お、わかってきたようだな。その通りだ」
「あ~、なるほど。僕もわかってきました。その経験、軽くですけど僕もありますね」
なるほど。だからアレも見えるようになるのか。
俺の言葉に満足気に頷くグラン。それと同時にアラルドも理解を示す。もしや強い人は皆これができたりするのか?
だとしたら俺もまた一つ強者に近ずけたんだな。
そんな嬉しさと考え深さを感じている俺を見ながらグランは話を続ける。
「じゃあ話を続けるぜ。お前は経験を積んだことで、相手の動きを先読みするのに掛ける時間を極限まで省いた。それにより意識的に相手の動きを読むのではなく、無意識的に相手の動きを読めるようになったんだ」
「つまり、結果として相手の次の動きが相手の動きよりも先に見えるようになったって事だな」
「そういうことだ」
グランはそう言って話を区切り、一気に話したことで乾いた喉を潤すようにコップに入った紅茶を飲み干した。
……ん?話はこれで終わりなのか?じゃあアレは……。
俺が疑問に思ったことを更にグランに聞こうと思った直後、サラサラと砂が流れる落ちるだけであった砂時計の魔道具がチリンッと軽い鈴のような音を鳴らす。
砂時計を見ると、中の砂が全て落ちきっており時間である事を示していた。
それを認識した俺達の視線は一箇所に集まる。勿論、シエが入ったであろう『断罪の扉』だ。
鈴が鳴って数秒間、俺達に無言の緊張感が走る。
シエはちゃんと帰ってくるという信頼はあるが、もしもの時に対する不安と恐怖はどうしても拭いきれなかった。
しかし……そんな心配は一瞬にして吹き飛ぶ。
この扉はどうやら完全に気配を遮るようでグラン出さえシエがどうしているのか分からない。
そんな状況で一分が経ち俺達の不安が大きくなりかけたその時。
バンッ!と、心做しか痛そうな音が扉越しに響いた。
あまりに突然の事で俺含め三人とも驚きの表情を浮かべ硬直する。
そこから何度もドンドンとかガンガンという音が鳴ったり、扉が軋む音をさせたかと思うと力尽きたように扉に押し返されていた。
俺達がなんの音なのか理解し始めた頃、そんな騒音が突然止まる。
そしてその数秒後、突然俺達の体からスっと魔力が抜けたかと思うと、扉が爆音を立てて勢いよく開かれた。
「テ・ル・く~~ん♪私が帰ってきたよ~♪」
扉が開かれた先から、元気いっぱいで声を張るシエが胸を張って出てきたのであった。
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