16 / 17
16話 吹っ切れた、雪風と共に
しおりを挟む
「……」
「だれ、翔太くん、この人」
隣の女性が時間が惜しいように、“翔太”の腕にからみついた手に力をこめている。
「高校の時、僕のことが好きなゲイの人」
「えっ、まじ?」
「あの後不登校になってから会ってなかったね、元気だった?一人ってことは、これから寂しくクリスマスを過ごすのかな?」
雪が降ってきて、俺の頬にぽつりと落ちた。目が覚めたようにハッとして、俺は溶けた雪に触れた。冷たかった。
どうして、こんなヤツのこと、俺好きだったんだろう。
「……っ、ははっ……」
なんだか、自分が滑稽で笑えてきた。高校の時に自分のことを好きだと勇気を出して告白してきたクラスメイトのことを、ゲイだと笑い、馬鹿にし、20過ぎてたまたまクリスマスに再会しても、そんなことを馬鹿にしたように言ってくるようなヤツの。こんな失礼で無礼なヤツの、どこが好きだったんだよ、高校の時の俺。
俺の頬に、雪解けの水滴が何度か流れて、俺は俯いて笑った。
「はははっ……ははっ」
「うわ、怖っ」
「何この人、おかしくなっちゃったんじゃない?」
「……行こう行こう」
2人の薬指には、指輪がきらりと光っていた。隣の女性は、お腹が大きかったが、あんなヤツでも親になるんだな。
「可哀想に」
言い返したり、嫌味を言ってやったり、高校の時はよくもやってくれたな、と言ってやれればスカッとはしたんだろうけど、生憎俺はそういう人間ではない。弱いままで、ネガティブで、自信がないままだ。
「おかえりなさい、幸彦くんっ」
でも、弱いままでも、愛する人と幸せになる。その権利は誰にでもあることなんだ。
「ただいま、ナナオ」
「ケーキ作って待ってたよ」
ナナオは、帰ってくるなり俺に抱き着いてくる。可愛い。
「ご飯にしよう」
そう言って、ナナオは子供のように俺の手を引いた。
「楽しみだな」
ナナオは、無表情だが俺に早く作ったものを見せたいみたいだった。無邪気で可愛らしいナナオ、今日はナナオにいつもの感謝を伝えて、買ってきた“クリスマスプレゼント”を渡すんだ。
「さっきさ、前にいってた高校の時に好きだった人にたまたま道で出会ったんだ」
「え、あ、そうなんだ」
「うん、でも、なんとも思わなかったんだ。俺には、もうナナオがいるから」
「……」
ナナオは、俺のことを振り返った。
「いつも、俺のためにご飯を作ってくれてありがとう」
「……そんなの、当たり前だよ」
ナナオは、俺を振り返らずそう言った。俺は、自信なさげなその背中を見ながら、今日必ずナナオにずっと伝えたかったことを伝えることに決めた。
食卓には、唐揚げやフライドチキンなど、俺の好きなものがずらりと並んでいた。お互いいつものように向かい合ってテーブルに座る。
「こんなに食べれるかな、ははっ、ありがとう。ナナオ」
「幸彦くんが、好きなものを全部作ったんだ。ケーキも思わずホールで作っちゃったんだけど」
そう言ってナナオは、キッチンからホールのショートケーキを出してきた。いちごが沢山乗っていて美味しそうだ。
「こんなに大きいの作って迷惑かな、張り切って作った後に気づいたんだ」
しゅんと俯くナナオがケーキの皿をテーブルに置いた後、ナナオの頭を優しく撫でた。
「ありがとう、すごく嬉しいよ」
笑ってしまうくらい大きなケーキは、ナナオからの愛情を感じられて嬉しかった。
「どんどん食べて」
ナナオは、そう言って俺の皿に山ほど料理を乗せた。俺は、ナナオの作ってくれたものはいつも残さず食べている。だが、今日は大事な話があったので明日にとっておいてほしいと頼んで、食べれるところまで大好きなナナオの料理を食べ尽くした。相変わらずどの料理も美味しい。温かくて、涙が出る程美味しい。
こんなふうにクリスマスを過ごせるようになるなんて、去年までの俺は思わなかっただろう。
あっという間に食べ終わった俺は、ナナオと一緒に後片付けを済ませると、一緒に風呂に入る前に、テーブルを拭いているナナオに真剣な顔で向き直った。
「ナナオ」
「なに?幸彦くん」
「渡したいものがあるんだ、受け取ってほしい」
「渡したいもの?」
「うん、クリスマスプレゼント」
俺は、こっそり買っていたクリスマスプレゼントの袋を取りに、ナナオが整理してくれて綺麗になっている押入れに向かった。結構前から買って隠していたんだ。もしかしたら、ナナオはもう気づいているかもしれないけれど。
「クリスマスプレゼント……プレゼントってこと?あ……」
困ったように俯くナナオの頭を、優しく撫でた。
「押入れにあったヤツ、ナナオは気づいていたか」
俺は、ナナオにプレゼントするクリスマスプレゼントに、「開けないで」とメモを貼っていたのだ。ナナオは、必ず俺の言うことを聞いて触らないから、今まで開けられなかったのだろう。
「僕に……?でも、僕なにも、準備していないよ」
「俺の為に料理を作ってくれたじゃないか、それが凄く嬉しいから」
「それに、日頃の感謝も伝えたいし」
俺は、ナナオに向かい合うがナナオは無表情だが、何を言われるのか怯えている様子だった。なんとなく、ナナオがどういう気持ちで俺と過ごしているのかは、なんとなくわかっている。明らかなプレゼントが押入れに置いてあるのに気づいていて、自分へのものだと思わないのも、“そういう”理由だろう。
「だれ、翔太くん、この人」
隣の女性が時間が惜しいように、“翔太”の腕にからみついた手に力をこめている。
「高校の時、僕のことが好きなゲイの人」
「えっ、まじ?」
「あの後不登校になってから会ってなかったね、元気だった?一人ってことは、これから寂しくクリスマスを過ごすのかな?」
雪が降ってきて、俺の頬にぽつりと落ちた。目が覚めたようにハッとして、俺は溶けた雪に触れた。冷たかった。
どうして、こんなヤツのこと、俺好きだったんだろう。
「……っ、ははっ……」
なんだか、自分が滑稽で笑えてきた。高校の時に自分のことを好きだと勇気を出して告白してきたクラスメイトのことを、ゲイだと笑い、馬鹿にし、20過ぎてたまたまクリスマスに再会しても、そんなことを馬鹿にしたように言ってくるようなヤツの。こんな失礼で無礼なヤツの、どこが好きだったんだよ、高校の時の俺。
俺の頬に、雪解けの水滴が何度か流れて、俺は俯いて笑った。
「はははっ……ははっ」
「うわ、怖っ」
「何この人、おかしくなっちゃったんじゃない?」
「……行こう行こう」
2人の薬指には、指輪がきらりと光っていた。隣の女性は、お腹が大きかったが、あんなヤツでも親になるんだな。
「可哀想に」
言い返したり、嫌味を言ってやったり、高校の時はよくもやってくれたな、と言ってやれればスカッとはしたんだろうけど、生憎俺はそういう人間ではない。弱いままで、ネガティブで、自信がないままだ。
「おかえりなさい、幸彦くんっ」
でも、弱いままでも、愛する人と幸せになる。その権利は誰にでもあることなんだ。
「ただいま、ナナオ」
「ケーキ作って待ってたよ」
ナナオは、帰ってくるなり俺に抱き着いてくる。可愛い。
「ご飯にしよう」
そう言って、ナナオは子供のように俺の手を引いた。
「楽しみだな」
ナナオは、無表情だが俺に早く作ったものを見せたいみたいだった。無邪気で可愛らしいナナオ、今日はナナオにいつもの感謝を伝えて、買ってきた“クリスマスプレゼント”を渡すんだ。
「さっきさ、前にいってた高校の時に好きだった人にたまたま道で出会ったんだ」
「え、あ、そうなんだ」
「うん、でも、なんとも思わなかったんだ。俺には、もうナナオがいるから」
「……」
ナナオは、俺のことを振り返った。
「いつも、俺のためにご飯を作ってくれてありがとう」
「……そんなの、当たり前だよ」
ナナオは、俺を振り返らずそう言った。俺は、自信なさげなその背中を見ながら、今日必ずナナオにずっと伝えたかったことを伝えることに決めた。
食卓には、唐揚げやフライドチキンなど、俺の好きなものがずらりと並んでいた。お互いいつものように向かい合ってテーブルに座る。
「こんなに食べれるかな、ははっ、ありがとう。ナナオ」
「幸彦くんが、好きなものを全部作ったんだ。ケーキも思わずホールで作っちゃったんだけど」
そう言ってナナオは、キッチンからホールのショートケーキを出してきた。いちごが沢山乗っていて美味しそうだ。
「こんなに大きいの作って迷惑かな、張り切って作った後に気づいたんだ」
しゅんと俯くナナオがケーキの皿をテーブルに置いた後、ナナオの頭を優しく撫でた。
「ありがとう、すごく嬉しいよ」
笑ってしまうくらい大きなケーキは、ナナオからの愛情を感じられて嬉しかった。
「どんどん食べて」
ナナオは、そう言って俺の皿に山ほど料理を乗せた。俺は、ナナオの作ってくれたものはいつも残さず食べている。だが、今日は大事な話があったので明日にとっておいてほしいと頼んで、食べれるところまで大好きなナナオの料理を食べ尽くした。相変わらずどの料理も美味しい。温かくて、涙が出る程美味しい。
こんなふうにクリスマスを過ごせるようになるなんて、去年までの俺は思わなかっただろう。
あっという間に食べ終わった俺は、ナナオと一緒に後片付けを済ませると、一緒に風呂に入る前に、テーブルを拭いているナナオに真剣な顔で向き直った。
「ナナオ」
「なに?幸彦くん」
「渡したいものがあるんだ、受け取ってほしい」
「渡したいもの?」
「うん、クリスマスプレゼント」
俺は、こっそり買っていたクリスマスプレゼントの袋を取りに、ナナオが整理してくれて綺麗になっている押入れに向かった。結構前から買って隠していたんだ。もしかしたら、ナナオはもう気づいているかもしれないけれど。
「クリスマスプレゼント……プレゼントってこと?あ……」
困ったように俯くナナオの頭を、優しく撫でた。
「押入れにあったヤツ、ナナオは気づいていたか」
俺は、ナナオにプレゼントするクリスマスプレゼントに、「開けないで」とメモを貼っていたのだ。ナナオは、必ず俺の言うことを聞いて触らないから、今まで開けられなかったのだろう。
「僕に……?でも、僕なにも、準備していないよ」
「俺の為に料理を作ってくれたじゃないか、それが凄く嬉しいから」
「それに、日頃の感謝も伝えたいし」
俺は、ナナオに向かい合うがナナオは無表情だが、何を言われるのか怯えている様子だった。なんとなく、ナナオがどういう気持ちで俺と過ごしているのかは、なんとなくわかっている。明らかなプレゼントが押入れに置いてあるのに気づいていて、自分へのものだと思わないのも、“そういう”理由だろう。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。
ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。
秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。
戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。
●八架 深都(はちか みと)
20歳、大学2年生
好奇心旺盛な性格
●秋木 晴士(あきぎ せいじ)
26歳、小説家
重度の不眠症らしいが……?
※性的描写が含まれます
完結いたしました!
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる