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7話
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「私のせいだと思います。お母さんは音楽学校に行くといって、音楽を続けられないなら親との縁を切るって高校を卒業してすぐおじいちゃんの反対を押し切って東京へ家出同然で上京していったそうです。孫までこういう状況になっても音楽を続けているのをよく思わないのは当然です」
ナミさんは、困ったような顔で俯いた。
「ナミさんが音楽を続けるのは自由だよ」
俺がぼそっとそういうと、ナミさんは眉を八の字にして微笑んだ。
「私は、この教会でピアノを弾いて、喜んでもらえるのが嬉しくて、音楽が好きで、おじいちゃんにもやっぱり、聴いてほしいんです。お祭りに来てほしいんです・・・今の状況では難しいかと思いますが・・・」
「じゃあさ」
ナミさんは、切実な思いを俺に打ち明けてくれた。
「招待状を作ろう!チラシも作って町に貼ろう!」
俺は、すぐにそういった。
「諦めちゃだめだ。勿体ない。ナミさんのピアノは凄いんだから。」
「そうでしょうか・・・」
「うん、それは俺が保証する。俺が保証してもって感じかもしれないけど・・・」
俺は、初めてナミさんのピアノを聴いたとき、涙が出て、感動した。心を動かされた。
「俺を変えてくれたナミさんのピアノなら、きっと大丈夫だよ」
「コウタさんを・・・変えた?」
「うん」
今度は、俺が話そう。
情けなくて、格好悪い俺がこの町に来た理由。
「俺も、音楽がずっと好きでさ。特に歌が好きで、俺の小唄に唄(うた)の字が履いているのも、家族が歌好きだからなんだ。週末は父さんがよく隣町にカラオケに連れて行ってくれてさ」
「そうだったんですか」
「それで俺、歌手になりたくて高校の時必死にバイトしてためたお金と、奨学金で高校を卒業してから上京してさ、立派な歌手になってくるって大口叩いて、音楽の学校に進学したんだ」
両親は、反対しなかった。むしろ、夢を応援してくれた。
「東京に行ってからはバイト、学校、休みの日はストリートライブの日々。正直、寝る暇なんてほとんどなくて、でも夢を追いかけて必死にやってた。がむしゃらに生きてた。それが楽しかったからさ」
俺は自然とその頃を思い出して体にしみついているギターを弾く動作をしてしまった。
「でも、いざ就職ってなった時。俺の周りは音楽を目指すのを自然と辞めていた。今でも覚えている『好きだからって就職できるとは限らないんだって。趣味で続けていけばいいじゃないか』って、友達に言われたこと」
ナミさんは、切なそうな顔で俺を見た。
「でも、俺どうしても歌手になりたくて、フリーターになってバイトを続けながら貧乏生活してオーディション受けまくったよ。でも、それでもだめだった。どこがダメなのか審査員の人に聞いた時、『音楽が好きなのは伝わってくるが、商品になるかどうかといわれると微妙』って言われて、俺この先どこを受けてもダメな気がしてきて」
あの時のことは、今でも夢に見る。好きだけじゃ駄目なのかって。友達の言葉を思い出した。受かったのは、華やかな容姿をした然程歌が上手くない俺より年下の男の子だった。どうしたら商品になるように歌えるんだって考え始めた時、俺の中で何かが壊れた。
『もしもし?母さん?」
『あっ!コウタ!久しぶり!全然連絡よこさないで、今どうしてるの?大丈夫?』
『母さん、俺疲れたから、近々そっちに帰るわ』
「俺は、音楽が嫌いになりかけてた。嫌いっていうか、怖くなってたっていうのが正しいかも。でも、初めてナミさんのピアノを聴いてさ」
「はい・・・」
「涙が出たんだ。楽しそうで、歌うようなピアノに。音楽が大好きって、あの曲が大好きってことが伝わってきて、自分もこんな風に音楽が、歌が大好きだったなって。羨ましいなって思ったんだ。眩しくて、キラキラしていて、気づいたらナミさんに目を奪われていた」
『あぁ・・・』
胸にこみあげてくるこの気持ちは。
頬を伝う熱い涙は。
俺は、やっぱり歌が好きだ。音楽が好きだ。諦めたくない。やめたくない、好きだから。大好きだから――。
「えっ・・・」
「それから俺は、ナミさんのファンになってこうして教会に通うようになった。人一人変えられるようなピアノが弾けるんだ。きっと大丈夫だよ」
俺がつい拳を握りしめてそういうと、ナミさんは少し顔を赤くして、目を見開いた。
「はい、ありがとう・・・コウタさん」
「俺も、俺なりにできることをしてみるよ」
俺は立ち上がった。
「できること?」
「うん。とりあえず明日からお祭りに向けて一緒に動いていこう」
そういうと、ナミさんは俯いてもじもじし始めた。
「どうしたの?」
「あの、コウタさん。ちょっと相談があるんですけど」
ナミさんは、足をぷらぷらしながら俺しかいないのに小さい声で俺にとある相談をした。俺は、その話に少し顎に手を添えて考えた。
「ほ、本気?」
「コウタさんも、一緒がいいんです」
ナミさんは、俺を上目づかいで見ながらそういった。そういう顔で見られると困ってしまう。
「でも、俺なんか・・・」
「お願いします。コウタさん」
ナミさんは、また上目遣いで困ったようにそういった。俺は、くっと目を閉じると、
「わかった・・・」
根負けしたようにそういって、笑顔を見せた。
「ありがとう、コウタさん!」
ナミさんは、嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、早速それは明日から準備しないとな」
俺がそういうと、ナミさんがすくっと椅子から立ち上がって、
「そうですね、明日から。一緒に頑張りましょうね」
ナミさんは、そういって嬉しそうに微笑んだ。明日から、一緒に頑張ろう。また明日。一人でずっとやってきた俺にとって、こんなに力強い味方がいると、なんでもできる気がしてくる。
俺は帰宅し、全く連絡をとらなくなった音楽学校に通っていたときの友達に連絡した。
「もしもし?全然連絡できなくてごめん、あのさ・・・」
ナミさんは、困ったような顔で俯いた。
「ナミさんが音楽を続けるのは自由だよ」
俺がぼそっとそういうと、ナミさんは眉を八の字にして微笑んだ。
「私は、この教会でピアノを弾いて、喜んでもらえるのが嬉しくて、音楽が好きで、おじいちゃんにもやっぱり、聴いてほしいんです。お祭りに来てほしいんです・・・今の状況では難しいかと思いますが・・・」
「じゃあさ」
ナミさんは、切実な思いを俺に打ち明けてくれた。
「招待状を作ろう!チラシも作って町に貼ろう!」
俺は、すぐにそういった。
「諦めちゃだめだ。勿体ない。ナミさんのピアノは凄いんだから。」
「そうでしょうか・・・」
「うん、それは俺が保証する。俺が保証してもって感じかもしれないけど・・・」
俺は、初めてナミさんのピアノを聴いたとき、涙が出て、感動した。心を動かされた。
「俺を変えてくれたナミさんのピアノなら、きっと大丈夫だよ」
「コウタさんを・・・変えた?」
「うん」
今度は、俺が話そう。
情けなくて、格好悪い俺がこの町に来た理由。
「俺も、音楽がずっと好きでさ。特に歌が好きで、俺の小唄に唄(うた)の字が履いているのも、家族が歌好きだからなんだ。週末は父さんがよく隣町にカラオケに連れて行ってくれてさ」
「そうだったんですか」
「それで俺、歌手になりたくて高校の時必死にバイトしてためたお金と、奨学金で高校を卒業してから上京してさ、立派な歌手になってくるって大口叩いて、音楽の学校に進学したんだ」
両親は、反対しなかった。むしろ、夢を応援してくれた。
「東京に行ってからはバイト、学校、休みの日はストリートライブの日々。正直、寝る暇なんてほとんどなくて、でも夢を追いかけて必死にやってた。がむしゃらに生きてた。それが楽しかったからさ」
俺は自然とその頃を思い出して体にしみついているギターを弾く動作をしてしまった。
「でも、いざ就職ってなった時。俺の周りは音楽を目指すのを自然と辞めていた。今でも覚えている『好きだからって就職できるとは限らないんだって。趣味で続けていけばいいじゃないか』って、友達に言われたこと」
ナミさんは、切なそうな顔で俺を見た。
「でも、俺どうしても歌手になりたくて、フリーターになってバイトを続けながら貧乏生活してオーディション受けまくったよ。でも、それでもだめだった。どこがダメなのか審査員の人に聞いた時、『音楽が好きなのは伝わってくるが、商品になるかどうかといわれると微妙』って言われて、俺この先どこを受けてもダメな気がしてきて」
あの時のことは、今でも夢に見る。好きだけじゃ駄目なのかって。友達の言葉を思い出した。受かったのは、華やかな容姿をした然程歌が上手くない俺より年下の男の子だった。どうしたら商品になるように歌えるんだって考え始めた時、俺の中で何かが壊れた。
『もしもし?母さん?」
『あっ!コウタ!久しぶり!全然連絡よこさないで、今どうしてるの?大丈夫?』
『母さん、俺疲れたから、近々そっちに帰るわ』
「俺は、音楽が嫌いになりかけてた。嫌いっていうか、怖くなってたっていうのが正しいかも。でも、初めてナミさんのピアノを聴いてさ」
「はい・・・」
「涙が出たんだ。楽しそうで、歌うようなピアノに。音楽が大好きって、あの曲が大好きってことが伝わってきて、自分もこんな風に音楽が、歌が大好きだったなって。羨ましいなって思ったんだ。眩しくて、キラキラしていて、気づいたらナミさんに目を奪われていた」
『あぁ・・・』
胸にこみあげてくるこの気持ちは。
頬を伝う熱い涙は。
俺は、やっぱり歌が好きだ。音楽が好きだ。諦めたくない。やめたくない、好きだから。大好きだから――。
「えっ・・・」
「それから俺は、ナミさんのファンになってこうして教会に通うようになった。人一人変えられるようなピアノが弾けるんだ。きっと大丈夫だよ」
俺がつい拳を握りしめてそういうと、ナミさんは少し顔を赤くして、目を見開いた。
「はい、ありがとう・・・コウタさん」
「俺も、俺なりにできることをしてみるよ」
俺は立ち上がった。
「できること?」
「うん。とりあえず明日からお祭りに向けて一緒に動いていこう」
そういうと、ナミさんは俯いてもじもじし始めた。
「どうしたの?」
「あの、コウタさん。ちょっと相談があるんですけど」
ナミさんは、足をぷらぷらしながら俺しかいないのに小さい声で俺にとある相談をした。俺は、その話に少し顎に手を添えて考えた。
「ほ、本気?」
「コウタさんも、一緒がいいんです」
ナミさんは、俺を上目づかいで見ながらそういった。そういう顔で見られると困ってしまう。
「でも、俺なんか・・・」
「お願いします。コウタさん」
ナミさんは、また上目遣いで困ったようにそういった。俺は、くっと目を閉じると、
「わかった・・・」
根負けしたようにそういって、笑顔を見せた。
「ありがとう、コウタさん!」
ナミさんは、嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、早速それは明日から準備しないとな」
俺がそういうと、ナミさんがすくっと椅子から立ち上がって、
「そうですね、明日から。一緒に頑張りましょうね」
ナミさんは、そういって嬉しそうに微笑んだ。明日から、一緒に頑張ろう。また明日。一人でずっとやってきた俺にとって、こんなに力強い味方がいると、なんでもできる気がしてくる。
俺は帰宅し、全く連絡をとらなくなった音楽学校に通っていたときの友達に連絡した。
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