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二章 強さの道筋

三十二話 悪魔の所業

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 訓練までは一週間ある。それまで俺たちはこの街で冒険者の依頼を受けることにした。
 といっても、このあたりの環境はガデン街と一緒なので魔物の種類などは変わらない。寧ろ弱い。

 勿論、依頼達成難易度も下がるわけで報酬も下がる。そのため高ランクの冒険者はあまりいないが新人冒険者にとってはいい狩場だ。

「そういえばシエは訓練で何を鍛えるつもりなんだ?」
「ん~、正直悩んでるんだよね~」
「そうなのか?」

 特にそういった様子は見せないので決まっているのかと思っていた。

「実はね、テル君の能力を見てたら私の能力にも何か違う使い方があるんじゃないかなって思って~」
「そうか。先輩冒険者に助言を貰おうと?」
「そう思ってるんだけど……やっぱりちょっとね~……」

 確かに今まで悪魔と言われて秘匿していたのにあったばかりの冒険者に打ち明けるというのは酷だろう。まあなんとなくグランの奴は察してそうだけど……。

 今まで何となく思っていたが、シエは魔術使いとしてなかなかの腕と才を持っている。

 魔術にも使用者によって適性がある。火属性魔術への適性や水魔術の適性など。基本的に一人が持っている魔術の適性は一つ、あって二つだ。なのに今まで見ただけでシエは『火』『水』『風』と三つの魔術を難なく使い分け、三球連続で放ったり『水槍』等の中級魔術と呼ばれる魔術も使用していた。

 能力に関して問題がなければ『緑』どころか『青』ランクに匹敵するかもしれない。

「ちなみにシエの魔術の適性属性は?」
「属性?ん~、なんだっけ?覚えてな~い!あ、でもでも~、『火』と『水』と『風』と『岩』と……あと『闇』が使えるよ♪」
「なっ!?五属性適正?!天才なんてレベルじゃないぞ……!?」

 三つもあれば天才と呼ばれるのを考えれば適正だけを考えれば軽く伝説級だ。英雄譚に乗っている『賢者』と呼ばれた英雄の仲間も確か五属性だったはずだ。

 特殊な属性を除けば属性は全部で六種類。特殊な属性を含めれば八種類。特殊な属性を含めても使えない属性のほうが少ないなんてのは普通はあり得ないのだ。

「ふふん♪もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
「ああ、とんでもないな。まさに魔力に愛された子、だな」
「んふふ~♪でしょでしょ?こんな私と仲間に慣れたこと感謝してよね?」
「もちろんだ。お前ならもっと強くなれるはずだし、能力も完全にお前の物にできるはずだ」

 俺なりにシエをほめつつ、さっきの話を聞かれていないか周りの気配を探る。
 因みに今は依頼で街を出て森の中にいた。

 適正三つなどの単純な魔術の天才ならそこまで騒がれることは無いが、五つとなると……厄介なことになるのが目に見えてるのだ。
 しかもシエの能力を考えると……。

「ん?テル君どうしたの?」
「……ああ、すまん。どうやら魔物はあっちの様だ」
「おお!そろそろ私の本気を見せる時が来たね~♪」

 シエは彼女自身の器である魔術の杖を取り出す。

 今更だがシエの器は『杖』に分類される器で、所謂『スティック』と呼ばれる魔術の使用の媒介として使われる武器だ。

 魔術の媒介として使用されるものは三つあり、一番代表的なものが身の丈ほどある大きな杖で、二番目がシエの使うようなスティック、三番目が指輪や腕輪などの装飾品だ。

 その三つとも紋章の器として存在しており、通常の『杖』に関しては『刀』と同じで『七紋章の血族セブンウエポン』のうちの一つだったりする。

 勿論、わざわざ三種類もあるのでそれぞれに長所と短所がある。

『杖』は二メートル近い大きさの物があるだけに魔術の媒介として最も使いやすく、その分魔術の威力も効率も高い。
 その代わり欠点として、基本的に身体能力の低い魔術師は持ち運びに苦労するといった点だ。

『スティック』は『杖』の欠点をなくし持ち運びがしやすい。その代わり『杖』と比べると魔術の媒介としての使いやすさが下がってしまう。

 三つ目の指輪や腕輪と言った装飾品系はさらに持ち運びが楽になった代わりに媒介としての性能は一番低く、器でもない限り耐久性も低いので基本的に使い捨ての物が多いといった感じだ。

 どれが一番だめでどれが一番いいといったことは無いが、『杖』が『七紋章の血族』に入ってることで優遇されてたりする武器だ。

 閑話休題。気配を消して魔物に近づくと、ちょうど目標の魔物が数匹集まっていた。

「よーし!ちょっと本気で魔術打つから覚悟してねシエ君!」
「ああ、見せてもらうかな」

 その覚悟は魔力を奪われることに関してか魔術の強さにかはわからないが期待しよう。

「……暴風の荒波よ、対敵を消し飛ばし、その鋭さで貫け、『風流閃』!」
「な!?合成魔術?!」

 その瞬間、シエの目の前に大きな魔方陣が現れ、風を纏った水の槍が同時に五本連続で発射される。

 魔物たちも魔法陣が現れた瞬間落ちらに気が付いたが時すでに遅し。回避をしようとするが間に合わず槍が当たった場所がはじけ飛び、すべての魔物が絶命した。

「これが最近編み出した最強魔術『風流閃』!威力も速度も殲滅力も申し分ないし消費魔力はちょっと多い程度!ふっふっふ~、恐れ入ったかな~?」
「ああ、恐れ入ったよ」

 魔物たちがはじけ飛んで地面後とえぐれてる背景に満面の笑みで仁王立ちしているシエの様子が一瞬悪魔に見えたのは秘密にすることにしたのだった。



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