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二章 強さの道筋
四十六話 速度のズレ
しおりを挟む「じゃ、僕の宿はあっちだからここでお別れだね。また明日も頑張ろうね」
「ああ、また明日な」
「じゃあね~♪」
俺達はレイと別れ、宿屋ムアへの帰路に着いた。
「いや~、惜しかったね。指導者さん達が居なかったらあんな奴ボコボコにできてたのにね~♪」
「まぁ、否定はしない」
戦士の冒険者に止められたが、体感的にあの反撃は確実に決まっていた。
「ただ、本気で殺し合いに発展していた場合は結果がわからないな」
「そなの?」
「ああ、戦って分かったがそれなりに戦いの経験はあるのを感じた。なのに防御が明らかにおろそかなんだ」
「そうなの?」
先程の試合もそうだった。ライアに言われたのを考えて防御も意識するようにしたのだろうが、その防御もワンテンポ遅くいくらでも隙を付けた。テレスと逆だな。
「あいつの戦い方は極端なほどに攻撃に全振りしていた。あの戦い方を鑑みれば異常と言ってもいい具合に」
「……もしかして能力かな?」
「ああ、防御を考えなくていい能力を持っている可能性が高い。この前の盗賊のボスみたいにな」
全く同じ能力を持っている人はよくいる。
俺の様な進化する能力は全く聞いたことないが、腕力や脚力を強化する等の単純な能力は少し名称が違うだけでいくらでもいる。何なら図鑑が存在したりするのだ。
因みに、古くからある由緒正しい家の当主は必ず同じ能力だったりする。
「ふふ~ん♪能力について基本的なことから特徴的なことまで教えてもらったから、今ならテル君より能力について詳しいよ♪」
「ああ、かもしれんな」
俺は能力について本をなん十冊も読んでたりするのだが……まぁ、俺より詳しい人が教えてくれているならあり得ない話ではないだろう。
そんな感じで雑談していると宿にたどり着いていた。
「おっと、見過ごすところだった。ここだな」
「ん?あ~、そういえば見つけずらい宿だったね~」
俺達は店と店の間にひっそりと佇んでいる宿に入る。相変わらず背景に溶け込んでいた。
「おや、お帰りなさい。そろそろ帰ってくると思って夕食の準備をしておいたから座っときなさい」
「ああ、わかった」
「おばあちゃんありがと~♪」
席に座って待っていると、ムア婆は出来立ての四鬼あったかい料理を運んできた。
相変わらず絶妙な味加減により成立した料理をゆっくり味わっていると、宿に誰かが入ってくるや否や大きな伸びをした。
「ふ~、ムア婆。飯はできてるかい?」
「ああ、もうできてるよ。席に座ってなさい」
「お、流石ムア婆だなぁ」
「グランか」
「さっきぶり~♪」
「お、二人とももう飯食ってたか」
運ばれてきた料理にグランは美味そうに口にしつつ、酒を飲みながらこちらに話しかけてくる。
「ん~、やっぱムア婆の飯は美味い!それはそうと、二人共今日はどうだった?」
「私は色々できるようになって満足かな~。おじさんも知ってると思うけどね♪」
「まぁ、そうだな。じゃあテルの方はどうだ?」
やはり、シエはグランに教えてもらっていたようだ。
何となくグランにはすべて筒抜けな感じを感じつつ、その目を見ながら今日得たことを話す。
「俺は俺の一番の武器だと思ってる集中力を使った技をまだまだ訓練不足だが手に入れた感じだな」
「成程。さっきやってた試合っぽい奴で最後に使った技か。確かにお前に合ってるかもな」
グランは少し考える様子を見せつつ、料理を食べつつ酒を飲んだ。
「お前は……そうだな。反撃もあってると思うが、そのスピードも生かす技も見つけたほうがいいだろうな」
「スピードをか?確かにありだな……」
「ああ。だが、お前はまだ立ち止まっている状態でしか深く集中できないみたいだからな。そっちは集中力関係なくスピードを生かした技を考えたほうがいいと思うぜ」
走りながら集中?!……確かに、集中する時は立ち止まったり目をつぶったりしないとできないという固定概念があった。
しかし俺にそんな器用なことが出来るだろう?
「まぁ、走りながら集中ってのはやっぱり固定の姿勢の時よりは深く集中はできないけどな」
「……だろうな」
少し悩んでいる俺を見て、少しにやつきながらグランは言った。……どこまで本気なのかわかったものではないな。
「だが、背中から切り裂かれようと腕を食いちぎられようと世の中には極限の集中を維持するバケモンもいる。まだまだお前もそのレベルに達する可能性はあるさ」
「なら、いいんだけどな」
「テル君なら行ける行ける~♪」
シエも便乗して俺に強くなれると言う。二人とも普段はお茶らけているが、今だけは本気の目で俺を見ていた。
俺はそんな二人の視線になんだか居心地が悪くなり、眼線を外して黙々と料理を食べる。二人共俺を見ながらにやにやしている気がするが、気のせいだと思うことにする。
「ふふ、仲が良くていいねぇ」
「お、ムア婆も一緒に食わないか?」
「ん?ああ、私はもう食べてるから大丈夫だよ」
ムアの婆さんはグランの提案を軽く断り、空いた食器を片付けていく。なんかこの婆さん、私生活を全く感じられないのは何故なのだろうか……。
「そういえば、なんで教会の人が来てたの~?」
「さぁな。実は俺達も事前に聞いて無くて、今日の昼に突然決まったんだ。まあ回復に関しての知識はあるから役には立ってるんだがな」
グランに嘘をついている様子も見られないし、嘘をつく理由も見当たらない。本当に突然決まったのだろう。
「……おや?調和が崩れてる。何にもないといいんだがねぇ……」
「ん~?おばあちゃん何か言った~?」
「いや、何でもないよ」
「?」
「……ほら、二人ともさっさと飯食い終わって寝な。明日に響くぜ」
「あ、ああ。わかった」
ほんの少し不可解な何かを感じつつ、俺達は部屋に戻って明日のためにぐっすり眠るのであった。
♦♦♦♦♦
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