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三章 再開の灯火
七十三話 対応の言葉
しおりを挟む本の声に反応してギルド内がザワつく。ここまでハデな格好なのにも関わらず誰も気がつかなかったのか?
「ま、安心しておきなさーイッ!この依頼の責任者は私。だから、アナタ達は私がちゃんと守るーワッ!あら?噂をすればーバッ……」
「アザマ~すっ♪」
「この気配は……」
「失礼します!とある冒険者について話が……あ、貴方達!ここにいましたか!」
ギルトのドアを勢いがありつつも最低限の丁寧さを込めて男が開けながらそう言った。
その男は、先程も話かけてきた今とは違って感情の読み取りにくい店員であった。
今の感情は『焦り』と『驚き』だろうか?
後、シエ。そのアファーの真似はワザとなのか変に影響されてるのかはっきりしてくれ。
「申しわけございませんが、私達ラウ商店はあなた方に用があります。ご同行お願いできますでしょうか?」
「ちょっと失礼。私はこのギルドの管理人の一人なんだけードッ。この二人を連れてどこ行く気かしーラッ? ちゃんと理由込みで証明プリーズッ!」
鬼気迫るような様子で俺達に迫り寄ってくるが、その前にアファーが椅子から立ち上が男の行く道をさえぎった。
「冒険者ギルドの関係者の方でしたか。それならば説明致します。つい先程、ラウ商店本店に黒騎士という犯罪者が突然侵入し、店内を荒らすだけ荒らして去っていきました。その際、黒騎士が彼等が持っていた箱の中から取り出した謎の魔法道具を店内に設置しており、それを運んでいた彼等は共犯の可能性が高いと思われたので、事情聴取の為にご同行を……」
「それを求める立場は本来、貴方達被害者の方ではなく憲兵等の警察機関ではなくーテッ?そもそも、今のような勝手な状況証拠だけで判断されて平等な扱いがされるとは思えないーワッ!だから、彼等を契約で守る立場として、貴方達による彼等の勝手な連行を拒否するーワッ!」
「なっ、勝手はどっち……!」
「どうしても連れていきたいならちゃんと法律に則った方法を提示しなさーイッ!」
冒険者と依頼者は冒険者ギルドを介入することで、言いがかり等の不利益から両者への保護を行っている。
俺達が直接犯罪を犯したなら話は別だが、今回のように依頼の届け物が犯罪物であったり犯罪に使われたりしたとしても、ギルドはその冒険者は依頼主(犯罪者)に利用されただけであって共犯ではない、という保護をすることが出来る権限を冒険者ギルドは持っているのだ。
「くっ、話になりません!兎に角、彼等を連れていきます!」
「はぁ……なら、私のアフロを超えていきなさい」
「はぁ!?意味のわからない事……ブォ!?」
アファーも話にならないと思ったのか、椅子に座り直して頭を下げ、その大きなアフロを俺達の前に出した。
そんなアファーの謎の行動に苛立ちが最高潮に達したのか、俺たちの前に差し出された邪魔なアフロ退けようと腕で叩きあげたその瞬間、ドゴッ!というアフロが鳴らしていい音では無い音が鳴り響く。
そして明らかに男が歩く速度より早い速度で男は弾き飛ばされ、そのままギルドの床に倒れて気絶した。
「「……え?」」
「あら?あらあーラッ?まさか私の頭にぶつかって不幸にも気絶しちゃったみたいーネッ!なんて不幸な男なのかしーラッ!」
……至近距離に居た俺だからわかったが、男がアフロに触れた直後に一瞬アフロがほんの少しだけ増量が増した。
それはつまり……。
「ネッ!不幸な人がいるよーネッ!」
「で、ですね~。アハハ~……」
「ほ、本当だな……」
ここにいる誰もがアファーに対してこう思った事だろう。
絶対ワザとだろ、と。
そこからなんやかんやあって俺達の容疑はほとんど無くなった。
あの後やって来た憲兵に少し話を聞かれたが、あの時の状況を軽く聞かれただけで終わり、アフロで事故った(?)彼は不幸な事故として処理され、くちど……様子見の為に一週間ほど入院することになったらしい。
どんな治療がされるかはご想像におまかーセッ!らしい。
いや本当にどんな治療なんだ……。
知りたいけど知りたくない。俺の知識欲が恐怖に負けたのは久しぶりだった。
まぁ、あんなことがあったのだ。ワンチャン刺客が送られてきても可笑しくないので注意しておいた方が良いらしい。いや、怖い事言わないでくれ。
じゃあ危険なので野営場での野営の練習は辞めておこうかという話になったが、アファーとしてはそこらの宿屋に泊まるより野営場の方が護衛を近くに起きやすいとの事。
野営場は自分達冒険者のプライドを持ってお互いがお互いを見張っている。
露骨な権力や金ではそのプライドで構築された包囲網のようなものは簡単には破壊できないのだ。
ラウ商店から完全に言いがかりで嫌われてしまった俺達。それが俺達の今後にどう影響するのか、俺達にはまだ分からなかった。
♦♦♦♦♦
ここはどこかのどこかの豪華な部屋。そこには三人の人物がいた。
「クソクソクソ!少し力を手に入れただけの平民風情が正義面して俺の店を荒らしやがって!くそが!」
「ご主人様、落ち着いてください」
「俺は落ち着いている!」
男は声を荒げて暴言を吐きつつ目を血走らせ鼻息も荒く、手足はせわしなく動き物にそのストレスをぶつける。
まるで全身で苛立ちを表現しているような様子なのに口では冷静だと豪語している男性が一人。
もう一人のその男をご主人様と呼んだメイドらしき女性が一人。
そしてもう一人はその男を苛立たせる報告をした人物であった。
彼らが話している内容は、昨日起こったラウ商店黒騎士襲撃事件について。ラウ商店は苛立っている男が資金提供してもらう代わりに男の指示する事をこなす関係であった。
その資金はかなり多く、報告をしている男は苛立ち気な男に歯向かうことなど出来なかった。
「くそっ、もういい!さっさと続きを放せ!」
「は、はひっ!つ、続きですが、黒騎士の共犯と思われる人物が居まして……」
「何?!捕まえたのか?!」
「い、いえ、冒険者ギルドが邪魔して失敗に終わりました」
「チッ……!平民共が……。そんな奴さっさと始末しろ。変に情報を握られてしまう前にな」
「り、了解しました。直ちに暗殺者を雇います」
「ああ、もう報告はいい。さっさと店に戻って店を再開しろ」
「は、はひっ!失礼します!」
苛立ち気な男はもう飽きたと言わんばかりに報告人を下げさせる。
戻れと命令された人物はその苛立ちが自分に向かわないうちにさっさと部屋を出ようとしたところ、突然メイドらしき人物かろ声を掛けられる。
「一つだけ質問良いですか?」
「え?あ、はい。なんでしょう?」
「おい、勝手に質問をするな」
「すみません。その人を始末したならそれをが任す必要がありますので……」
「ふん。さっさとしろ」
「ありがとうございます。その共犯という人物の名前と性別と特徴を教えてもらえませんか?」
メイドがメモ帳を取り出して報告者にそう問う。
まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかった報告者だが、男が持っている数少ない情報を絞り出して口にする。
「え、あ、えーと……確か名前は『テル』。男で刀を持っていたらしいです。はい……」
「なるほど。名前は『テル』。性別は男で武器は刀……。はい、もう大丈夫で……」
「待て」
ずんっと、今日一番の低い声が部屋に響く。
苛立たし気な男の様子は苛立ちより怒気に近くなり、殺気に近い気迫を出し始める。
「ひ、ひぃ……」
「ご、ご主人様?」
「俺の滞在期間はあと何日だ」
「い、一週間ほどですが……」
「よし、共犯を暗殺者での処理は無しだ。そいつは……」
殺気を放つ男は壁に立てかけていた刀を手に取り、魔力を流して紋章を浮かび上がらせる。
その模様は刀の様な模様が五本ほど描かれ、背景は炎の様な模様であった。
刀の模様は、ある貴族家にのみ描かれる紋章の模様だった。
男が脳裏に思い出すのはつい先日話した弟との会話。
『ねぇねぇ、リシュア兄さま。つい最近こんな噂を聞いてね。テルって人が、王都に来てるらしいよ?刀を持ったね。不思議だね~。あはは!』
「……俺が、直々に殺す」
今までの不機嫌そうな表情を一転し、満面の笑みを浮かべる。
その笑みを表現するには『悪』が最も当てはまる。ある意味、誰もが想像する悪徳貴族の笑みを、男は浮かべるのであった。
♦♦♦♦♦
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