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第二章 旅立ち、それは出会いと目的
七十四話 才能
しおりを挟むその気迫だけで人を殺せそうなほどの殺気と重圧。圧倒的強者と俺達は相対していた。
正直俺たち二人がかりでも勝てる気がしない。勝つ可能性があるのはSランク冒険者の彼女、レミアクランだけだろう。
しかし、彼女は気絶しているのかどうなのか。死んではいないのはここからでもわかるが、それでも今すぐ立ち上がることは無いだろう。
「ごめんなレンゲ。巻き込んじまったな」
「……どの道変わらない。死ぬ時は一緒」
「最後の別れは済んだか?いくぞぉ!」
来る。そう認識した瞬間に右から感じる全く隠す気のない殺気。
一撃一撃が即死級の三連だが俺達を襲うが、レンゲが二発防ぎ一瞬遅れて俺がも最後の打撃を防ぐ。
「『打打打』ッ!」
「……『斬鬼』!」
「はぁ!」
身体強化を一切手を抜かずに全身に強化しているのにもかかわらず、ベルクの速力に対し一テンポ遅れる事実に歯噛みしつつ、そんな考えすらも吹き飛ばさんと高威力の打撃に俺達は反撃を狙いつつ防御に徹した。
「防御ばっかりかぁ!」
「そんな訳ないだろ!『二重魔力衝撃波』!」
「……『流鬼』」
「ぐっ……!その攻撃はなんなんだ……?!」
攻撃力だけでなく防御力にも自信があるのだろう。ベルクは基本的に腕で防御したり攻撃で相殺したりするが、攻撃を避けるようなことはしない。
唯一、明確によけたのは『聖属性魔術』だけだ。
そして俺の攻撃である『魔力衝撃波』は殆ど物理的な防御は不可能。明らかに物理タイプのベルクに対して相性がいい。
「現実はそう、うまくいかないな!レンゲ、三番だ!」
「……了解」
防御不可……と言っても、今のところ俺の衝撃波では良くて気絶、悪くて気分が悪くなる程度。ベルクのレベルになれば数秒もたてば元の状態に戻るだろう。もしかすればそのうち衝撃に慣れ始めるかもしれない。
俺とてそういう事態が起きないなんて軽薄な考えは持っていない。ならばどうするか。そう、『全能操作』を活用した新技の開発だ!
『全能操作』の真骨頂は魔力衝撃波ではなく魔術を操ること。しかし、俺には基本的に魔術の才能は無く、相手も才能があるとは限らない。
なら、仲間のレンゲと連携を組めばいい。
そう思い立った俺はレンゲと意見を出し合っていくつかの連携技を作った。殆ど試してすらないが、それなりに効果はあるはずだ。
「……雷鳴よ、現世を包み、乱れ咲け『散雷針《さみだれ》』!」
「はっ!そんな威力の無い範囲魔術使ったとこで……」
「『全能操作』!!」
負ければ命は無い。俺だけじゃなくこの場にいる全員。この状況で能力は秘密を貫き通して死ぬなんてまっぴらごめんだ。
レンゲによって少しすき飛ばされ、俺の魔力衝撃波で怯んだすきをついてレンゲは魔術を使う。
レンゲが放った魔術はく宇宙に黒い雲を生み出し、そこから一定範囲に細く鋭い雷を大量に発生させるという広範囲殲滅型魔術だ。
そして俺が頭に描くイメージはベルク事態に印を付けるイメージ。そこにそうした魔術を接続するように向かわせ、すべての雷をベルクに向かわせる。
レンゲには魔術を工夫して作ってもらい、実はたくさんの細い雷の様に見えてすべてつながっている。そうすることで俺の操作限界をカバーしているのだ。
「集まれぇぇ!!」
「なにが……ぐぅ!?」
「魔術が曲がった?!」
大量の鋭い雷がベルク一点に集中する。その様子はまるで時空がゆがんだように見えた事だろう。
まさかそんな現象が起きるとは思っていなかったベルクはそのまますべて直撃した。避けることをしない戦い方なのも影響しただろう。
「魔術が曲がる?しかも貫通性の高い雷属性が?まるで吸い込まれるような異常な動き……。どうなってのですか……」
「……まだ生きてる」
「……かはっ。……は、はははは!!」
観客席側でベルクの邪魔をしないように回避していたバルは身を乗り出すように立ち上がり、眼を見開いて今の現象について頭をフル回転させ、ベルクは突然笑いだした。
「……今のは、まるで……」
「まるで誰かが無理やり操作したみてぇだなぁ!オイ!お前らはさほど驚いてねぇ。つまりどっちか。いや、そっちの男の力か!はははは!」
何が面白いのか、全身をレンゲの雷に焼かれたはずのベルクはそのまま笑い転げる。
しかし、そんな様子とは裏腹にベルクから感じる背筋の凍るような鋭い闘気がだんだんとこの会場内を包み込み始めた。
「はははは!惜しいなぁ。惜しすぎるなぁ。まるで魔王様みたいな力を持ってる奴に出会ったのに……今すぐ殺さないと駄目だなんてなぁ!」
「「!?」」
まるで爆音の様な生き物が鳴らすとは思えない轟音が鳴り響き、気が付けば俺達の目の前。
俺達は感じた。ベルクは今、本気で俺達の命を狩りに来ているのを。
ただの獲物風情に傷をつけられ、プライドをも傷つけられた野生の猛獣が怒り狂うように。ただ自らの中にある殺戮衝動を開放するように。
「……『かが……」
「遅ぇ!!」
「かはっ!?」
「……ナルミ!?」
突進してくるベルクを迎え撃つようにレンゲが前に出るが、一瞬で回避されたかと思うと俺が殴られそのまま吹き飛ばされる。
俺が優先で狙われる可能性を考えていたおかげで何とか攻撃は防げたが、その威力に押し負けそのまま壁まで吹き飛び激突した。その場所は、先にやられた冒険者の彼らが吹き飛ばされた位置と殆ど一緒だった。
背中から当たったからか、上手く呼吸ができない……。早く立ち上がって戦わないと行けないのに……!
「……っ!『牙鬼』!『突鬼』!」
「『斬』ァ!」
「……くっ。『きらめ……!」
「『覇』ァ!」
「……っ!?」
レンゲはすぐさまベルクに斬りかかるが、すべて相殺されるどころかそれ以上の威力で返され、俺と同じように吹き飛ばされた。
レンゲの奥義さえも通用しない。拳一つですべてを圧倒したその強さは正に強者だった。
「はぁ、やっぱりな。なぁ鬼人族の女。教えてやるよ。お前に、剣の才能は無い」
「っ?!」
その声に含まれる感情は『失望』。明らかに剣士との戦い方も熟知した戦いをするベルク。ある程度の才能の有無も見抜けるのだろう。
今すぐ立ち上がってベルクの言葉を否定してやりたい。しかし、まともに呼吸できない今じゃ言葉も発せられない。
あの時と同じ状況の蒸し返しに俺は歯を食いしばることしかできなかった。
「お前はその男を守ってる気かもしれねぇが、逆だ。強者はあの男だから俺は先にあっちを狙った。お前もわかっているだろ?自分の弱さを、その男の強さを」
「……」
「つまり、結局のところお前は強者に守られているだけの、何の才能もない唯に弱者だ」
「……」
違う!レンゲは強い!俺なんかよりもずっと!レンゲがいたから俺は今も生きている!力もうまく使えない俺を支えてくれる大切な仲間なんだ!
ベルクにそういわれても、レンゲは何も言わない。反応しない。まるで死んだように俯いたままだった。
俺は腹の底から沸々と湧き上がる怒気を糧に、全身に力を入れて立ち上がる。
「頑張って、ナルミさん……!」
近くから声が聞こえる。声量は小さい。それでも俺の背中を押してくれる応援の声。
息ができない?体中が痛い?そんなものは知らない。仲間を、レンゲを侮辱されて寝たままで居るような腐った根性は持ち合わせていない。
「……借りるぞ」
俺は近くに落ちていた俺達の前に戦っていた勇敢な冒険者である彼の剣を左手に取る。あいつの攻撃を食らったからか、使い古されたからか。その剣はかなりボロボロだったが、まだ戦えると叫んでいるように感じた。
もう少しだけ、俺と戦ってくれ。
「やっぱりな。お前なら起き上がると思ったぜ!」
「レンゲを……侮辱するな!」
俺は全力で走りだす。両手に剣を二つ持っているが、脳内麻薬が出まくっているからか一切の重さを感じなかった。
「二刀……なるほど、そう来たか!」
「はぁぁ!!『二重魔力衝撃波』!!」
両手の剣にそれぞれ魔力を送り込み、同時に二発魔力衝撃波を放つ。
「流石にもう効かねぇぜ!はぁ!!」
「ぐっ……!まだまだ!!」
俺の衝撃波に合わせて膨大な魔力の拳を振るう。衝撃波はそのまま相殺され、ベルクにダメージを与えることは無かった。
しかし、そんなことでは止まれない。止まれば死があるのみ。
一瞬たりとも油断せず一瞬一瞬の神経を尖らせて次の攻撃に備えつつ、ベルクに向けて剣を振るう。
初めての二刀流。剣の振り方のイメージはレンゲの剣技。
と、言ってもレンゲは二刀流ではないし俺の身体能力じゃレンゲの動きは真似出来ない。だが、参考にすることは出来る。
右側の脚、腰、腕に掛けて全体重を乗せて振り下ろす。
しかし、それだけで攻撃は当たらないしレンゲ攻撃力には及ばない。
俺はそこからその軸を中心に回転して勢いをつけて左手の剣で攻撃し、それを防がれるのを見越して次の位置を決めて走り出す準備をする。
「はぁ!」
「フン!遅い!」
「なら……シッ!」
「『打』ァ!」
案の定、俺の攻撃は全て防がれてそのまま吹き飛ばされそうになるが、もう先に走り出すことで吹き飛ぶ位置を何となく操作しつつすぐさま接近した。
しかし、接近した時のベルクの構えの見覚えに、咄嗟に走る方向を変えつつ、防御の構えをとる。
ベルクの構えは腰を少し低くし、正拳突きのような片手を後ろにするのではなく両手を腰あたりに下ろした構え。
『連』。つまり超連続攻撃だ。
俺が向かう先はレンゲの前。動かないレンゲをそのまま放置すれば、攻撃が当たってしまう。
「行くぜぇ!!『連』ァ!」
「ああぁぁぁぁぁ!!」
迫り来る無数の魔力で構築され、ベルクを中心に全方向に放たれる打撃攻撃そのもの。
俺は極限まで集中力を高める。一発でも弾けなければ俺もレンゲも死ぬと、そう本気で思い込む。今の自分の限界を超えなければ、どの道ここで殺されて終わり。絶対に負けられない!
迫り来る拳を逸らし、受け、弾き返した。
耳を塞ぎたくなるような轟音が止まる。その頃にはおれの全身はボロボロで、至る所から血が出ていた。
レンゲは……守れたようだ。
「まさかそっちにそれ程の才能があったとはな……惜しいなぁ。本当に惜しい。あと数年あれば確実にこっち側に来れたのに惜しいなぁ」
「……っ、……はぁ、はぁ」
立っていることどころか、剣を手から落とさないようにするのだけでも必死。
ベルクの歩いて近ずいてくる足音を聴きながら、心のどこかで諦めてしまっている自分を奮い立たせる。
ベルクが俺の剣の間合いに入った瞬間に切りつけてやる!動け!腕に力よ入れ!!
「……じゃあな、俺と同じ強者。意外と楽しかったぜ」
俺の目の前でベルクは右腕を引き、腰を少し落とし、左手で狙いを定めつつ身を守る為に出す。
「……」
「……すぅ、はぁ!!」
俺に向かい突き出されようとする膨大な魔力を纏った拳。
その拳はそのまま行けば俺の胴体を貫くだろう。
走馬灯のようにゆっくり流れる時間。
ああ、ここで死ぬのか。ごめん、女神様。俺は約束を果たせなかった。
俺は流れる記憶とともにゆっくりと流れる時間の中で、俺は記憶と共に目をつぶろうとした。
その瞬間、この会場全てを包むほどの大きな魔力と共に、地面が光り輝き出したのだった。
♦♦♦♦♦
『紋章斬りの刀伐者~ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!~』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!
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