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「おそらく彼女は……」
「レストランの従業員、近藤さんでしょうね」
不二三はさらりとそういった。
「か……近藤さんが」
谷口は、がくんと膝をついた。
「どうしてうちの従業員が、しかも女性だけが次々と……」
樫杉も愕然としながら涙を流した。昭道はそんな樫杉の背中をさすって目を伏せている。
「これからそれを推理します」
不二三は、淡々とそういって近藤のガムテープをはがし終えた。
「おい、不二三」
雪知は、事件になると喋るようになる不二三を見ていつもハラハラしている。
他人への配慮は普段もあまりないというか、関わり自体持ちたくない不二三だが、事件になると事件へと目線が向かいすぎて、周りへの気遣いとかそういうものが霧のように霞んでしまうのが心配になるのだ。
本当は心の優しい不二三を、事件を解決していく淡々としている不二三からは見て取れないように思う。
「……香苗だ」
菅原は、顔が赤く腫れあがりぐったりしている死体を見て目を伏せた。全員で近藤を部屋の居間まで運んで寝かせた。
「誰か皆さんを……フロントに集めてください」
「わかりました!僕が呼んできます」
不二三の指示に、昭道が頷いてどたどたと廊下を走っていった。
「警察を呼ぶことができないのが歯がゆいですね」
谷口が片手で口を押えながら眉をひそめた。
「呼べない?雪でですか?」
「不二三はまだ知らないんだったな、電話線が切られているのか電波が入らないらしいんだ」
雪知が説明すると、不二三は口元に手を当てて何かを考えている。そんな不二三を見下ろしながら、谷口が手をあわあわと動かした。
「警察が捜査とかできないわけですよね……連絡がつくまで犯人とずっと一緒ってことですよね?」
不二三が死体を触りながら首を傾げた。
「捜査は、できますよ、雪がやんだら逮捕する犯人を差し出せばいいんです」
谷口はぽかんとして不二三の顔を見た。
「僕はこうみえて探偵ですから」
「た、探偵……?え?」
谷口は、目をぱちくりさせながら雪知と不二三を交互に見た。
「探偵は、俺じゃなくて彼なんですよ、実は」
雪知はそういって愛想笑いを浮かべた。どうやら不二三ではなく雪知が探偵だと思っていたらしい。
「谷口、不二三さんは東京の少し名の知れた探偵さんなんだよ!」
「いえいえ、そんなことは」
興奮気味にいう樫杉に不二三は無表情のまま、謙遜して首を振った。
「……死亡推定時刻が絞れないな」
不二三は、近藤の様子を観察しながら死体を触っていく。
「ずっと熱湯にいれられていたら、死後硬直の時間がわからない……あ」
「どうした?」
「頭に打撲痕がある、さっき落ちていた灰皿で殴られたのかもしれないな」
手袋をはめると、灰皿と打撲痕が一致しているのを確認し、不二三は考えた。
「被害者は、一度殴られてから、体をぐるぐる巻きにされて浴室に連れていかれ、その後身動きがとれない状態で浴槽に熱湯を張られ、さらに浴室をガムテープで目張りし、さらに電気まで消している」
「逃げられると思ったんだろうか?」
雪知が問いかけると、不二三は頬をかいた。
「いや、それにしては……徹底的に“閉じ込めている”ように感じる」
「閉じ込める……」
菅原が聞こえないくらいの声で呟いて、
「あの、メモに書いてあった通り、もう復讐は終わったんだから殺人は起きないってことですよね」
「メモ?」
樫杉と谷口が不審な顔で菅原を見た。
「これです」
不二三が、昭道が飛び降りた時に持っていたメモを2人に差し出した。まだ確認していない雪知も並んでメモの中を確認する。
「復讐は完遂した 102号室……ここですね」
雪知の呟きに、安心を得たい様子の菅原は、雪知と不二三を交互に見た。
「復讐は完遂したということは、もう終わったということですよね」
「いえ、その可能性は低いかと」
「え?」
しかし、そんな菅原の安心を取り払うように不二三は冷静に告げた。
「復讐を完遂したなら、電話線を切ってまで連絡を絶つことはないんじゃないでしょうか、我々を閉じ込めた今の現状は次の殺人が起きる可能性があるか、何かまた他に犯人に意図があるのかどちらかでしょうね」
「そんな……次の殺人だなんて」
樫杉は、頭を抱えてぶるぶる震え出した。
「まあ、大丈夫です。必ず犯人を見つけ出してこれ以上犯人に殺人を起こさせないように努めますので、とりあえず皆さんもフロントに」
不二三は立ち上がって、部屋から風呂場へと向かった。
「皆一箇所にいた方が殺人は起きにくいんです。ほら推理小説、ミステリー映画などで「殺人犯と一緒になんかいられるか!」 という人が部屋で死んでいたりするでしょう?」
浴室の扉から首を半分だけ出して、不二三は続けた。
「次の殺しが起こる可能性が少しでもある場合は、全員僕が捜査を終えるまで一箇所に集まっていてもらいます、トイレに行くときも2人以上で、食事は毒が入っているかもしれないので食べないでください」
「は、はい、行こう、谷口、菅原君」
それと、と付け加えて不二三はさらに続けた。
「僕も殺されるかもしれませんので一番信用のおける雪知をここに置いておこうと思います。まあ、推理小説、ミステリー小説において、探偵を殺すことが一番犯人にとって都合がいいのに、狙われないのもおかしいですからね」
「レストランの従業員、近藤さんでしょうね」
不二三はさらりとそういった。
「か……近藤さんが」
谷口は、がくんと膝をついた。
「どうしてうちの従業員が、しかも女性だけが次々と……」
樫杉も愕然としながら涙を流した。昭道はそんな樫杉の背中をさすって目を伏せている。
「これからそれを推理します」
不二三は、淡々とそういって近藤のガムテープをはがし終えた。
「おい、不二三」
雪知は、事件になると喋るようになる不二三を見ていつもハラハラしている。
他人への配慮は普段もあまりないというか、関わり自体持ちたくない不二三だが、事件になると事件へと目線が向かいすぎて、周りへの気遣いとかそういうものが霧のように霞んでしまうのが心配になるのだ。
本当は心の優しい不二三を、事件を解決していく淡々としている不二三からは見て取れないように思う。
「……香苗だ」
菅原は、顔が赤く腫れあがりぐったりしている死体を見て目を伏せた。全員で近藤を部屋の居間まで運んで寝かせた。
「誰か皆さんを……フロントに集めてください」
「わかりました!僕が呼んできます」
不二三の指示に、昭道が頷いてどたどたと廊下を走っていった。
「警察を呼ぶことができないのが歯がゆいですね」
谷口が片手で口を押えながら眉をひそめた。
「呼べない?雪でですか?」
「不二三はまだ知らないんだったな、電話線が切られているのか電波が入らないらしいんだ」
雪知が説明すると、不二三は口元に手を当てて何かを考えている。そんな不二三を見下ろしながら、谷口が手をあわあわと動かした。
「警察が捜査とかできないわけですよね……連絡がつくまで犯人とずっと一緒ってことですよね?」
不二三が死体を触りながら首を傾げた。
「捜査は、できますよ、雪がやんだら逮捕する犯人を差し出せばいいんです」
谷口はぽかんとして不二三の顔を見た。
「僕はこうみえて探偵ですから」
「た、探偵……?え?」
谷口は、目をぱちくりさせながら雪知と不二三を交互に見た。
「探偵は、俺じゃなくて彼なんですよ、実は」
雪知はそういって愛想笑いを浮かべた。どうやら不二三ではなく雪知が探偵だと思っていたらしい。
「谷口、不二三さんは東京の少し名の知れた探偵さんなんだよ!」
「いえいえ、そんなことは」
興奮気味にいう樫杉に不二三は無表情のまま、謙遜して首を振った。
「……死亡推定時刻が絞れないな」
不二三は、近藤の様子を観察しながら死体を触っていく。
「ずっと熱湯にいれられていたら、死後硬直の時間がわからない……あ」
「どうした?」
「頭に打撲痕がある、さっき落ちていた灰皿で殴られたのかもしれないな」
手袋をはめると、灰皿と打撲痕が一致しているのを確認し、不二三は考えた。
「被害者は、一度殴られてから、体をぐるぐる巻きにされて浴室に連れていかれ、その後身動きがとれない状態で浴槽に熱湯を張られ、さらに浴室をガムテープで目張りし、さらに電気まで消している」
「逃げられると思ったんだろうか?」
雪知が問いかけると、不二三は頬をかいた。
「いや、それにしては……徹底的に“閉じ込めている”ように感じる」
「閉じ込める……」
菅原が聞こえないくらいの声で呟いて、
「あの、メモに書いてあった通り、もう復讐は終わったんだから殺人は起きないってことですよね」
「メモ?」
樫杉と谷口が不審な顔で菅原を見た。
「これです」
不二三が、昭道が飛び降りた時に持っていたメモを2人に差し出した。まだ確認していない雪知も並んでメモの中を確認する。
「復讐は完遂した 102号室……ここですね」
雪知の呟きに、安心を得たい様子の菅原は、雪知と不二三を交互に見た。
「復讐は完遂したということは、もう終わったということですよね」
「いえ、その可能性は低いかと」
「え?」
しかし、そんな菅原の安心を取り払うように不二三は冷静に告げた。
「復讐を完遂したなら、電話線を切ってまで連絡を絶つことはないんじゃないでしょうか、我々を閉じ込めた今の現状は次の殺人が起きる可能性があるか、何かまた他に犯人に意図があるのかどちらかでしょうね」
「そんな……次の殺人だなんて」
樫杉は、頭を抱えてぶるぶる震え出した。
「まあ、大丈夫です。必ず犯人を見つけ出してこれ以上犯人に殺人を起こさせないように努めますので、とりあえず皆さんもフロントに」
不二三は立ち上がって、部屋から風呂場へと向かった。
「皆一箇所にいた方が殺人は起きにくいんです。ほら推理小説、ミステリー映画などで「殺人犯と一緒になんかいられるか!」 という人が部屋で死んでいたりするでしょう?」
浴室の扉から首を半分だけ出して、不二三は続けた。
「次の殺しが起こる可能性が少しでもある場合は、全員僕が捜査を終えるまで一箇所に集まっていてもらいます、トイレに行くときも2人以上で、食事は毒が入っているかもしれないので食べないでください」
「は、はい、行こう、谷口、菅原君」
それと、と付け加えて不二三はさらに続けた。
「僕も殺されるかもしれませんので一番信用のおける雪知をここに置いておこうと思います。まあ、推理小説、ミステリー小説において、探偵を殺すことが一番犯人にとって都合がいいのに、狙われないのもおかしいですからね」
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