本当にある事故物件の話

アカバネ

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閑話

ごめんなさい

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 昼休みに親方と二人。定食屋で食事をしていたときの事。

 親方が突然「うわぁ」と呻き声をあげた。

「どうしたんですか?」

「アカバネ、テレビ見てみろ」と親方が、テレビを指さした。

 僕はテレビに背を向けて座っていたため、振り返ってテレビを見る。

 テレビでは『〇〇じ君の右目にコンパスが刺さり重症』というニュースが流れていた。

 ニュースの途中から見たので、男の子の名前がよく聞き取れなかった。

 「可哀そうになぁ。ちゃんと治ればいいけどなぁ……」

 「そうですね」

 親方の下の子が小学生なので、自分の子供と重ねて見てしまったのだろう。

 親方は真っ青な顔色をしていた。
 
 …………
 
 その日の夜、僕は仕事終わりに近所のスーパーによった。

 仕事で疲れていたため、今日は総菜で良いかと思い。適当な総菜とビールをカゴに入れてレジに向かう。

 支払いを済ませ、レジ前にある袋詰めコーナーに商品を持っていく。

 袋詰めコーナーには、小学生くらいの女の子とお母さんがいて、二人で楽しそうにお話しながら袋詰めをしていた。

 僕はその親子から少し離れた所にカゴを置いて、袋詰めを始めた。

 総菜を買い物袋に入れていると、お母さんと女の子の会話が聞こえてくる。

 「ちゃんと、けんじ君に謝った?」

 「『わざとじゃないよ、ごめんなさい』ってちゃんと謝った」女の子はしょんぼりしている。

 学校で何かあったのかなと思いながら、僕はその親子の会話を聞いていた。
 
 「何をどうしたの、お母さんに分かるように説明して?」

 「コンパスでね、けんじ君の『おめめ』を刺した」

 「『おめめ』じゃわからないでしょ、右目、左目、どっちを刺したの?」

 「右の『おめめ』」

 「どんな風に刺したの?」

 「グリグリって、こんな感じ」女の子は嬉しそうに右手をグルグル回しながら、お母さんに説明している。

 「ちゃんとけんじ君に『ごめんなさい』出来た?」

 「うん、『わざとじゃないよ、ごめんなさい』って謝った」

 「ちゃんと『ごめんなさい』出来て、エライね~」お母さんは嬉しそうに女の子の頭をなでている。

 その親子の買い物かごには、大きなチキンと沢山のケーキ。赤と白のシャンパンが1本ずつ入っていた。
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