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二章 強さの道筋
三十一話 景色の調和
しおりを挟む「じゃ、俺はギルドの方に到着報告してくる。お前らのことも俺がやっとくから今日はもう休みな。まだ一週間前だから宿も空いてるだろう」
「いいのか?ならお言葉に甘えて」
「また明日~♪」
何時間も馬車に乗っていて体の節々が痛い。今日はもうゆっくり休みたかった。
「ああそうだ。言い忘れてたが、盗賊に関してはすまないが俺が討伐してることになってる。詳しく討伐数に関して分けることはできなくはないが、めんどく……いろいろ問題があってな」
「今、めんどくさいって」
「ああ心配するな、ちゃんとお前らにも討伐報酬として振り込んどくから安心しろ。あ、そうそう、この道をあっちに進んで二つ目の大通りを左折した後、『宿屋ムア』ってとこあるからそこおすすめだぜ!じゃあな!」
「あ、ちょっ」
「自由人だね~♪」
のんきなシエを横目に、去っていくグランの背中を少し呆れながら見るのだった。
「宿屋ムア……ないな。さっき屋台の人に聞いても知らないらしい。まさかもう潰れた?いや、それなら潰れたっていうだろうし……」
「ふっふっふ、まだまだ甘いねテル君。蜂蜜九割ハニーミルクぐらい甘いよ!」
「そこまでか?」
ハニーミルクとはミルクに蜂蜜を入れた奴だろう。飲んだことは無いが蜂蜜九割は確実に甘ったるい、っていうかそれはもうほぼ蜂蜜を直接飲んでるのと一緒だろう。
「いいですか?あのグランさんがおすすめするお店がそこらのお店と同じような普通の店だと思いますか?」
「……確かに。『大通りのような目立つ場所ではなく、路地裏にひっそりした場所にある店の方が安く、すげぇ技術を持った匠がいる。これは男のロマンだ』なんていう人だからな。他の店みたいに大きな看板とか呼び込みの人がいないようなむしろ民家みたいな店……あ、もしかしてあれか?」
「お~!あれっぽいね~♪」
少し意識して店っぽくない店を探す。
すると一軒だけさっきは地味で気づけなかったが、意識して見ると確実つに浮いている店を発見した。
近づいてみると小さな看板があり、そこには『宿屋ムア』と書かれていた。
「このタイプの店好きだなあの人……」
「こんちわ~♪まだ部屋空いてますかぁ~?」
建物が宿屋だと即座に確信したシエはためらいなくドアを開ける。中には高齢の女性が一人で編み物をしていた。
「おや?お客さんかい?珍しいねぇ。私の名前は店の名前通り『ムア』この店を見つけられたってことはもしかして誰かからおすすめされたのかい?」
「ああ、グランっていう冒険者から教わった。知ってるか?」
「おお、グランの坊やか。知ってるよ。あの子が数年ぶりのお客になってからちょくちょくお客が来るようになったんだ。嬉しいねぇ」
「す、数年?どうやって経営してたんだ……?」
「おばあちゃんって何歳なの~?」
「ふふふ、女ってのは秘密が多い生き物なんだよ?さて、お二人様で何泊していくんだい?一人一部屋一泊ご飯付きで銀貨二枚だよ?」
「じゃ、じゃあとりあえず二部屋を十日分でで」
「はいよ。……はい、丁度銀貨二人合わせて四十枚だね。はいこれ01号室と02号室のカギだよ。ああ、夜ご飯はどうする?食べるなら今すぐ作るよ?」
「食べた~い♪」
「なら俺もお願いします」
俺たちは鍵を受け取りムアさんが料理を作って居る間、各自部屋で休むのだった。
次の日。
「おはよ~テル君♪」
「お、起きたのかい?そろそろご飯できるから座って少し待ってね」
「おうテル。おはよう」
「ああ、おはよう……ってグラン?」
朝目覚めて宿の部屋から食堂に向かうと、そこにはシエとムアさん、そしてグランが居た。
「グランも泊ってたのか?」
「ああ。お前らが寝静まった深夜から泊まりに来てたぜ。まあ流石に晩飯は食えなかったが。……で、ここの飯めっちゃうまいだろ?」
「そーなんですよ!今用意してもらってる朝ご飯も期待でいっぱ~い!」
「そんなに褒めても特に何にも出ないよ。はい、できたよ」
「お~♪」
出された朝食はパンとスープとちょっとしたお肉とサラダ。昨日もそうだが、一見特に変わったところもなくそんなこだわりがありそうな料理では全くないのだが……。
「ん~、すごくおいしい♪一品一品は普通なのにサラダとお肉を挟んだりスープをパンみしみこませただけで別格に美味しくなる!」
「特にこのスープ、このパンと肉と野菜のために作られたようなスープで全部混ぜ込みたくなってしまうぐらい食材とマッチしてる」
「くくっ、やっぱりムア婆の飯はうまいなあ!この食材の調和ってやつ?をマネできる奴はどこにもいねえ。これだから隠れ名店探しは辞めれねぇんだよなぁ」
「まったく、三人とも落ち着いて食べなさい」
そんなこんなで俺たちはムアさんの料理を平らげるのであった。
♦♦♦♦♦
少し時は遡り時は昨夜、人気が少なくなった小さな道で二人の男女が歩いていた。
「なあなあ、知ってるか?あの噂」
「噂?」
「ああ、数十年前に現れて悪行の限りを尽くして突如とし消えたといわれている大犯罪者が最近また現れたって話だ」
「何それ怖ーい」
男の話を本当に信じているのか信じてないのかわからないが、女はおびえた様子でその男の腕に抱き着く。
「はは、安心しろ。そんな奴が現れても俺がぶっ飛ばしてやる」
「え~、ほんとー?」
「ああ勿論だ。それにこの噂はこれで終わりじゃねぇ。何でもその犯罪者がこの街に来ているって話だ」
「うそー、怖くて眠れなーい!」
「はは、どのみち俺が眠らせないぜ?」
「キャッ♪」
男女のカップルはそのままその場所を離れる。二人が完全にその場から居なくなったと思えば気が付けばその場所に三人の人が現れていた。
「けっ、何が眠らせない、だ。そのまま一生眠れずに野垂れ死ね」
「まあまあ、確かにあの人たちは一発殴ってやりたくなるが今回はそのことじゃないだろ?」
全身を覆うローブで顔は見えないが男っぽい声の人物の暴言に中性的な声の人物がなだめる。
そして二人は三人目の人物を見る。
「ああ、そうだが、彼らが突然私たちと同じ話を始めて少し驚いた」
「ハハハハ!確かに!まさか俺たちの目の前で俺たち以外に議題を言われるとは思わなかったよ。彼も僕たちと同じ人間なんじゃない?」
「そんなわけねぇだろ。早く話を進めろ」
女性の声の人物が少しおどけたように言うと、中性的な声の人物は笑い、男の声の人物はイラついたように催促した。
「ああ、すまない。今回の話は私たちが『例のあいつ』と呼んでいる彼らが話した噂の犯罪者が本当かどうかだ。火のない所に煙は立たないからな」
「そうですね。最近私達でも犯人が見つからない事件が多発してます。数十年前の犯罪者と同一人物かはわかりませんが、とんでもないやり手がこの街に居るのは事実ですね」
「しかも数十年前と手口も犯行現場の意図的に残してあるだろう証拠も一緒だ。確実に俺たちのことを舐め腐ってる。くそが!」
男の声の人物が近くの石を蹴りつける。その瞬間、石は高熱を発して消滅した。
「街中での無用な能力の使用は控えなさい。それと、さっき手に入った情報ではこの街にグランが来たらしい。彼なら何か見つけてくれるだろう」
「チッ!あのいけ好かねぇ野郎か。……認めたくねえがあいつの腕は確かだ。だが、絶対に俺が先に犯人を見つける!じゃあ俺は先に失礼させてもらう。じゃあな」
「あ、待て!……ったく、彼は本当に勝手だな」
「それも彼のいいところの一つだ。さて、我々も解散と行こう。いい夜を」
「はい、お疲れ様です」
そしてまた一瞬でその場所には誰も居なくなり、今まで完全になくなっていた人が通り始める。
この街でもまた、厄介な騒動が起ころうとしていた。
♦♦♦♦♦
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