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板橋区にある事故物件の話
憑依 ー 復讐の始まり ー
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スポットライトに照らされて、服を着替えた日笠千鶴の姿が画面に映る。
白シャツにブラウンのローファー、カーキのタックをあわせた、カフェ店員さんのような可愛いコーデ。
「仕上げにこのメガネとベレー帽を被ります。いかがでしょう?」
スカートをちょんとつまんでお辞儀をする日笠千鶴。
「可愛い……」
心の声が、うっかり口から出てしまった。
「ありがとうございます」満面の笑みで喜ぶ日笠千鶴。
「坂口さんの好みに合わせて選んだ。文学少女コーデです」
「フフフ……それでは、坂口さんのバイト先に行きましょうか」
そこで画面が消える。
…………
「それから私は、客として坂口さんが働くアルバイト先のカフェに通い始めました」
「私自身をエサに、坂口さんを誘い出すためです」
「お店に通い始めて一週間くらいすると、坂口さんの方から色々と話しかけてくるようになり、私たちは友達のような関係になりました」
「私は坂口さんには戸松彩と名乗る事にしました。最初は本名でも問題ないかなとも思ったのですが、念には念を入れてと思い直し、偽名を使う事にしました」
「小さなミスが原因で、復讐計画が失敗してしまっては死んでも死に切れません」
…………
「ある日、私が待ちに待ったその瞬間が訪れました」
「会計を済ませ坂口さんからレシートを受け取ると、レシートと一緒に坂口さんの連絡先を書いた紙が挟んであったんです」
「それをきっかけに私たちは、お付き合いする事になりました」
…………
「私が考えていた計画の中でも、一番最高の形で坂口さんの拉致に成功しました」
「何度か坂口さんとのデートを重ねたタイミングで『車の免許をとったので、練習を兼ねてドライブに付き合ってほしい』と坂口さんに頼み、何の疑いもなくドライブデートの流れになりました」
「助手席に乗った坂口さんには、睡眠導入剤たっぷりのコーヒーをプレゼント」
「私が全く眠れなかった時期に、心療内科で処方してもらったかなり強いお薬です。それを飲んだ坂口さんはあっという間に夢の中へ」
そこでゆっくりと画面が映り。
上下あずき色の学校ジャージに着替えた日笠千鶴が登場。
司会進行のお姉さんよろしく「ようこそ『ちずるのわくわくキャンプ場』へ」と元気いっぱいに報告。
ジジジ……ジジジ……と画像が乱れ……シーンが再び切り替わる。
…………
そこは沢山の木々に覆われ、雑草が生い茂り、辺りを見回しても何もない感じの場所だった。
おそらくどこかの山中なのだろう『ちずるのわくわくキャンプ場』と日笠千鶴は言っていたが、お世辞にも『わくわく』出来る感じではない。
「フフフ……アカバネさんの考えている通り、本当に何もない場所をあえて選びました」
「坂口さんとの楽しい楽しいキャンプに、他の方がいてはゆっくり楽しめません」
「泣いても叫んでも誰も助けに来ない……ここはそんな素敵な場所です」
…………
そこで僕は、ある事に気が付いた。
日笠千鶴の説明の中に、まだ名乗っていない……僕の名前が出てきたのだ。
ゾクリとした、日笠千鶴は、どこまで僕の事を知っているのだろう。
…………
ジジジ……ジジジ……と画像が乱れ……坂口の姿が映る。
坂口は全裸にされ、手錠で両手を後ろ手に拘束。さらに両足も手錠で拘束された状態で横になりまだ眠っている。
両手の手錠は背後から伸びる鎖に南京錠で固定してあり、その鎖は後方の大木にグルグルと巻き付けられ、さらに南京錠で固定してあった。
それを見た僕は『ここまでやるかぁ』と思い、恐怖で冷や汗が止まらなかった。
僕の心の声に答えるように 日笠千鶴が語り始める。
「映画とかでよくあるじゃないですかぁ、その辺に落ちてる縄で適当に拘束。見張りも立てずに放置して、その隙に縄抜けされて逃げられたり」
「ボディチェックもせずに適当に縄で縛って拘束。またまた見張りも立てずに放置して、その隙に隠し持っていたナイフで縄を切って逃げられたり」
「あれ見る度に思うんですよね……『アホかと』どうぞ逃げて下さいと言ってるようなもんじゃないですか、なんで手錠を使わないのって、ホント呆れて物が言えません」
「Ama〇onで普通に売ってるSmit〇 & Wesso〇製の手錠は、説明欄にはパーティグッズと一応書いてありますけど……本物ですから」
「税込み7,300円で買える安心ですよアカバネさん」
…………
「そろそろ坂口さんを起こすとしましょう」
そう言って日笠千鶴は、坂口の顔にペットボトルの水を乱暴にぶっかけた。
「ん……んん……」
坂口が目を覚ます。
「おはようございます坂口さん、よく眠れましたか」笑顔で坂口に挨拶する日笠千鶴。
「あ……あやさん……ここは?……あと……なんで僕は裸なんでしょう……」
「ようこそ『ちずるのわくわくキャンプ場』へ~」と坂口の質問は無視して、元気いっぱいの日笠千鶴。
「キャンプ場……いったい何を言って……」
「キャンプ場じゃありませんよ坂口さん『ちずるのわくわくキャンプ場』です」
「名前って大事なんですよ坂口さん、適当な名前で呼ばれたり、間違った名前で呼ばれたり、そういうの女の子はと~~っても傷ついちゃうんですよ~シクシク」
シクシクと言って目元に手を添えてはいるが、口元は悪魔のように笑っている。
「ふざけないでください、この手錠を早く外してください」少し苛立った感じの坂口。
「坂口さん。これから私のする質問に、嘘偽りなく答えてください」
「質問の答えを偽ったり、質問とは関係のない事を言った場合。私の独断と偏見でペナルティを下します」ポケットから坂口のスマホを取り出す日笠千鶴。
「それでは質問します。坂口さんと連絡が取れなくなって、警察に届を出す可能性のある人を全員教えてください」坂口の目の前でスマホを揺らしながら、日笠千鶴が問いかける。
「ふざけんな、この手錠を早く外せって言ってるんだよ」完全に口調が変わる坂口。
「はぁ……私言いましたよね、質問とは関係のない事を言った場合。私の独断と偏見でペナルティを下しますって」
「仕方ありませんね……ペナルティです」そう言うと日笠千鶴は、すぐ近くに停めてある軽ワゴンのバックドアを開けて、ゴソゴソと何かを探し始めた。
しばらくして左手に柄杓、右肩にクーラーボックスを担いで日笠千鶴が戻ってきた。
「おい何する気だ、おい聞いてんのか」坂口の声の感じから、明らかに恐怖を感じているのが分かる。
日笠千鶴は、坂口の問いかけには答えず、クーラーボックスを開け、中に入っている氷を柄杓ですくい、坂口の周りに撒き始めた。
念入りに氷を撒く日笠千鶴。地面に落ちた氷からはモクモクと霧のように白い煙が出ている。
氷を撒き終わると「坂口さん、わたし昨日は興奮して、全く眠れてないんですよ」
「3時間ほど仮眠をとりますんで、そのあいだ良い子にして待っててくださいね~」と言ったあと『チュッ』と可愛く投げキッスをする日笠千鶴。
「おい、ふざけんなよ、なんだよこの氷、教えろよ」坂口は何をされたか分からず必死に聞いてくる。
「ふぁぁぁ、おやすみなさい」
坂口の問いかけには答えず日笠千鶴は少し離れに設置済みの蚊帳付きハンモックの中に潜り込む。腕時計のアラームを3時間後にセット。ハンモックの中に蚊が入らないよう注意しながら、急いでチャックを閉める。
蚊帳の外を沢山の蚊が『ぷーん』『ぷーん』『ぷーん』と音をたてて飛び回っている。
「フフフ……3時間後が楽しみですね、坂口さん」
「あなたの周りに撒いたのは、氷じゃなくて……ドライアイスです……むにゃむにゃ」そう呟いたあと日笠千鶴は深い眠りに落ちる。
日笠千鶴が瞼を閉じたタイミングで、画面もゆっくりと暗くなった。
白シャツにブラウンのローファー、カーキのタックをあわせた、カフェ店員さんのような可愛いコーデ。
「仕上げにこのメガネとベレー帽を被ります。いかがでしょう?」
スカートをちょんとつまんでお辞儀をする日笠千鶴。
「可愛い……」
心の声が、うっかり口から出てしまった。
「ありがとうございます」満面の笑みで喜ぶ日笠千鶴。
「坂口さんの好みに合わせて選んだ。文学少女コーデです」
「フフフ……それでは、坂口さんのバイト先に行きましょうか」
そこで画面が消える。
…………
「それから私は、客として坂口さんが働くアルバイト先のカフェに通い始めました」
「私自身をエサに、坂口さんを誘い出すためです」
「お店に通い始めて一週間くらいすると、坂口さんの方から色々と話しかけてくるようになり、私たちは友達のような関係になりました」
「私は坂口さんには戸松彩と名乗る事にしました。最初は本名でも問題ないかなとも思ったのですが、念には念を入れてと思い直し、偽名を使う事にしました」
「小さなミスが原因で、復讐計画が失敗してしまっては死んでも死に切れません」
…………
「ある日、私が待ちに待ったその瞬間が訪れました」
「会計を済ませ坂口さんからレシートを受け取ると、レシートと一緒に坂口さんの連絡先を書いた紙が挟んであったんです」
「それをきっかけに私たちは、お付き合いする事になりました」
…………
「私が考えていた計画の中でも、一番最高の形で坂口さんの拉致に成功しました」
「何度か坂口さんとのデートを重ねたタイミングで『車の免許をとったので、練習を兼ねてドライブに付き合ってほしい』と坂口さんに頼み、何の疑いもなくドライブデートの流れになりました」
「助手席に乗った坂口さんには、睡眠導入剤たっぷりのコーヒーをプレゼント」
「私が全く眠れなかった時期に、心療内科で処方してもらったかなり強いお薬です。それを飲んだ坂口さんはあっという間に夢の中へ」
そこでゆっくりと画面が映り。
上下あずき色の学校ジャージに着替えた日笠千鶴が登場。
司会進行のお姉さんよろしく「ようこそ『ちずるのわくわくキャンプ場』へ」と元気いっぱいに報告。
ジジジ……ジジジ……と画像が乱れ……シーンが再び切り替わる。
…………
そこは沢山の木々に覆われ、雑草が生い茂り、辺りを見回しても何もない感じの場所だった。
おそらくどこかの山中なのだろう『ちずるのわくわくキャンプ場』と日笠千鶴は言っていたが、お世辞にも『わくわく』出来る感じではない。
「フフフ……アカバネさんの考えている通り、本当に何もない場所をあえて選びました」
「坂口さんとの楽しい楽しいキャンプに、他の方がいてはゆっくり楽しめません」
「泣いても叫んでも誰も助けに来ない……ここはそんな素敵な場所です」
…………
そこで僕は、ある事に気が付いた。
日笠千鶴の説明の中に、まだ名乗っていない……僕の名前が出てきたのだ。
ゾクリとした、日笠千鶴は、どこまで僕の事を知っているのだろう。
…………
ジジジ……ジジジ……と画像が乱れ……坂口の姿が映る。
坂口は全裸にされ、手錠で両手を後ろ手に拘束。さらに両足も手錠で拘束された状態で横になりまだ眠っている。
両手の手錠は背後から伸びる鎖に南京錠で固定してあり、その鎖は後方の大木にグルグルと巻き付けられ、さらに南京錠で固定してあった。
それを見た僕は『ここまでやるかぁ』と思い、恐怖で冷や汗が止まらなかった。
僕の心の声に答えるように 日笠千鶴が語り始める。
「映画とかでよくあるじゃないですかぁ、その辺に落ちてる縄で適当に拘束。見張りも立てずに放置して、その隙に縄抜けされて逃げられたり」
「ボディチェックもせずに適当に縄で縛って拘束。またまた見張りも立てずに放置して、その隙に隠し持っていたナイフで縄を切って逃げられたり」
「あれ見る度に思うんですよね……『アホかと』どうぞ逃げて下さいと言ってるようなもんじゃないですか、なんで手錠を使わないのって、ホント呆れて物が言えません」
「Ama〇onで普通に売ってるSmit〇 & Wesso〇製の手錠は、説明欄にはパーティグッズと一応書いてありますけど……本物ですから」
「税込み7,300円で買える安心ですよアカバネさん」
…………
「そろそろ坂口さんを起こすとしましょう」
そう言って日笠千鶴は、坂口の顔にペットボトルの水を乱暴にぶっかけた。
「ん……んん……」
坂口が目を覚ます。
「おはようございます坂口さん、よく眠れましたか」笑顔で坂口に挨拶する日笠千鶴。
「あ……あやさん……ここは?……あと……なんで僕は裸なんでしょう……」
「ようこそ『ちずるのわくわくキャンプ場』へ~」と坂口の質問は無視して、元気いっぱいの日笠千鶴。
「キャンプ場……いったい何を言って……」
「キャンプ場じゃありませんよ坂口さん『ちずるのわくわくキャンプ場』です」
「名前って大事なんですよ坂口さん、適当な名前で呼ばれたり、間違った名前で呼ばれたり、そういうの女の子はと~~っても傷ついちゃうんですよ~シクシク」
シクシクと言って目元に手を添えてはいるが、口元は悪魔のように笑っている。
「ふざけないでください、この手錠を早く外してください」少し苛立った感じの坂口。
「坂口さん。これから私のする質問に、嘘偽りなく答えてください」
「質問の答えを偽ったり、質問とは関係のない事を言った場合。私の独断と偏見でペナルティを下します」ポケットから坂口のスマホを取り出す日笠千鶴。
「それでは質問します。坂口さんと連絡が取れなくなって、警察に届を出す可能性のある人を全員教えてください」坂口の目の前でスマホを揺らしながら、日笠千鶴が問いかける。
「ふざけんな、この手錠を早く外せって言ってるんだよ」完全に口調が変わる坂口。
「はぁ……私言いましたよね、質問とは関係のない事を言った場合。私の独断と偏見でペナルティを下しますって」
「仕方ありませんね……ペナルティです」そう言うと日笠千鶴は、すぐ近くに停めてある軽ワゴンのバックドアを開けて、ゴソゴソと何かを探し始めた。
しばらくして左手に柄杓、右肩にクーラーボックスを担いで日笠千鶴が戻ってきた。
「おい何する気だ、おい聞いてんのか」坂口の声の感じから、明らかに恐怖を感じているのが分かる。
日笠千鶴は、坂口の問いかけには答えず、クーラーボックスを開け、中に入っている氷を柄杓ですくい、坂口の周りに撒き始めた。
念入りに氷を撒く日笠千鶴。地面に落ちた氷からはモクモクと霧のように白い煙が出ている。
氷を撒き終わると「坂口さん、わたし昨日は興奮して、全く眠れてないんですよ」
「3時間ほど仮眠をとりますんで、そのあいだ良い子にして待っててくださいね~」と言ったあと『チュッ』と可愛く投げキッスをする日笠千鶴。
「おい、ふざけんなよ、なんだよこの氷、教えろよ」坂口は何をされたか分からず必死に聞いてくる。
「ふぁぁぁ、おやすみなさい」
坂口の問いかけには答えず日笠千鶴は少し離れに設置済みの蚊帳付きハンモックの中に潜り込む。腕時計のアラームを3時間後にセット。ハンモックの中に蚊が入らないよう注意しながら、急いでチャックを閉める。
蚊帳の外を沢山の蚊が『ぷーん』『ぷーん』『ぷーん』と音をたてて飛び回っている。
「フフフ……3時間後が楽しみですね、坂口さん」
「あなたの周りに撒いたのは、氷じゃなくて……ドライアイスです……むにゃむにゃ」そう呟いたあと日笠千鶴は深い眠りに落ちる。
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