本当にある事故物件の話

アカバネ

文字の大きさ
上 下
14 / 24
板橋区にある事故物件の話

憑依 ー 日笠千鶴《ひかさちずる》 ー

しおりを挟む
 その後、工事現場で死体を発見した事を警察に通報。

 現場検証の流れとなった。

 遺体の足元に本人直筆の遺書があった事から、自殺という事で解決しそうな雰囲気だ。

 警察の取り調べには、リフォームの現地調査依頼で部屋に入り、そのタイミングで死体を発見、通報に至ったこと説明。

 依頼元からも、間違いなくリフォームの依頼をしたと報告があったようで、問題なく裏付けも取れ。

 僕は無事解放された。

 作業カバンの中身を確認されなくて、本当に良かった……。

 …………

 会社に戻ると心配した社長がとんできて「大変だったなぁ、今日はもう上がっていいぞ、明日はゆっくり休んでくれ」と僕を労わってくれた。

「ありがとうございます、少し体調がすぐれないので、助かります」そう言いながら、僕は具合が悪いふりをする。

「大丈夫だ、アカバネの仕事は全部山田にやってもらう、わかったな山田?」

「……はい」

 親方は警察の取り調べで、僕に現地調査を押し付け、一人車の中でサボっていた事を正直に話した。

 もちろん、その事は社長の耳にも届いていた……。

 ご愁傷様である。

 これでゆっくりビデオテープの確認ができる、僕の頭の中はビデオテープの事で一杯だった。

 …………

 家に帰り、すぐ風呂に入る。

 遺体からした腐敗臭が、まだ鼻の中に残っているような気がして気持ちが悪い、何度も顔を洗い、鼻うがいを繰り返した。

 風呂から上がり、押し入れにしまいこんでいたビデオデッキを引っ張り出す。

 家電ゴミで片付けようと思っていたが、捨てなくて良かった。

 液晶テレビに配線を繋ぎ電源を入れる、何年も使っていなかったが、ビデオデッキは問題なく動きそうだ。

 僕はビデオテープを入れ、再生ボタンを押した。

 …………

 ザザザ……ザザザ……ザザザ……。

 砂嵐がしばらく続いた後、映像が映し出される、そこには首を吊る前の女性が映っていた。

「映ってますか?大丈夫ですか?」とカメラに手を振る女性。

「問題なさそうですね、それでは始めます」

「初めまして、私は日笠千鶴ひかさちずると言います18歳です」

 若いとは思っていたが、18歳か……早すぎるだろ。

 日笠千鶴ひかさちずると名乗る女性は、綺麗な顔立ちの子だった、透き通るように肌が白く、そして驚くほど痩せている。

 知り合いに拒食症を患った女性がいるのだが、その人と同じような痩せ方をしている、病的な痩せ方だ。

「このテープを見ているという事は、警察関係の方でしょうか……それとも工事で現地調査に来られた方でしょうか……」

「私の復讐にあなたを巻き込んでしまい、本当に申し訳ございません」深々と頭を下げる日笠千鶴ひかさちずる

 復讐?復讐に巻き込んでしまいと言ったな、どういう意味だ……。

「私にはどうしても殺したい相手がいるのです、どうかあなた様の力をお貸しください」再度、深々と頭を下げる日笠千鶴ひかさちずる

 その瞬間、ゾクリと寒気がした。

 背中をスーッと人差し指で触れられた、そんな感覚だった。

 あわてて後ろを振り向くが、誰もいない……。

 全身に鳥肌が立つ、何か嫌な予感がする。

 もうビデオを止めよう、そう思っていると。

「申し訳ございません、あなたはこの映像を見た事により、私とえにしが結ばれました」

「映像を、もう出来ません」

 僕の心の中を言い当てるように、日笠千鶴ひかさちずるが語り続ける。

 僕はそれを無視して停止ボタンを押す。

 『カチッ』

 ……映像が止まらない。

 『カチッ』『カチッ』『カチッ』『カチッ』『カチッ』『カチッ』

 何度も停止ボタンを押すが、やはり映像は止まらない。

「いかがでしょう、信じていただけたでしょうか?」微笑みながら日笠千鶴ひかさちずるが僕に語り掛ける。

 おかしいだろ、どうなってんだ。

 これならどうだ、僕はビデオのコンセントを抜き、テレビと繋がる配線も引き抜いた。

 「いかがでしょう、信じていただけたでしょうか?」微笑みながら同じセリフを語る日笠千鶴ひかさちずる

 僕は恐怖で、言葉も出なかった。
しおりを挟む

処理中です...