不死身探偵不ニ三士郎

ガイア

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「見せてください!姉が何か残したのかも!」

「昭道さん、落ち着いてください」



「雪知!」

 上から不二三の声が降ってきたと思ったら、

「よこせ!!」

 後ろから飛びかかるようにして菅原が雪知からメモ帳をふんだくった。

「バカな!何をするんですか!?」
「へ、変なことが書いてないかみ、見るんだ」

 菅原は、興奮状態であるかのように目を血走らせ、息をあげていた。

「何の騒ぎですか?」

 番頭の樫杉がレストランの支配人、谷口と一緒に走ってきた。雪知が事情を説明すると、樫杉は両手で顔を覆って泣き出した。笑顔だった谷口が、信じられないという悲痛の表情に顔を歪めて、優しく穏やかな印象からは一転、大声を張り上げた。

「にっ、二階にいる、はあっ……伊藤君と、た、立川君と、近藤君を呼んできてくれ!探偵さんも!」

 ただでさえパニックになっている樫杉と、事実だけ知らされて動揺している谷口。

「こ、近藤と、立川は風呂に行くって言ってフロントを通ったんでこの事実さえ知らないまま、風呂にいると思いますよ」

 菅原が口を挟んできた。メモ帳を雪知に差し出してきて、雪知は少し戸惑いながらもそれを受け取った。

「なんですか?」
「メモを見て、今すぐ向かった方がいいですよ!東館の一番左端の部屋」
「それはもう不二三が……」

 そう言いかけた雪知だったが、確かに不二三は一向に降りてこない。

「どういうことだ!?」

 メモの一ページ目には、ボールペンで、そして大きな字で東館110と書いてある。

「東館110という部屋は、東館左端の部屋ですよ」

 そういった菅原が指さした右端の部屋が、なんだか禍々しい雰囲気に包まれているような、死神が手をこまねいている気がして、雪知はメモを握りしめたまま駆けだした。

 長靴を脱ぎ捨てて、フロント前で東館の方へと走り出そうとした雪知だったがはたと気づく。自分たちの部屋は、西館の階段を上がって左側だったが、外から見ると東館の一番右端の部屋だった。

「ってことは、まさか!」

 雪知は、フロントからすぐの西館の階段を駆け上がり始めた。

「東館の階段はなんらかの理由で封鎖されている。あそこまで走って行って上がれないじゃ、ロスだ!」

 西館の階段を駆け上がり、、突き当りを左へ、そしてそのまま全速力で角の部屋へと向かった雪知は、部屋の扉が開けっ放しになっていることで確信した。

「不二三!」

 叫んで部屋に飛び込んだ雪知は、白い顔で横になっている立川と、しゃがみこんで声をかける不二三を発見した。

「立川さん……」
「死んでいない、生きている」

 不二三は、布団をいれているであろう押入れを指さした。上段が布団などが入っていて、下段は、座布団が入っているはずだが、空になっている。

「下段に口と両手にガムテープをぐるぐる巻きにされて立川さんが閉じ込められていた」

 不二三は淡々とそういって、立ち上がった。雪知は、普段の不二三と違い、捜査しているときの不二三は常に人間ではないように淡々と冷静に出来事を推理していくのを見てごくりと喉をならした。

 まるで普段の不二三が人間のフリをしていて、事件が起きた時の不二三が本物なのではないかと思うほどに、人間離れした雰囲気と妙な異才を放っている。

「なんらかのショックで気絶しているだけだと思う、目を覚ますのを待った方がいい」

「どうなっているんだ……?この部屋から近藤さんが自殺した。柊ゆらぎの恰好をして、だ。この部屋の押入れには、立川さんが閉じ込められていて……わけがわからないことばかり起きている」

 頭を抱える雪知の持っているメモ帳に気づいた不二三は、

「それはなんだ?」

 雪知は、不二三が指さしているメモ帳を慌てて不二三に差し出した

「自殺した近藤さんが持っていたものだ。一ページにこの部屋番号が書いてあったから走ってきたんだ」
「ほう」

 そういって不二三はメモ帳をぺらりと開き、「ちなみに」と続けた。

「この部屋の右側から走ってくる音が聞こえて、雪知が入ってきたんだが西館の階段とここはやはり繋がっていたということか」
「ああ」

「あの階段が封鎖されていたのは、2階に上がらせず、閉じ込められている立川さんを発見させないためなのか、でも閉じ込められていただけというのも気になる」

 ブツブツ言いながら不二三は、メモをめくっていく。

「……」
 ハッとして手を止めた不二三は、

「まずい」

 復讐は完遂した 部屋番号102号室。


「雪知、立川さんを頼む!僕は102号室へ行く!」
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