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「色々あったけど事件の資料ごと事務所を燃やされることは今までなかった。折角雪知君が集めてくれたのに、ごめんね」
「それに関しては問題ない、不二三のところにあるのは全部コピーだ」
「……?」
「全部コピーだ、大体自分のことは全部後回しで事件に突っ込んでいくお前のことだ。常に念の為の行動をしておくのは助手として当然だ」
「凄い、凄いよ雪知君、いつも依頼者の電話を録音しておけっていうし、念の為電車は自分が乗る電車の1本前を乗るつもりで行動しろっていってくれたり、念の為のプロだ」
「当たり前のことだ」
「じゃあ僕の本も念の為1冊ずつ買ってくれているんだね」
「それはない」
「……?」
「それはない」
雪知は、不二三の嬉しそうな顔が絶望に染まるのを見ながら今度から念の為本は2冊買って別のところに保管しておくように言うまいか考えていた。
「さて、余計な話はさておき、明日俺たちは来週行くはずだった旅館に行くわけだ、何か準備しておくことはないか?」
「服とか全部燃えちゃったから買いにいってくれないかな、カードとか免許証とか念の為雪知君に預けておいてよかった」
「そうだな、海に沈められたり燃やされたときに困るからって本当に必要なものは全部俺に預けているもんな」
雪知は、不二三に言われたことをメモし、椅子から立ち上がった。
「とりあえず俺がホテルに戻るまで余計なことをするな、動くな、部屋にいろ、いいな」
「わかった」
不二三は力強く頷いた。不二三は雪知を全面的に信頼しているのでそのまま雪知のいう通りにホテルにいた。
「ただいま」
夕方5時頃、雪知が大きなスーツケースを抱えてホテルに帰ってきた。
「おかえり、ありがとう。お手数かけまして」
「いつものことなのでお気になさらず」
不二三と雪知はいつものように敬語でわざと他人行儀にぺこぺこ頭を下げた。そして顔を見合わせて笑うと、雪知は拳を握りしめた。
「明日、飛騨高山に行くぞ。お前を殺したやつの驚く顔が楽しみだな」
「それ前に僕が殺された時にも言っているけれど犯人を推理で解き明かすまで驚く顔を見せてくれなかったぞ」
「そうなんだよな。殺したはずのやつがけろっと現れたら普通はもっと怯えたり驚いたりするもんなんだけどな」
雪知は腕を組んで面白くなさそうに首を傾げた。
「人を殺したいと思ってそれを実行までしてしまう精神力ってなかなか起きないものだから突発的に殺してしまった犯人意外は、大抵人を殺した後は冷静を装っているように感じるよ」
不二三は思い出すように天井を見ながら両手を組んで微笑んだ。
「人を殺したことをバレないように工作までして、そして警察の目を欺かなくてはならないんだ、絶対に成功させなくてはならない、そういう緊張感はずっと付きまとっているだろうから驚きより平静を装うことを先に考えてしまうのかもしれないね」
「まるで人を殺したことがあるかのような言い方だな」
「そんなことするわけないでしょ」
不二三はにこっと微笑んで雪知を見つめた。
「僕は殺されたって殺したりしないよ」
雪知はそんな不二三を見て眉間を押さえながら笑顔を作った。
「度胸ないもんな」
「そうだよ」
不二三はいつだってそうなんだ。自分が不死身だと自覚してから自分はそういう立ち位置にいるんだと自覚して、自分のことを顧みず人を助け続ける。
「飛騨高山に行くのって初めてだね。どんなところなんだろう」
雪知は楽しそうに話す不二三を見つめながら胸をかきむしりたくなるような気持ちを感じていた。
自己犠牲は美しいか?
将棋の天才はパン屋になってはいけないのか?
雪知はそんな不二三だからほうっておけず一緒にいるのだろうとそっと目を伏せて口を結んだ。
「それに関しては問題ない、不二三のところにあるのは全部コピーだ」
「……?」
「全部コピーだ、大体自分のことは全部後回しで事件に突っ込んでいくお前のことだ。常に念の為の行動をしておくのは助手として当然だ」
「凄い、凄いよ雪知君、いつも依頼者の電話を録音しておけっていうし、念の為電車は自分が乗る電車の1本前を乗るつもりで行動しろっていってくれたり、念の為のプロだ」
「当たり前のことだ」
「じゃあ僕の本も念の為1冊ずつ買ってくれているんだね」
「それはない」
「……?」
「それはない」
雪知は、不二三の嬉しそうな顔が絶望に染まるのを見ながら今度から念の為本は2冊買って別のところに保管しておくように言うまいか考えていた。
「さて、余計な話はさておき、明日俺たちは来週行くはずだった旅館に行くわけだ、何か準備しておくことはないか?」
「服とか全部燃えちゃったから買いにいってくれないかな、カードとか免許証とか念の為雪知君に預けておいてよかった」
「そうだな、海に沈められたり燃やされたときに困るからって本当に必要なものは全部俺に預けているもんな」
雪知は、不二三に言われたことをメモし、椅子から立ち上がった。
「とりあえず俺がホテルに戻るまで余計なことをするな、動くな、部屋にいろ、いいな」
「わかった」
不二三は力強く頷いた。不二三は雪知を全面的に信頼しているのでそのまま雪知のいう通りにホテルにいた。
「ただいま」
夕方5時頃、雪知が大きなスーツケースを抱えてホテルに帰ってきた。
「おかえり、ありがとう。お手数かけまして」
「いつものことなのでお気になさらず」
不二三と雪知はいつものように敬語でわざと他人行儀にぺこぺこ頭を下げた。そして顔を見合わせて笑うと、雪知は拳を握りしめた。
「明日、飛騨高山に行くぞ。お前を殺したやつの驚く顔が楽しみだな」
「それ前に僕が殺された時にも言っているけれど犯人を推理で解き明かすまで驚く顔を見せてくれなかったぞ」
「そうなんだよな。殺したはずのやつがけろっと現れたら普通はもっと怯えたり驚いたりするもんなんだけどな」
雪知は腕を組んで面白くなさそうに首を傾げた。
「人を殺したいと思ってそれを実行までしてしまう精神力ってなかなか起きないものだから突発的に殺してしまった犯人意外は、大抵人を殺した後は冷静を装っているように感じるよ」
不二三は思い出すように天井を見ながら両手を組んで微笑んだ。
「人を殺したことをバレないように工作までして、そして警察の目を欺かなくてはならないんだ、絶対に成功させなくてはならない、そういう緊張感はずっと付きまとっているだろうから驚きより平静を装うことを先に考えてしまうのかもしれないね」
「まるで人を殺したことがあるかのような言い方だな」
「そんなことするわけないでしょ」
不二三はにこっと微笑んで雪知を見つめた。
「僕は殺されたって殺したりしないよ」
雪知はそんな不二三を見て眉間を押さえながら笑顔を作った。
「度胸ないもんな」
「そうだよ」
不二三はいつだってそうなんだ。自分が不死身だと自覚してから自分はそういう立ち位置にいるんだと自覚して、自分のことを顧みず人を助け続ける。
「飛騨高山に行くのって初めてだね。どんなところなんだろう」
雪知は楽しそうに話す不二三を見つめながら胸をかきむしりたくなるような気持ちを感じていた。
自己犠牲は美しいか?
将棋の天才はパン屋になってはいけないのか?
雪知はそんな不二三だからほうっておけず一緒にいるのだろうとそっと目を伏せて口を結んだ。
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