不死身探偵不ニ三士郎

ガイア

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「ここですか」

 不二三は、昭道に案内されてレストランの備品庫に来ていた。

蛍光灯の灯りが救いだというくらい、寒くて不安になる場所だった。ここで閉じ込められるというのはどれほどの恐怖なのだろう。

扉を開けてもらって、密閉じゃない状態で、不二三はやっと中に入れた。

レストランの備品庫といっても、中にあるのはレストランのお品書きや、子供がレストランで使う椅子などの備品や、新しい制服、エプロンなどが段ボールの中に入れられて積まれていた。

「寒いですね」
「ええ、ここは暖房も何もないので」

 倉庫をうろうろしていると、不二三は段ボールの下にあることに気づいた。

「床下があるんですか?」

「ああ、段ボールが積まれていて基本的に使っていないですけどね」

「……柊さんが行方不明になった時、この中にいたとかは考えられますかね?」

「……」

 昭道は、目を大きく見開いた。

「怖すぎますよ、そんな……なんですか、急に」

「いいえ、なんでも」

 昭道は、変な生き物でも見るような眼で不二三を見つめた。

「ボールペンとメモ用紙は、常にレストランの人は持ち歩いている感じなんでしょうか?」

 不二三が、浴室で見つけたボールペンを差し出すと、昭道はじっとボールペンを見て目を見開いた。

「これ、姉さんのですか?」
「ええ」
「どこに?」

「遺体の着物の中から見つかりました」

 不二三がそういうと、昭道は眉をひそめて俯いた。

「ところで、先ほどの質問ですが」

「え?ああ、ボールペンとメモ用紙は常に持ち歩いているのか?でしたっけ?ええ、そうですね。基本的にエプロンにいれてますが、着物の衿にペンを挟んでいる人もいます」

「成る程」

 何が言いたいのだろうかといった様子で不二三を見つめる昭道に、不二三はしゃがんで床下のある床をなでながら目を閉じた。5秒くらい動かなかった不二三だったが、目を見開くと、すくっと立ち上がった。

「ありがとうございました、昭道さん、203号室でしたよね。危ないので部屋から出ずに過ごしてくださいね」

「え?あ、はい」

 レストランから出た後、階段から上がってきた雪知が不二三の方に駆けてきた。

「不二三!」

「雪知君」

 雪知は、不二三に駆け寄ると不二三の手を取った。

「伊藤さんが重要なことを話してくれたんだ」

「そうか、僕も彼には話を聞かないとと思っていたんだ。でも、きっと僕じゃ話してくれそうにないだろうし、立川さんに呼んできてもらっておいてよかった」

「は?」

 雪知は、微笑んでいる不二三の顔を見つめた。

「伊藤さんを休憩室に呼んできてと伝えておいたんだ。雪知は僕より先に部屋に行って休んだりいないだろうから、休憩室にいると思って。話を聞いてくれてありがとう」

「お前、俺と伊藤さんを会わせて会話させるように仕組んだのか」

「いや、仕組んだなんて」

 にこっとほほ笑んだ不二三を睨んだ雪知の頬は緩んでいた。部屋に戻ってお互いの情報を交換すると、不二三は顎に手を当てて目を閉じた。

「成る程……」

「どうだ?不二三」

「……雪知君を頼ってよかったよ。僕じゃその話は聞けなかっただろう」

「え?」

「君だから、伊藤さんは心を開いて話をしてくれたんだ。君のおかげで点と点は、線になって繋がった」

「じゃあ……」

 不二三は、ゆっくりと立ち上がった。

「僕を殺した犯人及び、一連の殺人事件。そして、柊ゆらぎさんの行方不明事件。幽霊事件も、全て繋がっていたんだ。僕はこれから犯人のところに行ってくる」

「俺も行く」

 雪知はすぐに立ち上がった。不二三は、雪知を見つめた。

「ああ、一緒に来てくれ」

 危ないからと断られるだろうかと思った雪知だったが、杞憂だったようだ。
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