ゲイドールを拾った

ガイア

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16話 吹っ切れた、雪風と共に

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「……」
「だれ、翔太くん、この人」

 隣の女性が時間が惜しいように、“翔太”の腕にからみついた手に力をこめている。

「高校の時、僕のことが好きなゲイの人」
「えっ、まじ?」
「あの後不登校になってから会ってなかったね、元気だった?一人ってことは、これから寂しくクリスマスを過ごすのかな?」

 雪が降ってきて、俺の頬にぽつりと落ちた。目が覚めたようにハッとして、俺は溶けた雪に触れた。冷たかった。
 どうして、こんなヤツのこと、俺好きだったんだろう。

「……っ、ははっ……」

 なんだか、自分が滑稽で笑えてきた。高校の時に自分のことを好きだと勇気を出して告白してきたクラスメイトのことを、ゲイだと笑い、馬鹿にし、20過ぎてたまたまクリスマスに再会しても、そんなことを馬鹿にしたように言ってくるようなヤツの。こんな失礼で無礼なヤツの、どこが好きだったんだよ、高校の時の俺。
 俺の頬に、雪解けの水滴が何度か流れて、俺は俯いて笑った。

「はははっ……ははっ」
「うわ、怖っ」
「何この人、おかしくなっちゃったんじゃない?」
「……行こう行こう」

 2人の薬指には、指輪がきらりと光っていた。隣の女性は、お腹が大きかったが、あんなヤツでも親になるんだな。

「可哀想に」

 言い返したり、嫌味を言ってやったり、高校の時はよくもやってくれたな、と言ってやれればスカッとはしたんだろうけど、生憎俺はそういう人間ではない。弱いままで、ネガティブで、自信がないままだ。

「おかえりなさい、幸彦くんっ」

 でも、弱いままでも、愛する人と幸せになる。その権利は誰にでもあることなんだ。

「ただいま、ナナオ」
「ケーキ作って待ってたよ」

 ナナオは、帰ってくるなり俺に抱き着いてくる。可愛い。

「ご飯にしよう」

 そう言って、ナナオは子供のように俺の手を引いた。
「楽しみだな」

 ナナオは、無表情だが俺に早く作ったものを見せたいみたいだった。無邪気で可愛らしいナナオ、今日はナナオにいつもの感謝を伝えて、買ってきた“クリスマスプレゼント”を渡すんだ。

「さっきさ、前にいってた高校の時に好きだった人にたまたま道で出会ったんだ」
「え、あ、そうなんだ」
「うん、でも、なんとも思わなかったんだ。俺には、もうナナオがいるから」
「……」

 ナナオは、俺のことを振り返った。

「いつも、俺のためにご飯を作ってくれてありがとう」
「……そんなの、当たり前だよ」

 ナナオは、俺を振り返らずそう言った。俺は、自信なさげなその背中を見ながら、今日必ずナナオにずっと伝えたかったことを伝えることに決めた。
 食卓には、唐揚げやフライドチキンなど、俺の好きなものがずらりと並んでいた。お互いいつものように向かい合ってテーブルに座る。

「こんなに食べれるかな、ははっ、ありがとう。ナナオ」

「幸彦くんが、好きなものを全部作ったんだ。ケーキも思わずホールで作っちゃったんだけど」

 そう言ってナナオは、キッチンからホールのショートケーキを出してきた。いちごが沢山乗っていて美味しそうだ。

「こんなに大きいの作って迷惑かな、張り切って作った後に気づいたんだ」
 しゅんと俯くナナオがケーキの皿をテーブルに置いた後、ナナオの頭を優しく撫でた。
「ありがとう、すごく嬉しいよ」

 笑ってしまうくらい大きなケーキは、ナナオからの愛情を感じられて嬉しかった。

「どんどん食べて」

 ナナオは、そう言って俺の皿に山ほど料理を乗せた。俺は、ナナオの作ってくれたものはいつも残さず食べている。だが、今日は大事な話があったので明日にとっておいてほしいと頼んで、食べれるところまで大好きなナナオの料理を食べ尽くした。相変わらずどの料理も美味しい。温かくて、涙が出る程美味しい。

 こんなふうにクリスマスを過ごせるようになるなんて、去年までの俺は思わなかっただろう。
あっという間に食べ終わった俺は、ナナオと一緒に後片付けを済ませると、一緒に風呂に入る前に、テーブルを拭いているナナオに真剣な顔で向き直った。

「ナナオ」
「なに?幸彦くん」
「渡したいものがあるんだ、受け取ってほしい」
「渡したいもの?」
「うん、クリスマスプレゼント」

 俺は、こっそり買っていたクリスマスプレゼントの袋を取りに、ナナオが整理してくれて綺麗になっている押入れに向かった。結構前から買って隠していたんだ。もしかしたら、ナナオはもう気づいているかもしれないけれど。

「クリスマスプレゼント……プレゼントってこと?あ……」 

 困ったように俯くナナオの頭を、優しく撫でた。

「押入れにあったヤツ、ナナオは気づいていたか」

 俺は、ナナオにプレゼントするクリスマスプレゼントに、「開けないで」とメモを貼っていたのだ。ナナオは、必ず俺の言うことを聞いて触らないから、今まで開けられなかったのだろう。

「僕に……?でも、僕なにも、準備していないよ」
「俺の為に料理を作ってくれたじゃないか、それが凄く嬉しいから」
「それに、日頃の感謝も伝えたいし」

 俺は、ナナオに向かい合うがナナオは無表情だが、何を言われるのか怯えている様子だった。なんとなく、ナナオがどういう気持ちで俺と過ごしているのかは、なんとなくわかっている。明らかなプレゼントが押入れに置いてあるのに気づいていて、自分へのものだと思わないのも、“そういう”理由だろう。
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