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三章 再開の灯火
百七話 子供だましの力
しおりを挟む「さて、これで貴方の切り札?も対処しました。これでわかったでしょう?本気を出した私には彼を含め勝つことは出来ない。それでもまだやりますか?」
「……」
「シエさん……」
この場合、諦めるという選択は『死』です。私は誘拐されるだけかもしれませんが、死ぬよりも辛い目に会うかもしれません。
けど、それを認めたくなるほどにリュオデスは強いです。それに、私は結局なんの力にもなれませんでした。
きっとシエさんも万策が尽きた筈で……。
「アハッ♪アハハハハ♪」
「……?」
「し、シエさん?」
突然のシエさんは気がおかしくなったかのように笑います。しかし、私が見上げて見た表情には絶望や焦燥と言ったものはなく、まるで勝ちを確信した希望に満ち溢れた満面の笑みでした。
「んふふ~♪なんかカッコつけちゃってるけど、その魔術、何時までもそんな近くに持ってていいのかな?」
「何がですか?……まさか時限式!?」
「3♪2♪1♪」
「チッ!」
「0♪」
リュオデスはシエさんの言葉に焦り、私達に向けてその魔力の球を投げつけてきます。しかし、それは私達に届く前に発動しました。
爆風が来ます!そう思った私は身を縮めますが、更に予想外のことが起きます。
ぽふん!
「……は?」
「アハハ~♪どう?びっくりした?」
「……っ!?貴様!」
爆発すると思ったその魔力の珠は私達の予想を裏切り、気の抜けた音を立ててカラフルな花のようなものを撒き散らしました。
そして、それは最初からシエにからかわれていたのだと気づいたリュオデスは、青筋を立てて今までにない言い方でそう叫びました。
「あれれ~?口調が変わってるよ?勝ち目が無いのは私達の筈なのに、なんでそんなに余裕が無いのかな~?」
「ぐっ……この……!……ふぅ、私とした事が取り乱してしまいました。ですが、こんな子供だましでは私は倒せません。降参するつもりも無いようですので、その命を絶つことで理解させてあげましょう!」
「子供だましね~。……『風壁』!」
シエさんが作り出した風の壁によってリュオデスの攻撃が防がれました。どことなく、シエさんの雰囲気が鋭くなっているのを感じました。
「君の能力というかその弱点、わかっちゃった~♪」
「ほう?だからなんだと言うのですか!」
「まぁまぁ聴きなよ♪君の能力は相手の魔術を奪うことで間違いないけど、その弱点がわかんなかったんだ~」
私は少し前に聞いたことがある情報を思い出しました。
能力には、例えば回数制限や時間制限等の弱点が必ず存在すると。シエさんは今までの戦いでそれを探っていたのだと私は理解しました。
「で、発見した弱点の一つは消費魔力!相手の魔術を奪うには奪う魔術と同じ魔力を使わなければならい。あってる?」
「さぁ?どうでしょうか」
「まぁ、答えてくれるわけないよね~。で、二つ目。魔術を奪う時間はその魔術の使用難易度によって変わるってこと!」
その瞬間、シエさんから今まで以上の魔力の奔流を感じると同時に、かなりの量の魔力を奪われる感覚を覚えました。
「つまり、君が奪えない量の魔力を使った魔術と、間に合わないレベルの難易度の魔術を使えば良い!」
「っ!?こ、これが貴方の本気という訳ですか!」
正真正銘のシエさんの本気。大男の時に見せたあとの時の魔術は魔力を圧縮した為にあまり感じとれませんでしたが、明らかな魔術構築により感じ取れる莫大な魔力。
しかし、そんなシエさんをただ見ているだけな筈がない……と思いましたが、これまた予想外な事にリュオデスはその場から一切動きませんでした。
「いいでしょう!その挑戦、受けて立ちます!貴方が本気で生み出した魔術、またしが奪い取ってあげましょう!」
「アハハっ、そう言うと思ったよ~♪……現世に蔓延る深淵よ、この地に降臨し、万物の真を欺き、あるべき世に戻したまえ……」
「さぁ、見せてみなさい!」
シエさんが祈るように構えていたスティックを頭上に振り上げる。そして、その馬鹿げた魔力量を誇る大魔術を構成する魔法陣を生み出し、そこから見た事もない真っ黒な球体を生み出した。
「『遊形黒色華郷《ダークネス・バースプレイス》』!!」
「素晴らしい……!これが私のものになる!」
シエさんが詠唱を言い切ると、その見るだけで恐怖してしまいそうな程の莫大な魔力とおぞましい気配を持ったそれはリュオデスに向かって放たれる。
「『魔徒の特権』!!」
「奪わせるかぁぁ!!」
「私の物だぁぁ!!」
「うっ!?ぐぐぐぐ!!」
「し、シエさん!頑張って!」
シエさんはまた頭が痛そうに頭を抱える。私にはシエさんを応援することしか出来なかった。
でも、シエさんの言うことが正しいなら、これほどの魔力を持つ魔術を奪えるほど彼に魔力が残ってるとは思えません。
これなら……!
「魔力が足りなくなる事など、対策しているに決まっているでしょう!!」
「あ、あれは魔力の入った魔石ですか!?」
魔術師が魔力の枯渇に困った時に、手を出すのが魔力を回復させるポーションか自分の魔力を保存しておける魔石のどちらかです。
ポーションは使用者の魔力の総量に比例した量を持続的に回復できるのに対し、魔石は魔石に入れられた魔力量だけを得ることができる物です。
魔力が多い人にはポーションの方がいいですが、一瞬で回復できるのは魔石。今すぐ魔力が欲しい彼にはもってこいの物でした。
「そしてもう一つだけ教えてあげましょう!この能力は、魔力をさらに余分に使えば早く奪うことが出来るのですよ!全ての魔力を使って、確実に奪ってあげますよ!!」
「そ、そんな!シエさん!頑張ってください!!」
「むぐぐぐ……!」
これほどの魔術が奪われてしまったら、もう私達はどうすることもできません。
シエさん!頑張って!頑張ってくださいい!!
「私の勝ちですね」
「……あっ」
もう少し、もう少しでリュオデスにその球体がぶつかる!と言う所で、シエさんは魔術を奪われてしまう。
ああ、もうダメだ。私の頭に絶望が広がります。シエさんの最大魔術が奪われた以上、もうどうすることも出来ません。
何よりも悔しいのが、私はこの戦いに何の役にも立てなかったことでした。
「はぁ、はぁ。何と素晴らしい魔術。使ってしまうのは惜しいくらいです。ですが、せっかく奪ったのですから、この魔術で貴方達を塵も残さず滅ぼしてあげましょう!喰らいなさい!」
「う、うわぁぁ!!」
「……」
まさに深淵のようなもの真っ黒で膨大な魔力を放つ球体が私達に迫ります。
先程のシエさんの大魔術によって魔力を吸われたレインちゃんはすぐには能力を使えないようで、回避もできません。
私は縋るように何も言わないシエさんに抱きつき、それから目を逸らして叫ぶことしか出来ませんでした。
ですが、そんな私を慰めるように優しい手つきでシエさんは私の背中を撫でました。その手つきを感じ、ふと私はそのシエさんの表情を見ます。そして、私はその表情に驚愕しました。
その表情は恐怖でも絶望でもなく……まるで全ての計画が上手くいったかのような、狡猾な、楽しそうな笑みでした。
「死ねぇぇぇ!!」
「……三つ目の弱点」
「シエさん……?」
「それは……」
迫り来る黒い球体。もう終わりだと思ったその瞬間。なんとその球体にヒビが入るように白い光を放ち始めました。
な、何が起こってるんですか!?
「その魔術を解析するのには、魔力の消費量関わらず時間がかかること」
「なっ、何が!?」
その瞬間に、先程の光り輝く魔術のようにカラフルな花やその花びら、お人形さんに何かキラキラした物が爆発したかのように溢れ出ました。
そしてそれだけでなく、私の体が何か暖かいものに包まれ、体の奥底から力が湧いてきます。
「こ、これは魔力?」
「ブルルン?」
「そゆこと~♪」
「な、何がどうなっているんだ……」
確実に勝ったと思って勝ち誇った笑みを浮かべていたリュオデスは、意味がわからないとばかりに呆然とした表情で硬直していました。
その気持ちは分かります。だって、私も全く理解できてませんですから。
「フフン♪じゃあ教えてあげるね~♪さっきの魔術は殺傷能力なんて一切ない魔術なんだよね~♪つまり、見た目脅しってこと~♪」
「な、なんだと!?では、さっきの異様なほどの魔力は……!?」
「それは、この魔術が当たった者に与えるために無駄なほど私がつぎ込んだ魔力だよ~♪ついでに言えば、その仕組みを理解されないようにこのお花さん達を生み出す術式を組み込んで、分かりずらくしたってわーけ♪」
「そ、それってかなり博打じゃないですか?」
「うん、そうだね~♪もしかしたら魔力付与の効果がバレてたかもしれないけど、結果オーライ♪」
そ、そうかもしれませんけど……。もしもそのまま奪われなかった場合のことも考えると……。まぁ、シエさんの企みが成功したのでこれ以上考えないようにします。
「ふ、ふざけるな!そんなことがあってたまりますか!」
「それが起きてるからこうやって逆転してるんだよね~♪」
「ぐっ……クソが!貴様ら下等生物に神に選ばれた私が負けるはずが無いだろうがァァ!!」
「それが本性か~。興醒めだね♪レインちゃん!」
「ブルルン!」
「ゴホォ!?」
魔力が完全にすっからかんで身体強化の無いリュオデスがレインちゃんの攻撃を避けられるはずもなく、軽々と空中に蹴りあげられる。
それを見計らったようにシエさんはレインちゃんから飛び降り、魔力をスティックに詰め込む。
「ついでに喰らえ~!『三属性衝撃波《下等生物はお前だ》』!」
「ぐぼほぉぉ!?!?」
シエさんのスティックは丁度よくリュオデスの腹に直撃し、そのまま壁にとてつもない勢いで衝突。そのまま壁を吹き飛ばし、向こう側の壁にぶつかりそのまま完全に気絶しました。
数秒経ちますか、リュオデスから回復魔術が使われる気配は全くしません。
つまり、この戦いは私達の完全勝利で終わったのでした。
「ふ~、スッキリした~!さて、さっさとあいつを拘束してテル君の所に行こっか~♪ちょうど、穴が空いた方に直進した先に居るっぽいよ~♪」
「そ、そうですね!行きましょう!」
「ブルルン!」
……シエさんは本気で怒らせないようにしよう。
そう思った私は、特に何も言わずにシエさんの指示に従うのであった。
♦♦♦♦♦
次からはテルに視点が戻ります!
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