本当にある事故物件の話

アカバネ

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板橋区にある事故物件の話

憑依 ー 404号室 ー

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 しばらくして、画面が映る。

 どこかの建物の前だ……ん?ここ何か見覚えがある。

 この建物、板橋のマンモス団地だ。

 …………

「坂口、何号室だっけ?」と佐藤。

「404号室です、ここに来るの何回目ですか……いい加減覚えてください」と呆れながら坂口が言う。

「わりいわりい」と悪びれもなく佐藤。

「松岡ぁ、女が逃げないようにちゃんと捕まえとけよ」佐藤がわめく。

「分かってるよ、うっせーなぁ。オイお前絶対に騒ぐなよ、大人しくしてればすぐ終わるからよ」

 松岡はイライラした感じで、ナイフを日笠千鶴ひかさちずるにチラつかせる。

「私は恐怖のあまり身体がすくんで、口をきけなくなりました」

「404号室の前に付くと、坂口がPSパイプスペースを開き、中にあるキーBOXから部屋のカギを取り出して、部屋のカギを開きました」

「部屋の中はボロボロで、ひと目で空室と分かる感じでした。ボロボロの部屋の真ん中には、不自然にキレイなマットが一つ置いてあって……」

「そこで私は三人に……レイプされました」

 …………

 そこまで日笠千鶴ひかさちずるが語った後、画面が大きく乱れ始める。

 …………
 
 画面の乱れの中に挟み込まれる日笠千鶴ひかさちずるの上に覆いかぶさる、男たちの映像。

 それはまるでサブリミナル効果のコマのように、何度も何度も画面の乱れの中に挟み込まれた。

 日笠千鶴ひかさちずるの心の声が、僕の中に入り込んでくる。

 『なんで』『どうして』『痛い』『やめて』『助けて』『お願い』『もう嫌だ』

 乱れた画面が、今度は雨に濡れたように滲んで、段々と見えなくなる。

 最初は分からなかったが、すぐに分かったこの雨は……日笠千鶴ひかさちずるの涙だ。

 『もういっそ殺して……』

 絶望に塗りつぶされ、死を願う日笠千鶴ひかさちずるの心の声が、僕の中に入り込んでくる。

 …………

 僕は息をするのも忘れて、画面を見つめていた。

 …………

 そこで画面が消え、次に画面が映った時には、朝になっていた。

 日笠千鶴ひかさちずるの周りに男たちの姿はなく、枕元に現金1万円と置手紙が置いてある。

 置手紙には「口止め料」続けて「もし警察に通報すれば、昨日の映像をネットにばらまく」と書いてあった。

 …………

 「私はボロボロになって家に帰りました。私の姿を見て全てを察した母が、何も言わずに抱きしめてくれました」

 「父は『絶対に許さん』と泣いていました」

 日笠千鶴ひかさちずるの母親と父親の姿が映る。
 
 日笠千鶴ひかさちずるによく似た優しそうな母親。
 
 溢れ出る涙をぬぐいながら、大泣きする真面目そうな父親。

 大切に育てた花畑に土足で立ち入り、無断で踏み荒らした。

 それは絶対に許される行為ではない。

 「両親からは警察に通報しようと言われましたが、昨日の映像を知り合いに見られるのが怖くて、私はそれを拒みました」

 「父は最後まで渋っていましたが、母は『悪い夢を見たと思って忘れましょ』と言ってくれました」

 そこでまた画像が消える。
 
 …………

 次に画像が映った時は、食事のシーンだった。

 トースト、目玉焼き、サラダ、ミルク、メニューからして朝食だろう。

「サラダを食べてすぐ違和感がありました。ドレッシングがかかっているはずなのに、全く味がしないんです。あわてて目の前にあった食塩を手のひらに出して舐めました……食塩も全く味がしませんでした」

「母に連れられて病院を何件も回った結果。心因性による味覚障害と判明しました」

「私は尊厳を踏み躙られ、それと一緒に味覚も失ったのです」

そこでまた画面が消える。
 
 日笠千鶴ひかさちずるが病的に痩せている理由が分かった。

 …………

 僕はテーブルに置いてあるペットボトルのお茶を一口飲んだ、
 
 いつもより少しだけ、味が薄いような気がした。

 …………
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