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三章 再開の灯火

五十九話 始まりのロウソク

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 あの事件から四日が経った。

 その間に俺達は休息を取り、肉体的疲労の回復に務めていた。

 因みに、あの事件は想像以上の大事になったので通称『リュートンドーム事件』として国中に広がることになった。

 この事件が他国からの戦時的襲撃なのか、それともドラゴンが起こした事なのか、それとも全く別の事なのか。それに関して一切の証拠が見つからず、犯人が誰なのかは誰にも分からなかった。

 現在ドームは閉鎖され、沢山の調査部隊がドームを探しており、俺達も色々と話を聞かれた。
 正直、俺達も大した情報を持っていなかったので直ぐに解放された。

 あえて言うなら、最後の方に聞こえた謎の声だが、それに関しては俺以外に聞こえていないという事であまり重要な情報としては判断されなかったようだ。

「ま、そういう能力者がいてもおかしくないからな。俺は覚えとくぜ」
「助かる。こればっかりは証拠も何も無いから信じてくれ、としか言えないからな」
「私も信じるよ~♪」
「それに、君の能力を考えればありえない話ではないしね」

 ここ、『宿屋ムア』に居るのは俺とシエとグラン、そしてレイがテーブルに向かって座っていた。今は夕食待ちだ。

 二日前にレイとついでにグランに俺の能力について改めて説明をした。

 レイは一度聞いているが、もう一度聞いても衝撃が勝ったらしく、数秒の沈黙の後苦笑いしながら受け入れた。
 普通に聞けば馬鹿げた能力ではあるが彼も切った瞬間を見ているのだ。信じるしかない。

 グランは聞いた瞬間、合点がいったかのような表情を見せた。やはり何かそう思う根拠があったのだろう。
 もしかしたらゼロスの仲間の生き残りから聞いたのかもしれない。

 その後、俺はレイの能力も聞くことになった。
 あの戦いの最後に見せたあの雷。あれがレイの能力であり、その名は『雷槍纏い』。正に槍使いであるレイに合った能力で、ランクは『青』だ。

 その効果は名前通り雷を槍に纏わせる能力で、想像以上に色々なことが出来る便利かつ強力な能力らしい。

 そしてランクに関してだが、魔術における基本的な六属性に入らない属性の能力は高ランクに属することがある。
 更に槍だけに特化した能力なのでその分協力であり、そこが総評として『青』ランクになったと思われるらしい。

 因みに、流れでグランの能力を聞いたがなんやかんやあって流された。いつか絶対にその能力を引きずり出してやる、と心に決めた瞬間だった。

「それはそうと、お前らは次に王都に行くんだろ?」
「ああ。訓練も中止になったし、特に途中の街にも用事はないから基本的にその予定だな」

 王都までの道のりには、残り二つの街がある。と、行っても正直その街に用事は無いので宿で休んだ次の日には街を出て約三日間の移動だ。

 王都までの直行する馬車もあるにはあるが、少し値段の身体的疲労を考えると途中に街の宿を挟んだ方が良いとシエと話し合ったのだ。

「因みに、どうして王都に行くの?」
「そうだな。一度王都を観光してみたいというのもあるが、やはり王都が一番物流が多くて知識や情報が手に入ると思ったからだな」
「私達だけの移動手段とかも探してるんだ~♪」
「なるほど、いい判断だ。なら、そんなお前達にお遣いを頼んで良いか?」
「「お遣い?」」

 そう言ってグランは紋章から謎の箱を取り出し、俺達の前に出す。
 少し魔力の気配がする事から魔石が入っているか、魔術か何かでロックをかけているのがわかった。

「とある人にこれを届けて欲しい。そいつの名前は『アファー』。王都一の派手男であり、王都一の変人だ」
「「えぇ……」」

 お遣いをこなすこと自体は色々と世話になっているグランの為なら別にいい。だけど、届け相手の説明が異様過ぎた。

 王都一の派手な変人って……。逆にすごい見たくなってきたな。

「僕も一度見たことあるけど、本当に師匠の言う通りだったよ……」
「冒険者の中でも有名なやつだからな。王都にある冒険者ギルド本部に行って『グランからアファーへの届け物です』って言えば通してくれるはずだ」
「わ、わかった」

 俺はずっしりと重い箱を手に取って紋章に収納する。しまってから思ったが、グラン程の人物の届け物って物凄い重要な物なのでは?

  「テル達と僕達とは今日でお別れか……僕とはたった一週間程度の付き合いだけど、楽しかったよ」
「ああ、俺もだ」
「そういえばレイ君とおじさんはこれからどうするの~?」

 シエは俺も少し気になっていたことを代弁する様に二人に質問する。レイは少し悩んだ後、自分の予定を話した。

「そうだね……。僕は後二日ほど依頼を受けて資金を稼いだ後、『ゼゼルボト領』に行く予定だよ」
「ゼゼルボト領って確か、鍛冶が盛んな領だったよな?」
「ああ、新しい槍が欲しくてね。ほら」
「あ~…ヒビが入っちゃってるね~」

 レイが取り出した槍の先端はヒビが入っており、直ぐにでも壊れてしまいそうだった。

「それって……」
「ああ、四日前の戦いの結果だよ。僕の能力は強力な分武器への負荷が凄くてね。基本的に使わないようにしてるんだ」

 確かに、あの時のレイの攻撃はそれこそ雷そのものの様だった。

「ま、武器や能力の扱いも含めて僕の実力だから、槍を壊してしまったのは単に実力不足なだけなんだけど。ね、師匠」
「ああ、世には木の枝で鉄を切る奴もいれば、常に体を苛む呪いみてぇな能力も完全に掌握して力にする奴もいる。武器や能力が常に味方だとは限らない。つまり、武器や能力に使われてる間はまだまだ未熟って訳だな」

 そう思うと、俺はまだ能力に使われているのでは無いのだろうか。
 自分の能力に紋章を切るイメージしかない今の俺では何時までも能力に使われたままな気がした。

「まぁ、今日は楽しもうぜ!ムアばぁにはちょっとしたお祝いを頼んでおいたからな!」
「はい、ちょうどできましたよ」
「おっ、待ってました~♪」

 グランが空気を変えるように言った所でムア婆さんが四人分の料理を持ってくる。
 いつもと違って質素な料理ではなく、少し豪華な手の込んだ料理と、何故か火の灯ったロウソクが刺してあるケーキ?のようなものがあった。

 そんな揺らめくロウソクの炎を見て、俺はある事を思い出した。

「そういえば、あいつらのパーティは今日ぐらいか……まぁ、関係ないか」
「ん?テル君どうしたの~?」
「いや、何でもない。冷めてしまう前に食べようか」

 無駄に思い出してしまったことをさっさと忘れ、俺達は謎のお祝い料理を完食するのであった。


 ♦♦♦♦♦

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『女神様からもらったスキルは魔力を操る最強スキル!?異種族美少女と一緒に魔王討伐目指して異世界自由旅!』という作品も連載してます!ぜひ読んでみてください!

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