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最終話 クリスマスプレゼントをあなたに
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「ナナオ、聞いてくれ」
「……はい」
「俺は、毎日幸せなんだ。ナナオと出会う前は、本当に自分なんかって、消えてしまいたい、誰かに愛される資格なんかない、そう思っていた。今は全然違うんだ、ナナオと出会ってから、毎日生きるのが、楽しくて、幸せなんだ」
「……そんなの、当たり前だよ」
「家事をやってくれるからじゃない、美味しいご飯を作ってくれるからじゃない」
そういうと、ナナオは大きく目を見開いて俺を見た。
「違うよ、違うんだよ、ナナオ。俺が幸せなのは、ナナオが俺の傍にいてくれることなんだ。“キミ”が、俺と一緒にいてくれることが、俺にとっての幸せで、毎日の希望なんだよ」
「……」
「ナナオと、ずっと一緒にいてほしいんだ」
そう言って、俺はそんなに高いものではないけれど、少しずつ貯めていたお金で買った、指輪の入った箱を差し出した。中を開けて見せると、ナナオの表情は固まったまま怯えるように自分を抱きしめている。
「……僕は、ぼくは……、わたっ……わたしは……」
ナナオは、やっとのことで口を開いたかと思ったら、動揺に瞳を震わせながら蹲った。こんなことは初めてだ。激しく動揺しているナナオに、俺は少し息を吐くと立ち上がった。
「あ、あ、わ、わたしは……」
俺は、ナナオの隣に座って、ナナオの頭を優しく撫でて抱きしめた。
「うん」
「……」
「うんうん」
「……わ、ぼ……わ、ぼ」
「うん」
「わたしは……自分のことを、道具としか、思えないのです。ずっと、ずっと……どうしても、自分のことが人間だと、思えない、役立たずの道具としか、思えないのです、だから、道具が使用者にずっと一緒に、と言われても、希望を抱いてはいけないと、セーフティロックがかかるように、思考が停止してしまう……」
「うん、なんとなく気づいてたよ」
ナナオは、トラウマを思い出す映写機を持つように、自分の頭を押さえて蹲っている。俺は、ナナオを抱きしめる手を緩めることはしなかった。俺だって、そうだった。自分なんか死んでしまえばいいと思っていた。
「わたしは、あなたにそんな風に“人間のように”接していただけるのは、凄く嬉しいのです、でも、私は便利な掃除機のようなもので、古くて、必要なくなったら、捨てられる、道具だということが刷り込まれていて……あなたに、そんな風に愛してもらう資格も、一緒にいられる保証もありません、いつか動かなくなって、役に立たなくなる可能性だってあります、あなたが、わたしを必要としなくなるかもしれないし……」
「うん」
「ずっと一緒に、といっていただけたことは、すごく、すごく嬉しかったのです、でも、わたしは……道具で……しかも、役立たずで、バグで表情も出ないし、おちんちんも勃ちませんし……」
「そういうところも好きなんだよ」
「へ……?」
「そういうところも、全部ひっくるめて、俺はナナオが好きだ。表情がわかりやすいちんこが大きいナナオのそっくりさんより、ずっと俺と一緒にいてくれて、こうして今俺の腕の中で、泣いているナナオの方が好きだよ」
「……」
驚いた。ずっと無表情だったナナオが……。
「え?」
顔をあげたナナオの頬からつーっと何かがつたっていた。
「なんだろ、これ、オイルかな」
「ローション?」
「わかんない、けど、なんで流れてくるんだろう」
驚いているナナオに、俺はふっと噴き出した。
「感情が溢れて奇跡が起きたのかな?」
「……感情が、溢れる……?」
「うん、これ見て」
俺は、ポケットから小さな袋を取り出してナナオに見せた。ナナオは、それを覗き込んで目を見開いた。
「お守り、ナナオが作ってくれたお守りのお陰で俺、すごく頑張れたから」
「……お守り」
「うん、ナナオを守ってもらうように念をこめて作った」
絆創膏だらけの手を見せると、
「え?仕事で怪我したんじゃ……?」
「ナナオは本当に素直で可愛いんだから」
そう言って俺は、ナナオに自分が作った青いお守りを握らせた。ナナオは、俺に赤い仕事守りをくれたから、俺はナナオに青いお守りを手縫いで作ってみた。
「……わたしは、ゲイドールですよ」
お守りを大切そうに、握りしめるナナオの頬にキスをする。ナナオの顔を見ると、なんだかまだ泣いているように見えた。
「うん、でも、大事だから」
「ゲイドールに、お守りを渡す人がいますか」
「ここにいる」
「捨てられたゲイドールに、結婚指輪を渡す人がしますか」
「俺だよ」
そういうと、ナナオと俺は顔を見合わせて笑った。
「ははっ」
「ふふっ……」
「え?」
「あれ?いま、わたし……いや、僕」
ナナオは、確かに笑っていた。なんて愛らしい顔で笑うんだろう。俺の好きな人は。ずっと大事にしたい、ずっと一緒にいたい。
「いいよ、ナナオ。ごめんな……これからは、わたし、でもいいし俺のこと好きなように呼んでいいから」
これに関しては、頭を下げてナナオに謝罪した。しばらく沈黙の時間が流れ、恐る恐る顔をあげるとナナオは俺の謝罪の意味が分かっているような顔で首を傾げた。
「じゃあ、ダーリン……」
「え?」
「冗談です、じゃあ幸彦さん、と呼ばせていただきます」
そう言ってナナオは、俺のあげた指輪を左手の薬指につけて俺に見せてきた。俺は、そんなナナオを見て安心するように息を吐いた。こういうところも、本当に可愛いんだよな。
「……ありがとうございます、幸彦さん。わたしも、本当はずっとあなたと一緒にいたかったんです」
今度はナナオから俺にキスをした。時計は0時を指していた。こんなに幸せなクリスマスは初めてだ。来年も、再来年も、ずっとナナオと一緒にいる限り、この幸せな時間は続いていく。
「メリークリスマス、ナナオ」
大好きなナナオと一緒にベッドの上で過ごすクリスマスは、生きていてよかったと実感することに幸せに満ちていた。
「……はい」
「俺は、毎日幸せなんだ。ナナオと出会う前は、本当に自分なんかって、消えてしまいたい、誰かに愛される資格なんかない、そう思っていた。今は全然違うんだ、ナナオと出会ってから、毎日生きるのが、楽しくて、幸せなんだ」
「……そんなの、当たり前だよ」
「家事をやってくれるからじゃない、美味しいご飯を作ってくれるからじゃない」
そういうと、ナナオは大きく目を見開いて俺を見た。
「違うよ、違うんだよ、ナナオ。俺が幸せなのは、ナナオが俺の傍にいてくれることなんだ。“キミ”が、俺と一緒にいてくれることが、俺にとっての幸せで、毎日の希望なんだよ」
「……」
「ナナオと、ずっと一緒にいてほしいんだ」
そう言って、俺はそんなに高いものではないけれど、少しずつ貯めていたお金で買った、指輪の入った箱を差し出した。中を開けて見せると、ナナオの表情は固まったまま怯えるように自分を抱きしめている。
「……僕は、ぼくは……、わたっ……わたしは……」
ナナオは、やっとのことで口を開いたかと思ったら、動揺に瞳を震わせながら蹲った。こんなことは初めてだ。激しく動揺しているナナオに、俺は少し息を吐くと立ち上がった。
「あ、あ、わ、わたしは……」
俺は、ナナオの隣に座って、ナナオの頭を優しく撫でて抱きしめた。
「うん」
「……」
「うんうん」
「……わ、ぼ……わ、ぼ」
「うん」
「わたしは……自分のことを、道具としか、思えないのです。ずっと、ずっと……どうしても、自分のことが人間だと、思えない、役立たずの道具としか、思えないのです、だから、道具が使用者にずっと一緒に、と言われても、希望を抱いてはいけないと、セーフティロックがかかるように、思考が停止してしまう……」
「うん、なんとなく気づいてたよ」
ナナオは、トラウマを思い出す映写機を持つように、自分の頭を押さえて蹲っている。俺は、ナナオを抱きしめる手を緩めることはしなかった。俺だって、そうだった。自分なんか死んでしまえばいいと思っていた。
「わたしは、あなたにそんな風に“人間のように”接していただけるのは、凄く嬉しいのです、でも、私は便利な掃除機のようなもので、古くて、必要なくなったら、捨てられる、道具だということが刷り込まれていて……あなたに、そんな風に愛してもらう資格も、一緒にいられる保証もありません、いつか動かなくなって、役に立たなくなる可能性だってあります、あなたが、わたしを必要としなくなるかもしれないし……」
「うん」
「ずっと一緒に、といっていただけたことは、すごく、すごく嬉しかったのです、でも、わたしは……道具で……しかも、役立たずで、バグで表情も出ないし、おちんちんも勃ちませんし……」
「そういうところも好きなんだよ」
「へ……?」
「そういうところも、全部ひっくるめて、俺はナナオが好きだ。表情がわかりやすいちんこが大きいナナオのそっくりさんより、ずっと俺と一緒にいてくれて、こうして今俺の腕の中で、泣いているナナオの方が好きだよ」
「……」
驚いた。ずっと無表情だったナナオが……。
「え?」
顔をあげたナナオの頬からつーっと何かがつたっていた。
「なんだろ、これ、オイルかな」
「ローション?」
「わかんない、けど、なんで流れてくるんだろう」
驚いているナナオに、俺はふっと噴き出した。
「感情が溢れて奇跡が起きたのかな?」
「……感情が、溢れる……?」
「うん、これ見て」
俺は、ポケットから小さな袋を取り出してナナオに見せた。ナナオは、それを覗き込んで目を見開いた。
「お守り、ナナオが作ってくれたお守りのお陰で俺、すごく頑張れたから」
「……お守り」
「うん、ナナオを守ってもらうように念をこめて作った」
絆創膏だらけの手を見せると、
「え?仕事で怪我したんじゃ……?」
「ナナオは本当に素直で可愛いんだから」
そう言って俺は、ナナオに自分が作った青いお守りを握らせた。ナナオは、俺に赤い仕事守りをくれたから、俺はナナオに青いお守りを手縫いで作ってみた。
「……わたしは、ゲイドールですよ」
お守りを大切そうに、握りしめるナナオの頬にキスをする。ナナオの顔を見ると、なんだかまだ泣いているように見えた。
「うん、でも、大事だから」
「ゲイドールに、お守りを渡す人がいますか」
「ここにいる」
「捨てられたゲイドールに、結婚指輪を渡す人がしますか」
「俺だよ」
そういうと、ナナオと俺は顔を見合わせて笑った。
「ははっ」
「ふふっ……」
「え?」
「あれ?いま、わたし……いや、僕」
ナナオは、確かに笑っていた。なんて愛らしい顔で笑うんだろう。俺の好きな人は。ずっと大事にしたい、ずっと一緒にいたい。
「いいよ、ナナオ。ごめんな……これからは、わたし、でもいいし俺のこと好きなように呼んでいいから」
これに関しては、頭を下げてナナオに謝罪した。しばらく沈黙の時間が流れ、恐る恐る顔をあげるとナナオは俺の謝罪の意味が分かっているような顔で首を傾げた。
「じゃあ、ダーリン……」
「え?」
「冗談です、じゃあ幸彦さん、と呼ばせていただきます」
そう言ってナナオは、俺のあげた指輪を左手の薬指につけて俺に見せてきた。俺は、そんなナナオを見て安心するように息を吐いた。こういうところも、本当に可愛いんだよな。
「……ありがとうございます、幸彦さん。わたしも、本当はずっとあなたと一緒にいたかったんです」
今度はナナオから俺にキスをした。時計は0時を指していた。こんなに幸せなクリスマスは初めてだ。来年も、再来年も、ずっとナナオと一緒にいる限り、この幸せな時間は続いていく。
「メリークリスマス、ナナオ」
大好きなナナオと一緒にベッドの上で過ごすクリスマスは、生きていてよかったと実感することに幸せに満ちていた。
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