不死身探偵不ニ三士郎

ガイア

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「失礼します~」
「あれ、厨房の方は?」

 雪知が問いかけると、近藤は笑顔を崩さず口元を隠した。

「辞めましたよ」
「え?」

「幽霊騒ぎや変な噂たてられて、支配人の谷口さんが、調理師免許を持ってらっしゃるので、皿洗いとか料理とか諸々手伝ってくださっているようですが、まあ、お客様もここの人と同様めっきり減りましたの
で、お仕事はそれで回っていくのですが」

 近藤は、柊の同期にして、幽霊を見ているひとりだ。伊藤と同様詳しく話を聞けそうだと雪知は両手を組みなおした。

「話を伺いたいのは、最近この旅館で噂されている幽霊のお話と、8年前に行方不明になったあなたの同期の柊さんについてです。近藤さんは、幽霊を見たというお話を伺っておりますが」

「はい、見ましたよ。立川ちゃんと」

 あまりにも平然と言い放つので、雪知は伊藤の言っていた幽霊なんているはずがないという言葉を思い出した。

「それは、確かに柊さんだったんですか?」
「ええ、長い黒髪に、ここの制服を着ていましたし」
「ここの制服?」

「この旅館の女性従業員が着用する、この制服ですよ」

 自分の着ている着物を指す近藤に、雪知は目を細めた。

「このレストランの制服が一着減っていたということは?」
「それがなかったんですよ」

 不二三に服の裾を引っ張られ、雪知はメモを見せられた。

「ここの制服を所持しているのって、近藤さんと立川さんのみですか?」

「いえ、下の昭道もレストランを手伝ってもらうことがあったので、昭道もありますよ。備品係は私で、しっかりチェックしていますので、盗まれたら気づきます」

 不二三の顔を見ると口元に手を当てて何か考えているようなそぶりを見せている。盗まれていないのであれば、犯人は男で、盗んだ制服を着用して現れているという可能性はないのかもしれない。

「制服は8年前からこの古臭いデザインは変わっておりませんので、昭道ではなく、隣に立川もいて、長い髪……柊だと思いました」

「どういう状況で出会ったんですか?」

「帰ろうと思って2階から1階への階段を下りて……それから左の突き当りの廊下の方から何か音がしたので見てみたら、黄色の制服を着た柊がいたんです」

「それは深夜何時ごろ?」
「深夜、11時頃だったかと。温泉も封鎖されていましたし」

「柊さんを見てからあなたはどうしたんですか?」

「それは叫び声をあげましたよ、丁度頭蓋骨が見つかったばかりの時のその幽霊事件でしたから」

「立川さんも?」

「幽霊っていったら、気絶したから立川を介抱しようとしているときに、幽霊はいなくなってました……立川を休憩室に運んだら、今度は東館で幽霊が現れたって騒ぎが起きていて」

「東館で?それは東館のどこでですか?」

 雪知たちが泊まっている部屋は西館の二階で、東館は温泉があり、一階のみでフロントの隣の廊下からまっすぐ行くと部屋が数室と温泉があるのだ。

「東館の窓を見たら、黒髪に着物を着た女性が立っていたらしいんです」
「それは近藤さんと立川さんの前に現れてすぐのことですか?」
「ええ……」

 近藤と、立川が西館の廊下で柊の幽霊と遭遇し、その後すぐ東館で幽霊騒ぎ。しかも、東館の外でときた。

「成る程……現れた時、柊さんはどのような状態だったんですか?」

「立ってこっちを見ていました……それから菅原君と東館へ、でも私たちが行った時には、柊の幽霊は消えていたようです」

「ふむ……同期の近藤さんから見ても、幽霊は柊さんでしたか?」

「ええ……だって普通の人間は出てきて急に消えますか?お客様も外で現れては急に消える柊の幽霊を見たらしくて……」

 現れては消え、一瞬で東館の外に移動する幽霊。どうなっているんだ?雪知は、頭をかきながら思考を巡らせる。

「柊さんは、近藤さんから見てどういう人でしたか?」

 雪知の問いかけに、近藤は思い出すように目を細めた。

「柊はレストランで一緒だった時もあったんですけれど、大人しい性格でしたよ。行方不明になった次の日から丁度旅館も雪で休館してましたから、私たちも寮から出ずに、柊がいなくなったことにも気づかなかったんです」

「休館していた……誰もいなかったんですか?」
「さあ……その時期が特に高山で酷い雪の日だったんです」
「成る程……」

 腕を組んで話を聞き終わった雪知は、不二三を見た。不二三は顎を触りながら何かを考えているようだ。

「何か聞くことあるか?」
 雪知が不二三に耳打ちすると、不二三は目を閉じて首を振った。

 近藤の話は幽霊事件をさらに深く知ることができた。雪知は、メモを見返しながら、考え込んだ。
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