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あたし処女じゃないから!!!!!

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「新郎新婦の入場です」

結婚式、本来であれば好きな相手と一生添い遂げることを誓う神聖な儀式。
あたしは、そんな結婚式を誕生日に迎えようとしている。
本来であれば幸せ絶頂最高の誕生日なんだろうけど、あたしの結婚相手はデブでひげの生えた気持ち悪いおっさん。
親同士が勝手に決めた結婚。

最低な結婚式。

2階の扉から、あたしはお父さまの手をとって入場する。

「彼の家で大事にしてもらいなさい」

お父さまは、一言そういった。
あたしは、なんとも言えない感情を抱いた、一言では言い表せない、もやもやした闇深い感情。

「えぇ、お父さま」

あたしは、低い声でそう答えた。
そして、あたしは処刑台に向かうような気持ちで、お父さまに寄り添い、1階のロビーで皆が見守る中、2階で自信満々に待っているアンディの元へと向かった。

17歳の誕生日、あたしはアンディに連れられながら螺旋階段へと向かう。長いドレスのせいで上手く歩けなかった。
アンディは、そんなのおかまいなしで歩く。最低のエスコートを受けながら螺旋階段へと向かった。
階段を降りながらあたしは、式場をぐるりと見渡した。
お母さまは、頬を押さえながらあたしを恨めしそうに見つめている。ここにいる誰一人として、結婚式を本当に祝福している人は見受けられなかった。アンディに媚をうるために集められたのか、人はいっぱいいたけれど笑顔がどこか偽造的。
アンディの両親は、あたしを見定めるように見つめている。あたしが変なことしないか、恥ずかしいようなことがないか見張っているようだった、まるで第2のお父さまだわ。
アンディのボディガードさえ、変なヤツが来ないか警戒していて結婚式どころじゃないといった様子だった。

螺旋階段を下りて、神父さまの長い長いお話があったけどあたしは頭に入ってこなかった。
聞いているだけで頭が痛くなるようなことばかり、どうしてコイツと一生添い遂げないといけないのよ、無理に決まってんでしょ。

「尽くすことを誓いますか?」

唐突に現実に引き戻された。

「え、えぇ。じゃなかった、はい」

鋭い視線が背中に突き刺さった。
両親ズだわ、しょうがないじゃない、聞いていないんだもの!

「では、誓いの口づけを」

あたしはそう言われたとき、胸がどきんと跳ね上がった。
跳ね上がりすぎて想定Cカップの胸がいつも鏡でみるAカップに戻ってしまいそうだった。
アンディは、にやりといやらしく笑っている。

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、あたしは背中をなめくじに這われたような気色悪さを感じた。
肩に手を置かれた。あぁ、本当に、終わってる、終わってるわね、ねえ、そこで見てんじゃないわよ、早く助けに来なさいよバカ。

外がざわざわ騒がしくなり、おっさんの手がはたと止まった。

「何よそ見してんのよ、変態ロリコンジジイ!」

あたしは、ドレスのすそをまくって思いっきりおっさんの股間をヒールの足でけり上げた。

「!?なっ・・・あっ・・・なにを!!」

悶え倒れるおっさんに、周りが動揺する。

「アリス!」

来たわね!

あたしは、玄関に徐々に近づいてきた車の音。騒ぎもどんどん大きくなっていく。あたしは、ウエディングドレスを脱いで投げ出しあらかじめ下に着ていたボロ服と、ウエディングドレスの中に隠していた、ボロい靴を取り出して螺旋階段に向かって走り出した。

「なんだ、なんの騒ぎだ」

「おっさん、あんたとの婚約、破棄させてもらうわ!」

ぱりんと上の階で音がして、大きな音と共にステンドグラスがいきなり割られた。バラバラと、上空でとてつもない大きな音がしている。
さっきいっていたとおりね。あたしは全速力で螺旋階段を駆け上がった。まるで地獄から天国への階段を渡され、時間までに上りきろうとするみたいに。
周りは当然騒然、窓が割られて、玄関からは無人のバスが式場に突っ込んできた。
混乱に満ち溢れた式場。

「アリス!!」

お父さまが呼んでいるわ。でももう遅い。

上では、彼が待っていた。
さっき扉の前で話した、お父さまの手下を演じていたあたしを誘拐した張本人。

「ハーネス!」

「お嬢!」

ハーネスは、走ってきてあたしの手をとり、上まであたしを引っ張った。

「動くな!」

おっさんのボディガードの男がハーネスに銃口を向けていた。

「なんてことをしてくれたんだ、アリス」

お父さまは、激怒に激怒を重ねた地獄の閻魔さまみたいな顔をしていた。
生憎お父さまの従者であるジェイドは、突然突っ込んできたバスの方にいるのよ。一人じゃなにもできないくせに。

あたしは、銃口の前に出た。

「あたしは好きな人と結婚するわ!勝手に将来なんか決められたくないもの!撃てるものなら撃ってみなさいよ!」

ハーネスを結果的に庇うような形になってしまったけれど、あたしにはちゃんと考えがあった。このボディガードは、女を殴れないタイプの男!!!

「お前、やっぱり・・・その誘拐犯と」

おっさんは、青い顔であたしたちを指さした。

「先に行くぞ、すぐに来い」

ハーネスは、ぼそっとそういって全速力で窓の外に向かって走っていった!
そして、あたしはそれに続く。前に、はいていた靴を脱いで、お父さま、いや最低なゴミクズジジイに向けて思い切り投げつけた。

「ぐはっ!!!!!」

お父さまの顔面に見事クリーンヒット。

「靴を投げつけることは最大の侮辱らしいわね!ざまあみなさい!」

「待て!!!!!!!!!!!!」

静止の言葉を振り切り、無視し、風で切り裂き、あたしは走った。
硝子の割れた道を裸足で!かしゃかしゃという硝子の音も聞こえない程に、あたしは前しか見ていなかった。

壊れたステンドグラスの向こう側へ、外の世界へ!!

「おっさん!!!」

あたしは、走りながら上を向いて捨て台詞のように叫んだ。

「あたし!処女じゃないから!!!!」

ジャンプ、あたしは今までで一度も窓の外から飛び降りるなんてことはしたことがなかった、でも、向こうで手を伸ばして待っている、あたしを誘拐してくれる人がいる。
この屋敷から、あたしを連れ出してくれるのは誘拐してくれるのは、あんたしかいないのよ。

「ハーネス!」

あたしは、ハーネスのところには届かなかった。普通に一番下の方のはしごにぎりぎり捕まった。

「ハーネス!!助けて!!!」

「かっこよく飛び出しておいてそれか!!!!!」

あたしが叫ぶと、ハーネスははしごを降りてきて、不安定な状態であたしを引っ張り上げて片手で抱きとめた。

「ハーネス?」

あたしが上を見上げると、呆れたようなバカにしたような、懐かしい笑顔があった。

「なんださっきの捨て台詞は。大丈夫か?」

「助けてくれて最初にいうセリフがそれ!?普通大丈夫だったか?とか、何かされなかったか?とかでしょお!?」

「だからいっただろ、大丈夫か?って」

「それは頭の方じゃない!あきらかに!」

ほんっと、どうしようもないくらいデリカシーと女心がわかってない男ね、この男は。
あたしは、自然と涙があふれてきて、でも、どうしたって口元は緩んでいて、そのままハーネスにしがみついた。

「ありがとう・・・ハーネス」

「肩がまだ全快じゃない、しっかり捕まっておけよ」

「えぇ・・・」

上にいた人たちが引っ張りあげてくれて、あたしたちはヘリへと上がってきた。
そこには、まだあたしと同い年くらいの男性が何人かいてあたしたちを笑顔で迎えてくれた。

「誰なの?彼らは」

あたしが聞くと、ハーネスは少し寂しいような悲しいような表情であたしを見た。

「彼らは、オレがいた孤児院の子供たちだ」
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