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2話 ゲイドール拾った
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綺麗な白い足が、太腿の付け根あたりから見えている。かなり短いショートパンツかいやでも手も腕が肩も、丸見えだ、全裸で、人がゴミ捨て場に寝ている。なんで全裸なんだ?どういうことだ?
俺の足は自然に早くなる。病院?何かトラブル?警察?咄嗟にポケットのスマホを手にして、ゴミをその場にどさりと落として走り出した。
「……女性っぽい線の薄さだったけど、全裸の女性がこんなところに全裸で寝ているわけないよな……」
怖い、けど何かあるなら助けないと、動揺しながらゴミ捨て場に近づいた俺は、思わずごくりと喉を鳴らしていた。
「……嘘だろ」
ゴミ捨て場には、あの販売停止になったゲイドール、「早川優」が捨てられていたのだ。しかも、レイプされて捨てられたかのように全裸で、乱暴にゴミ捨て場で「ゴミです」と言わんばかりに、ゴミにまみれて汚れていた。見てはいけないが、男性器がしゅんと萎えていて、何も見据えていない真っ黒な瞳は、空虚をぼーっと見つめている。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
大丈夫ですか、ってなんだよ自分。と突っ込みたくなる。全裸でゴミ捨て場に捨てられているゲイドールに向かって、どうしよう、俺はドキドキしながら返事を待った。ゲイドールは、空虚な瞳をさっぱりとした空から、ゆっくりと俺に向けた。
「……」
ああ、俺を見ている。と思った。ちゃんと生きている、ちゃんと動いている、ゴミまみれでかなり匂うけれど、綺麗にしたら、彼はもしかしたらまだちゃんと……。
「うち、来ますか?」
捨て犬に丁寧にうちに来るか聞いているようだ。一応人型なので敬語が出てしまう。うちに来るかという問いに対し、目の前のゲイドールは薄く目を閉じた。考えているのか、まつ毛が長くて汚れていても綺麗だなと感じた。
「あれ」
だが、それっきり目を開かなくなってしまった。
「え?死んだ?」
どういうことだ?数秒経ってもぴくりとも動かないぞ、死んだ?死ぬなんてことある?燃料切れ?どういうことだろう、本当にわからない。顔に触れると、本当の人間のように柔らかく、そして人形のように冷たかった。だが、死んだと思っていたが、彼の体がぴくりと動いたように見えた。
「あれ?嘘、動いた?」
ゲイドールの腕がゆっくりと動いて、頬に触れる俺の手を包み込んだ。
「ありがとう、ございます」
ゲイドールは、無表情だったが、俺の手を愛おしそうに握った。俺はその直後、どくんと心臓に血が通ったような気がした。甘い、毒が心臓に流れ込むような、そんな感覚に包まれた。
「俺の家、狭いけどそれでもよければうち、来る?」
「……」
彼は少し頷いて、それっきり、また彼は動かなくなった。
でも、俺は決めていた。
彼を、彼だと認識した時に決めていた。このゲイドールを、持ち帰ることを。俺は灰色のジャージの上を着せて、彼をおんぶした。まだ朝早いし、走って帰ればあまり人に見られずに済むだろう。あ、持ってきたゴミ袋、道に置いてきたままだった。
止まっていた時間が急に彼を拾ったことで動き出したかのように、俺の脳は活性化していた。自分の持ってきたゴミを捨てて、やっと俺は彼をおんぶして、久々に走った。
あの高校の出来事から、俺はこんなに空を美しいと思ったことはない。空が青いと知ったのは、何年ぶりだろうか。空気は澄んでいて、鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「拾った、ゲイドール……」
俺の足は自然に早くなる。病院?何かトラブル?警察?咄嗟にポケットのスマホを手にして、ゴミをその場にどさりと落として走り出した。
「……女性っぽい線の薄さだったけど、全裸の女性がこんなところに全裸で寝ているわけないよな……」
怖い、けど何かあるなら助けないと、動揺しながらゴミ捨て場に近づいた俺は、思わずごくりと喉を鳴らしていた。
「……嘘だろ」
ゴミ捨て場には、あの販売停止になったゲイドール、「早川優」が捨てられていたのだ。しかも、レイプされて捨てられたかのように全裸で、乱暴にゴミ捨て場で「ゴミです」と言わんばかりに、ゴミにまみれて汚れていた。見てはいけないが、男性器がしゅんと萎えていて、何も見据えていない真っ黒な瞳は、空虚をぼーっと見つめている。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
大丈夫ですか、ってなんだよ自分。と突っ込みたくなる。全裸でゴミ捨て場に捨てられているゲイドールに向かって、どうしよう、俺はドキドキしながら返事を待った。ゲイドールは、空虚な瞳をさっぱりとした空から、ゆっくりと俺に向けた。
「……」
ああ、俺を見ている。と思った。ちゃんと生きている、ちゃんと動いている、ゴミまみれでかなり匂うけれど、綺麗にしたら、彼はもしかしたらまだちゃんと……。
「うち、来ますか?」
捨て犬に丁寧にうちに来るか聞いているようだ。一応人型なので敬語が出てしまう。うちに来るかという問いに対し、目の前のゲイドールは薄く目を閉じた。考えているのか、まつ毛が長くて汚れていても綺麗だなと感じた。
「あれ」
だが、それっきり目を開かなくなってしまった。
「え?死んだ?」
どういうことだ?数秒経ってもぴくりとも動かないぞ、死んだ?死ぬなんてことある?燃料切れ?どういうことだろう、本当にわからない。顔に触れると、本当の人間のように柔らかく、そして人形のように冷たかった。だが、死んだと思っていたが、彼の体がぴくりと動いたように見えた。
「あれ?嘘、動いた?」
ゲイドールの腕がゆっくりと動いて、頬に触れる俺の手を包み込んだ。
「ありがとう、ございます」
ゲイドールは、無表情だったが、俺の手を愛おしそうに握った。俺はその直後、どくんと心臓に血が通ったような気がした。甘い、毒が心臓に流れ込むような、そんな感覚に包まれた。
「俺の家、狭いけどそれでもよければうち、来る?」
「……」
彼は少し頷いて、それっきり、また彼は動かなくなった。
でも、俺は決めていた。
彼を、彼だと認識した時に決めていた。このゲイドールを、持ち帰ることを。俺は灰色のジャージの上を着せて、彼をおんぶした。まだ朝早いし、走って帰ればあまり人に見られずに済むだろう。あ、持ってきたゴミ袋、道に置いてきたままだった。
止まっていた時間が急に彼を拾ったことで動き出したかのように、俺の脳は活性化していた。自分の持ってきたゴミを捨てて、やっと俺は彼をおんぶして、久々に走った。
あの高校の出来事から、俺はこんなに空を美しいと思ったことはない。空が青いと知ったのは、何年ぶりだろうか。空気は澄んでいて、鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「拾った、ゲイドール……」
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