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フロントから雪知たちの部屋へと向かう階段を降りて左側、エレベーターと休憩室がある場所に向かった。
「今は、休憩室の明かりがついているか明るいな」
「ああ」
「でも、皆幽霊を見た日は、休憩室の電気が消えていたと言っていた」
ぱちんと休憩室の電気を消して外に出ると、自販機の明かりさえ一切外に漏れ出ず、真っ暗になる。そもそも、フロントの明かりも階段までしか届いておらず奥の休憩室までは、休憩室からの明かりでエレベーターまでの道筋が見えるといった様子だった。
「だから私たちは、おかしいと思ってエレベーターの方を向いたんです」
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
振り返ると、立川が懐中電灯と自分の顔にあてて、幽霊のように暗い雰囲気で立っていた。
「あの、さっきの嘘の話なんですけど」
「え?」
言いずらそうに俯いた立川は、目を泳がせながら申し訳なさそうに両手をもじもじさせている。
「嘘、ついてました、私」
「嘘……」
「ええ」
不二三が眉をひそめて、立川は休憩室の電気をぱちりとつけた。
「幽霊を見て気絶した私を、近藤さんが休憩室まで運んでくれたって言いましたよね?」
「ああ、はい」
「あれ、嘘です。そう言うようにあの女からいわれたんです」
「……は?」
雪知が口を開いた。近藤は立川をいじめていたとはいえ、気絶した立川を休憩室に寝かせたという話からまだ後輩への良心があるのかと思っていたのだ。
「あの女がそんなこと、するわけないんです」
「じゃあ、誰があなたを運んだんですか?」
雪知の問いかけに、立川は自分の胸を両手で抑えた。
「わかりません……あの時あのあたりには誰にもいませんでしたし、悲鳴をあげて聞きつけたとしても、私が誰が運んでくださったのかと聞いてくださいと樫杉さんにお願いして聞いてもらった時も、お客さんも、誰も名乗りでてくれなかったんです」
「……名乗り出なかった?隠す必要がないのに、ですか」
「はい、だからあの女が私に決まっているじゃないですかって」
「……」
不二三は、腕を組んで目を閉じた。雪知は、そんな不二三を見て自分なりに考えた。気絶した立川を休憩室に運んだのは?
もしくは、この立川が、気絶したフリをしていた可能性もあるのだ。
「わかりました、ありがとうございます」
でも、だとしたら何故今そんなことを言ったのだろう。
「虚偽罪が怖くて……あ、これ懐中電灯。また外を調べることになったら使って下さい」
「あ、立川さんちょっと」
不二三は、唐突に立ち去ろうとしている立川を呼び止め、何かを伝えると立川は頷いて去っていった。
「何を言ったんだ?不二三」
「いや、別に」
先ほど背中を丸めて白い手で懐中電灯を差し出してきた立川に、ただの正直者か、それとも怯えた彼女も演技なのか、雪知はこの旅館の人々がわからなくなってきていた。
「故障しているエレベーターはあれか」
休憩室から出ると、不二三は奥のエレベーターへと向かった。
エレベーターは、故障中という張り紙がはられていて、ボタンにも×のテープが張られていた。
「ん?」
懐中電灯でテープを照らしながら不二三は首を傾げた。雪知も覗き込むと、テープは新しかった。
「テープは、ずいぶん前に貼られたものじゃなかったか?僕たちが依頼を受けるより前に」
手袋をしたまま、テープを剥がす不二三に、雪知は慌てて肩を掴んだ。
「おい、勝手に剥がしたらだめだろ」
止めようとする雪知を無視し、不二三はエレベーターの上というボタンを押した。
「は?」
エレベーターは、開いたのだ
「今は、休憩室の明かりがついているか明るいな」
「ああ」
「でも、皆幽霊を見た日は、休憩室の電気が消えていたと言っていた」
ぱちんと休憩室の電気を消して外に出ると、自販機の明かりさえ一切外に漏れ出ず、真っ暗になる。そもそも、フロントの明かりも階段までしか届いておらず奥の休憩室までは、休憩室からの明かりでエレベーターまでの道筋が見えるといった様子だった。
「だから私たちは、おかしいと思ってエレベーターの方を向いたんです」
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
振り返ると、立川が懐中電灯と自分の顔にあてて、幽霊のように暗い雰囲気で立っていた。
「あの、さっきの嘘の話なんですけど」
「え?」
言いずらそうに俯いた立川は、目を泳がせながら申し訳なさそうに両手をもじもじさせている。
「嘘、ついてました、私」
「嘘……」
「ええ」
不二三が眉をひそめて、立川は休憩室の電気をぱちりとつけた。
「幽霊を見て気絶した私を、近藤さんが休憩室まで運んでくれたって言いましたよね?」
「ああ、はい」
「あれ、嘘です。そう言うようにあの女からいわれたんです」
「……は?」
雪知が口を開いた。近藤は立川をいじめていたとはいえ、気絶した立川を休憩室に寝かせたという話からまだ後輩への良心があるのかと思っていたのだ。
「あの女がそんなこと、するわけないんです」
「じゃあ、誰があなたを運んだんですか?」
雪知の問いかけに、立川は自分の胸を両手で抑えた。
「わかりません……あの時あのあたりには誰にもいませんでしたし、悲鳴をあげて聞きつけたとしても、私が誰が運んでくださったのかと聞いてくださいと樫杉さんにお願いして聞いてもらった時も、お客さんも、誰も名乗りでてくれなかったんです」
「……名乗り出なかった?隠す必要がないのに、ですか」
「はい、だからあの女が私に決まっているじゃないですかって」
「……」
不二三は、腕を組んで目を閉じた。雪知は、そんな不二三を見て自分なりに考えた。気絶した立川を休憩室に運んだのは?
もしくは、この立川が、気絶したフリをしていた可能性もあるのだ。
「わかりました、ありがとうございます」
でも、だとしたら何故今そんなことを言ったのだろう。
「虚偽罪が怖くて……あ、これ懐中電灯。また外を調べることになったら使って下さい」
「あ、立川さんちょっと」
不二三は、唐突に立ち去ろうとしている立川を呼び止め、何かを伝えると立川は頷いて去っていった。
「何を言ったんだ?不二三」
「いや、別に」
先ほど背中を丸めて白い手で懐中電灯を差し出してきた立川に、ただの正直者か、それとも怯えた彼女も演技なのか、雪知はこの旅館の人々がわからなくなってきていた。
「故障しているエレベーターはあれか」
休憩室から出ると、不二三は奥のエレベーターへと向かった。
エレベーターは、故障中という張り紙がはられていて、ボタンにも×のテープが張られていた。
「ん?」
懐中電灯でテープを照らしながら不二三は首を傾げた。雪知も覗き込むと、テープは新しかった。
「テープは、ずいぶん前に貼られたものじゃなかったか?僕たちが依頼を受けるより前に」
手袋をしたまま、テープを剥がす不二三に、雪知は慌てて肩を掴んだ。
「おい、勝手に剥がしたらだめだろ」
止めようとする雪知を無視し、不二三はエレベーターの上というボタンを押した。
「は?」
エレベーターは、開いたのだ
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