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最悪な結婚式に最高の式場を

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誕生日というのは本来、どういうものなのかしら。
お母さんやお父さんがケーキやプレゼントを買ってくれて、友達が集まって、お誕生日おめでとうっていってくれて、サプライズで歌を歌ってくれたりして。
それはちょっと豪華すぎるかしら、絵本の中の世界すぎるかしら。

でも、好きでもないおっさんと結婚するなんていうのは、誕生日の、生まれてきたことへのお祝いの日としては最低のイベントだと思うのよ。
ねえ、そうでしょう?
あたしは、鏡に映った綺麗に髪を結い、着飾った白いドレス姿の自分に問いかけた。

「あーあ、相手があんな奴じゃなかったらどれだけよかったかしら」

後ろにいるお母さまに聞こえるように言った。

「アリス」

「なあに、お母さま」

「私のこと、恨んでいるかしら?」

「いいえ、恨んでいないわ」

「どうして?」

「お母さまは、親同士の望まない結婚に、そう今のあたしみたいな状況に追い込まれて仕方なくお父さまと結婚することになって、それから2人にお互い好きな人ができて、お互い好きな人と自由に生きようってなったのよね」

「・・・・・・・・」

あたしは、立ち上がって静かにお母さまに歩み寄った。

「アリス・・・ごめんなさい。結局貴方まで私と同じ人生を歩ませることになってしまったわ、あなたも愛してあげれたらよかったんだけど・・・」

お母さまは、そういって俯いた。
あたしは、お母さまの肩に手を添えた。

「お母さま、お顔をあげて。あたしもう気にしてないわ」

「アリス・・・」

「んなわけないでしょうが!!!!」

顔をあげたお母さまにあたしは拳を振り上げ思いっきりぐーで左頬を殴りつけた。柔らかくも鈍い感触が右手に加わった。
お母さまは、咄嗟に椅子から振りほどかれるように吹っ飛び床に突っ伏した。

「・・・あ・・アリス、なんてことするの」

「それはこっちのセリフよ、申し訳ないなんて心にもないこと言わないでよ。バッカじゃないの?そんな風に思っていたならあたしが物乞いしていた時、あんたの顔があんなに幸せそうなわけないでしょうが」

「あ・・あれは・・・あの時は」

「今更申し訳なさそうにしないでくれる?あたしは絶対あんたみたいにならないわ」

「あの時は、久しぶりにハイバー・・・あんたの父親、あの最低男と会ってウェンディ家との顔合わせにいってストレスがたまってたから、旦那にあの一時、迎えにきてもらったのよ!ずっと私は自由に生きてこれなかったわ!いいじゃない、ハイバーだって別に好きな人がいた状態で私と結婚したんだから!」

「どうしてあたしを生んだのよ」

「ハイバーのお父さまとお母さまが生きている間だけ、仲のいい夫婦を演じろと言われたのよ、お母さまが子供がみたいっていうからあんたを生んだの」

「そう、じゃああたしのこと、見ているだけでも憎らしいでしょうね!出て行って!」

お母さまは、頬を押さえて逃げるように部屋から出て行った。
あたしは、扉を閉めて扉にもたれかかった。大きく息を吐いて心臓に空気を送り込む。

「・・・ふふ」

吐いた息は、笑い声として口から洩れた。

結婚式場の下見に行きたいと散々我儘をいって式場の下見に行かせてもらった式場と違うじゃないの!!!どういうことなの!?
はあ!?なにここ!?

1階で、控室に窓があったあの式場と全然違うじゃない!逃げるためにクローゼットの中で一番地味だった前に来ていたボロ服と靴を用意しておいたのに、後馬車も逃げる為にこっそり電話でレンタルしておいたのに。あの式場の前に何時に迎えにきてっていってあったのに!誰よ、変更したの!
焦りとイライラでお母さまに心に秘めておいたことを思わず口に出していってしまったわ。
でも、本音を言えてすっきりしたわ。結果的にね。

さっきみてきたけどトイレの天窓は高いところにあるし、ここから逃げるにはこの部屋の窓からだと思っていたけど、この式場、まさかの2階建てだったわ。

結婚式場は少し特殊な造りになっていて、正面出入口1階は結婚式ホール。そのホール左側に螺旋階段がある。螺旋階段を上ると、2階は左右の端に壁に同化するように扉があり、その扉の向こうに廊下がある。廊下を挟んでトイレや花嫁、花婿が着替えたり準備する控室や、親族が待つ部屋があり、あたしはドレスだから式場の2階に出る扉に一番近い花嫁控室にいるってわけ。
式場2階の扉から出ると、ロビーに見えるように長いベランダのような廊下が広がっていいる。背後には花をあしらった白い壁、出て正面は、落ちないようにピンクのてすりで囲まれていて、扉から出たら1階にいる人たちにまるで劇でもするように見上げられる。
そして、そのベランダのような廊下の正面であのおっさんと一緒になり、あたしの出てくる扉正面にある螺旋階段を下りて行かなくてはならないってわけ。
螺旋階段を通常花嫁花婿が一緒に降りてホールで式という本来ならロマンチックな式場だけど、あたしにとっては絶望的だった。

ホールには人が集まっちゃっているし、ここから出たら2階、死ぬ。
外に出ると、トイレや親族の控室などがあって誰かに見られずに逃げることは不可能。
いいえ、待って。諦めたらだめよ、きっとあるはずよ、逃げる場所が。
あたしは、ずんずん部屋の扉まで歩いて行って扉を開けた。

「え?」

扉の前では、お父様の手下のあたしを誘拐した男が立っていた。

「どこに行かれますか?お嬢さま」

「ちょっとトイレよ」

「先ほども行かれていたようですが」

「何よ!いいじゃない!何回いっても!それよりどうして式場が変わってんのよ!」

「旦那さまだそうです。勘の働くお方のようですから。いいじゃないですか、螺旋階段の上の赤ん坊を抱く母親とそれを笑顔で見守る父親のステンドグラスが美しいですよ」

なんとなくそうなんじゃないかとは思っていたけど、やっぱりお父さまだったのね!
何でそんなステンドグラスなのよ、嫌味なの?結構悪質な嫌味よ。

「大人しく部屋にいてくれよ。俺はこの部屋の見張りを任されていて、お嬢さまが逃げたら俺の責任になるんだから」

男は、周りを気にし、少ししゃがんであたしに小声でそういった。

「えぇ、わかってるわ」

「それより、このドレスどうかしら」

あたしは、さっき嫌味を言った男に見せつけるようにくるりと回転してドレスを見せた。

「馬子にも衣装ですね」

あたしは、ヒールで男の足を踏んでやった。
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